絵本作家のぶみの離婚観と保育士が知っておくべきこと
のぶみの絵本を保育に使っている保育士さん、その選書が子どもの心を傷つけるリスクがあると知っていますか?
絵本作家のぶみのプロフィールと代表作を振り返る
絵本作家・のぶみ(本名:斎藤信実)は1978年4月4日、東京都品川区生まれです。少年時代にいじめや不登校を経験し、高校時代には複数回の補導歴もありましたが、高校卒業後に日本児童教育専門学校へ進学。1999年に絵本『ぼくとなべお』でデビューしました。
デビュー後しばらくは作品が売れない時期が続いたといいます。転機となったのは2007年に発表した『しんかんくんうちにくる』。この作品から認知度が急上昇し、2015年に刊行した『ママがおばけになっちゃった!』は2016年時点で累計54万部を突破するベストセラーとなりました。つまり、たった1年で50万部超えという驚異的なペースで売れた作品です。
その後もNHK教育でのアニメ化、「情熱大陸」への出演など活動の幅を広げていきます。現在は絵本作家・イラストレーター・作詞家・YouTuberという多彩な肩書を持ちます。
保育の現場でも、のぶみの絵本は広く使われてきました。子どもの視線で描かれた親しみやすいイラストと、感情に訴えるストーリー展開が人気の理由です。特に「ぼく、仮面ライダーになる!」シリーズや「しんかんくん」シリーズは、幼児が喜ぶ内容として多くの保育士に重宝されてきました。
これが作家のぶみの出発点です。ただし、その後の活動では物議を醸す発言も相次いでいます。
| 年 | できごと |
|---|---|
| 1999年 | 絵本デビュー(ぼくとなべお) |
| 2007年 | 「しんかんくんうちにくる」でブレイク |
| 2015年 | 「ママがおばけになっちゃった!」刊行・大ヒット |
| 2016年 | 「情熱大陸」出演、累計54万部突破 |
| 2018年 | 「あたしおかあさんだから」作詞で第1次炎上 |
| 2021年 | 東京五輪文化プログラム辞退で第2次炎上 |
| 2024年 | YouTubeチャンネル登録者数17万人超に |
のぶみの「離婚も子どもが選んだ」という主張の内容と背景
のぶみが特に保育者の間で注目・批判を集めた発言のひとつが、「離婚も虐待も、子どもが選んで生まれてきた」という趣旨の発信です。これは「胎内記憶」の概念をベースにしており、「子どもは生まれる前から自分の親を選んでくる」という主張です。
具体的にはSNSや動画を通じて、「虐待も離婚や中絶や流産も障害や病気も全て(胎内で)子どもが選んだ」という内容を繰り返し発信しました。2021年7月のTwitter投稿でも、この発言内容が広く拡散され批判が集中しています。この発言内容が問題になったのは、東京五輪の文化プログラム辞退の騒動とほぼ同時期でした。
「胎内記憶」自体は1999年より産婦人科医の池川明氏が研究を進めているテーマです。「胎内や生まれる前の記憶を持っている子どもが一定数いる」というものであり、一部の親や保育者の間でも関心を集めています。国内外で講演活動も行われており、全面的に否定できないと考える人も存在します。意外ですね。
ただし、「生まれる前に自分の運命を選んだ」という主張にまで踏み込むと、発達心理学や児童精神医学の観点からは「科学的根拠がない」と明確に批判されています。とりわけ問題なのは、離婚や虐待という「傷つき体験」を「子ども本人が望んだこと」とフレームすることで、責任の所在が完全に歪んでしまう点です。
保育士として重要なのは、この発言の「意図」よりも「影響」を見ることです。保育現場に来る子どもの中には、親の離婚を経験している子が少なくありません。そういった子どもが「あなたは離婚する親を自分で選んで生まれてきたんだよ」という言葉に触れたとき、どう感じるかを想像してほしいのです。
のぶみ氏の「虐待も離婚も子どもが選んだ」発言への批判(Twitter/X・2021年)
炎上の歴史:「あたしおかあさんだから」から五輪辞退まで
のぶみが公に批判を浴びた大きな出来事は、主に2回あります。保育士として知っておきたい背景を整理します。
第1次炎上(2018年):「あたしおかあさんだから」歌詞問題
のぶみが作詞し、元NHK「おかあさんといっしょ」のだいすけお兄さん(横山だいすけ)が歌唱した楽曲「あたしおかあさんだから」が、2018年2月にHuluの番組で発表されました。歌詞には「おかあさんだから ごはんつくるの / おかあさんだから しごとやめるの」という表現が含まれており、「母親の自己犠牲を美化している」「ワンオペ育児を賛美している」という批判がSNSで急拡散。200件以上の批判コメントが殺到しました。
のぶみ本人はその後謝罪コメントを発表しましたが、この余波で仕事が激減したと語っています。炎上後、クラウドファンディングを実施したところ148%の資金が集まりました。支持者が一定数いることも事実です。
第2次炎上(2021年):東京五輪文化プログラム辞退
2021年7月、のぶみが東京オリンピック・パラリンピックの文化プログラムに参加していたことが発覚し、過去の「いじめの主犯」をうかがわせる自伝の記述や胎内記憶に関する発言が掘り起こされ炎上。のぶみは「ぼくの未成熟さが原因」とのコメントを出し、プログラムを辞退しました。
これら2つの炎上の共通点は、「弱い立場にいる人への配慮が欠けている」という批判です。保育士が関心を持つべき理由はまさにここにあります。保育士は子どもや保護者という弱者に最も近い専門職だからです。
のぶみ氏・東京五輪文化プログラム辞退の謝罪コメント全文(ORICON NEWS)
保育士が知っておくべき「親の離婚を経験した子ども」へのケア
のぶみの発言への批判や炎上とは別に、保育現場では「親の離婚を経験した子どもへのケア」は日常的な課題です。
静岡県立大学短期大学部の研究(加藤恵美ら・2021年)によると、A県内394人の保育士を対象にした調査で、回答者の84.3%が「親との喪失体験を持つ子どもを担当したことがある」と回答しています。そのうち、親を失った要因として最も多かったのが「離婚(生別)」で、全体の80.7%を占めていました。つまり、10人の保育士がいれば8人以上は親の離婚を経験した子どもと関わっているわけです。
子どもに現れる変化として多かったのは以下の通りです。
- 😟 感情の起伏が激しくなる(53.7%の子どもに変化が見られた)
- 😢 退行行動(赤ちゃん返りなど)が増える(45.2%)
- 😰 登園時に大人から離れられない(37.6%)
- 😡 乱暴な行為が増える(35.0%)
保育士の対応として最も多く行われていたのが「スキンシップをとる」(1,475回と圧倒的に多い記録回数)で、次いで「子どもが喜怒哀楽を出せるようにする」でした。スキンシップが基本です。
一方で、同調査では保育士向けの研修や支援の充足度が低い実態も明らかになっています。「保育士への支援(研修会・個別相談など)」については、重要と感じている保育士がほぼ全員(92.7%)でしたが、「あまり得られていない」という回答が49.4%と最多でした。保育士が個々で判断して対応するには限界があります。
親の離婚を経験した子どもに対して「それはあなたが選んだことだよ」という考え方を持つ保育士、あるいは保護者が増えれば、子どもの傷はむしろ深まってしまいます。のぶみの発言がこうした現場に与える影響を、保育士として冷静に判断する必要があります。
「親の離婚を体験した子どもの支援に関する保育士の意識調査」静岡県立大学短期大学部・加藤恵美ら(2021年)
保育現場での絵本選書:のぶみ作品を使う際の独自視点
炎上した作家の作品だから使えない、というのは思考停止です。一方で、何も考えずに使い続けるのも問題があります。保育士として大切なのは、作品の内容とその読み聞かせ対象を精査するという「選書の視点」を持つことです。
のぶみの作品は大別すると2種類あります。ひとつは「しんかんくん」「ぼく、仮面ライダーになる!」のような、子どもの興味・関心をシンプルに楽しめる作品群です。もうひとつは「ママがおばけになっちゃった!」に代表される、親子の別離や死をテーマにした感情訴求型の作品群です。
前者は保育現場でも比較的安心して使いやすいでしょう。一方、後者については慎重な判断が必要です。「ママがおばけになっちゃった!」については、2019年に「絵本『ママがおばけになっちゃった!』の対象年齢引き上げを望む会」が発足し、子どもの不安症状が強まる実例を根拠として対象年齢(3歳から)の見直しを求める動きがありました。
保育専門家からも指摘があります。家庭文庫「子どもの本の家ちゅうりっぷ」の神保和子氏は「幼い子どもの発達段階や心理への配慮ができておらず、母子分離不安をあおる」と問題視しています。
実際の選書にあたって意識すべきポイントを挙げます。
- 📚 クラスに親の離婚を経験した子どもがいる場合は、別離・死をテーマにした作品の使用を慎重に検討する
- 📚 「親がいなくなったら」「おばけになったら」という設定は、愛着不安が高い子どもには強いストレスになり得る
- 📚 読み聞かせ後に子どもの反応(表情・行動の変化など)を観察し、気になる様子があれば担任間で共有する
- 📚 胎内記憶や「子どもが選んで生まれてきた」という考え方が含まれた動画・コンテンツを園内で使用する際は、内容を事前に確認する
のぶみの作品に限らず、絵本は作者の世界観が色濃く反映されるメディアです。作者の発言や思想背景を把握した上で選書する習慣は、保育の質を高める重要な専門性のひとつです。これは使えそうです。
絵本選書の基準や発達段階に応じた推奨絵本リストについては、「絵本ナビ」や「JBBY(日本国際児童図書評議会)」のサイトで信頼性の高い情報を確認することができます。
絵本ナビ|保育士にも活用されている絵本選書の総合情報サイト

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