バルトーク ルーマニア民族舞曲を解説・保育現場での活用まで
この曲、「ルーマニアの民謡」と思っていたら、実は採集当時ハンガリー領だった土地の音楽です。
バルトーク「ルーマニア民族舞曲」の成り立ちと作曲背景
「ルーマニア民族舞曲」は、1915年にベーラ・バルトーク(1881〜1945年)が作曲した全6曲のピアノ組曲です。 バルトークは作曲家であると同時に民俗音楽研究家でもあり、1909年から1912年にかけてトランシルヴァニア各地を自ら歩いて民謡を録音・採譜しました。 その現地調査で得た旋律をもとに、本作は生まれています。enc.piano.or+1
作曲当時、トランシルヴァニアはハンガリー王国の一部でした。 そのため、この曲の元タイトルは「ハンガリー領内のルーマニア民俗舞曲」とされていたほどです。 つまり「ルーマニア」という国名がついていても、採集地はハンガリー王国領内だったということですね。
1915年はバルトーク34歳のときで、彼の作曲活動において「ルーマニア音楽の年」と呼ばれる時期です。 この年に「ソナチネ」「ルーマニアのクリスマスの歌」なども同時期に完成しており、まさにルーマニア民俗音楽への集中的な研究成果が結実した年でした。 全曲演奏しても約4分半〜5分ほどという短さですが、その密度はひとつの大きな物語を持っています。kennyaku-comp+1
バルトークはルーマニアの民俗音楽がハンガリーのものよりもはるかに多様性に富んでいることに気づき、繰り返しトランシルヴァニアを訪れました。 様々な地元の楽器(バイオリン、農民の笛、バグパイプなど)の組み合わせが、彼に20世紀の芸術音楽への新しい刺激を与えたと言われています。 バルトーク自身の録音は4分47秒ですが、彼が示した指示上の演奏時間は4分15秒と記録されています。kanonkobayashi+1
参考:ピティナ・ピアノ事典「ルーマニア民俗舞曲 BB 68 Sz 56」(作曲背景・楽章解説)
ルーマニア民俗舞曲 BB 68 Sz 56/Román né…
バルトーク ルーマニア民族舞曲の全6曲を1曲ずつ解説
全6曲はすべて「アタッカ(切れ目なく続けて)」で演奏されるのが基本です。 それぞれに異なる踊りの性格があり、組曲全体でひとつの流れを形成しています。各曲の概要は以下の通りです。
参考)バルトーク / ルーマニア民俗舞曲 – Orchestra …
- 🥢 第1曲「棒踊り(ジョク・ク・バータ)」:アレグロ・モデラート、2拍子。若い男性が棒を持って戦いを模して踊る舞曲。力強いリズムと素朴な旋律が特徴で、2人のジプシーのヴァイオリニストの演奏を録音した音源が元になっています。
- 🎀 第2曲「腰帯踊り(ブラウル)」:アレグロ、2拍子。トロンタール県に伝わる飾り帯をつけた踊り。農民のフルート演奏が原曲で、民族的な音階の流れが印象的です。
- 👣 第3曲「足踏みの踊り(ペ・ロック)」:アンダンテ、2拍子。農民の笛の演奏を元にしており、増二度が特徴的な旋律で独特のおどろおどろしい暗い雰囲気を持つ。
- 🎺 第4曲「角笛の踊り(プチュメアーナ)」:モデラート、3拍子。「ブチウム」という地名に由来する踊り。非対称のブルガリアン・リズムが用いられていますが、楽譜上は4分の3拍子として記されています。
- 💃 第5曲「ルーマニア風ポルカ(ポアルカ・ロマネアスカ)」:アレグロ、2拍子と3拍子が交互に現れる複合リズム。ポルカはもともとボヘミア地方の舞曲ですが、この曲では情熱的で野性味豊かな仕上がりになっています。
- 🏃 第6曲「速い踊り(マヌンツェル)」:アレグロ・ピュウ・アレグロ、2拍子。ビーハル県で採取した2種の舞曲をつないだ曲。後半はテンポ・リズム・ダイナミクスすべてが盛り上がり、華やかに締めくくられます。
各曲はどれも短く、全体でも5分程度でまとまります。 これだけ短い中に、6種類の異なる踊りの個性が詰まっているのがこの曲の醍醐味です。つまり「コンパクトな名曲集」と覚えておけばOKです。
参考)ルーマニア民俗舞曲 BB 68 Sz 56/Román né…
参考:小林香音公式サイト「バルトーク『ルーマニア民俗舞曲』」(各曲の奏法・表現解説)

バルトーク ルーマニア民族舞曲の難易度と練習のポイント
全体の難易度はブルグミュラー25番修了〜ソナタレベルと幅が広く、全音ピアノピースでは難易度「C(中級)」に分類されています。 ツェルニー30番程度から挑戦可能という見方もあり、第1曲「棒踊り」は比較的入りやすい曲です。 ただし6曲すべてを通して演奏するとなると、集中力の持続という点でソナタレベルの体力が必要になります。seven-knives+1
各曲の難易度を★5段階でまとめると下表の通りです。
参考)バルトーク「ルーマニア民族舞曲」の難易度を実体験をもとに解説…
| 曲名 | 難易度 | 技術的なポイント |
|---|---|---|
| 第1曲 棒踊り | ★★☆☆☆ | 左手和音の力強さとスタッカートの歯切れ |
| 第2曲 飾り帯の踊り | ★★★☆☆ | 右手の軽快な指の動き・装飾音符の処理 |
| 第3曲 足踏み踊り | ★★★★☆ | 重音・和音のコントロール、深いペダリング |
| 第4曲 角笛の踊り | ★★★☆☆ | 右手の歌うようなレガート、テンポ・ルバート |
| 第5曲 ルーマニア風ポルカ | ★★★★☆ | 速いパッセージと左手の素早い和音移動 |
| 第6曲 速い踊り | ★★★★★ | 高速での打鍵精度・指の独立性 |
バルトーク特有の不協和音や非対称リズムに最初は戸惑うかもしれません。 しかし、まずは名演CDやYouTubeで音をたくさん聴いてから譜読みを始めるのが、最も効率的な近道です。 民族リズムは耳から体に入れるのが原則です。
楽譜選びでは、パップ晶子氏校訂版(全音楽譜出版社)が、現地留学経験に基づく研究と丁寧な運指解説を備えており、学習者向けに信頼性が高いとされています。 無料で試したい場合はIMSLPからパブリックドメインの楽譜をダウンロードすることもできますが、版によって運指や記号が異なる点に注意が必要です。kennyaku-comp+1
参考:バルトーク「ルーマニア民族舞曲」難易度解説(実体験ベース・全曲詳細)
バルトーク「ルーマニア民族舞曲」の難易度を実体験をもとに解説…
バルトーク ルーマニア民族舞曲の保育現場でのリズム遊び活用法
保育士がこの曲を現場で活用する際、「ピアノ演奏曲」としてだけでなく「リズム体験の素材」として使うと子どもたちの反応が大きく変わります。 第1曲「棒踊り」はリズムが明確で2拍子のため、手を叩いたり体を動かしたりする身体表現活動に向いています。 これは使えそうです。pianoconsul+1
たとえば第1曲を保育士がピアノで弾きながら、子どもたちに「棒を持って踊る動き(エア棒)」をさせると、曲の世界観が直感的に伝わります。バルトーク自身が「ピアノを学ぶ子供たちに民謡の美しさを伝えるために書いた」と述べているように、民俗音楽は子どもへの教育と相性が良い素材です。
第4曲「角笛の踊り」はゆったりしたテンポで哀愁のある旋律が特徴です。 静かな朝の活動や絵本の読み聞かせのBGMとして使うと、落ち着いた雰囲気を作りやすい場面があります。一方、第6曲「速い踊り」は運動会や発表会の入退場BGMとして使うと、他の園と差別化できる個性的な選曲になります。
バルトークの「子供のために」という曲集はハンガリー民謡を素材にした教育的ピアノ作品で、保育士の弾き歌い・演奏教材としても活用されています。 「ルーマニア民族舞曲」と合わせて学ぶことで、民族音楽に根差した「バルトーク的な音楽観」が自然と身につきます。民俗音楽に由来するリズムの多様さを体感できる、という点がこの曲の大きな教育的メリットです。
参考)バルトークの作品を演奏、指導するならこの一冊「バルトークの民…
参考:ピアノコンサル「指導するならこの一冊:バルトークの民俗音楽の世界〜子供のために」
バルトークの作品を演奏、指導するならこの一冊「バルトークの民…
バルトーク ルーマニア民族舞曲が持つ独自の音楽構造と保育士が知っておくべき視点
この曲には「ブルガリアン・リズム」と呼ばれる非対称拍子が使われています。 第4曲では16分音符による4+3+3という不均等な拍子が用いられており、西洋音楽の「1、2、3」と均等に刻む拍子感とは根本的に異なります。 意外ですね。
この非対称リズムは、実はコダーイ・メソッドを通じて日本の音楽教育にも間接的に影響を与えています。コダーイ(バルトークと同時代のハンガリーの作曲家・教育家)の手法は現在でも世界中の幼児音楽教育に取り入れられており、「うたとリズムで音楽の基礎を作る」という考え方は保育現場とも親和性が高いです。バルトークとコダーイはともに民俗音楽採集を共同で行った仲間でもあります。
参考)https://tokyo-ondai.repo.nii.ac.jp/record/1359/files/46_chin.pdf
バルトークが1915年以前に収集した民謡の録音は、現在でも民族音楽研究の第一級資料として評価されています。 当時は蝋管式蓄音機を使って録音しており、現代の観点から見ると驚くほど原始的な環境での採集でした。 結論は「保育の音楽活動の背景には、100年以上前のフィールドワークがある」ということです。wikipedia+1
保育士として「なぜこの曲が異国風に聴こえるのか」という問いに答えられると、音楽活動の説明力が一段上がります。増二度(通常の全音より半音広い音程)を含む旋律や不協和な和声は、バルトーク独自の工夫ではなく、元の民謡がそういう音階を持っていたからです。 子どもへの説明のためにも、こうした背景知識を持っておくと活動の幅が広がります。民族音楽の「生の音」をピアノに乗せたのがこの曲の本質です。
参考:orchestra canvas tokyo「バルトーク / ルーマニア民俗舞曲」(管弦楽版の詳細な楽曲解説)
バルトーク / ルーマニア民俗舞曲 – Orchestra …

(1402)バルトーク ルーマニア民族舞曲 (原典版/ヘンレ社) / ヘンレー

