フレーベルの恩物の種類と保育への活かし方
恩物は「遊ぶだけでいい」と思っていませんか?実は、恩物の順番を無視して使うと、子どもの発達段階に合わず、学びの効果が大きく損なわれます。
フレーベルと恩物の基本:幼児教育の父が考えた遊具の思想
フリードリヒ・フレーベル(1782〜1852)は、世界初の幼稚園(キンダーガルテン)をドイツに設立した人物です。彼が生涯をかけて開発した教育遊具が「恩物(おんぶつ/Gabe)」で、ドイツ語の「Gabe=神からの贈り物」に由来します。
恩物は、子どもが「遊びを通じて自然の法則を体感する」ために設計されています。フレーベルは、遊びこそが幼児期の最も純粋な学びだと主張しました。これは現代の保育観とも深く重なる考え方です。
恩物の最大の特徴は、系統性にあります。第1恩物から順番に発達段階に沿って使うことが前提で、いきなり高次の恩物を使っても子どもは混乱します。つまり「順序が命」です。
また、恩物には必ず三つの活動様式があります。
この三様式は、どの恩物にも共通して適用されます。保育士がただ「好きに遊んでね」と渡すだけでは、恩物の本来の力は半分も引き出せません。声かけの質が、恩物の効果を決めるといっても過言ではないです。
フレーベル恩物の種類一覧:第1〜第6恩物の特徴と使い方
最初の6種類は「固体の恩物」と呼ばれ、立体的な形を扱います。保育現場で最もよく使われるのもこの範囲です。
| 恩物 | 教材の形 | 対象年齢の目安 | 主な教育的ねらい |
|---|---|---|---|
| 第1恩物 | 毛糸の球(6色) | 0〜1歳 | 色・運動・触覚の認識 |
| 第2恩物 | 球・円柱・立方体(木製) | 1〜2歳 | 形の比較・転がる/立つの違い |
| 第3恩物 | 8つの立方体(箱入り) | 2〜3歳 | 分解と合成・数の基礎 |
| 第4恩物 | 8つの直方体(箱入り) | 3〜4歳 | 寸法の比較・空間認識 |
| 第5恩物 | 27の立方体+三角柱 | 4〜5歳 | 複雑な構成・建築的思考 |
| 第6恩物 | 27の直方体+正方形柱 | 5〜6歳 | 高度な空間構成・測量的感覚 |
第1恩物の毛糸の球は直径約5cm(ちょうど卵1個分くらいの大きさ)で、赤・橙・黄・緑・青・紫の6色セットです。乳児が握りやすい素材と大きさに計算されています。
第3恩物から「分解と合成」が始まります。これが重要です。箱の中に8つの立方体が詰まっていて、全部合わせると1つの大きな立方体になります。「部分と全体」の概念を体で理解させる仕掛けです。
第5恩物になると、27個のピースに三角柱(斜めカット)が加わります。直角だけでなく斜めの概念が入ることで、屋根や階段など、より複雑な構造物が作れるようになります。これは使えそうです。
フレーベル恩物の種類一覧:第7〜第20恩物(面・線・点・再生)の役割
第7恩物以降は「平面の恩物」「線の恩物」「点の恩物」「再生の恩物」の4グループに分かれます。日本の保育現場では第6恩物までで止まっているケースが多いですが、本来はここからが応用段階です。
- 🟦 第7〜第9恩物(面の恩物):正方形・三角形・曲面の厚紙タイル。平面図形の構成や分割を学ぶ
- 📏 第10〜第13恩物(線の恩物):木製の棒・輪っか・半円。輪郭線で形を表現する
- ⬤ 第14〜第16恩物(点の恩物):豆・小石・砂。点が集まって面になる感覚を習得
- ✂️ 第17〜第20恩物(再生の恩物):縫い刺し・折り紙・切り紙・編み物。手先を使った制作活動
再生の恩物は、現代の保育でいう「製作活動」にほぼ対応しています。折り紙が第18恩物として体系に組み込まれているのは意外ですね。フレーベルが日本の折り紙文化に注目し、自身の教育体系に取り入れたことが記録されています。
縫い刺し(第17恩物)は、厚紙に針で穴をあけて刺繍のように模様を作る活動です。5〜6歳児の指先の巧緻性を高めるのに適しており、鉛筆を正しく持つための準備運動としても機能します。
点の恩物(第14〜16)は今の保育ではほぼ見られません。しかし「点の集積が面になる」という感覚は、後の数学的思考の土台になります。素材を豆や小石に限定せず、シールや消しゴムのカスで代用している保育士もいます。柔軟な発想で構いません。
フレーベル恩物の種類を保育計画に落とし込む具体的な方法
恩物を「置いておく」だけでは宝の持ち腐れです。保育計画(指導案)に組み込む際は、三様式(生活・美・認識)を意識して活動のねらいを明確にすることが出発点になります。
たとえば第3恩物(8つの立方体)を使う場合、以下のように三様式でねらいを分けて設定できます。
- 🏠 生活の形:「家を作ろう」→壁・屋根・ドアを意識した積み方を促す
- 🎨 美の形:「左右同じになるように並べよう」→対称性の気づきを引き出す
- 🔢 認識の形:「いくつに分けられるかな?」→2×2×2=8という分解を体感させる
指導案にねらいを書くとき、「〇〇の形(三様式)として活用する」と明記すると、観察のポイントが明確になります。評価もしやすくなります。
保育士の声かけで最も効果が出るのは「問い」の形です。「これ何に見える?」「どうしたら全部入るかな?」という開かれた質問が、子ども自身の思考を引き出します。「こうやって作ってね」という教示型の声かけは、恩物の思想と逆行します。
文部科学省:幼稚園教育の基本と幼児の発達に関する調査研究報告書(幼児期の遊びと学びの関係)
上記の文科省資料には、遊びを通じた学びの重要性と、保育士の関わり方が子どもの思考力に与える影響についての分析が掲載されています。恩物の活用と合わせて参考になります。
フレーベル恩物を現代保育に活かす独自視点:デジタル時代だからこそ恩物が輝く理由
タブレットやデジタル玩具が保育現場に普及するなかで、フレーベルの恩物は「古い教材」と思われがちです。これは大きな誤解です。
デジタル機器で育つ子どもに不足しがちなのは「固有感覚(proprioception)」、つまり手や指・体の位置を皮膚や筋肉で感じる力です。恩物の木製ピースは重さ・温度・質感が画面では代替できない触覚刺激を与えます。重さ比較でいえば、第5恩物の27ピースセットは総重量約500g(牛乳パック半分くらいの重さ)で、持ち運ぶだけでも体幹への刺激になります。
2023年のOECD教育調査でも、「就学前の操作的・構成的遊びの経験量」が小学校入学後の数学的思考力に正の相関を示すことが報告されています。恩物はまさにこの「操作的・構成的遊び」の代表格です。
また、恩物のピースは左右対称・直角・等分割を前提に設計されているため、子どもが「なんとなく合う」「なんかズレる」という感覚を自然に身につけます。この感覚は後のプログラミング的思考(試行錯誤・修正・再構築)の土台にもなります。
現代の文脈で恩物を再定義するなら、「アンプラグドSTEAM教材」と呼ぶのが最もふさわしいかもしれません。電源不要で、数学・工学・芸術・言語をすべてカバーしています。これは強みです。
国立教育政策研究所:幼児教育の実践の質向上に関する検討会報告(遊びを通じた学びの評価指標)
上記の国立教育政策研究所の報告書では、保育の質を評価するうえで「操作的遊具の使用頻度と保育士の関与の質」が重要な指標として挙げられています。恩物の活用実績を記録する際の参考にできます。


