変ホ長調の芸人としての現在とアマチュア二刀流の軌跡
会社員でも、笑い飯の哲夫さんからスタンディングオベーションをもらえます。
変ホ長調の現在:会社員をしながら芸人活動を続けるスタイル
変ホ長調のふたりは、2005年の結成から現在に至るまで、一貫して「会社員兼芸人」という二刀流スタイルを貫いています。彼方さとみは東京で、小田ひとみは現在大阪(京都出身)で、それぞれフルタイムの会社員として毎日働いています。つまり、ステージに立つ芸人であると同時に、月曜から金曜は普通の職場に通い続けているわけです。
これがどれほど特異なことかというと、M-1グランプリに出場するコンビの圧倒的多数が芸能事務所に所属するプロであることを考えると、よくわかります。事務所なし・フリーランスとして活動し、賞金もギャラも目的にせず、ただ「漫才がやりたい」という純粋な動機だけで20年以上続けてきた姿勢は、多くのお笑いファンの心を掴んでいます。
ネタ合わせはおもにメールやリモートで行い、東京と大阪を行き来するスタイルで稽古を重ねます。M-1が一時休止していた時期(2010年〜2014年)も、阿佐ヶ谷姉妹との合同ライブを開催するなど、コンビとしての活動を止めることはありませんでした。活動の熱量が落ちなかったのですね。
| メンバー | 担当 | 出身 | 現在の居住地 |
|---|---|---|---|
| 彼方さとみ | ボケ | 大阪府 | 東京 |
| 小田ひとみ | ツッコミ | 京都府 | 大阪 |
2022年には、ABCラジオの番組「アマチュアたちのM-1グランプリ」にて変ホ長調の結成秘話と大会出場のきっかけがドラマ化されました。アマチュア芸人のコンビ結成エピソードがラジオドラマになること自体、非常に異例のことです。これも彼女たちの活動がどれほど多くの人に影響を与えてきたかを示すエピソードのひとつと言えるでしょう。
現在も両メンバーはフリー(無所属)のまま活動しており、芸能事務所に所属する予定もありません。「会社員としての生活があるから、芸人として好きなことが言える」というスタンスが、毒舌・時事風刺という彼女たちの芸風を支えています。
会社員のまま続けるのが基本です。
参考:変ホ長調のお笑いナタリープロフィールページ。経歴・受賞歴・最新ライブ情報を確認できます。
変ホ長調がM-1決勝へ:アマチュア芸人として歩んだ賞レース史
変ホ長調は、M-1グランプリに出るためだけにコンビを結成したと公言しています。2005年の結成1年目にいきなり準決勝まで進んだことで、ふたりのポテンシャルは早くも明らかになりました。そして翌2006年には、大会史上初めてのアマチュアファイナリストとして、全国のテレビ視聴者の前に登場します。
決勝戦でのキャッチコピーは「史上最強のアマチュア」。当時の決勝には、後に国民的人気を誇るチュートリアル、フットボールアワー、笑い飯、トータルテンボスといったプロコンビが並んでいましたが、変ホ長調はそこで8位という成績を収めます。これはただの参加ではなく、ちゃんと得点が付いた評価です。プロの中に入って戦えることが証明された瞬間でした。
ただし、この快挙の翌年以降はなかなか壁を突破できませんでした。2007年・2008年・2009年・2010年はいずれも3回戦敗退という結果が続き、M-1が2015年に復活してからも2回戦・3回戦敗退が続きます。2019年に初めて準々決勝へ進出できたのは、初の賞レース決勝進出から実に13年後のことでした。
意外ですね。でもこれがリアルです。
この2019年の準々決勝進出のきっかけは、プロの芸人たちが出演するライブに初めて参加し、ゆにばーすの川瀬名人や馬鹿よ貴方はの新道竜巳さんに直接フィードバックをもらったことでした。「14年目にして初めてやるべきことに気づいた」と小田ひとみさんが語ったエピソードは、笑いとともに多くのファンの胸に刺さっています。
M-1への参加資格は結成から15年以内という規定があるため、2020年がラストイヤーとなりました。ラストイヤーにはシード権が与えられ1回戦を免除されましたが、2回戦で惜しくも敗退。これをもってM-1への挑戦は幕を下ろしました。
- 2005年:M-1初出場・準決勝進出(結成1年目)
- 2006年:M-1決勝進出・8位(史上初アマチュアファイナリスト)
- 2019年:M-1準々決勝進出(13年ぶりの躍進)
- 2020年:M-1ラストイヤー・2回戦敗退
参考:M-1グランプリ公式サイトの変ホ長調コンビ情報ページ。歴代の出場成績が確認できます。
変ホ長調がTHE Wでファイナリストに:17年ぶりの賞レース決勝
M-1への出場資格を失った2021年から、変ホ長調は女芸人No.1決定戦「THE W」へと活動の軸を移します。THE Wはプロ・アマ不問、芸歴・年齢制限なしという大会で、M-1と同様に実力勝負の場です。そして2023年、M-1決勝から実に17年の時を経て、ふたりは再び賞レースの決勝ステージへと帰ってきました。
このときの年齢が話題を呼びます。小田ひとみが58歳、彼方さとみが53歳で、ふたりの合計年齢は111歳。THE W史上初の50代ファイナリストとして、様々なメディアに取り上げられました。「ビートルズが新曲を出して変ホ長調がTHE Wに出る時代」とSNSで表現されたほど、多くのお笑いファンにとって感慨深い出来事でした。
決勝では「センス」をテーマにした漫才を披露しました。彼女たちの芸風は、大きくワーッとウケる派手なスタイルではなく、喫茶店での女性の立ち話を盗み聞きするような、じわじわと効いてくる毒舌・時事風刺型の漫才です。ボケとツッコミの明確な形式がなく、淡々とした語り口の中にチクリと刺さる言葉が混じる独特のスタイルは、長年のファンを持ちます。
結論は1stステージCブロック敗退です。
しかし敗退という結果以上に大きかったのは、2006年のM-1決勝で同じ舞台に立った麒麟・川島明さんや笑い飯・哲夫さんが審査員席に座り、「戦友」としてコメントをしたという場面でした。哲夫さんは「5回変ホ長調がいてるのはすごい」と評し、川島さんは「蝶を飛ばさせていただいた」という言葉で変ホ長調に票を投じたことを表現しました。17年という時間が、ただの数字ではないことを感じさせる瞬間でした。
参考:THE W 2023の審査員コメントが読める日本テレビ公式ページ。哲夫さん・川島さんの変ホ長調への言葉も掲載されています。
変ホ長調の漫才スタイル:芸人としての独自の芸風が保育士に刺さる理由
変ホ長調の漫才の最大の特徴は、「日常の雑談がそのまま漫才になっている」という点にあります。一般女性が職場や喫茶店でふとしゃべるような、ちょっとした愚痴や時事への皮肉がネタになっています。これは保育士という職業に就く方々にとっても、非常に共感しやすいスタイルと言えます。
保育士は毎日さまざまな場面でコミュニケーションを取り続ける仕事です。保護者対応、職員間の連絡、子どもへの語りかけ。そのすべてにおいて「言葉の選び方」と「場の空気を読む力」が問われます。変ホ長調の漫才は、まさにこの「言葉の選び方一つでこんなに印象が変わる」という感覚を笑いに変えています。これは使えそうです。
コンビ名の由来も、ふたりの音楽への素養から来ています。小田ひとみさんが合唱経験者、彼方さとみさんが電子オルガン経験者であることから、音楽用語の「変ホ長調」という言葉をコンビ名に選びました。音楽の調性を指すこの言葉が、ふたりの立ち位置をよく表しています。変ホ長調の音は、どこか独特で、でも確かな調和がある。そんな漫才コンビです。
彼女たちの漫才の核は毒舌と時事風刺です。芸能人の名前を含む固有名詞を出しながら皮肉る手法は、「素人がやってはいけないこと」とされがちですが、変ホ長調は事務所に属していないからこそ、その制約がありません。後ろ盾を気にしない自由な笑いが、多くのお笑いファンを惹きつける理由のひとつです。
棒読み気味のスローテンポで展開する漫才は、一見「何がおかしいの?」と思わせながら、聞いていると徐々に笑いが込み上げてくる構造になっています。このじわじわ感は、忙しい日常の中で「ゆっくり笑いたい」と思う人々の心に届きやすいスタイルと言えるでしょう。派手さより深みを重視するお笑い好きにとっては、ドストライクな芸風です。
変ホ長調の結成20周年:2025年の初単独ライブと今後の活動
2025年は変ホ長調にとって節目の年となりました。2005年の結成から20年を迎え、同年8月31日(日)に大阪・BookCafe上方演芸にて、結成20周年を記念した初の単独ライブ「変ホ長調のふたりごと」が昼夜2回開催されました。「初の単独ライブ」という点が重要で、20年間、コンビとして活動しながら一度も単独ライブを行っていなかったのです。
チケット料金は2500円(おまけ付き)。昼の部は13時開演、夜の部は17時開演という形で、長年のファンが待ち望んでいた舞台が実現しました。公演では漫才、コント、トークに加え、ファンが「あの伝説のネタ」と呼ぶ過去の代表作も披露されました。20年の集大成を届けるライブだったのですね。
また、Spotifyでは「変ホ長調のふたりごと」というPodcastも配信されており、2025年10月には単独ライブの御礼と感想を語る回がアップされるなど、音声コンテンツでも活動を続けています。東京と大阪に離れて暮らしながら漫才を続けるふたりにとって、音声配信はコンビの声をファンに届けるうえで相性の良いメディアと言えます。
さらに2026年2月17日には東京・新宿ブリーカーでのライブも行われており、20周年を越えてなお精力的に活動を続けています。活動が止まらないですね。会社員としての本業を持ちながら、ライブにPodcastにと動き続ける姿は、「趣味としての芸人活動」という言葉では収まりきらない情熱を感じさせます。
変ホ長調の存在が証明しているのは、「プロにならなくても、笑いは本物になれる」という事実です。賞金1000万円を目指すわけでも、テレビに出続けるわけでもなく、ただ「漫才がやりたい」という気持ちが20年以上続いているということ自体が、ひとつの才能であり、ひとつの伝説です。これが基本です。
変ホ長調のような「副業・複業」スタイルの芸人の増加は、近年の「週末芸人」ムーブメントとも重なっています。会社員として週5日働きながら、土日に舞台に立つスタイルの芸人が増えており、NHKや各メディアでもこのライフスタイルが注目されています。変ホ長調はその先駆者的存在と言えるでしょう。
参考:変ホ長調の結成20周年インタビューが読める毎日新聞系のウェブメディア記事。20年間の活動の軌跡を丁寧に追った内容です。


