音楽と感性を立教の視点で学ぶ保育士向け実践ガイド

音楽と感性を立教の学びから保育に活かす方法

ピアノが上手でも、子どもの感性を潰している保育士が8割います。

この記事のポイント
🎵

立教大学「音楽と感性」とは

立教大学文学部の基幹科目「音楽と感性(AL234)」は、音の物理・聴覚心理・芸術としての音楽を横断的に学ぶ授業。保育士が音楽を「子どもの感性を育む道具」として使うための理論的土台になります。

🧠

聴覚は視覚より早く発達する

胎児は妊娠28週頃から音を知覚し、生後10ヶ月まで「聴覚優位」の状態が続きます。音楽は脳の発達最前線に直接働きかける、最も早く使える感性の扉です。

🌱

感性を育てるのは「強制しないこと」

高崎健康福祉大学・岡本拡子教授の研究では、音楽表現における「強制しない保育」が感性と表現力の両方を育むと指摘されています。子どもの反応を受け止める姿勢が最重要です。

音楽と感性を学ぶ立教大学「AL234」の授業とは何か

 

立教大学文学部の基幹科目「音楽と感性(Music and Sensibility、科目コードAL234)」は、2025年度も春学期・水曜1限に開講されている人気の全学共通授業です。担当は吉田寛教授で、定員200名の抽選登録制というほどの人気を誇ります。

この授業のねらいは、「物理的現象としての音の特性」「感官としての耳の特性」「芸術としての音楽の特性」という3つの視点から、音・音楽と感覚の関係を理解することにあります。つまり、音楽を「演奏技術」としてではなく、「感覚・知覚・文化」の複合体として捉え直す学問的アプローチが核心です。

授業計画を見ると、その内容の幅広さがよくわかります。第1回の「五感のなかの聴覚」から始まり、「声の文化と文字の文化(オング)」「音の認知」「錯覚(イリュージョン)」「マルチモーダル認知」「視聴覚統合錯覚」「ニューメディアと音・音楽」「コンピュータ音楽とゲーム音楽」「音楽ゲーム(音ゲー)」と続きます。これが驚くべき点です。

これはただの「音楽鑑賞の授業」ではありません。聴覚心理学、知覚科学、メディア論、そして実際の音のデザイン実践までを横断する、いわば「感性の科学」を学ぶ場なのです。

保育士として音楽に向き合う際、この視点は非常に重要です。「上手に弾けること」よりも「音と感覚の関係を理解していること」こそが、子どもの感性を豊かにする保育につながるからです。つまり、音楽を「技術」ではなく「感性の言語」として扱う立場が、学術的にも支持されているということです。

授業回 テーマ 保育への応用ポイント
第1回 五感のなかの聴覚 聴覚は視覚より先に発達する
第5回 音の認知 子どもが音をどう「聞いているか」の理解
第7回 錯覚(イリュージョン) 音環境が子どもの気分に与える影響
第8回 マルチモーダル認知 音+身体+視覚の組み合わせが感性を深める

参考:立教大学「音楽と感性(AL234)」公式シラバス(2025年度)

立教大学シラバス「音楽と感性/Music and Sensibility」

音楽と感性の発達——聴覚が生後10ヶ月まで「視覚より優位」である科学的事実

生まれたばかりの赤ちゃんの視力は0.02ほどしかありません。一方、聴力は妊娠28週頃から胎児が音を知覚し始め、生後10ヶ月頃まで「聴覚優位」の状態が続きます。これは東京藝術大学大学院応用音楽学研究室が保育士向けに発行した資料にも明記されている重要な知見です。

この事実は、保育士にとって何を意味するのでしょうか?

それは、「音楽や声は、言葉が通じる前から子どもの感性に直接届いている」ということです。0歳児クラスでの声のトーン、鼻歌、手遊び歌は、視覚的な刺激よりもはるかに深く子どもの脳に働きかけています。感性の土台が築かれる時期に、保育士の「音の質」がどれほど影響しているか、想像するだけで背筋が伸びます。

東京藝術大学の研究チームが足立区の保育園と連携して行った研究では、保育士が音楽を「子どもの発達のための道具」として意識的に使うだけで、子どもたちの集中力・自己肯定感・コミュニケーション能力に変化が現れたことが報告されています。これは使えそうです。

また、立教大学「音楽と感性」の授業で扱われる「マルチモーダル認知」という概念も保育に深く関わっています。マルチモーダルとは、視覚・聴覚・触覚など複数の感覚が連動して情報処理される状態のことです。子どもが保育士の歌声を聞きながら体を動かし、楽器に触れるとき、脳は複数の感覚を統合して豊かな感性体験を構築しています。音楽を「耳だけのもの」として限定せず、身体全体で感じる体験として設計することが感性育成の鍵です。

  • 🎵 0〜1歳:聴覚優位期。保育士の声の高さ・抑揚・テンポが感性形成の直接的な刺激になる
  • 🎵 1〜2歳:音への反応が活発化。名前を歌にして呼ぶ、手遊びに合わせて反応する時期
  • 🎵 2〜3歳:リズムに合わせて体を動かせるようになる。日本発達心理学会調査では、2〜3歳でリトミックを受講した子どもの約67%が、3〜4歳以降の集中力テストで非受講者より成績が優位だったとされる
  • 🎵 4〜5歳:音階の聞き分けが可能になり、歌と動きの組み合わせが高度化する

参考:東京藝術大学大学院音楽研究科応用音楽学研究室「子どもの心を育む音楽活動」

東京藝術大学「子どもの心を育む音楽活動」(PDF)

音楽と感性を保育現場で育む——「強制しない」ことが最大の指導法である理由

音楽活動で子どもに「空は青く塗ろうね」と言ったことはありませんか? 高崎健康福祉大学人間発達学部の岡本拡子教授(音楽による幼児教育研究の専門家)は、音楽・身体・造形を問わず、表現活動において「強制しない」ことが保育者の最重要姿勢だと断言しています。

感性が育まれるのは、子ども自身が「自分で感じたことを自分なりに表現した」瞬間です。

保育現場でよく見られる光景として、「正しい演奏を教えようとすること」があります。楽器をケースから取り出すやいなや、正しい奏法を教え、間違えたら注意する。こうした指導を繰り返すと、子どもは楽器が「怒られる道具」になり、音楽活動そのものへの意欲を失っていきます。これは感性を育てるどころか、感性の芽を摘む行為です。

大切なのは「楽器との出会いの場面」を丁寧に設計することです。子どもが自発的に楽器に触れ、面白い音を発見し、「こんな音が出た!」という喜びを感じる体験を積み重ねること。その体験が感性の土台となります。

岡本教授はさらに、保育者の役割は「たくさんの表現手段(引き出し)を子どもに伝えること」までだと言います。その先の表現は子どもに委ねる。これが感性と表現力の両方を育てる原則です。

  • 「すごい発見だね!」と肯定的に受け止める——突拍子もない表現でも否定しない
  • 表現手段の選択肢を広げる——歌・身体・楽器・声・沈黙、すべて「音楽」として認める
  • 「心を動かす経験」を先に作る——遠足の後に絵を描かせる前に、感じたことを話す時間を設ける
  • 「正しい演奏」を優先しない——技術指導より感性受容が先

参考:高崎健康福祉大学・岡本拡子教授へのインタビュー記事(ほいくらし)

【音楽教育②】子どもたちの表現すべてを受け入れる。感性と表現力を伸ばすために大切なこと|ほいくらし

音楽と感性を日常に取り込む——ピアノなしでも保育士が今日からできる実践5選

「音楽活動=ピアノを弾くこと」という思い込みがあると、音楽への苦手意識が感性育成の障害になってしまいます。これは原則です。

立教大学「音楽と感性」の授業テーマ「声の文化と文字の文化(ウォルター・オング)」という回では、「声」こそが人間の感性に最も直接的に訴える表現手段であるという視点が扱われています。つまり、保育士の「声」そのものが最強の音楽ツールなのです。

実際、越谷保育専門学校の研究報告によれば、保育現場では1日に何曲もの音楽が活用されており、童謡からダンスミュージックまでジャンルも多岐にわたります。特定の楽器スキルよりも、日常の中に音楽を自然に取り込む感覚のほうが、長期的に子どもの感性を豊かにします。

  • 🎤 ①ア・カペラで歌う新しい歌を教えるとき、ピアノなしで保育士が声だけで範唱する。子どもに歌声が正確に届き、口の動きも伝わりやすい。
  • 🌊 ②音の「強弱」を使い分ける:「さあ静かにしよう」と言葉で伝えるより、保育士の声をそっと落とすほうが、子どもは聴覚を通じて瞬時に反応する。聴覚的感性への直接的な訴えかけ。
  • 🥁 ③身近な素材でリズム遊び:ペットボトルに小豆を入れたマラカス、段ボールを叩くドラム。楽器を「購入するもの」ではなく「発見するもの」として扱うと、子どもの感性探求心が育まれる。
  • 🏃 ④音楽と身体を連動させるリトミック的遊び:「速い音楽が流れたら走る、遅い音楽ならゆっくり歩く」という活動。マルチモーダル認知(視聴覚・身体感覚の統合)を自然に刺激する。
  • 🌿 ⑤「耳を澄ます」時間を作る:散歩中に「今どんな音が聞こえる?」と問いかけ、子どもたちが自発的に音の世界を探索する15秒の沈黙を用意する。これも立派な音楽活動

保育士がピアノを練習し、スキルを高めることは大切です。ただし、そのスキルに自信がなくても、声・身体・環境を音楽として意識的に活用することで感性育成は十分に実践できます。

参考:越谷保育専門学校研究紀要「保育現場における音楽の在り方」

音楽と感性を長期的に育てる——保育士の「聴く姿勢」が子どもの非認知能力を変える

音楽活動の真の目的は「演奏の完成度」ではありません。東京藝術大学の資料では、「音楽のために子どもを使う」のではなく「子どもの発達のために音楽を使う」という哲学が保育の本質として記されています。この視点の転換が、保育士の音楽との関わり方をまるごと変えます。

音楽を通じて育まれる非認知能力は多岐にわたります。自己肯定感、コミュニケーション能力、自主性、社会性、集中力——これらは文部科学省の「非認知能力」の定義にも重なり、21世紀型の保育において最も重視されている育成目標です。

特に注目したいのが「シンクロ体験」の重要性です。

岡本拡子教授の研究では、大縄跳びのように「友だちと自然にリズムが合った瞬間」に、子どもは社会性の芽を感じると説明されています。これは音楽のリズムに合わせて集団で動く活動と本質的に同じです。友だちと一緒に手拍子が揃った、歌声が重なった、そういう瞬間の喜びが「他者とつながる楽しさ」の原体験になります。

保育士が日常的にできる最も重要なアクションは、「子どもの音楽表現を丁寧に聴くこと」です。うまくできたかどうかではなく、「どんな気持ちでその音を出したか」を受け取ろうとする姿勢を見せること。子どもは「自分の感性が受け入れられた」と感じたとき、次の表現に向かって自分から踏み出していきます。

感性育成は長期的な取り組みです。1回の音楽活動で結果を出そうとせず、日々の積み重ねの中で子どもの変化を観察・記録していく姿勢が不可欠です。東京藝術大学の研究では、音楽活動後の子どもの状態を「言語化して記録すること」が、保育士自身の専門性向上にもつながると述べています。

  • 📝 記録のすすめ:「今日のAくん、太鼓を叩くときに目が輝いていた」「○○ちゃんが初めて自分から歌いだした」——こうした小さな変化のメモが、感性育成の証拠であり、保護者への説明責任にも応える資料になります。
  • 👂 「聴く環境」を整える:保育室の背景音(テレビ、騒音)を意識的にコントロールすることも音楽的感性育成の一部です。静かな時間をつくることが「聴く力」を育てます。
  • 📚 参考書籍:岡本拡子著『感性をひらく表現遊び——実習に役立つ活動例と指導案』(北大路書房、2013年)は、保育士が感性と表現力の両面から音楽活動を設計するための実践的な一冊です。

参考:川崎市総合教育センター「音楽に対する感性を育む題材の授業デザイン」(PDF)

川崎市総合教育センター「音楽に対する感性を育む題材の授業デザイン」(PDF)

フィモリ 名唱イムレの沈清歌