雅楽の楽器一覧:保育士が知っておきたい種類と役割
雅楽の琵琶は、メロディを弾かずリズム楽器として使われます。
雅楽の楽器一覧:まず「3種類の分類」から理解する
雅楽の楽器を理解するうえで、まず押さえておきたいのが「3つの分類」です。管楽器(吹物=ふきもの)、絃楽器(弾物=ひきもの)、打楽器(打物=うちもの)の3グループに大きく分けられます。この分類は西洋音楽と同じように見えますが、各楽器の役割は西洋音楽とはかなり異なります。
たとえば絃楽器の琵琶や箏は、西洋音楽のようにメロディを奏でる楽器ではありません。雅楽においてはリズムを刻む打楽器的な役割を担っています。つまり絃楽器がリズム担当です。
逆に主旋律を担うのは管楽器の「篳篥(ひちりき)」で、副旋律を飾るのが「龍笛(りゅうてき)」、そして全体を包み込む和音を奏でるのが「笙(しょう)」です。保育の現場で雅楽の話をするとき、「笛みたいな楽器がリーダー、琴みたいな楽器がリズム担当」と覚えておくと子どもにも伝えやすくなります。
管絃(かんげん)と呼ばれる器楽合奏では以下の楽器が使われます。
| 分類 | 呼び方 | 主な楽器 |
|---|---|---|
| 管楽器 | 吹物(ふきもの) | 笙・篳篥・龍笛・高麗笛・神楽笛 |
| 絃楽器 | 弾物(ひきもの) | 琵琶・箏(筝)・和琴 |
| 打楽器 | 打物(うちもの) | 鞨鼓・太鼓・鉦鼓 |
雅楽は「世界最古のオーケストラ」とも呼ばれ、2009年にユネスコの無形文化遺産にも登録されています。1300年以上もの間、ほぼ同じ楽器編成を守り続けてきた音楽は世界でも類を見ません。この壮大な背景を知っておくと、行事で雅楽の音楽が流れるときに子どもに話しかけるきっかけにもなります。
宮内庁の雅楽については、以下のページに詳しい解説があります。
雅楽 GAGAKU|文化デジタルライブラリー(国立劇場):楽器の3分類と編成について
雅楽の楽器一覧:管楽器「笙・篳篥・龍笛」の特徴と役割
三管(さんかん)と呼ばれる3種類の管楽器は、雅楽の花形といえる存在です。それぞれが「天・地・空」という宇宙観を象徴しているのも大きな特徴で、子どもに伝えるときにもイメージしやすい説明です。
🌟 笙(しょう):天から降り注ぐ光の音
笙は日本の楽器の中で「唯一、和音を奏でる管楽器」です。これは非常に特徴的で、邦楽器のほとんどが単音を出す楽器であるのに対し、笙は同時に5〜6音を鳴らすことができます。その形は17本の竹管を椀型の頭(かしら)に差し込んだもので、伝説の鳥「鳳凰(ほうおう)」が羽を休めている姿に似ていることから「鳳笙(ほうしょう)」とも呼ばれます。オルガンのような柔らかい音色が魅力です。
面白い仕組みがあります。一般の管楽器は音孔(おとあな)を開けると音が出ますが、笙はその逆で「孔を閉じた管の音が鳴る」という構造になっています。また、リードが湿りやすいため、演奏前に電熱器や火鉢で笙をくるくると温めて乾かす「あぶり」という準備が欠かせません。
🎵 篳篥(ひちりき):大地に響く人の声
篳篥は全長約18cmとかなり小さな縦笛ですが、音量は非常に大きく力強い音を出します。葦(ヨシ)を潰して作ったリード(蘆舌=ろぜつ)を差し込んで演奏するダブルリード楽器で、オーボエやファゴットと同じ仲間です。音域は約1オクターブと狭いですが、「塩梅(えんばい)」と呼ばれる独特の装飾的奏法でスケール感豊かな演奏を実現します。雅楽においては最も重要な旋律楽器です。
演奏前にはリードをお茶に湿らせて柔らかくする準備をします。子どもに伝えるなら「演奏前にリードをお茶で湿らせる、ちょっと変わった楽器」として紹介するとウケるかもしれません。
🐉 龍笛(りゅうてき):空を飛ぶ龍の声
龍笛は全長約40cm(ハガキを横に3枚並べた長さくらい)の横笛で、雅楽の横笛の中では最も一般的に使われる楽器です。篳篥が担う主旋律を彩り、装飾する副旋律を担当します。2オクターブと音域が広く、高音から低音まで縦横に動き回るダイナミックな演奏が魅力です。その音色は「天と地の間を飛翔する龍の鳴き声」に例えられています。
三管のそれぞれの音の意味をまとめると、以下の通りです。
- 🌤️ 笙:天から差し込む光を表す
- 🌏 篳篥:地上にこだまする人の声を表す
- 🐲 龍笛:天と地の間を飛翔する龍の声を表す
保育で行事や季節の音楽を語るとき、この「天・地・空」という宇宙観のイメージは子どもの想像力を刺激する素材として活用できます。
三管の役割と奏法について、より詳しくはこちら。
東儀秀樹公式サイト:「笙」「篳篥」「龍笛」について(雅楽師による解説)
雅楽の楽器一覧:絃楽器「琵琶・箏・和琴」の意外な使われ方
雅楽の絃楽器については、多くの人が「琴のようにメロディを弾くのだろう」と思いがちです。ところが実際はリズム楽器としての役割が中心です。これが大きな誤解ポイントです。
🎸 琵琶(びわ)/楽琵琶(がくびわ)
雅楽で使う琵琶は「楽琵琶(がくびわ)」と呼ばれ、平家物語で語りに使われる平家琵琶や薩摩琵琶とは構造も演奏法も異なります。4本の弦を撥(ばち)で弾いて演奏しますが、美しいメロディを奏でるのではなく、和音や単音でリズムを明確にする役割を担います。
実はこの琵琶、遠くペルシャからシルクロードを渡って日本に伝わった楽器です。ヨーロッパへ伝わったものがリュートやマンドリン、ギターになったともいわれています。ギターの先祖が雅楽の琵琶と親戚、ということになります。
🎼 箏(そう)/楽箏(がくそう)
雅楽の箏は「楽箏(がくそう)」と呼ばれます。現在の生田・山田流の箏と構造はほぼ同じですが、弦は太く、指にはめる爪も異なります。琵琶と同様に、リズム楽器としての役割を担っています。
子どもがよく知っている「お琴の先生の琴」と同じ形ですが、弾き方の目的が違う、という話は保育の場での会話のネタになります。
🌿 和琴(わごん)
和琴は6本の弦を持つ日本古来の楽器で、『古事記』にも記されているほど歴史が古い楽器です。水牛の角や鼈甲(べっこう)で作られた「琴軋(ことさぎ)」という道具で弦をかき鳴らして音を出します。国風歌舞(くにぶりのうたまい)の伴奏に用いられる、日本固有の楽器です。
絃楽器がリズム担当という原則が基本です。ただし和琴については伴奏的な使われ方をする場面もあります。このような役割の固定化は、1000年以上かけて楽器・楽曲の構造や特性から自然に生まれてきたものだといわれています。
絃楽器の詳しい解説はこちら。
雅楽の楽器一覧:打楽器「鞨鼓・太鼓・鉦鼓」の役割を知ろう
打楽器は3種類あります。鞨鼓(かっこ)・太鼓(たいこ)・鉦鼓(しょうこ)の3つが基本の打楽器セットです。これらは単純にリズムを刻むだけでなく、演奏の開始・速度・終わりを決めるという重要な役割を持っています。
🥁 鞨鼓(かっこ):指揮者の役割を担う小太鼓
鞨鼓は雅楽の打楽器の中で最も重要な楽器です。直径約23cm(ちょうどフライパン一枚分くらい)の両面太鼓で、台に置いて2本の桴(ばち)で打ちます。雅楽には指揮者がいません。その代わりに、鞨鼓の奏者が演奏のテンポを決め、終わりの合図を出す「指揮者」としての役割を果たします。そのため鞨鼓奏者はベテランの楽師が担当します。
意外な豆知識があります。鞨鼓には赤い牡丹と青い牡丹の柄が描かれており、赤い牡丹を観客側に向けると「お祝いの演奏」、青い牡丹を観客側に向けると「お悔やみの演奏」という意味を持ちます。同じ楽器でも向きで意味が変わるわけです。保育の場で伝統文化の「言葉を使わないサイン」として話すと、子どもの興味を引く話題になります。
🎺 太鼓(たいこ):演奏シーンで使い分ける2種類
雅楽の太鼓は場面によって使い分けます。楽器演奏(管絃)の際は「楽太鼓(がくだいこ)」を使い、舞いを伴う「舞楽(ぶがく)」の際には「大太鼓(だだいこ)」という巨大な太鼓を使います。大太鼓の鼓面の直径はなんと約2m(6畳の部屋の短い辺とほぼ同じくらい)にも達します。日本最大の和太鼓といっても過言ではありません。
楽太鼓には金属の飾りがつき、鼓面に3匹の唐獅子が描かれています。大太鼓は左右一対で、左は金色の「日形(にちぎょう)と龍」の飾り、右は銀色の「月形(げつぎょう)と鳳凰」の飾りがついています。太鼓の撥(ばち)だけが他の打楽器の桴(ばち)と違う漢字を使う点も面白い豆知識です。
🔔 鉦鼓(しょうこ):「鼓」なのに皿を叩く楽器
鉦鼓は名前に「鼓」とありますが、実は太鼓ではありません。直径約15cmの青銅製の皿型の内側を、2本の桴で打つ楽器です。皿を叩く楽器というわけです。枠に吊り下げられた金属の皿を叩くことで、金属特有の高い音色が鞨鼓や太鼓の音を装飾します。舞楽の際は「大鉦鼓(おおしょうこ)」という一回り大きなものが使われます。
打楽器3種の役割をまとめると、以下の通りです。
- 🥁 鞨鼓:テンポを決め、演奏の指揮者的役割を果たす
- 🎺 太鼓:力強いリズムで全体を支える縁の下の力持ち
- 🔔 鉦鼓:金属音で音楽全体に装飾を加える
打楽器の詳細はこちらの解説が参考になります。
日本雅樂會:雅楽の楽器(鞨鼓・太鼓・鉦鼓を含む全楽器の解説)
雅楽の楽器一覧:保育士だけが気づける「子どもへの伝え方」4つのポイント
保育士として雅楽の楽器を知っていると、日々の保育でどう活かせるか気になりますよね。七五三や卒園式・入園式など、神社や式典で雅楽の音楽が流れる場面は意外と多くあります。そのときに「あの音は何だろう?」という子どもの疑問に答えられると、文化教育の入口になります。
① 「笙の音」を正月にかける
年明けのBGMとして流れることが多い雅楽の代表曲「越天楽(えてんらく)」では、笙の和音が印象的に響きます。お正月に流れるこの曲を聴いて「あ、あれが笙の音だよ」と教えるだけで、子どもの聴こえ方が変わります。これは使えそうです。
② 楽器の「天・地・空」で想像遊びをする
笙=天の光、篳篥=地上の人の声、龍笛=空を飛ぶ龍、という象徴的なイメージは、絵を描いたり想像したりする活動と組み合わせやすい素材です。「どんな龍が飛んでるかな?」という問いかけから発想が広がります。
③ 琵琶のルーツから「つながり」を伝える
琵琶がギターやリュートの先祖といわれているという事実は、子どもが知っている楽器と雅楽をつなぐ架け橋になります。「今みんなが知ってるギターも、実はとーっても昔の楽器からきてるんだよ」という切り口は、歴史への興味の入口になります。
④ 「鞨鼓が指揮者」という発見
指揮者がいない代わりに、太鼓が指揮者の役割をするという事実は、子どもにとって新鮮な驚きです。「太鼓の人がみんなに合図を出してるんだ」という理解は、アンサンブルの仕組みを感じる最初の一歩にもなります。
保育士として行事や音楽活動に雅楽を取り入れるなら、NHK for Schoolの映像教材を活用する方法があります。実際に楽器が映像で確認できるため、子どもと一緒に見ることで理解が深まります。
NHK for School:雅楽の代表的な楽器紹介(映像で笙・篳篥・龍笛が確認できる)
また、子ども向けに作られた雅楽のDVD教材もあります。「子どものための雅楽『雅楽ってなあに?』」(伶楽舎制作)は保育や教育現場での使用に適した内容で、楽器の紹介から舞楽まで幅広く収録されています。
伶楽舎:DVD「子どものための雅楽」(教材として活用可能な解説映像)
雅楽の楽器は音楽教育の素材として価値があります。知識があるかどうかで、保育の現場での引き出しの多さが変わってくるため、一度まとめて覚えておくことをおすすめします。


