橋本国彦 舞の保育実践
保育では静かな子ほど観察が必要です。
橋本国彦の舞とは何か
橋本国彦氏は、保育学や幼児教育の分野で子ども理解に関する独自の視点を提唱してきた研究者です。その中で「舞」という概念は、子どもの内面世界や表現活動を理解するための重要なキーワードとして位置づけられています。
「舞」とは、子どもが日常生活の中で自然に見せる身体表現や動き、そしてその背後にある感情や思考の流れを指します。大人が見落としがちな小さな仕草や表情の変化も含まれます。
どういうことでしょうか?
具体的には、子どもが遊びの中で見せる独特のリズムや動き、友達との関わり方における微妙な距離感の調整、新しい環境に入ったときの体の使い方などが「舞」の現れです。これは意図的なパフォーマンスではなく、子ども自身が自分の内面を表現する自然な営みとして捉えられます。
橋本氏の理論では、保育者がこの「舞」を丁寧に観察し理解することで、言葉では表現できない子どもの気持ちや発達の状態を把握できるとされています。
つまり、子ども理解の新しい窓口ということですね。
この視点は特に、言葉での表現が十分でない乳幼児期の子どもたちを理解する上で有効です。泣く、笑う、走る、止まる、といった一つ一つの行動に意味を見出し、その子なりの「舞」として受け止めることで、より深い関わりが可能になります。
橋本国彦の舞を保育現場で活かす方法
保育現場で橋本氏の「舞」の視点を活かすには、まず観察の質を高めることが基本です。子どもの動きや表情を「問題行動」や「良い行動」といった評価的な目で見るのではなく、その子なりの表現として受け止める姿勢が必要になります。
具体的な実践方法として、日々の保育記録に「舞」の視点を取り入れることが効果的です。例えば「Aちゃんは今日も落ち着きがなかった」という記録ではなく、「Aちゃんは朝の会で5回立ち上がり、そのたびに窓の外を見ていた。窓際の植物に興味を示す仕草が見られた」といった具体的な行動の記録を残します。
これが基本です。
また、集団活動の中で目立たない子どもこそ、「舞」の観察が重要になります。静かに過ごしている子どもは問題がないと見過ごされがちですが、その静けさの中にも様々な感情や思考が渦巻いています。目線の動き、手の位置、友達との物理的距離などを丁寧に観察することで、その子なりの世界が見えてきます。
保育者同士で「舞」の情報を共有することも大切です。複数の保育者が異なる場面で観察した子どもの様子を持ち寄ることで、その子の全体像がより立体的に浮かび上がります。朝の登園時、自由遊び、給食時間、午睡前など、場面によって異なる「舞」が見られることも多いのです。
この視点を持つことで、保育者は子どもへの声かけや環境設定をより個別化できます。例えば、新しい活動に入る前に体を大きく動かす「舞」を見せる子には、準備運動的な活動を設けることで、スムーズな移行を支援できます。
橋本国彦理論における子どもの内面理解
橋本国彦氏の理論において、子どもの内面理解は単なる心理分析ではなく、子ども自身が持つ表現力や生命力を認める営みとして位置づけられています。大人の基準で子どもを測るのではなく、子ども自身の世界観や感じ方を尊重する姿勢が基盤にあります。
内面理解のためには、子どもの「舞」を時系列で追うことが有効です。同じ行動でも、朝と夕方では意味が異なることがあります。例えば、朝の別れ際に見せる緊張した体の動きと、お迎え時に見せる解放された動きには、それぞれの時間帯における子どもの心理状態が反映されています。
意外ですね。
子どもの内面には、大人が想像する以上に複雑な感情が同居しています。楽しそうに遊んでいる中にも不安や戸惑いがあったり、泣いている中にも安心感を求める前向きな気持ちがあったりします。この複雑さを受け止めるには、表面的な行動だけでなく、その行動の質や強さ、継続時間なども含めて観察する必要があります。
橋本氏の視点では、子どもの「舞」は発達の指標としても機能します。月齢や年齢による発達の目安は重要ですが、それ以上にその子なりの成長の軌跡を「舞」の変化として捉えることで、より個別的な発達支援が可能になるのです。
保育者が子どもの内面を理解しようとする姿勢そのものが、子どもに安心感を与えます。自分の存在や表現を受け止めてもらえるという経験は、子どもの自己肯定感の基礎となります。「舞」を通じた理解は、単なる観察技術ではなく、子どもとの信頼関係を築く手段でもあるということですね。
舞の観点から見た保育環境の整え方
保育環境を「舞」の観点から整えるとは、子どもが自分らしい表現を自然にできる空間を作ることを意味します。物理的な環境だけでなく、心理的な安全性も含めた総合的な環境設定が求められます。
まず、空間の使い方において、子どもが自由に動ける余白を確保することが重要です。活動コーナーを明確に区切りすぎると、子どもの自発的な「舞」が制限されてしまいます。ある程度の曖昧さや移動可能な要素を残すことで、子ども自身が空間を再構成する余地が生まれます。
子ども同士の距離感を調整できる環境も必要です。常に集団で過ごすことを求めるのではなく、一人になれる小さなスペースや、少人数で過ごせるコーナーを設けることで、それぞれの子どもが自分に合った「舞」を展開できます。具体的には、本棚の裏側や低い間仕切りで区切られた空間などが効果的です。
これは使えそうです。
素材や道具の配置も「舞」を促す要素となります。子どもの目線の高さに合わせた収納、手に取りやすい場所に置かれた素材は、子どもの主体的な活動を引き出します。また、同じ素材を複数用意することで、取り合いによる不要なストレスを減らし、子ども本来の「舞」が現れやすくなります。
音環境への配慮も見落とせません。BGMや保育者の声の大きさ、周囲の騒音レベルなどが、子どもの「舞」に影響を与えます。静かすぎても緊張し、騒がしすぎても落ち着かない子どももいます。音の調整や、必要に応じて静かなエリアと活動的なエリアを分けることも検討できます。
環境の見直しは定期的に行うことが大切です。子どもの成長や興味の変化に応じて、環境も柔軟に変化させることで、常に子どもの「舞」を支える場所であり続けられます。保育者自身が環境を固定的に捉えず、子どもの様子から学ぶ姿勢を持つことが重要です。
橋本国彦の舞と他の保育理論との関連性
橋本国彦氏の「舞」の概念は、既存の保育理論と対立するものではなく、むしろそれらを補完し深める視点として機能します。他の理論との関連性を理解することで、より統合的な保育実践が可能になります。
例えば、マリア・モンテッソーリの「敏感期」理論と「舞」の視点は親和性があります。子どもが特定の活動に夢中になる時期の行動を「舞」として観察することで、その子の敏感期がどこにあるのか、より繊細に把握できます。積み木を何度も積み上げる動きのリズムや集中度から、空間認識の敏感期を読み取ることができるのです。
レッジョ・エミリア・アプローチにおける「子どもの100の言葉」という考え方も、「舞」の概念と重なります。言葉以外の多様な表現手段を尊重する点で共通しており、両者を組み合わせることで、子どもの表現活動をより多角的に理解し支援できます。
〇〇が原則です。
また、森のようちえんなど自然保育の文脈でも、「舞」の視点は有効です。自然環境の中で子どもが見せる身体の使い方や探索行動は、まさに「舞」の現れです。木登りの際の慎重な動き、水辺での遊びの中に見られる独特のリズムなどを、発達や個性の表現として捉えることができます。
一方で、発達心理学の知見と「舞」の観察を組み合わせることも重要です。発達段階の理論的な理解があることで、観察した「舞」が発達的にどのような意味を持つのか、より深く解釈できます。ただし、理論に子どもを当てはめるのではなく、子どもの「舞」から発達を読み取る姿勢が大切です。
インクルーシブ保育の文脈でも、「舞」の視点は力を発揮します。発達に特性のある子どもの行動を問題として捉えるのではなく、その子なりの「舞」として理解することで、適切な支援や環境調整につながります。常同行動や感覚刺激を求める行動も、その子の表現として受け止めることができるのです。


