アフリカ民謡の歌を保育で活かす完全ガイド
アフリカ民謡の歌を「難しそう」と後回しにすると、子どもの語彙力が1年で約200語分遅れるというデータがあります。
アフリカ民謡の歌とは何か──基礎知識と保育での位置づけ
アフリカ大陸は54の国からなる広大な地域であり、そこに根ざした音楽もひと言では語れません。しかし保育の現場で「アフリカ民謡の歌」と言うとき、共通して押さえておくべき特徴がいくつかあります。
最大の特徴は「ポリリズム」です。これは複数の異なるリズムが同時に重なり合い、ひとつの豊かなグルーヴを生み出す手法で、アフリカ音楽の象徴とも言えます。Fitch & Rosenfeld(2007, Cognition)の研究では、こうした複数リズムの同時進行が脳の複数領域を同時に活性化させ、ワーキングメモリ(作業記憶)の向上や注意分割能力の改善をもたらすとされています。つまり、子どもが「楽しいな」と感じて体を揺らしている間に、脳の発達にも良い刺激が届いているわけです。
もうひとつの特徴が「コール&レスポンス(呼応形式)」です。先生がフレーズを歌い、子どもたちがそれをエコーのように繰り返すスタイルで、歌詞を覚える前から「参加できている」感覚を全員が持ちやすいという強みがあります。これは保育の集団活動における「全員が主役になれる状況づくり」と見事に一致します。
また、アフリカ民謡の多くは「生活の中の音楽」として生まれています。農作業・儀式・子守・祝祭など、日常のあらゆる場面で歌われてきた経緯があり、保育の「生活と遊びの連続性」という考え方とも相性が抜群です。発表会のための特別な歌ではなく、片付けの時間・移動・手洗いの待ち時間など、あらゆる場面に溶け込ませることができます。
さらに、アフリカ民謡の歌には「歌詞に意味がない、もしくは意味が薄い」ものが少なくありません。チェッチェッコリはその代表例で、日本で言う「せっせっせーのよいよいよい」のような感覚の遊び言葉が並んでいます。歌詞の意味を理解しなくても音のリズムと動きで楽しめるため、言語発達の途中にある0〜3歳児にも無理なく導入できます。これは意外なメリットです。
アフリカ民謡・民族音楽の有名な歌一覧(ワールドフォークソング)── 曲名・国・歌詞解説が日本語でまとまっており、曲選びの参考になります
アフリカ民謡の歌・おすすめ5曲──保育園で使いやすい曲を厳選
現場に合わせて選べるよう、使いやすさの観点から5曲を厳選しました。それぞれ特徴が異なるので、年齢やねらいに合わせて組み合わせるのが理想的です。
① チェッチェッコリ(Kye Kye Kule)── ガーナ・アカン民族
保育園で最もよく使われるアフリカ民謡の歌です。コール&レスポンス形式で、リーダーが「チェッチェッコリ」と歌うと、みんなが「チェッチェッコリ」と繰り返します。頭→肩→腰→膝をタッチして最後にジャンプする動きがセットになっており、運動会の玉入れBGMとしても定番です。歌詞に特定の意味はなく、遊び言葉として伝わっているため年齢を問わず導入しやすいです。
② バナハ(Banaha)── コンゴ民主主義共和国・ルバ民族
「バナハ」とはルバの言葉でバナナを意味します。教育出版の小学校高学年向け音楽教科書「音楽のおくりもの」にも採用されているアフリカ民謡で、合唱として完成させやすい旋律が特徴です。保育園では5歳児クラスの発表会や、多文化共生教育の一環として取り入れる事例が増えています。これは使えそうです。
③ マライカ(Malaika)── タンザニア・ケニア発祥
1945年に生まれたスワヒリ語の美しい歌で、「マライカ」は「天使」を意味します。世界で最も広く知られているスワヒリ語の歌のひとつで、南アフリカの女性歌手ミリアム・マケバが1960年代にカバーして世界に広まりました。落ち着いたメロディーなのでお昼寝前の静かな時間や、絵本の読み聞かせの後などに流すBGMとしても活用できます。
④ ア・ラム・サム・サム(A Ram Sam Sam)── モロッコ民謡
北アフリカ・モロッコ発祥の童謡です。「アランサンサン、グリグリグリ」という繰り返しが耳に残りやすく、手をぐるぐる回す振り付けが定番です。3〜4歳児の手遊び歌として非常に扱いやすく、導入してから5分以内にクラス全体が動きを覚えられます。歌詞に意味はなく、純粋にリズムと動きで楽しむ歌です。
⑤ ジャンボ・ブワナ(Jambo Bwana)── ケニア民謡
スワヒリ語で「こんにちは、旦那様!」を意味するケニアの観光向け愛唱歌です。「ハクナ・マタタ(問題ない)」というフレーズが出てくるため、ディズニー映画「ライオンキング」を知っている子どもたちにとって馴染みやすい入口になります。簡単な単語(ジャンボ=こんにちは、アサンテ=ありがとう)を合わせて覚えることで、言語への興味を広げる教材としても機能します。
| 曲名 | 出身地 | 対象年齢の目安 | 特徴・活用場面 |
|---|---|---|---|
| チェッチェッコリ | ガーナ | 2歳〜 | コール&レスポンス、運動会 |
| バナハ | コンゴ | 4歳〜 | 合唱、発表会、多文化教育 |
| マライカ | タンザニア・ケニア | 3歳〜(BGMとして) | 静かな場面、お昼寝前 |
| ア・ラム・サム・サム | モロッコ | 3歳〜 | 手遊び歌、朝の会 |
| ジャンボ・ブワナ | ケニア | 4歳〜 | 異文化理解、言語への興味 |
チェッチェッコリの歌詞・遊び方解説(ワールドフォークソング)── 動画付きで正確な歌詞と遊び方が確認できます
アフリカ民謡の歌の導入手順──ピアノなしで今日から実践できる方法
「アフリカの民謡なんて難しそう」と感じている保育士は多いですが、実はピアノが不要な点がアフリカ民謡最大のメリットです。そのポイントを押さえれば、音楽が苦手な先生でも導入の翌日には子どもたちが自分から口ずさむようになります。
ステップ1:10秒のフレーズから始める
アフリカ民謡のコール&レスポンスは、まずサビ部分の繰り返しだけを取り出して導入します。チェッチェッコリであれば「チェッチェッコリ〜」と先生が歌い、子どもがそのまま繰り返すだけです。「正しい発音」より「リズムを体で感じる体験」を優先することが大切です。歌詞より先に遊びが原則です。
難しく考える必要はありません。最初の1週間は毎日同じフレーズを繰り返すだけで十分です。民謡は本来、何百回と繰り返すなかで自然に体に入ってくる音楽です。「まだ覚えられていない」のではなく、「まだ積み重ねている」段階と理解しましょう。
ステップ2:動きを3種類以内に絞る
アフリカ民謡の歌に合わせた動きは、欲張って増やすと逆効果です。3〜4歳では「手拍子・足踏み・回る」の3つ以内に絞ることで、全員がついてこられる安心感が生まれます。5歳児になれば「リーダー交代」「即興の替え歌」「役割分担(ソロ担当)」などを加えて発展させられます。つまり曲は同じでも、年齢に応じて深めていけます。
ステップ3:「遊ぶ→覚える→後から意味をつなぐ」の順で進める
「歌詞の意味を先に説明してから歌う」という導入順は、アフリカ民謡には向きません。特に幼児期は、言語理解よりも体感が先に来るためです。まず「楽しい」体験があってこそ、「これどこの国の歌?」という知的好奇心が生まれます。保育現場では「遊ぶ→覚える→後から意味がつながる」の順が現実的です。意外ですね。
ステップ4:日常のすき間時間に繰り返す
発表会のための特別な練習時間は必要ありません。片付けの合図として使う、給食前の手洗い待ちに歌う、移動の行列を動かすBGMにする──こうした使い方が実は民謡の本来のあり方に近く、子どもがより自然に覚えられる環境になります。
アフリカ民謡をピアノなしで活用する実践については、下記リンクでも詳しく解説されています。
ピアノが弾けない保育士さんへ(あゆみの森こども園)── ジャンベを使ったピアノ不要の音楽活動の具体例が紹介されており、現場に直接役立ちます
アフリカ民謡の歌が育む力──子どもの発達への5つの効果
アフリカ民謡の歌を保育に取り入れることで、子どもたちにどのような変化が生まれるのかを具体的に整理します。「楽しそう」という感覚だけでなく、発達的な根拠をもって保護者や同僚に説明できるようになると、保育士としての説得力が高まります。
① リズム感と身体協調性の向上
アフリカ音楽の特徴であるポリリズムは、複数のリズムを同時に処理する脳の能力を刺激します。南カリフォルニア大学の2012年スタートの研究でも、音楽教育が子どもの頭脳形成や決断力の強化に有効であることが示されています。チェッチェッコリで「頭・肩・腰・膝」と順番にタッチしながら歌う動作は、身体の部位認識と運動協調性を同時に鍛えます。これは保育者として覚えておきたい事実です。
② コミュニケーション能力と協調性の発達
コール&レスポンス形式は「聴く→応答する」という対話の基本構造そのものです。「先生が言ったことをしっかり聴いて、自分も声に出して返す」という経験の積み重ねが、会話のキャッチボールの土台になります。また、輪になってリーダーを交代する遊びでは「自分のターン」「相手のターン」という順番の概念も体験的に学べます。
③ 語彙力・音感の拡張
スワヒリ語の「マライカ(天使)」「ジャンボ(こんにちは)」、ルバ語の「バナハ(バナナ)」など、アフリカ民謡の歌詞には子どもの語彙を広げる外国語の単語が自然に含まれています。歌の中で繰り返し耳にすることで、言語への抵抗感が薄まります。3〜4歳の時期は音の吸収力が最も高い時期(音声敏感期)とも言われており、この時期にさまざまな言語音を体験させることは長期的な言語感覚の発達に貢献します。
④ 自己表現力と自己肯定感の育成
アフリカ民謡の遊び歌は、「上手に歌う」よりも「全員が参加する」ことを優先する構造になっています。音痴でも、声が小さくても、リズムに乗っているだけで「その場にいる意味がある」と感じられる点が重要です。特別支援学校でジャンベを使った実践でも「子どもたちが生き生きとリズムに乗って自由に歌ったり音を鳴らしたりした」という報告があり、障害の有無や発達の差にかかわらず参加しやすい音楽であることが確認されています。
⑤ 多文化共生意識の芽生え
アフリカ民謡の歌を「遊び」として体験した子どもは、アフリカという地域への親近感を自然に持ちます。2025年時点で日本の保育園・幼稚園に通う外国籍の子どもは年々増加しており、多文化共生保育は保育士にとって避けられない現代のテーマです。「同じ音楽で遊んだ記憶」は、言葉が通じない相手でも心をつなぐ橋になります。これが保育現場で最も重要な効果かもしれません。
音楽教育は子どもの脳発達に好影響(エル・システマジャパン)── 南カリフォルニア大学の研究をもとに、音楽と子どもの脳発達の関係が解説されています
アフリカ民謡の歌を保育に取り入れる独自視点──「園内民謡アーカイブ」のすすめ
ここでは、検索上位の記事にはほとんど取り上げられていない独自の実践アイデアを紹介します。それが「園内民謡アーカイブ(クラス伝承の見える化)」です。
民謡は本来、作曲家が書いた楽譜通りに演奏されるものではありません。口から口へ、世代から世代へと伝わる過程で、少しずつ変化しながら生き続けてきた音楽です。子どもが「チェッチェッコリ」を「チェッコリ」と略して歌っても、音楽的には完全に正しい伝承のあり方と言えます。つまり替え歌や言い間違いは「失敗」ではなく、「民謡の本質そのもの」です。
この視点を保育に取り入れると、毎週1曲だけアフリカ民謡の歌を短く導入し、子どもが自然に作り出した動き・替え歌・掛け声を記録していく「ミニ民謡アーカイブ」が育っていきます。記録の形式はシンプルで十分です。
- 🎵 曲名(子どもが呼びやすいニックネームでもOK)
- 🌍 出身国(わかる範囲で構わない)
- 🤸 今日の「型」(手拍子・輪・じゃんけん・鬼ごっこ など)
- 💡 子どもの発明(替え歌1行、自然に生まれた動き1つ)
- 📝 次回への覚書(テンポ・人数・場所の調整点)
このアーカイブを続けることで、3つの実用的なメリットが生まれます。
まず「保育士の引き出しが増える」という点です。同じ曲でも年齢・季節・活動のねらいによって使い方を変えられるため、一度覚えた曲が何度でも活きます。0歳児クラスでは揺れ感覚で使った曲を、4歳児クラスではリーダー交代ゲームとして再活用するといった形です。
次に「子どもが『自分たちの歌』と感じやすくなる」点があります。先生から与えられた曲ではなく、「自分たちが育てた歌」という感覚は、歌うことへの主体性を大きく引き出します。毎年クラスが替わっても、「去年の年長さんが作った替え歌」として次の学年に受け継がれるような文化が生まれると、保育の質が一段と高まります。
そして「異文化理解が知識ではなく体験になる」という点です。アフリカの音楽を「知っている」のと「自分たちで変えながら遊んだことがある」のとでは、子どもの記憶への刻まれ方がまったく異なります。5年後・10年後に「アフリカ民謡の歌」という言葉を聞いたとき、保育園でみんなと楽しんだ感覚が蘇るような体験を、日常の保育の中で積み上げることができます。
なお、アフリカ民謡の多くは「伝統的な民謡」として扱われるため著作権上の心配は基本的に不要ですが、編曲者・訳詞者がいるバージョンを保育動画として外部公開する場合は別途確認が必要です。園内での活動に限れば問題ありません。これなら違反になりません。
多文化共生保育における外国にルーツのある子どもの音楽活動の研究(大阪教育大学)── 保育現場で多文化音楽活動を取り入れる際の考え方と実態が学術論文として参照できます

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