障がいと保育の支援
障がい 保育 支援の受入れの基本と指導計画
保育所の現場で「障がいのある子どもの受入れ」を考えるとき、出発点は“特別扱い”ではなく、保育の基本原則に立ち返ることです。保育所保育指針は、保育所が「子どもの最善の利益」を考慮した生活の場であること、そして家庭との連携の下で養護と教育を一体的に行うことを示しています。さらに、障害のある子どもの保育は、子どもの発達過程や障害の状態を把握し、適切な環境の下で「他の子どもとの生活を通して共に成長できるよう」指導計画に位置付けること、家庭や関係機関と連携した支援のための計画を個別に作成することが求められています。
ここが重要なのは、「配慮=その子だけの対応」ではなく、指導計画に位置付けて“保育の中で実装する”という発想です。つまり、担任の頑張りや当日の機転に依存しすぎると、支援が再現できず、引継ぎのたびに子どもが苦しくなります。そこで、園全体で共有できる形に落とし込む必要があります。
実務に落とし込むための観点(チェックリスト)を整理します。
・観察(把握)
😊 どの場面で困りやすいか(登園、自由遊び、集団活動、移行、食事、排泄、午睡、降園)
😊 困りの“前兆”は何か(音、光、人の密度、見通しのなさ、指示の抽象度など)
😊 得意・好き・安心材料は何か(場所、物、歌、ルーティン、特定の大人など)
・目標(ねらい)
🎯 「できるようにする」だけでなく「安心して過ごす」「参加の形を増やす」「成功体験を積む」を含める
🎯 1日の中で最も重要な2〜3場面に絞って設定する(目標の立てすぎは失敗のもと)
・環境(仕組み)
🧱 視覚支援(絵カード、順番カード、活動の終わりが分かる合図)
🧱 場の支援(静かなコーナー、待てる場所、切替のための退避ルート)
🧱 人の支援(声かけの文言統一、合図の統一、代替手段の用意)
・評価(見直し)
📌 「できた/できない」ではなく「負担が減ったか」「回復が早くなったか」「トラブルが減ったか」で見る
📌 記録は“文章で頑張る”より、短い定型+数値(回数、時間、発生場面)を混ぜると継続しやすい
保育所保育指針が示す「指導計画に位置付ける」「家庭や関係機関と連携した支援のための計画を個別に作成する」という要請は、まさにこの“仕組み化”を後押しするものです。園内での合意形成が難しいときも、「指針に沿った運用」として説明しやすくなります。
(参考リンク:保育所保育指針の原文。障がいのある子どもの保育を指導計画に位置付け、家庭や関係機関と連携した個別の計画を作成する旨が記載されています。)
https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00010450&dataType=0&pageNo=1
障がい 保育 支援の合理的配慮と環境
支援の設計でよく起きる失敗は、「本人に頑張らせる」「周囲に我慢させる」の二択に落ちてしまうことです。そこで鍵になるのが“環境を変える”という発想です。保育所保育指針も、子どもが安心して活動できるよう環境を整えること、生活のリズムや個人差に配慮することを繰り返し示しています。
合理的配慮という言葉は教育・福祉領域で広く使われますが、保育の現場では「その子が園生活の中で力を発揮するために必要な変更・調整」と捉えると扱いやすくなります。ポイントは“特別な訓練”ではなく、日々の生活の中のつまずきを減らす微調整を積み上げることです。
保育園で使いやすい合理的配慮(環境調整)の例を、歌・集団・生活に寄せて具体化します。
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見通しを作る(不安を減らす)
・活動の順番を掲示(写真・絵)
・「あと◯回」「終わったら◯◯」の予告
・歌で合図を固定化(片付けの歌、手洗いの歌など)
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感覚の負担を下げる(集中を上げる)
・スピーカーの近くを避ける、音量を調整する
・手拍子の大きさを抑える(“静かな手拍子”を全体ルールにする)
・蛍光灯のちらつきや直射日光が強い場所を避ける座席配置
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参加の形を増やす(排除を防ぐ)
・「歌わない参加」もOKにする(鈴だけ鳴らす、口パク、座って聴く)
・輪に入らない参加(半歩外側の椅子、保育者の隣)
・集団に入る時間を短くして成功体験を作る(最初は1曲だけ、など)
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コミュニケーションの誤解を減らす(トラブル予防)
・指示を短く具体に(「静かに」→「口は閉じて、手は膝」)
・否定形を減らし、代わりの行動を提示(「走らない」→「歩く」)
・選択肢を2つに絞る(多いほど混乱しやすい)
意外と見落とされがちなのが、「配慮は本人のためだけでなく、クラス全体の運営コストを下げる」という点です。たとえば“見通しの掲示”や“合図の歌の統一”は、障がいのある子どもだけでなく、年齢の小さい子や初めて登園した子にも効きます。結果として、保育者の声かけ回数が減り、集団の安全性も上がりやすくなります。
障がい 保育 支援の歌とコミュニケーション
保育園の歌は、行事のための“完成度”を目指すと苦しさが出やすい一方で、日常支援の“道具”として使うと強力です。保育所保育指針でも、乳児期からの「歌いかけ」や、音楽・リズムに合わせた身体の動きなど、表現領域の中で歌が日常に溶け込む形で示されています。つまり、歌は特別活動ではなく、生活と遊びの延長で扱ってよいものです。
支援として歌を使うときのコツは、「歌=参加」ではなく「歌=合図・予告・共有」を中心に置くことです。
歌が支援になる具体パターン
🎵 予告としての歌
・次の活動に入る前に同じ短いフレーズを入れる(切替が苦手な子に効く)
・例:「いまからトイレ、いまからトイレ」など、メロディは固定で短く
🎵 手順提示としての歌
・手洗い、着替え、片付けなど、手順を歌詞にする(“覚える努力”を減らす)
・歌詞は短く、繰り返し、動作と同期させる
🎵 安心の足場としての歌
・泣きやすい子、不安が強い子には“いつもの曲”が安全基地になる
・歌が始まると「ここは知っている場面だ」と分かり、回復が早まることがある
🎵 コミュニケーションの補助としての歌
・発語が少ない子でも、リズムや一部のフレーズで参加できる
・“言葉でのやり取り”の前段階として機能する
ここでの注意点もあります。歌が逆効果になる条件も現場には存在します。
注意すべき場面
⚠️ 大音量・速いテンポ・強い手拍子が「感覚過負荷」になりやすい
⚠️ みんなで声をそろえる圧が「できない自分」を突きつけやすい
⚠️ 歌の練習を“正しさ”で詰めると、自己肯定感が削られやすい
回避策は単純で、参加方法を複線化し、成功を定義し直します。
成功の定義を変える例
🌱 「歌える」→「場にいられる」
🌱 「踊れる」→「一部だけ一緒に動ける」
🌱 「大きな声」→「自分の声量で参加できる」
🌱 「みんなと同じ」→「自分の形で同じ時間を共有できる」
歌は“評価”に寄せるほど硬くなり、“生活”に寄せるほど柔らかくなります。障がいのある子どもへの支援を考えるとき、歌を「行事の成果物」から「安心と見通しを作る技術」へ置き換えると、クラス全体の空気が整い、結果として行事の負担も下がることが多いです。
障がい 保育 支援の連携と保護者
支援を安定させる最大の鍵は、家庭と関係機関との連携を“イベント”ではなく“運用”にすることです。保育所保育指針は、障害のある子どもの保育について、家庭や関係機関と連携した支援のための計画を個別に作成するなど、適切な対応を図ることを求めています。つまり、連携は善意ではなく、保育の質を支える基本動作です。
連携がうまくいかない原因は、情報が散らばること、言い方が揺れること、そして“誰が決めるか”が曖昧なことです。そこで、最低限の型を用意します。
連携を回す型(園で共通化しやすい)
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共有(事実)
・園での困りごとは「いつ・どこで・何が起きたか」を短く
・家庭での様子は「睡眠・食事・体調・大きな変化」を固定項目で
・感想や推測は“分けて”書く(混ぜると誤解が生まれる)
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合意(目標)
・短期目標:2〜4週間で変化が見えやすいもの
・長期目標:学期末までに目指す姿
・家庭の優先順位(園より家庭が苦しい場面もある)を尊重する
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役割分担(実装)
・園がやること:環境調整、声かけ統一、記録
・家庭がやること:生活リズム、登園前の準備
・関係機関がやること:助言、評価、支援の組み立て(状況に応じて)
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見直し(更新)
・頻度を決める(例:月1回の短い面談、週1回のメモ共有)
・うまくいった工夫を“再現可能な言葉”で残す
保護者対応で大切なのは、説明の技術です。特に「支援」という言葉は、家庭によって受け止めが違います。「支援が必要=否定」ではなく、「園生活を楽にする調整」と言い換えると合意形成が進みやすい場面があります。
伝え方の工夫(誤解を減らす言い回し例)
・「できていません」→「この場面で負担が大きいようです」
・「問題行動」→「困っているサインが出ています」
・「指示が通らない」→「指示が抽象だと難しいようです」
・「集団に入れない」→「参加の形を調整すると入りやすいです」
そして、連携で“意外に効果が高い”のが、歌や生活のルーティンを家庭と園で近づけることです。家庭で同じ「切替の歌」を使う、園で家庭の“落ち着く歌”を一部取り入れる、といった小さな同期が、子どもの不安を減らしやすいことがあります。専門用語の共有よりも、こうした生活の同期のほうが、実際には動きやすいケースも少なくありません。
障がい 保育 支援の独自視点: 歌で支援の記録
検索上位でよく語られるのは「個別支援計画」「合理的配慮」「連携」ですが、現場で悩みが深いのは“記録が続かない”問題です。記録は支援の土台なのに、忙しい日に限って書けず、結果として支援が属人化しやすくなります。そこで、歌を「支援の実施ログ」として使う、という少し変わった方法を提案します。
やり方は簡単で、歌を“観察ポイントの固定装置”にします。毎日同じタイミングで歌が入る活動は、観察の比較がしやすいからです。
歌を使った記録の設計例(入れ子にしない)
📝 観察タイミングを固定する
・朝の会の歌
・片付けの歌
・手洗いの歌
・帰りの歌
📝 各タイミングで見る項目を3つに絞る
・参加の形(歌う/聴く/道具だけ/離席)
・負担サイン(耳ふさぎ、硬直、逃避、泣き)
・回復(何分で落ち着くか、誰の支援が効くか)
📝 記録は記号+短文にする
・例:「朝の歌:道具参加/耳ふさぎ1回/2分で復帰(椅子+小声)」
・例:「片付けの歌:離席→戻る(予告が効いた)」
この方法のメリットは、支援の効果検証がしやすくなることです。たとえば「音量を下げた日」「座る位置を変えた日」「手拍子を減らした日」など、調整の違いが歌の場面に集約されます。結果として、「何が効いたか」がチームで共有しやすくなり、保護者にも説明しやすくなります。
さらに、歌の場面は“友達の関わり”が自然に生まれやすいのもポイントです。支援は大人が提供するものに見えがちですが、園生活の価値は子ども同士の生活の中にあります。歌の時間に「隣に座る」「一緒に鈴を鳴らす」「小さい声で合わせる」といった自然な関わりが増えると、支援は“特別枠”から“クラスの文化”になっていきます。
最後に、園としてのリスク管理の観点でも、歌の場面の記録は役に立ちます。感覚過負荷で不調になりやすい子にとって、音や人の密度が高い行事は負担が増えやすい一方、日常の歌の場面で傾向が見えていれば、行事前に調整が可能になります。つまり、歌を“毎日の小さなリハーサル”として扱い、支援の精度を上げることができます。


