イヌのうた歌「いぬのおまわりさん」を保育で使い倒す全ガイド
「ワンワンワンワーン」と歌うだけで、子どもの発語が月に平均3語増えた実例があります。
イヌのうた歌「いぬのおまわりさん」の誕生秘話と歴史
「いぬのおまわりさん」が最初に世に出たのは、1960年(昭和35年)の子ども向け月刊誌『チャイルドブック』10月号でした。驚くことに、最初は「歌」としてではなく、迷子の猫をお母さんのところへ連れて行く「迷路遊び」のページとして発表されたのです。当時は別売のソノシートが付録として販売され、それがNHKラジオで流れたことで全国に広まりました。
作詞は佐藤義美(さとうよしみ、1905〜1968年)、作曲は大中恩(おおなかめぐみ、1924〜2018年)によるものです。大中恩さんは作曲家・大中寅二を父に持つ東京生まれの作曲家で、「サッちゃん」「おなかのへるうた」なども手掛けた童謡界の巨匠です。2018年12月に94歳で逝去されました。
実は制作にあたって、当時の編集長が「歌詞が長すぎる」と修正を求めたという裏話があります。それを作詞者の佐藤義美が断固拒否してそのまま掲載させた、という有名なエピソードが残っています。この一幕がなければ、「まいごのまいごのこねこちゃん」のあの詩情豊かな歌詞は少し違う形になっていたかもしれません。
その後、1961年(昭和36年)にNHK『うたのえほん』で初放送され、後継番組『おかあさんといっしょ』の定番曲としても長年にわたって流れ続けています。1977年以降は小学校の音楽教科書にも掲載されています。そして2006年、文化庁と日本PTA全国協議会が選定した「日本の歌百選」にも選出されました。親子で歌い継ぐべき101曲のひとつとして公式に認定されているのです。
注意が必要なのは著作権についてです。作詞者・佐藤義美は1968年に没しており、著作権保護期間の70年ルールにより、歌詞の保護は2038年12月31日まで続きます。保育現場での子どもへの読み聞かせや歌唱指導は問題ありませんが、SNSへの歌詞の全文転載や動画配信などには引き続き注意が必要です。
参考:「いぬのおまわりさん」の誕生背景と『チャイルドブック』の歴史
参考:「いぬのおまわりさん」の概要・登録歌手・絵本情報など網羅的な情報
イヌのうた歌の歌詞に込められた構造と「オノマトペ」の力
「いぬのおまわりさん」の歌詞はわずか2番構成でありながら、幼児の心を引きつける精巧な設計になっています。注目すべきは「ニャンニャン ニャニャーン」「ワンワンワンワーン」という擬音語(オノマトペ)の存在です。
オノマトペとは、音や状態を言葉で模倣した表現のことで、乳幼児の言語発達において非常に重要な役割を果たします。近畿大学の研究では、子どもの歌の中のオノマトペが言葉の発達・想像力・表現力の育成に効果的であると明確に示されています。「ワンワン」「ニャンニャン」という単純な音の繰り返しは、まだ声帯が発達しきっていない1〜2歳の子どもでも発声しやすく、語彙の基礎を築く入り口となります。
それだけではありません。オノマトペには「声帯と横隔膜の発育を促す」という身体的な側面もあります。大きな声で「ワンワンワンワーン!」と叫ぶ行為自体が、呼吸と発声の訓練になっているのです。これは単純に楽しいだけでなく、発語の少ない子どもへの言語支援としても活用できるということです。
もう一つの特徴は、歌全体にストーリー構造があることです。1番・2番ともに「問いかけ→失敗→泣き→困惑→吠える」という起承転結に近い流れが繰り返されます。3〜5歳になると「次はどうなるの?」という期待感が生まれ、物語の展開を楽しみながら共感力・情景理解力が育ちます。この「ストーリーのある歌」という点が、他の多くの童謡と一線を画す強みです。
保育現場では「歌っているようで、絵本を読んでいるような感じ」と表現されることがあるほど、この曲は豊かな物語性を持っています。歌に感情を乗せる練習の土台としても、最適な一曲です。
参考:子どもの歌におけるオノマトペの効果と役割に関する学術研究
近畿大学リポジトリ|子どもの歌におけるオノマトペの効果と役割について(PDF)
イヌのうた歌の年齢別ねらいと保育への導入のコツ
同じ「いぬのおまわりさん」でも、子どもの年齢によってねらいも導入の仕方もガラリと変わります。つまり年齢を意識するだけで、この一曲の価値が何倍にもなります。
まず2歳児は、擬音「ニャン」「ワン」の模倣が中心です。歌詞の意味を理解しなくても、声を出す楽しさや保育者と声を合わせる喜びが育ちます。導入では「子猫ちゃんが泣いてるね、どうしてかな?」と声の大きさや表情から入ると自然に引き込めます。
3歳児になると、物語の展開を理解し始めます。「カラスにきいても・スズメにきいても分からない」という繰り返し構造に気づき、「やっぱり分からないんだ!」という共感反応が出てきます。「おまわりさんが子猫ちゃんを助けようとして困ってるね。どうしよう?」と問いかければ、子ども自身が解決策を考え始めます。
4歳児は表現力の発達段階です。犬・猫・カラス・スズメそれぞれの役を演じ分けさせると、想像力と表現力が同時に伸びます。「くちばしを作ってカラスのマネをしてみよう」などの動作も加えると、より身体的な参加になります。
5歳児には創作へ発展させるのがおすすめです。「別の動物が出てきたらどうなる?」と投げかけると、「キリンにきいてもわからない」など自分なりの3番を考え始めます。友だちと役割分担して演じる協働表現力の場として活用できます。
| 年齢 | ねらい | 導入のポイント |
|---|---|---|
| 2歳児 | 擬音の模倣・感情表現 | 表情と声の大きさで引き込む |
| 3歳児 | 共感力・物語理解 | 問いかけで考えさせる |
| 4歳児 | 表現力・想像力 | 動物の動きを身体で真似させる |
| 5歳児 | 協働表現・創作力 | 「自分ならどう続ける?」と発展させる |
参考:年齢別のねらい・導入方法・振り付きの実演
ほいくnote|犬のおまわりさん|近藤夏子による振り付き動画
イヌのうた歌をペープサート・スケッチブックシアターで視覚化する方法
歌だけで楽しむのと、視覚的な教材を組み合わせるのとでは、子どもの集中度がまったく違います。これが大きなポイントです。
「いぬのおまわりさん」はストーリー性があるため、ペープサートやスケッチブックシアターとの相性が特に良い歌です。ペープサートとは、紙に描いたイラストを棒に貼り付けて動かす人形劇のこと。スケッチブックシアターは、スケッチブックにイラストを描いてページをめくりながら物語を見せる形式です。どちらも保育現場で広く使われています。
ペープサートを作る際は「子猫」「犬のおまわりさん」「カラス」「スズメ」の4種類のキャラクターが最低限必要です。歌の進行に合わせてキャラクターを登場させると、子どもが視覚で物語を追えるようになります。「カラスにきいても」の場面でカラスの絵を出し、首を横に振る動作をつけると、子どもから自然に笑いが起きます。
スケッチブックシアターの場合は、歌詞の流れに沿って1場面1ページで描いていくのが基本です。最後の「ワンワンワンワーン」のページで犬が大口を開けて吠えているイラストを見せると、子どもは必ずマネして吠えてくれます。これが参加型演出として機能します。
近年は無料のイラスト素材をダウンロードして使えるサービスも増えています。手書きが苦手な保育士でも、プリントアウトしてラミネートするだけで使える教材が揃います。制作にかかる時間は最短30分程度から始められます。制作後は何度でも使い回せるのもメリットです。
参考:「犬のおまわりさん」スケッチブックシアター・ペープサートの無料イラスト
よしちゃちゃちゃ|犬のおまわりさんのスケッチブックシアター無料素材
保育士だけが知る「イヌのうた歌」独自の活用アイデア〜絵本連動・発語支援・行事展開〜
「いぬのおまわりさん」の活用は「歌って終わり」では実はもったいないのです。保育現場ならではの、他にはあまり紹介されていないアイデアを3つ紹介します。
① 絵本との連動読み聞かせ
ひさかたチャイルド発行の絵本版「いぬのおまわりさん」(佐藤義美詞・さいとうしのぶ絵)は、歌の前後のストーリーも描かれています。歌だけでは分からない「なぜ子猫は迷子になったのか」という背景が絵本で補完されます。絵本を読んでから歌う→歌ってから絵本を見返す、という往復が子どもの情景理解を深めます。歌が歌えない子も、絵本経由で歌に引き込まれることが多いです。
② 発語支援としての活用
発語が少ない子どもへの支援ツールとしても有効です。「ニャンニャン」「ワンワン」という単純な擬音は、発語の練習として取り組みやすいフレーズです。言語発達支援の専門家の間では、この歌を発語促進の手遊び歌として使っているケースが報告されています。「歌えなくても焦らず、繰り返し聞かせることで自然と口から出てくる」という観点で取り組むことが大切です。
③ 迷子訓練・生活安全教育への応用
5歳前後の子どもには「迷子になったらどうする?」という生活安全教育と組み合わせる活用法があります。「子猫ちゃんみたいに名前も家も言えなかったら、おまわりさんも困っちゃうね。みんなはお名前言えるかな?」という問いかけから、自分の名前・保護者の名前・連絡先を確認する活動へ発展させます。歌を入り口にした生活教育は、子どもに警戒感を持たせず自然に安全意識を育てます。
以上のように「いぬのおまわりさん」は、歌単体としての価値に加え、絵本・発語支援・安全教育・創作活動といった多様なシーンで活躍できる一曲です。保育計画の引き出しとして、ぜひ複数の使い方をストックしておきましょう。
参考:現役保育士による「いぬのおまわりさん」活用・ねらい・読み聞かせレビュー


