ケルト音楽と保育とBGMと環境と音

ケルト音楽と保育とBGM

ケルト音楽を保育BGMにする要点
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音色を選ぶ

ティンホイッスルやフィドル等の「抜ける音」は良くも悪くも目立つため、時間帯や活動に合わせて配置する。

🔊

音の環境を守る

保育環境として「音」を適切に保つ視点で、音量・再生時間・無音の時間も設計する。

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権利を確認

園内BGMは「著作権」だけでなく、CD等の「著作隣接権」も関わるため運用ルールを先に決める。

ケルト音楽 保育 BGMの特徴と音色

 

保育でケルト音楽をBGMにする最大の魅力は、「歌詞が前面に出ないインスト中心」でも、情景が浮かぶ音色で雰囲気づくりがしやすい点です。特に、フィドル(ヴァイオリン系)やティンホイッスルの輪郭がはっきりした旋律は、活動の切り替えの合図として機能しやすい一方、静かな時間に使うと“音が刺さる”こともあるため、音量と帯域(高音の強さ)を意識して選ぶと失敗しにくいです。

ケルト音楽の代表的な楽器として、ティンホイッスルは「かわいらしい縦笛」で、誰でも演奏を始めやすい携帯性の高い楽器として紹介されています。保育の観点では、明るい音色が“遊び”に寄りやすく、朝の受け入れや自由遊びのBGMで「場を温める」方向に働きやすい反面、午睡前に大きめの音量で流すと覚醒のきっかけになり得るため注意が必要です。

また、リズム面ではバウロン(手持ち太鼓)が象徴的で、片面に皮を張ったシンプルな太鼓をビーター(バチ)で叩く奏法が一般的だと解説されています。園でバウロンの入った音源を使うと、リズムが明確で“手拍子・足踏み・行進”につながりやすく、運動遊びや制作のテンポづくりに向きますが、活動の狙いが「落ち着き」なら打楽器の強い曲は避けるなど、意図と選曲を結び付けるのがコツです。

意外と見落とされがちなのが、「ケルト音楽=全部が癒し系」という誤解です。ケルト(特にアイリッシュ系)にはダンス音楽として用いられる陽気でリズミカルな曲が多い、という説明もあり、テンションが上がる方向の曲が一定数あります。つまり、午睡・絵本・導入には“静かなケルト”、行事や身体表現には“踊れるケルト”と、同じケルト音楽でも役割を分けると運用が安定します。

参考リンク(ケルト音楽の代表的な楽器・音色の整理に役立つ)

ケルトの笛屋さん | どんな楽器がケルト音楽で使われる?
ケルトの笛屋さんはアイリッシュ音楽などで演奏される「ケルトの笛」の販売サイトです

ケルト音楽 保育 BGMの時間帯別の使い方

保育現場でBGMが活きるのは、「何をさせたいか」よりも「この空間で子どもがどう過ごしてほしいか」を先に決めたときです。厚生労働省の保育所保育指針では、施設の温度・湿度・換気・採光と並んで「音」などの環境を常に適切な状態に保持することが示されています。BGMは便利な道具ですが、環境要素の一部なので、“流すこと”が目的にならないように設計します。

時間帯別の現実的な使い分け例です(園の年齢構成で微調整してください)。

  • 登園〜自由遊び:旋律が明るいが音数は多すぎない曲(ティンホイッスル主体でもOK)。
  • 主活動(制作・コーナー):テンポは一定、歌詞なし、音量は会話を邪魔しない。
  • 片付け・移動:リズムが分かりやすい曲(バウロンが効いた曲は合図に強い)。
  • 給食:音数が少なく、低〜中域中心(高音が強い曲は避ける)。
  • 午睡:原則は“無音”も検討し、使うなら「短く」「小さく」「同系統」。
  • 降園前:落ち着きと余韻を残す曲(テンションが上がりすぎる踊れる曲は避ける)。

ここでのポイントは「午睡=必ず音楽」ではないことです。音は環境であり、静けさも環境です。午睡前にBGMを使う場合でも、曲を選ぶより先に、音量、スピーカー位置、再生時間(例:最初の10分だけ)を決めると、子どもによる個人差(音に敏感、逆に無音が不安)にも対応しやすくなります。

参考リンク(保育環境としての「音」を適切に保つ根拠に使える)

https://www.mhlw.go.jp/content/12401000/000800750.pdf

ケルト音楽 保育 BGMの選曲のコツ

ケルト音楽の“それっぽさ”を作る要因は、楽器だけでなく音階(モード)にもあります。アイリッシュ音楽では教会旋法(チャーチモード)で説明でき、特にドリアンやミクソリディアンが雰囲気づくりの要因になっている、という整理があります。理論を現場にそのまま持ち込む必要はありませんが、「同じケルトでも曲によって明るさ・切なさの方向が違う」のは、このモード感が関係していることが多いです。

実務としての選曲チェックリスト(やり過ぎを防ぐ用)を置きます。

  • 目的:落ち着き/集中/切り替え/行事の高揚、どれか一つに絞る。
  • 音色:ティンホイッスルの高音が強い曲は、静かな場面では音量を下げる。
  • リズム:バウロンが強い曲は、片付けや移動に強いが、食事・午睡前は慎重に。
  • テンポ:速い=楽しい、遅い=落ち着く、ではない(音数とリズムの密度も見る)。
  • 歌:歌詞がある曲は言語刺激が強く、読み聞かせ前後には不向きな場合がある。

意外な“効き方”として、同じアレンジの曲を毎日同じタイミングで流すと、子どもが音を合図として学習し、先生が言葉で誘導しなくても次の行動へ移りやすくなることがあります。これは「音楽で統制する」というより、「環境の見通しを作る」イメージで、強い指示が苦手な子にも比較的穏やかに働くことが多いです。

参考リンク(ドリアン・ミクソリディアンがケルト音楽で多用されるという整理)

あいりっしゅ音楽理論①~ミクソリディアンの曲 | あいりっしゅ
こんにちは,コンサーティーナのRyoです。練習会でスケールの話が出たので,この機会に「あいりっしゅ音楽理論」と題して私の確認の意味も込めてまとめてみることにしました。 前提として,アイリッシュ音楽のメロディーは,主に教会旋法(チャーチモード...

ケルト音楽 保育 BGMと著作権

園でBGMを流すときは、「曲の著作権」だけを見て終わりにしないのが重要です。JASRACは、学校など教育機関での音楽利用について、一定条件で許諾なく利用できる場合があること(著作権法第35条など)を案内していますが、これは“何でも自由”という意味ではありません。さらに、JASRACの「各種施設でのBGM」資料では、著作権が消滅した楽曲のみを用いる場合や、JASRACが演奏利用を管理していない楽曲のみを用いる場合など、手続きが不要になり得るケースが整理されています。

もう一つの落とし穴が「著作隣接権」です。市販のCDや第三者が制作した音源を使う場合、著作隣接権についてはレコード会社へ問い合わせが必要になる、と案内している例もあり、行事の動画制作やDVD化など“複製・配布”が絡むと論点が増えます。つまり、普段の園内BGM(その場で流す)と、撮影・編集・公開(配信やDVD)では、同じ曲でも必要手続きが変わり得ます。

現場での運用ルール例(職員間のブレを減らす用)。

  • ルール1:園内BGMは「使用するサービス(配信/有線/CD)」を固定し、管理者を決める。
  • ルール2:行事動画をSNS・HPに載せる可能性がある園は、最初から“公開前提で使える音源”に寄せる。
  • ルール3:迷ったら、JASRACの該当ページ・資料で確認し、判断を記録しておく(年度引継ぎが楽になる)。

参考リンク(教育機関での音楽利用の考え方の整理)

学校など教育機関での音楽利用

参考リンク(施設BGMで「手続きが不要になり得るケース」の整理)

https://www.jasrac.or.jp/users/facilities/pdf/facility12.pdf

ケルト音楽 保育 BGMの独自視点の環境の設計

検索上位のBGM記事は「おすすめ曲紹介」で終わりがちですが、保育で大事なのは“曲”より“環境設計”です。保育所保育指針が示すように、保育の環境には「音」も含まれ、適切な状態に保持することが求められます。そこで、ケルト音楽を「かける/かけない」ではなく、次の3点を最初に決めると現場が回りやすくなります。

  • 🎚️ 音量の基準:先生同士が普通の声で連絡できる音量を上限にする(子どもの声が大きい時間帯ほど、BGMを上げない)。
  • 📍 音の位置:スピーカーは“部屋全体を覆う”より“必要な場所だけ届く”配置を優先する(絵本コーナーに直接当てない等)。
  • ⏱️ 無音の時間:午睡前後、トイレ誘導、読み聞かせ前は「無音」を選択肢に入れる。

ケルト音楽でこの設計が効く理由は、音色の個性が強いからです。ティンホイッスルのように輪郭が鋭い旋律楽器は、良い意味では合図に向きますが、悪い意味では注意を奪います。逆に、同じケルト系でも弦の伴奏中心で旋律が控えめな音源なら、集中を邪魔しにくい“空気の層”として働きます。

最後に、子どもへの関わりとしての小さな工夫です。

  • 絵文字カード(🎻=静か、🥁=動く)を置き、BGMの種類を子どもが理解できる形にする。
  • 「今日はこの曲で片付け」など、合図を固定して見通しを作る。
  • 音に敏感な子がいるクラスは、曲を変えるより“音量を下げる/時間を短くする/無音を作る”を先に試す。

BGMは“便利な演出”ではなく、子どもが安心して過ごすための環境の一部です。ケルト音楽の魅力を活かしながら、音が苦手な子にも配慮した設計を先に作ることで、先生の声かけが減り、クラス全体の流れが滑らかになるケースも出てきます。


アイルランド旅と音楽: ケルトの国に魅せられて