星空観察と保育と歌
星空観察の保育と歌のねらい
星空観察を「保育」として成立させる鍵は、観察そのものより“前後の経験”にあります。歌はその前後をつなぐ接着剤になり、子どもが感じたことを言葉や動きに置き換える入口になります。
たとえば、星を見る前に「きらきら」を歌って期待を高め、見た後に同じ歌を“違うテンポ”で歌うと、「今日は星が少なかった」「雲があった」などの振り返りが自然に起きます(歌が記憶のフックになり、観察の差分に気づきやすくなる)。
保育現場では、活動に「ねらい」を設定することが大切だとよく言われますが、星空観察×歌では、次の3点をセットにすると説明が通りやすいです。
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感性:暗さ、静けさ、光、遠さへの驚き(“いつもの園”と違う世界を味わう)。
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表現:歌・手遊び・言葉・絵で「見えた/見えなかった」を表す。
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共同性:同じ空を見て、感じたことの違いを認め合う(「私は3つ見えた」「私は1つだけ」でもOK)。
参考:幼児教育では、音楽に親しみ歌を歌うことなどが「表現」に関わる内容として示されています。
幼稚園教育要領:音楽に親しみ、歌を歌う等の「表現」に関わる内容の根拠(保育計画の裏付けに便利)
星空観察の保育と歌と手遊び
歌を「鑑賞」だけにせず、身体でわかる活動に変えると、星空観察の導入が一気にやりやすくなります。特に乳児〜低年齢では、夜の話題は“生活と距離がある”ことも多いので、手の動きで星を再現するのが効果的です。
定番の例として、保育向けの歌紹介でも「きらきらぼし」を手をひらひらさせて星に見立てる提案があり、絵本や紙芝居と組み合わせることで興味関心が広がるとされています。
保育の歌:きらきらぼしの「ねらい」や導入(手をひらひら=お星さま、絵本・紙芝居連動)
この発想を、星空観察に寄せてアレンジします(歌詞はそのままにして、前後の声かけを設計する)。
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導入(室内):手をひらひら→「小さい星」「大きい星」→声の強弱を変えて歌う。
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予告(帰りの会):同じ動きで「夜のお空」を共有→家庭で見られたらラッキー、見えなくてもOKと伝える。
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翌日(振り返り):同じ動きで“星の数”を表す→「たくさん」「すこし」「ゼロ」も表現として肯定。
さらに盛り上げる小技として、「星=点」ではなく「星=まばたき」として扱うのがおすすめです。子どもは“点の光”より“変化”に敏感なので、手を開閉して「ぴかっ」「ふわっ」を作ると、観察のときに「光がゆれてた」といった言語化につながります(大気のゆらぎ=瞬きの見え方に自然に接続できる)。
星空観察の保育と歌と絵本
星空観察は天候に左右されるため、「見えない日」に何をするかが保育の質を左右します。そこで、絵本を“代替”ではなく“準備”に位置づけると、観察ができた日に深さが出ます。
実際、天候が良くないときは星座や宇宙の絵本を読んでおき、晴れた夜に絵本で見つけた星を実際に探す、という提案があります。これを保育に落とすと「絵本→歌→観察(または疑似観察)」という流れが作れます。
星空×絵本:天候が悪い日は絵本で準備し、晴れた日に実際の星探しへつなげる発想
おすすめの組み立て(園でやりやすい順)。
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1日目:絵本(星・宇宙の導入)→“星”が出る歌を短く。
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2日目:星の写真・図(星の色の違い、月の形など)→歌の前に「見えた/見えない」を予想。
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3日目:観察(園内で空を見上げるだけでもOK)→翌日に絵(クレヨンで点、線、渦)→同じ歌を再び。
意外と効くのが、「星の絵を“点”で描かせない」ことです。点だけだと上手・下手に見えやすいので、
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星を“線”で描く(流れ星)
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星を“面”で塗る(夜空の明るさ)
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星を“色”で分ける(白・青っぽい・赤っぽい)
のいずれかにすると、観察の個人差が表現として成立しやすくなります。ここで歌を流すと、制作が静かに集中しやすい(BGMとして機能する)という利点もあります。
星空観察の保育と歌と七夕
「七夕」は星空観察と歌の接点が最も作りやすい行事です。ただし、行事に寄せすぎると“年中行事の理解”で終わってしまい、星を見る探究に戻りにくいことがあります。そこで、七夕の歌は「物語」と「観察」を往復させる設計にします。
保育向けの歌紹介でも、七夕に関する歌は、紙芝居や絵本などで歌詞の意味を伝えることで行事理解や伝統文化への親しみにつながる、という文脈で語られています。これを星空観察に接続するなら、「織姫星・彦星」を“探してみたくなる”状態まで持っていくのが狙いです。
七夕の歌:紙芝居や絵本で歌詞の意味を補い、行事理解へつなげる保育の考え方
実践のポイント(園で説明しやすい形)。
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歌う前:短い導入(ことばは最小限)「今日は星のおはなし」。
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歌う最中:子どもに“役”を渡す(織姫=鈴、彦星=タンバリン、天の川=シェイカーなど、簡単な音色分け)。
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歌った後:観察につなぐ問いかけ「ほんとうの空にも、2つの明るい星があるらしい。見つけられるかな?」
七夕の“制作”は、短冊や飾りで終わりがちですが、星空観察と結ぶなら、制作物を「観察の道具」にします。
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天の川の帯(青い透明素材やセロハン)を窓に貼って、夜空の“見え方の差”を体験する(同じ空でも条件で変わる)。
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星の色カード(白・青・赤)を作り、見えた星にシールで記録する(家庭協力が得られる園は特に強い)。
星空観察の保育と歌と光害(独自視点)
検索上位の「星の歌」「七夕」「手遊び」だけでは出にくいのが、“星が見えない理由”の扱いです。ここを丁寧にすると、星空観察が「できた/できない」ではなく「気づけた/考えられた」に変わり、活動の価値が安定します。
環境省は、星空観察を通じて光害や大気汚染などに気づくという趣旨の情報発信をしています。つまり、星空観察は理科的な遊びであると同時に、環境に気づく入口にもなります。
環境省:星空観察を通じて光害(ひかりがい)等に気づくという観点(「見えない日」の説明に使える)
ここでのコツは、“光害”という言葉を教え込まないことです。保育では次のように翻訳すると通ります。
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翻訳①:明るいところだと、星の光がまけちゃう(同じ星でも見え方が変わる)。
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翻訳②:暗い目と明るい目がある(暗いところでは目がゆっくり準備する)。
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翻訳③:雲の日は、空にカーテンがかかっているみたい(観察できない=失敗ではない)。
歌との結びつけ方(意外と効く)。
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いつもの星の歌を“ささやき声”で歌う:暗い世界の雰囲気を音量で作れる。
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同じ歌を“明るい声”で歌い直す:街の明るさを表現でき、「星が見えにくい」理由の体感につながる。
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子どもに選ばせる:「今日はどっちの歌い方の空だった?」→観察の言語化が増える。
最後に、安全面も保育の重要ポイントです。夜の園外活動が難しい場合でも、夕方の空(薄明)で「一番星」を探す、室内で暗幕を使って“星の見え方”を再現する、翌日の朝会で家庭の観察結果を共有する、といった形なら現実的に取り入れられます。
- 🌟 ねらいは「見えた星の数」より「感じたことを表す」へ置く
- 🎵 歌は導入・振り返りの“同じ型”にして、経験を結び直す
- 📚 見えない日は絵本で準備し、見える日に探究を深める
- 🏮 七夕は行事理解だけで終わらせず、観察へ戻す問いを入れる
- 💡 光害は難語にせず、見え方の違いとして扱う


