びわの歌 歌詞を保育士が子どもへ届けるための全知識
伴奏をどれだけ丁寧に弾いても、歌声が弱いと子どもは歌を覚えられません。
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びわの歌 歌詞の全文と各フレーズの意味
童謡「びわ」の歌詞は、作詞家・まど・みちおが1953年(昭和28年)に書いた2番構成の詩です。歌い出しから独特の言葉選びが続くため、初めて目にした保育士さんが「これはどういう意味?」と首をかしげることも珍しくありません。まずは全文を確認しましょう。
| 番 | 歌詞 |
|---|---|
| 1番 | びわは やさしい 木の実だから/だっこしあって うれている/うすい虹ある ろばさんの/お耳みたいな 葉のかげに |
| 2番 | びわは 静かな 木の実だから/お日にぬるんで うれている/ママといただく やぎさんの/お乳よりかも まだあまく |
1番の「だっこしあってうれている」とは、びわの実が房状に集まって実る様子を、まるで子どもたちが抱き合っているように見立てた表現です。木の実が寄り添いながら育つ姿に「やさしさ」を感じ取る、まど・みちおらしい視点が凝縮されています。
「うすい虹あるろばさんのお耳みたいな葉のかげに」というフレーズは、特に解釈が難しい部分です。これは意訳すると、「ロバの耳の形に似た大きく長楕円形のびわの葉の影に、薄い虹のような光が差し込んでいる」という情景を描いた詩と考えられています。びわの葉は長さ20〜30センチほどもある細長い楕円形で、確かにロバの耳を連想させる形をしています。
2番の「ママといただくやぎさんのお乳よりかもまだあまく」という表現も独特です。これは「ヤギの乳よりも、びわのほうが甘い」という比較であり、びわの控えめで繊細な甘さをユニークな尺度で表現しています。つまりびわの甘さが大げさに「すごく甘い」のではなく、「ヤギのミルクより少しだけ甘い」という絶妙なニュアンスを伝えているわけです。子どもの感覚を大切にしたまど・みちお独自の詩的スケールといえます。
歌詞の読み解きが深まると、保育現場での歌い方も変わります。単なる音の羅列ではなく、情景として子どもに届けることができるようになるでしょう。
歌ネット「びわ」歌詞ページ(作詞:まど・みちお、作曲:磯部俶)
びわの歌 歌詞を書いたまど・みちおと磯部俶の人物像
この曲の作詞者であるまど・みちおは、1909年(明治42年)山口県生まれの詩人です。20歳頃から詩作を始め、25歳のときに童謡界の大家・北原白秋にその才能を認められました。代表作は「ぞうさん」「やぎさんゆうびん」「ふしぎなポケット」「一年生になったら」など、誰もが幼少期に耳にしたことがある名作が並びます。意外なことに、2014年に104歳で亡くなる直前まで創作意欲を失わなかった詩人です。
まど・みちおは「存在の詩人」とも呼ばれ、動植物や身の回りの小さなものに宿る「存在の不思議」を詩にし続けました。「びわ」の歌詞も、びわという果実そのものの姿と、そこに漂う静けさや優しさを丁寧に掬い取った作品です。そのため歌詞には難しい言葉がなく、子どもでもイメージしやすい言葉が選ばれています。保育士がこの背景を知っておくと、歌を子どもに説明する際の言葉が自然と豊かになります。
作曲を担当したのは磯部俶(いそべとし)で、1917年(大正6年)東京都大田区生まれの作曲家・合唱指揮者です。多くの合唱曲を手がけ、指揮者としても第一線で活動しました。「びわ」はもともと女声コーラスのために作曲された曲であるという点は、あまり知られていません。つまり元来は合唱曲として生まれた楽曲が、後に保育の現場でも広く歌われるようになったのです。その柔らかく流れるようなメロディーラインは、女声合唱のために設計されたものだったということですね。
磯部俶はプライベートでも人との縁を大切にした人物で、男性カルテット「ボニーシャックス」の命名者であり、メンバー4人の媒酌人を全員夫妻で務めたというエピソードも残っています。「びわ」という曲の柔らかさには、こうした磯部の人柄も反映されているのかもしれません。
びわの歌 歌詞を保育現場で活かす季節の導入アイデア
「びわ」という果物は、現代の子どもたちにとって非常に馴染みが薄い食べ物のひとつです。市場に出回るのは3〜7月ですが、旬の露地ものは5月中旬に集中しており、スーパーに並ぶ期間はごく限られています。長崎県と千葉県が主要産地として知られており、温暖な気候の地域で主に生産されています。「知っている子どもがほぼゼロ」という状況で歌い始めると、歌詞のイメージが子どもの頭に全く浮かびません。これは保育士にとって見逃せないポイントです。
導入として有効なのが、実物や写真を使った「みせる保育」です。5月中旬〜6月の旬の時期に合わせて、実際のびわを保育室に持ち込み、子どもに見せる・触らせる・においを嗅がせるという体験を先に作ってから歌に入ると、子どもの吸収力が格段に変わります。びわの実はイチゴよりひとまわり大きく、淡いオレンジ色で、触るとふんわり柔らかい感触が特徴的です。これはすぐに使えそうです。
パネルシアターも有効な手段のひとつです。「ろばさんのお耳みたいな葉のかげに」というフレーズは、歌詞だけでは低年齢の子どもには伝わりにくいですが、ロバとびわの葉を並べたパネルシアターを見せながら歌うと、視覚的に理解が生まれます。実際にパネルシアターを制作して保育室で歌っている保育士の実践も各地で見られます。
また、5〜6月という旬は、保育カレンダーでいうと新年度の子どもたちが少し慣れてきた頃に重なります。歌を通して「季節のものを感じる」という体験を自然と組み込めるのは、この時期ならではの強みです。子どもたちの感性を育てるという保育のねらいとも、この曲は深くつながっています。
びわの歌 歌詞を用いた保育士実技試験の弾き歌いポイント
「びわ」は令和4年度(2022年度)の保育士実技試験「音楽に関する技術」の課題曲として採用された曲です。実技試験は50点満点で、60%以上(30点以上)の得点で合格となります。実技試験全体の合格率は約80〜89%で推移しており、筆記試験の2〜3割という合格率と比べると、しっかり準備すれば十分に合格を狙えます。
多くの受験者が「ミスタッチをしたら不合格?」と心配しますが、実際には伴奏でミスがあった受験者のほとんどが合格しているという現場指導者の証言があります。試験の採点では、高い演奏技術よりも「子どもが正しく楽しく歌える環境を作れているか」が見られているためです。つまり完璧な伴奏よりも、豊かな歌声の方が評価に直結するということですね。
弾き歌いで意識すべき3点を整理すると、①歌詞がはっきり子どもに届くように発音する、②楽しく歌える雰囲気を表情と声で作る、③自分の声域に合ったキーで弾く(移調可能)、となります。「びわ」はゆったりとした3拍子系の流れるようなメロディーなので、テンポを焦らず一定に保つことが特に重要です。
移調は認められており、キーが合わなければ積極的に変えることが推奨されています。ただし移調すると調号(♯や♭)が複数つくケースもあるため、弾きやすいキーかどうかを事前に確認しておくことが大切です。自分の声とピアノの両方が無理なく出せるキーを選ぶことが、試験全体のパフォーマンスを底上げします。
びわの歌 歌詞がもつ感性の豊かさを保育に活かす独自視点
多くの保育士向け解説では「びわ」の曲を「試験対策」または「季節の歌」として紹介するにとどまっています。しかしこの歌が持つ最大の価値は、子どもの「感じる力」を育てる詩的な構造にあります。これはあまり語られていない視点です。
まど・みちおの歌詞には、「びわ=やさしい」「びわ=静か」という詩人の主観的な解釈が最初から提示されています。「やさしいから抱っこしあっている」「静かだから日向でぬるんでいる」という、感情と自然現象をつなぐ構造は、子どもが「感じ方には正解がない」ということを直感的に学べる詩として機能しています。
保育士がこの歌を歌う前に「びわってどんな木の実だと思う?」と問いかけるだけで、子どもたちは「やさしいかな」「ふわふわしてる」「あたたかそう」など様々な言葉を出してきます。その答えはすべて正解であり、まど・みちおの歌詞世界とも重なります。感性教育の文脈で使える曲だと気づくと、保育現場での活用の幅が大きく広がるはずです。
また、2番の歌詞に登場する「やぎのお乳」は現代の子どもには非常に縁遠い比較対象です。しかしこのような「知らないもの」が歌詞に登場すること自体が、子どもの興味を引き出す入り口になります。「やぎのミルクって飲んだことある?」「どんな味だと思う?」という対話が生まれれば、それは立派な言語活動です。歌詞を「わからないからスキップ」するのではなく、「わからないから話し合おう」と使う発想の転換が、保育の質を高めます。
歌詞を深く読み込むほど、子どもへの届け方が豊かになります。そのためにも、まず保育士自身がびわの果物に触れ、歌詞のイメージを体感しておくことが最も効果的な準備となります。


