非認知能力と保育と音楽あそびとリズム

非認知能力と保育と音楽あそび

非認知能力と保育と音楽あそび:記事概要
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ねらい

自己制御・協調性・意欲などを、音楽あそびの「楽しい体験」の中で育てます(結果として伸びる設計)。

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根拠

幼児の実行機能(抑制・切り替え・作業記憶)と音楽活動の関連が研究で議論されています。

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現場の工夫

保育者主導に寄せすぎず、自発性・選択・即興を残すと、非認知能力に刺さる場面が増えます。

非認知能力の保育の音楽あそびのねらい

 

非認知能力は、テストで測りにくい「やる気」「協調性」「粘り強さ」「感情の調整」など、生活の中で育つ力として語られます。

保育で音楽あそびを扱うときは、「上手に歌える」「正しく叩ける」をゴールに置きすぎず、子どもが音やリズムを介して人と関わり、試し、やり直し、満足する経験を増やすのが要点です。

ここで役立つ視点が「実行機能」です。実行機能は、目標に向かって思考・行動・情動をコントロールする力で、抑制(衝動を抑える)、切り替え(ルールや注意を変える)、作業記憶(必要な情報を保つ・更新する)などから構成されると説明されます。

参考)https://www.onbunso.or.jp/wp-content/uploads/2025/07/Vol33_mizusaki.pdf

そして、幼児向けの音楽プログラムが実行機能(特に抑制や作業記憶など)に良い影響を示した研究が複数紹介されています。

音楽あそびの強みは「ルールがあるのに遊びとして成立する」点です。

  • 「止まる」「待つ」「交代する」→抑制
  • 「速い/遅い」「大きい/小さい」「歩く/跳ぶ」→切り替え
  • 「次はどこで鳴らす?」「順番を覚える」→作業記憶

    この3点を、指導ではなく“遊びの面白さ”として織り込めると、非認知能力の育ちが保育の場面に現れやすくなります。

参考:幼児の音楽教育と非認知能力(実行機能・音楽プログラムの具体例)

https://www.onbunso.or.jp/wp-content/uploads/2025/07/Vol33_mizusaki.pdf

非認知能力の保育の音楽あそびの環境

環境づくりで大切なのは、「子どもが自分で音を生み出せる」「選べる」「やり直せる」を確保することです。

研究紹介の中でも、自発性を重視した音楽あそびプログラム(オルフ・シュールヴェルクに基づく音楽遊び)が、通常の保育(保育者主導)より抑制と作業記憶で成績が高い結果につながったと報告されています。

環境のチェックポイントを、保育室の“見え方”に落とすと実装しやすいです。

  • 楽器は「種類の多さ」より「叩く・振る・こする」など動作の違いを少数精鋭で。
  • 片付けを含めて“活動の一部”にする(音を止める、音量を落とす、順番に戻す)。
  • ルールカード(例:👂きく、✋まつ、🤝いっしょ)を掲示して、言葉が苦手な子も参加しやすくする。

また、国の要領・指針の“音楽の位置づけ”を押さえておくと、上司チェックにも耐えます。幼稚園教育要領の領域「表現」では「音楽に親しみ、歌を歌ったり、簡単なリズム楽器を使ったりなどする楽しさを味わう」と示されています。

参考)https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/youji/gyosei/youryou/09.htm

この一文は、非認知能力を育てる以前に「楽しさを味わう」が中核だと示しており、音楽あそびの設計を“成果主義”に寄せすぎない根拠になります。

参考:幼稚園教育要領「表現(6)音楽に親しみ…」の原文確認

幼稚園教育要領

非認知能力の保育の音楽あそびの援助

援助のコツは、「教える」より「気づかせる」「待つ」「返す」です。

音楽あそびは、保育者が正解を提示し続けると、子どもは“当てにいく”参加になりやすく、自分で調整する場面(自己制御)が減ります。そこで、援助を次の型にすると非認知能力の育ちを邪魔しにくくなります。

  • ルールは短く、途中で増やさない

    例:「音が止まったら、体も止まる」だけでスタートし、慣れたら「片足」「しゃがむ」などを追加します。抑制課題に近い体験になり、守れた成功体験が自己効力感にもつながります(ただし“できない子”を目立たせない配慮が前提)。

  • 失敗を“素材”として扱う

    例:止まれなかった子がいたら「もう一回やってみよう」ではなく、「今のは速すぎた?」「音が小さかった?」と、環境側の調整も選択肢にします。自分の失敗を責められない安心感が、再挑戦(粘り強さ)を生みます。

  • “即興”を入れる(完成形を決めない)

    研究で紹介される音楽プログラムにも、即興活動や身体を使ったリズムづくりが含まれています。

    即興は、正解がないので、子ども同士の調整(協調性)や、「次はどうする?」の作業記憶を自然に使う場面を増やせます。

  • 観察→記録→振り返り(短くでOK)

    「集中していた時間」「待てた回数」より、

    「友だちの音を聞いて真似した」「自分から音量を下げた」「交代で譲れた」など、行動の質をメモします。非認知能力は点数化しにくいので、行動の言語化が現場の共有に効きます。

非認知能力の保育の音楽あそびとリズム

リズムは、非認知能力の中でも特に「自己制御」と相性が良い領域です。なぜなら、リズムあそびには「予測(次が来る)」「同期(合わせる)」「抑制(今は鳴らさない)」が同時に入るからです。

実際、幼児の音楽プログラムとして、名前遊び(コール&レスポンス)、リズム遊び(体の部分でリズムを作る・友達の真似をする)、動き遊び(音楽に合わせて即興で動く)などが例示されています。

保育で使いやすい“リズム×非認知能力”の具体例を、ねらいとセットで整理します。

  • 🎵ストップ&ゴー(抑制)

    音が鳴っている間だけ歩く/止まったら静止。慣れたら「止まったら深呼吸」など情動の落ち着きも組み込みます。

  • 🥁まねっこリズム(作業記憶+社会性

    保育者→子ども→友だちへ、2拍だけ真似する。拍数を増やすのは、全体の成功率が高いときだけにします。

  • 👂きく→えらぶ→ならす(自己決定)

    「今日は“大きい音”“小さい音”どっちにする?」と、二択で選べる形にしてから演奏へ。選択が入ると、参加が受け身になりにくいです。

意外に見落とされがちなのが「音量のコントロール」です。音量は“気合”ではなく自己制御の課題で、できるようになると、集団活動の安定(環境の安全)にも直結します。

だからこそ、静かにする時間を「怒られて静かに」ではなく、「小さい音の方が面白い」「聞こえたら勝ち」など遊びに転換すると、非認知能力としての“抑制”が育ちやすくなります。

非認知能力の保育の音楽あそびの独自視点

検索上位で多いのは「音楽あそびで協調性・集中力」ですが、現場で差がつく独自視点は“音楽あそびを非認知能力の評価にしない”運用です。

研究の解説でも、音楽はまず「音楽そのものを楽しむこと」が基本で、「非認知能力を育むために音楽教育を行う」という極端な目的化には注意が必要だと述べられています。

ここを踏まえ、上司や保護者への説明もブレにくい整理を置いておきます。

  • ✅音楽あそびの目的:音楽に親しみ、楽しさを味わう。​
  • ✅保育者の観点:その過程で自己制御や協調性が“育っていく様子”を丁寧に捉える。​
  • ❌避けたいこと:「非認知能力が伸びたか」を子どもに求め、できない姿を減点する。

さらに“意外と効く”工夫として、活動後に1分だけ「音のふり返り」を入れます。

  • 「いちばん小さい音を出せたのはどの楽器?」
  • 「友だちの音で、まねしたくなったのはどれ?」

    この問いは、音楽性の話に見えますが、実は注意の向け方(切り替え)や、自分の行動を言語化する力(自己調整)を支えます。実行機能を「課題」で鍛えるのではなく、保育の会話として育てる発想です。

最後に、保育計画へ落とすためのミニ表を置きます(そのまま指導案の叩き台にできます)。

音楽あそび 非認知能力の観点 保育者の援助
ストップ&ゴー 抑制(止まる・待つ) ルールを1つに絞る/成功を拾う
まねっこリズム 作業記憶(保持・更新) 拍数は成功率で調整/交代を丁寧に
即興の動き遊び 切り替え(動きの変更) 「どんな動き?」と問い返し、正解を固定しない

保育の音楽あそびは、うまく設計すれば「楽しい」が中心にありながら、自己制御や協調性が育つ場面を増やせます。

“成果を出す活動”ではなく、“育ちが起きる環境”として整えることが、非認知能力と保育と音楽あそびをつなぐ現場解です。



学力テストで測れない非認知能力が子どもを伸ばす