異文化理解に必要なこと論文から学ぶ保育実践

異文化理解に必要なことを論文から読み解く保育士のための実践ガイド

異文化理解を深めるには、まず相手の文化を「知ること」が大事だと思っていませんか?実は、論文研究が示す出発点はその逆で、「自分の文化を知ること」からしか本物の異文化理解は始まりません。

📚 この記事の3つのポイント
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保育現場のリアルなデータ

2024年調査では96.2%の保育士が外国籍園児の保育に難しさを感じており、約6割が異文化研修を未経験という現実を解説します。

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論文が示す「必要なこと」の本質

異文化コミュニケーション能力は「認知・態度・行動」の3要素から成り立つという研究成果と、保育への具体的な活かし方を紹介します。

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現場ですぐ使える実践アプローチ

宗教・食事・言語対応など、保育士が今日から取り組めるステップと、エスノセントリズム(自文化中心主義)を避けるための考え方を具体的に解説します。

異文化理解に必要なこととは何か——論文が示す3つの構成要素

 

「異文化理解ができている保育士」と聞いて、どんな姿を思い浮かべるでしょうか。多くの人は「外国語が話せる」「海外の文化に詳しい」というイメージを持ちがちです。しかし、複数の学術論文が示す「異文化理解に必要なこと」は、もっと体系的な能力として定義されています。

愛知大学の研究(異文化コミュニケーション能力の育成)をはじめ、多くの研究者が長年にわたって分析した結果、異文化コミュニケーション能力には大きく「認知(cognitive)」「情緒(affective)」「行動(behavioral)」という3つの構成要素があることが示されています。これは保育の現場にそのまま当てはまる枠組みです。

まず「認知」とは、異なる文化に関する知識を持つことです。相手の宗教、生活習慣、価値観についての正確な情報を頭に入れておくことを指します。次に「情緒」は、文化の違いを受け入れる姿勢や、異文化に対する開かれた感受性のことです。知識があっても、拒絶や先入観があれば実際の関係構築には役立ちません。そして「行動」とは、実際に異なる文化の相手と適切にコミュニケーションをとる実践力です。

つまり異文化理解とは「知ること」「感じること」「行動すること」の3段階が揃って初めて機能するということです。保育士が外国にルーツをもつ子どもや保護者と向き合うとき、どれか一つだけでは不十分で、3つの要素すべてを意識することが求められます。

要素 内容 保育での例
🧠 認知(知識) 文化・宗教・習慣の知識 ハラール食・宗教行事の把握
💛 情緒(態度) 受容・共感・開かれた姿勢 「違い」を違和感なく受け入れる
🤝 行動(スキル) 実際の対話・交流・調整力 翻訳ツール活用・ジェスチャー活用

参考リンク(異文化コミュニケーション能力の3要素について学術的に整理されています)。

異文化コミュニケーション能力の育成(愛知大学)

異文化理解の出発点は「自己文化理解」——保育士が見落としがちな視点

異文化理解の出発点は、相手の文化ではなく、自分自身の文化を理解することです。これは直感に反するように感じるかもしれませんが、研究が繰り返し示す重要なポイントです。

麗澤大学の研究によると、「異文化との違いを理解するためには、まず日本の価値観、考え方、コミュニケーションなど、文化の生まれた背景を深く理解し、言葉で説明できることが重要」とされています。自分が普段何気なく行っている行動を言語化できるようになることが、異文化理解への第一歩なのです。

保育現場で考えてみると分かりやすいです。「なぜ日本では靴を脱いで室内に入るのか」「なぜ運動会で整列するのか」「なぜ給食を残さず食べることを指導するのか」——これらを当然のこととして捉えているうちは、文化が違う家庭の子に対して無意識の圧力をかけてしまう可能性があります。

自分の文化を客観視できてこそ、相手の文化との違いを「おかしい」ではなく「違う」と感じられるようになります。これを学術用語で「文化相対主義」といいます。逆に、自分の文化の基準で他文化を否定的に判断してしまう態度を「エスノセントリズム(自文化中心主義)」といい、異文化理解の最大の障壁とされています。

つまり自己理解が先、他者理解はその後です。保育士がまず「日本の保育文化」を意識的に理解することが、外国にルーツをもつ子への真の支援につながります。

  • 🟡 エスノセントリズムの例:「この子はなぜ行列に並ばないのか。きちんと教えなければ」→ 並ぶ文化がない国出身の可能性がある
  • 🟢 文化相対主義の例:「列に並ぶことは日本のルールのひとつ。まずその意味を丁寧に伝えてみよう」→ 相手の文化を否定せずに関わる

参考リンク(自己理解と他者理解が表裏一体であることが解説されています)。

異文化理解の出発点は日本を知ること!(麗澤大学)

保育士の96.2%が感じる難しさ——論文・調査が示すリアルな現場課題

論文で語られる理念だけでなく、保育現場の実態データも確認しておく必要があります。

2024年に実施された「外国籍園児への保育課題に関する定点調査」(株式会社明日香・子ねくとラボ)では、外国籍園児を保育した経験がある保育士104名を対象に調査した結果、96.2%が「難しさを感じたことがある」と回答しています。これは2022年の調査(94.4%)からさらに1.7ポイント増加しており、課題は年々深刻化しています。

難しさの内訳を見ると、「指示が伝わらない(56.0%)」が第1位、「保護者との連携が取れない(49.0%)」が第2位です。また、86.5%が文化の違いを感じた経験があり、「宗教の都合で食べられないものがある(41.1%)」や「化粧やピアスをしている(41.1%)」などが具体例として挙げられています。

特に深刻なのが研修の実態です。約8割の保育士が「外国籍園児の文化について学ぶ研修が欲しい」と回答しているにもかかわらず、実際に研修を受けたことがある保育士は41.3%にとどまっています。つまり、現場の保育士は困っているのに、学ぶ機会が十分に与えられていない状況にあります。

研修未経験が6割近くという現状です。さらに日本の文化を正しく伝える研修については、参加経験がある保育士はわずか33.7%で、66.3%が未経験となっています。「教えるためにはまず自分が知りたい」という声も多く、自己文化理解の必要性を現場の保育士自身も感じていることが伝わってきます。

  • 📌 96.2%:外国籍園児の保育に難しさを感じたことがある保育士の割合(2024年)
  • 📌 58.7%:異文化理解の研修を受けたことがない保育士の割合(2024年)
  • 📌 66.3%:「日本の文化を正しく伝える研修」に参加したことがない保育士の割合(2024年)
  • 📌 約8割:異文化に関する研修を求めている保育士の割合(2024年)

参考リンク(外国籍園児の保育に関する最新定点調査の詳細データが確認できます)。

【2024年版】外国籍園児への保育課題に関する定点調査(子ねくとラボ)

宗教・食事・言語——保育士が今すぐ知るべき異文化対応の具体策

論文や調査が示す課題を踏まえた上で、保育現場での具体的な対応策を整理します。

まず「食事・宗教への対応」は最も優先度が高い分野です。イスラム教の家庭では豚肉・アルコールを使った食品は禁忌(ハラーム)とされ、給食メニューに豚由来の成分が含まれていないかの確認が必要です。また、ヒンドゥー教の子どもは牛肉が禁忌である場合があります。これは知識として持っておくだけで、保護者との信頼関係が大きく変わります。つまり宗教知識は保護者連携の土台になります。

入園前に保護者へ食のアレルギーや宗教上の制限を確認するシートを渡している園では、トラブルが大幅に減少するという実践報告もあります。「外国につながる園児・保護者受け入れガイドブック」(公益財団法人かながわ国際交流財団)では、入園時に食の禁忌を確認する書式が公開されており、すぐに活用できます。

次に「言語対応」です。日本語が通じない保護者には、翻訳アプリ(「VoiceTra」など)やGoogle翻訳を活用した文書での連絡が効果的とされています。重要事項は絵や写真を使って視覚化することも、理解度を大きく高めます。これは使えそうです。

最後に、子ども同士の関係づくりへの配慮も必要です。母国の遊びや歌を保育活動に取り入れることで、外国にルーツをもつ子どもが自己肯定感を持ちやすくなり、他の子どもたちにとっても自然な異文化体験になります。文部科学省の調査では、「当該幼児の国の文化や生活に関する遊びや教材を取り入れた」施設が31.6%あると報告されています。

  • 🍱 食事対応:入園時に宗教・食の制限を確認するシートを用意する
  • 📱 言語対応:VoiceTra・Google翻訳などの翻訳ツールを活用する
  • 🎵 保育活動:母国の遊び・歌・絵本を保育に取り入れる
  • 🤝 保護者連携:文字だけでなく、絵・写真を使ったお便りを作成する

参考リンク(宗教・食事対応に関する具体的なガイドブックが公開されています)。

外国につながる園児・保護者受け入れガイドブック(かながわ国際交流財団)

保育所保育指針と多文化共生——制度面から見た異文化理解の位置づけ

異文化理解は保育士個人の「心がけ」の問題だけではありません。制度・政策レベルでも、その重要性は明確に位置づけられています。

保育所保育指針では、保育内容人間関係」の中に「外国人など、自分とは異なる文化を持った人に親しみを持つ」という項目が含まれています。異文化への親しみは、子どもの成長目標の一つとして正式に定められているわけです。

2018年の出入国管理法改正以降、日本社会の「多文化化」は急速に進んでいます。法務省のデータによると、日本の在留外国人数は増加を続け、0〜5歳の在留外国人は2019年時点で10万9,616人に達しています。2023年6月末時点では0〜6歳の外国籍の子どもが134,262人にのぼり、1年間で約7,862人増加しています。これは1クラス30人の保育クラスに換算すると、毎年全国で約262クラス分の子どもが増えているイメージです。

大妻女子大学の石井章仁准教授らが2019年に実施した全国調査(3,262か所の保育所を対象)では、多文化保育に関する困り感として、言語・食事・生活習慣・宗教対応の4分野が繰り返し挙げられています。保育者の「困り感」は、外国籍の子どもの数が増えるほど多様化・複雑化する傾向があり、研修の充実が急務であると結論づけられています。

重要なポイントが一つあります。大妻女子大学の研究では、「多文化保育に関する研修を通した学びは、外国籍児などの限られた子どもだけのものではない」とも指摘されています。異文化理解を深めることは、すべての子どもの最善の利益につながるという視点は、保育士として持っておくべき本質的な理解です。

参考リンク(全国保育所への大規模調査の報告書が公開されています)。

多文化保育とその研修に関する実態研究(大妻女子大学・全国保育士養成協議会)

異文化理解の問題地図 ~「で、どこから変える?」グローバル化できない職場のマネジメント