考える力と保育と遊びと歌

考える力と保育と遊び

この記事でわかること
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歌を「覚える活動」から「考える遊び」に変える

繰り返し・間・ルールの少しの改変で、子どもが予想・選択・工夫する場面を増やします。

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環境構成と声かけで考える力を伸ばす

素材・空間・時間の「余白」を用意し、子どものひらめきを拾って遊びを深めます。

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保育の現場で使える観察と記録

“できた/できない”ではなく、試行錯誤・対話・見通しの芽を見取るチェック観点を提示します。

考える力の保育で遊び歌を選ぶ

 

保育園の歌(遊び歌・手遊び歌・わらべうた)は、「歌って終わり」でも成立しますが、少しの設計で“考える遊び”に変わります。ポイントは、子どもが自分の頭で「次はこうなる」「こうしたら面白い」「どっちだろう」を扱う瞬間を、歌の中に仕込むことです。たとえば、繰り返しが多いわらべうたは、同じフレーズの反復が子どもに予測を作りやすく、予測が作れるからこそ「わざと外す」「変えてみる」という工夫が生まれます(わらべうたは繰り返しが多いこと、発達に意義があることが論じられています)。

また、歌遊びは身体の動きと結びつくので、考える力が「言葉だけ」になりません。子どもが身体で試し、うまくいかないときに調整し、もう一回やり直す──この循環が、幼児期の思考の土台です。国立大学附属幼稚園部会の資料でも、遊びが充実する過程には「試行錯誤」「見通しをもって確かめる」ことが含まれると述べられており、歌遊びもその対象になり得ます。

ここで大事なのは、歌の“難易度”よりも“余白”です。歌詞が長い、振り付けが複雑、ということが考える力につながるわけではありません。むしろ短く単純な歌ほど、子どもが自分で変えたり増やしたりできる余地があります。保育者が「正解の形」を固定しすぎず、子どもがいじれる部分を残すことが、考える力の保育に向きます。

参考)わらべうた遊びで楽しく遊ぼう!子どもが大好きなおすすめわらべ…

考える力の保育で手遊びのルールを変える

「ルールを少し変える」だけで、手遊びは思考の遊びに化けます。特に有効なのが、わらべうた系の“当てる・隠す・だます”要素です。研究論文のエピソードでは、子どもが『おてぶしてぶし』の遊びの後半で「何も握らない」ルール改変を思いつき、相手の予想を先読みしたり裏切ったりする姿が、年中児の思考力の発達として示されています。

この「何も握らない」は、現場で再現しやすい上に、ねらいが非常に深いです。

表面的には“ずる”に見えますが、内側では次のような認知が動いています。

  • 相手の視点に立って予測する(相手はどっちを指すだろう)。
  • 自分の行動で相手の予測をコントロールする(わざと裏切る)。
  • ルールの境界を試す(それってアリ?ナシ?)。

保育者の援助は、結論を急がないことがコツです。すぐに「それはダメ」「それはズル」と断定すると、子どもは“ルールを考える”前に“叱られない行動”へ収束します。まずは「今、何が起きた?」をみんなで言葉にして、ルールを再定義する機会に変える。こうした“遊びの憲法会議”が、考える力の保育として強い時間になります。​
さらに、手遊びを「お題」で変形させる方法もあります。たとえば同じ手遊び歌でも、「次は動物の動きを真似してみよう」「ゆっくりの船にしてみよう」など、イメージやテンポを変える提案によって、子どもが自分で表現を選び直す場面が生まれます。論文でも、5歳児がわらべうたのテンポや強弱を子どもたち自身で調整し、イメージに合わせて発展させる姿が述べられています。​

考える力の保育で環境構成を工夫する

歌遊びで「考える力」を引き出すには、活動の進め方だけでなく、環境構成(空間・素材・時間・人の配置)が効きます。国立大学附属幼稚園部会の資料では、子どもが安心して「やってみたい」と思える出会いがあり、夢中になって繰り返し遊び込む中で、気づきや課題意識が生まれ、「もっと」と試したり確かめたりする過程を経験することが重要だと説明されています。

歌に関して言えば、次の3つの環境が“考える遊び”を生みやすいです。

  • 素材の環境:歌の世界を「見立て」できる物(布、筒、スカーフ、カード)を手の届く場所に置く。
  • 空間の環境:輪になれる場所/少人数でこもれる場所/動きが出せる場所を分けておく(遊びの切り替えがスムーズ)。
  • 時間の環境:短時間で切り上げず、同じ歌で“試行錯誤の2周目”ができる余裕を確保する。

意外に見落とされがちなのは「素材の多様さ=考える力」ではない点です。素材が多すぎると選択に疲れ、遊びが散ります。奈良教育大学附属幼稚園の事例紹介では、子どもの“トキメキ”を読み取り、それに合わせて遊びの場や用具を出していくことで、トキメキが深まり新たな気づきにつながる、と整理されています。

つまり、全部を最初から並べるのではなく、子どもの反応を見ながら“追加する環境”が、考える力の保育に向きます。

また、保育者側の環境として、写真・エピソード・マップなどの記録と共有が挙げられています。資料では、記録の工夫と対話を通じた共通理解が、環境の改善につながると述べています。

歌遊びも同じで、「うまく歌えた」より「どこで子どもの工夫が出たか」を記録するほうが、次の環境構成の精度が上がります。

環境構成の参考(環境を通して行う教育・環境構成の具体事例・記録方法の考え方):

全国国立大学附属学校連盟幼稚園部会「遊びを充実させる 環境構成の工夫」(PDF)

考える力の保育でわらべうたの意外な情報を活かす

検索上位では「おすすめ曲まとめ」になりやすい一方で、現場に効く“意外な視点”は、わらべうたを「文化」「伝承」「三つの間(時間・空間・仲間)」の不足を補う仕組みとして捉えることです。研究論文では、社会の変化の中で子どもの遊びに必要な時間や空間・仲間の「三つの間」が失われ、わらべうたの伝承が難しくなっている一方、幼稚園や保育園がそれを補完する可能性を持つ、と述べられています。

この観点に立つと、歌遊びは「保育者が提供するコンテンツ」ではなく、「園という場の文化装置」として意味が変わります。例えば、次のような設計が“考える力”に直結します。

  • 時間:毎日どこかで短く歌う(記憶の積み重ねが起点になり、子どもが自発的に始めやすい)。
  • 空間:歌が自然発生していい場所を作る(絵本コーナーのように“歌コーナー”を固定しなくてもよい)。
  • 仲間:異年齢で歌が回る仕掛けを作る(年長が年少に教えると、ルール説明や調整が思考の訓練になる)。

さらに「歌=指示の道具」にしすぎない点も重要です。論文では、わらべうたを用いることで、指示ではなく音楽を介した保育につながる可能性が示唆されています。​
この視点を持つと、活動の切り替え(移動・整列・片付け)も、単なる統制ではなく、子ども自身がテンポや拍を感じて行動を整える“自己調整”の練習になります。​
最後に、わらべうたは「1曲を何通りにも遊べる」ことが特徴として述べられており、遊び方のレパートリーが広いほど保育者の強みになる、という指摘があります。​

つまり、ネタ数を増やすより、同じ歌で「ルール変更」「お題変更」「素材変更」「人数変更」を回していくほうが、考える力の保育として深くなります。

わらべうたの研究的背景(保育での意義、年齢別エピソード、思考力が表れるルール改変の具体例):

山口学芸研究「保育におけるわらべうたあそびの有用性」(PDF)

東大物理学者が教える「考える力」の鍛え方