幼少期 保育 発達
幼少期の保育発達に効く歌のねらい
保育園で「歌をうまく歌えるようにする」こと自体を目標にし始めると、発達の観点では遠回りになりがちです。むしろ歌は、生活の流れの中で子どもの気持ちを整えたり、ことばや身体の使い方を自然に引き出したりする“環境”として機能します。厚生労働省の保育所保育指針では、乳児期の内容として「保育士等のあやし遊びに機嫌よく応じたり、歌やリズムに合わせて手足や体を動かして楽しんだりする」ことが明記されており、歌が発達の土台に関わる活動として位置づいています。
発達の観点での「歌のねらい」は、ざっくり言えば次の4つに整理できます。園内で共通言語にしておくと、選曲会議や指導計画(週案・月案)にも落とし込みやすくなります。
・🎵情緒:安心できる関係の中で気持ちを落ち着ける(切り替え、見通し、安定)
参考)https://shirafuji.ac.jp/shirafuji_gakuin/wp-content/uploads/2023/04/202003sugiyama.pdf
・👐身体:リズムに合わせた動きで、全身・手指・姿勢制御の経験を増やす
・🗣️言葉:歌いかけ・応答で、発語意欲や語彙、聞き取り、やりとりを促す
・👥社会性:一緒に歌う経験で、同時性・順番・合図・協同の感覚を育てる
また、見落とされがちなのが「歌は保育士の観察の窓になる」という点です。たとえば同じ歌でも、
・歌詞より動きに反応する子
・最後のフレーズだけ参加する子
・歌のテンポに身体が先に同期する子
など、反応の出方が違います。これは「できる/できない」ではなく、どこに発達の焦点があるかを示すヒントになります(個別配慮や環境構成の材料になります)。
参考)子どもが歌いたくなる!保育園での歌の教え方。選曲の基準や指導…
幼少期の保育発達とわらべうたの関係
わらべうたは、幼少期の発達に寄り添う“設計思想”をもともと持った歌の集合だと言えます。研究・実践の整理として、わらべうたには「触れ合い」「遊びと一体」「反復」「短いフレーズ」といった特徴があり、子どもの身体的・情緒的・知的な成長を促し得るとまとめられています。
特に乳児期〜1歳台では、歌の価値は「歌詞を覚える」よりも「触れ合いと応答を成立させる」ことにあります。保育所保育指針でも、乳児期の発達の特徴として“特定の大人との応答的な関わりを通じた情緒的な絆”が重要とされ、歌いかけや触れ合いがその文脈で扱われています。
ここを踏まえると、わらべうたや手遊び歌を“発達支援のコア教材”として使う意義がはっきりしてきます。
わらべうたを発達支援として活かすコツは、「上手にやらせる」より「やりとりの質を上げる」ことです。具体的には次のような観点が有効です。
・👐触れ方:くすぐり、ゆらし、なでる等を“予告→実施→止める→待つ”で行い、子どもの反応を待つ(応答性が上がる)
・👀視線:目線を合わせ、子どもの表情変化に合わせて声量・テンポを調整する(情緒の調律になる)
・🔁反復:同じフレーズを繰り返し、子どもが「先が読める」構造をつくる(予測と安心が増える)
(参考リンク:保育所保育指針の「乳児保育」「表現」「言葉」等の根拠条文)
保育所保育指針(厚生労働省告示):乳児保育の内容と「歌・リズム」「表現」「言葉」の位置づけ
幼少期の保育発達を促す歌の選曲基準
選曲はセンスや慣習で決まりがちですが、発達視点で基準を持つと、クラスの実態に合わせて“歌のデザイン”ができます。乳幼児の発達に沿った保育の歌についての整理では、わらべうたの利点として「身体の発育」「情緒(心の安定や豊かさ)」「知的な発達」を促す要素があるとし、さらに乳児期〜幼児期で必要な力(愛着、五感、自己認知、継続力、記憶、空間認知、拍感など)を段階的に整理しています。
実務で使える「選曲のものさし」を、年齢ではなく“育ちの焦点”でまとめます。クラス内の月齢差が大きい時や、発達の凸凹が見える時ほど役立ちます。
【焦点:愛着・情緒】
・子守歌系、ゆったりしたテンポ、繰り返しが多い
・保育者の声が前に出る(伴奏が強すぎない)
【焦点:身体・感覚】
・手足を動かす合図が明確(「トン」「ギュッ」「ひらいて」など)
・1フレーズが短く、動きの切り替えが少ない(乳児は特に)
【焦点:言葉】
・擬音・擬態語や呼びかけが多い(喃語〜初語と相性が良い)
・“最後だけ参加できる”構造(語尾の反復、決め台詞)を持つ歌は導入しやすい
参考)http://himeji-hc.sakura.ne.jp/information/journal_of_studies/41futida.pdf
【焦点:集団・社会性】
・掛け合い、交互唱、順番が含まれる
・「一緒にそろう」より「ずれても参加できる」余地がある(参加ハードルを下げる)
さらに意外と効くのが「出だしの一音目・一語目」です。乳児向け曲集の分析では、出だしの音や言葉が発声しやすい形で設計されていることが多く、園の導入曲を決める際に“入りやすさ”の目安になります。
導入でつまずくと、その曲はクラスの定番になりにくいので、朝や切り替えに使う歌ほど「入りやすさ」を重視すると安定します。
幼少期の保育発達に合わせた歌の実践
「歌の時間」を“活動”として切り出すより、生活場面に埋め込むと発達支援としての効果が出やすくなります。保育所保育指針でも、乳児期は生活や遊びの中での歌いかけ・応答を通じて言葉の理解や発語意欲が育つこと、歌やリズムに合わせて体を動かすことが内容として示されています。
具体的な場面別に、発達の観点での使い方を提案します(園の運用に合わせて取捨選択できます)。
【登園〜朝の会】
・🎵固定の短い歌で“見通し”をつくる(毎日同じ曲でOK)
・🗣️名前呼び歌を入れて、返事が「声」「手」「目線」どれでも参加扱いにする
【片付け・移動】
・テンポ一定の歌を合図にする(言葉の指示より反応が出る子もいる)
・歌の最後に“終わりの合図”を必ず入れ、終結を経験させる(切り替えが安定)
【食事・午睡】
・ゆったりした歌で興奮水準を落とす(声量を下げ、繰り返しを増やす)
・子守歌系は「歌詞」より「同じ声・同じ抑揚」を優先(安心の再現性が高い)
【外遊び・運動遊び】
・拍に合わせて歩く/止まる等の単純なルールを入れ、身体調整と集団同期を経験させる
・「速い遅い」「大きい小さい」など、対概念が入った歌は身体表現と結びつけやすい
また、家庭連携としては「今日歌った曲名」だけを伝えるより、
・どの場面で
・どんなねらいで
・子どもがどう反応したか
までを短文で共有したほうが、保護者が家で再現しやすくなります(再現されると子どもの安心の回路が太くなります)。保育所保育指針も家庭との連携を重視し、保護者への支援を保育所の役割として明確化しています。
幼少期の保育発達を伸ばす独自視点:声と沈黙
検索上位では「選曲」「ねらい」「効果(リズム感、言語発達)」が中心になりがちですが、現場の歌で差が出るのは“声の使い方”と“沈黙(間)”です。つまり、同じ曲でも、保育者の出し方で発達への働きかけの質が変わります。
まず声について。乳児期の発達では、応答的な関わりが情緒的な絆の形成に重要であり、歌いかけはその具体の一つです。
ここでのポイントは「通る大声」ではなく「聞き取りやすい声」「安心できる抑揚」「子どもの反応に合わせた調整」です。研究的整理でも、乳児の発達に沿う歌は“聞き取りやすい曲”“発声しやすい曲”といった観点で扱われ、保育者側の提供の仕方が前提になります。
次に沈黙(間)です。歌の途中であえて止める、語尾を残す、子どもが声・身振りで“続きを埋める”余白をつくる。これだけで、
・🗣️発語のきっかけ
・👀相互注視(相手を見る)
・👂聴く姿勢
・👐予測と期待
が同時に立ち上がります。観察研究でも、保育者の歌への子どもの反応は、フレーズの末尾など部分的参加として現れることがあり、ここを拾えると参加が広がります。
実践の小さな工夫として、次のチェックリストが使えます。
・✅歌い始める前に、子どもがこちらを見た瞬間を“スタート合図”にしているか
・✅子どもの声が入ったら、保育者の声量を少し下げて“子どもの声が主役”になる瞬間を作れているか
・✅速すぎるテンポで「できない子」を生んでいないか(テンポは調整してよい)
・✅歌を終えるとき、必ず終止形(終わりが分かる形)にして切り替えへつないでいるか
こうした“声と沈黙の設計”は、特別な教材がなくても、今日からできる発達支援です。歌の選曲リストを増やす前に、まず1曲を「どう歌うか」で作り直すと、クラス全体の参加が上がりやすくなります。

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