絵本の読み聞かせ効果を論文から学ぶ保育士の実践ガイド

絵本の読み聞かせの効果を論文から読み解く保育のポイント

声色を大げさに変えて読んでいるほど、子どものIQ・EQは伸びにくくなります。

📚 この記事の3つのポイント
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論文が証明する5つの発達効果

語彙力・想像力・向社会性・認知能力・情緒安定が、読み聞かせによって科学的に向上することが複数の国内外論文で実証されています。

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脳科学で判明した「ヒーリング効果」

NIRSを使った研究で、読み聞かせを聴く子どもの前頭前野の血流が低下——つまり脳がリラックス状態になることが確認されています。

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保育士が今すぐ使える読み方の技術

ダイアロジックリーディングや「声色を変えない」読み方など、論文に裏付けられた実践テクニックを具体的に紹介します。

絵本の読み聞かせが語彙力・言語発達に与える効果と論文エビデンス

 

絵本の読み聞かせによって子どもの語彙力が伸びることは、複数の論文で繰り返し確認されている事実です。ハーバード大学でダイアロジックリーディングを研究した加藤映子博士(大阪女学院大学学長)は、「絵本は、子どもを教育するのに最も優れた教材だ」というハーバード教育学大学院教授の言葉を引用し、絵本が言葉の習得を促す”宝箱”であると述べています。

つまり語彙力の向上は基本です。

Robbins らの研究では、51人の幼稚園児に週2回の読み聞かせを実施したところ、文脈づけられた単語——つまり絵本の流れの中で登場した言葉——は、文脈のない単語よりも有意に高い割合で習得されることが判明しました(Robbins & Ehri, 1994)。絵本の文章には日常会話では使わない豊かな表現が含まれているため、子どもが自然と多彩な語彙に触れられる点が大きな強みです。

保育の現場で読み聞かせをするとき、子どもが知らない単語が出てきた場面で立ち止まって説明することも一定の効果があります。ただし、話の流れを止めすぎると集中が途切れるため、メリハリが重要です。読み終えた後に「○○ってどういう意味だと思う?」と問いかける方が、スムーズに語彙の定着につながります。

また、Hurtado ら(2008)の研究によれば、乳幼児期に母親が多く話しかけるほど、子どもが理解できる語彙数が多くなることも示されています。読み聞かせはその最も効果的な手段の一つといえます。これは使えそうですね。

語彙力強化に特化した方法として、「ダイアロジックリーディング」があります。ニューヨーク州立大学のグローバー・ホワイトハースト博士が開発したこの手法は、読み聞かせの最中に「PEER(Promote・Evaluate・Expand・Repeat)」という4段階のやりとりを行うもので、子どもの発話数と読解の質を同時に高められます。加藤博士が保育現場でダイアロジックリーディングを実施した研究では、年長クラス20名以上を対象とした集団でも、従来の読み聞かせより子どもの発話数が増え、語彙力・読解力向上につながるやりとりが増加したことが確認されました。

保育士向けのダイアロジックリーディング解説(加藤映子先生インタビュー)はこちらが参考になります:
「国語力」はなぜ必要?子どもの言葉の力を育むダイアロジック・リーディングとは(マイナビ保育士)

絵本の読み聞かせが想像力・認知能力に与える効果と論文エビデンス

想像力が育まれる点も、読み聞かせの大きな効果の一つです。山木道子(1990)の研究では、幼稚園年長児を対象に1年間にわたって計画的な読み聞かせを行ったグループ(最低1日1冊)と通常保育のグループを比較した「作話テスト」で、読み聞かせ群が想像力・表現力の豊かさにおいて明らかに優れた成績を示しました。

なぜ想像力が伸びるのでしょうか?

アニメーション動画では映像が自動的に動くのに対し、絵本は静止画です。次の場面を自分の頭の中でイメージしなければならないため、子どもは脳をフル稼働させます。この「自分で補完する」プロセスが、創造力の訓練になるわけです。

さらに、認知能力への効果も研究で裏付けられています。京都府立大学の雨越康子らによる研究では、私立保育園2園の5〜6歳児を対象に、家庭での読み聞かせ頻度によって保育園での集団読み聞かせ効果が変化することが示され、語彙力やワーキングメモリなど高次の認知能力が向上することが確認されました。ワーキングメモリは”脳の作業台”ともいわれ、学習・問題解決の基盤となる力です。この力が幼少期の読み聞かせで育まれるという点は、保育士として押さえておきたい重要な知見です。

認知能力の向上が条件です。

また、Ganea ら(2008)の研究では、生後15〜18か月の乳幼児が絵本で見た絵を現実世界の実物と同じものとして認識できることが示されています。「絵本のりんご=本物のりんご」と結びつける認知的転移の能力が、この時期から備わっているということです。絵本のイラストが実物に近いほどこの認知はより確実になります。保育の現場で使う絵本を選ぶ際のポイントにもなりますね。

認知能力と読み聞かせの関係についての学術論文(京都府立大学・雨越康子):
幼児期における絵本の読み聞かせと認知能力との関連(京都府立大学 博士論文)

絵本の読み聞かせが向社会性・情緒・心情理解に与える効果と論文エビデンス

保育士が特に意識したいのが、読み聞かせによる「向社会性」と「情緒発達」への効果です。向社会性とは、他者を思いやり助けようとする行動傾向のこと。これが幼少期に育まれるかどうかが、その後の人間関係の質にも大きく影響します。

堂野恵子らが行った研究では、保育園の年長組18名を対象に、向社会性をテーマとした絵本の短期間の読み聞かせを実施したところ、向社会性の発達に促進的効果があることが認められました。これは短期間でも効果ありということですね。

また、奈良教育大学の研究では、絵本の読み聞かせの有無が幼児の心情理解に及ぼす影響を検討した実験が行われました。絵本のストーリーには喜怒哀楽などさまざまな感情の場面が含まれており、読み聞かせを通じて子どもが他者の気持ちをくみ取る練習を自然に積んでいることが示されています。

4〜6歳児48人を対象とした別の研究では、向社会的テーマの絵本を読み聞かせる前後で、子どもが持っているシールを他の子に分けようとする行動が増えたことも報告されています。思いやりの気持ちが、たった1冊の絵本で引き出されるのです。

感情表現の豊かさという観点からも、読み聞かせの効果は大きいです。絵本の中では、登場人物が喜んだり、泣いたり、怒ったりする場面が豊富に描かれています。子どもはそのストーリーを通じて、さまざまな感情を安全な環境で疑似体験します。これが感情の語彙を増やし、自分の気持ちを言葉で表現する力の土台になります。

なお、吉備国際大学の論文では、読み手の感情表現が強すぎると子どもが受け取るべき感動ポイントを大人が先取りしてしまい、子ども自身のアウトプットが減ってしまう可能性が指摘されています。声色の変えすぎに注意が必要です。

幼児の心情理解と読み聞かせの効果に関する論文(奈良教育大学):
幼児の心情理解に及ぼす絵本の読み聞かせの効果(奈良教育大学リポジトリ)

脳科学の論文が示す「絵本の読み聞かせ」のヒーリング効果と保育への活用

読み聞かせが子どもの脳に与える影響を脳科学的に検証した研究も注目されています。兵庫教育大学大学院の森慶子氏は、近赤外光スペクトロスコピー(NIRS)を用いて、「黙読」「音読」「読み聞かせを聴く」という3条件で前頭前野の血流動態を比較する実験を実施しました(2015年、読書科学第56巻掲載)。

その結果、音読では前頭前野の血流が増加したのに対し、読み聞かせを聴く条件では血流が低下しました。これは重要な発見です。

前頭前野は論理的思考や意思決定などを担うエリアですが、この部位の血流低下は「緊張の緩和=リラックス状態」を意味します。つまり、脳科学的に見ると、読み聞かせを聴くことで子どもの脳は”心地よい安らぎ”を感じているということです。これが先行研究で指摘されていた「読み聞かせのリラックス効果」の神経科学的な根拠です。

これは現代の保育にとって非常に重要な示唆を持ちます。

子どもたちが日常的に受けるストレスや興奮状態を落ち着かせる手段として、読み聞かせは薬や道具に頼らないナチュラルな情緒安定法です。お昼寝前や活動の切り替え場面に読み聞かせを挟むことで、子どもたちの気持ちをスムーズに整えることができます。保育計画に意図的に組み込む価値があります。

さらに、読み聞かせには読み手(大人)にも効果があります。東京大学・市川研究室の調査でも、読み聞かせを行う大人の前頭前野は活性化することが報告されています。考える力・創造力を司る前頭前野が働くことで、保育士自身の思考力・観察力の向上につながります。

脳科学の観点で見ると、読み聞かせは聴く子にも読む大人にも、同時にプラスの効果をもたらすのです。これは一石二鳥ですね。

J-Stage掲載・読み聞かせの脳科学的効果に関する原著論文(NIRSによる比較分析):

保育士が現場で実践すべき読み聞かせのコツ——論文・研究に基づく独自視点

ここまで複数の論文が読み聞かせの効果を証明してきました。では、保育士として現場でそれを最大限に活かすには、具体的にどうすればよいのでしょうか。研究知見から逆算した実践ポイントをまとめます。

🎯 ① 声色を変えすぎない

仲宗根敦子氏(絵本未来創造機構代表)は、IQ・EQを伸ばす観点からは「あまり演技しないほうがいい」と述べています。子どもは大人が思う以上に豊かな感受性を持っており、どこで感動するかは子ども自身が決めるものです。大人が声色で「ここが感動ポイント」と示してしまうと、子どものアウトプットが奪われてしまいます。

🎯 ② ゆっくり読みすぎない

「丁寧に読もう」という意識から極端にゆっくり読むと、子どもが退屈して集中が切れます。6歳未満の子どもの脳は右脳優位で、映像をシャッターのように瞬時に取り込む力があります。自然な会話のスピードで読み進めることが基本です。

🎯 ③ 読み終えた後に子どもをほめる

「よく聞いてたね」「一緒に読めて楽しかったよ」といった一言が、子どもに”認められた”感覚を与えます。この肯定感の積み重ねが、絵本への愛着と集中力を育てます。ほめ言葉は短いワンフレーズで問題ありません。

🎯 ④ 場面に応じてダイアロジックリーディングを使い分ける

お昼寝前や情緒を落ち着かせたい場面は従来の「静かに聴く読み聞かせ」が向いています。一方、語彙力・思考力を伸ばしたい活動場面では、ダイアロジックリーディングを取り入れて子どもとの対話を促します。使い分けが重要です。

🎯 ⑤ 絵本は対象年齢に縛られない

研究でも示されているように、年齢より少し上向けの絵本は文字が多く集中を妨げるケースがあります。子どもが「楽しい・聴きたい」と感じる本を最優先に。小学校低学年の子どもにあえて赤ちゃん向け絵本を読むと、緊張が解け次の絵本への集中が高まることも確認されています。

🎯 ⑥ 毎日5分でも継続する

雨越ら(2020)の研究では、家庭での読み聞かせ頻度が高いほど、保育園での集団読み聞かせによる認知能力向上効果が大きくなることが示されています。質より継続が語彙力とワーキングメモリを底上げします。毎日5分が原則です。

保育の現場では集団読み聞かせが主になりますが、ダイアロジックリーディングを取り入れる際は10名以下のグループに分けると子どもの発話が拾いやすく、効果が高まることも研究で示されています。少人数保育の機会に積極的に活用しましょう。

読み聞かせの読み方のコツ・NG行動について実践的に解説したページ:
絵本の読み聞かせの効果 「ゆっくり読む」はNG。脳と心を育てる3つのコツ(ベネッセ教育情報)

【音でる♪知育絵本】おうた&スイッチあそび (音でる♪知育絵本シリーズ)