懐かしの唱歌・抒情歌を保育に生かす春夏秋冬の歌い方

懐かしの唱歌・抒情歌を保育に生かす春夏秋冬の歌い方

「唱歌はパブリックドメインだから歌詞カードを自由に配れる」は間違いで、歌詞だけ著作権が残っている曲が多く、無断配布すると損害賠償リスクがあります。

この記事のポイント
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唱歌・抒情歌の基本を整理

童謡・文部省唱歌・抒情歌の違いを正確に理解することで、保育現場での使い方に自信が持てるようになります。

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春夏秋冬の代表曲と活用法

季節ごとにおすすめの唱歌・抒情歌を紹介し、子どもへの伝え方・ピアノ伴奏のポイントまで解説します。

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著作権の落とし穴に注意

「パブリックドメインだから安心」と思いがちな曲でも、歌詞の著作権が残っている場合があります。正しい知識でリスクを回避しましょう。

懐かしの唱歌・抒情歌とは何か?童謡との違いを知る

 

保育の現場で「唱歌・抒情歌・童謡」という言葉は日常的に飛び交いますが、それぞれの定義を正確に説明できる保育士は意外と少ないものです。これらの違いをきちんと理解しておくと、子どもへの説明や保護者との会話でも自信が持てます。

まず「唱歌(しょうか)」は、明治維新以降に西洋音楽を取り入れながら、学校の音楽教育のために作られた楽曲群を指します。1910年(明治43年)の『尋常小学読本唱歌』から1944年(昭和19年)の『高等科音楽一』までの教科書に掲載されたものを特に「文部省唱歌」と呼びます。日本の四季や自然、日常生活を題材にした曲が多く、「春の小川」「ふるさと」「もみじ」「朧月夜」などがその代表です。

つまり唱歌が基本です。

興味深いことに、文部省唱歌の多くは作詞者・作曲者が長年「文部省唱歌」と記載されて匿名のままでした。その理由は、合議制で作られた曲が多かったことと、文部省が「国が作った歌」という位置づけに強くこだわり、作者に守秘義務を課していたためです。戦後になって少しずつ作者が判明し、「春の小川」「ふるさと」「朧月夜」などは高野辰之(作詞)・岡野貞一(作曲)コンビの作品とわかってきました。

次に「童謡(どうよう)」は、大正時代後期以降、西洋音楽を取り入れながらも子どもに歌われることを目的として作られた曲です。唱歌やわらべうたは含みません。「赤とんぼ」「シャボン玉」「七つの子」(いずれも野口雨情山田耕筰本居長世らによる作品)などが代表的で、子どもにとって歌いやすく、感情豊かな歌詞が特徴です。

一方「抒情歌(じょじょうか)」は、哀感や郷愁、懐かしさをそそる雰囲気を持つ日本のポピュラー系の楽曲ジャンルです。恋愛をテーマにした演歌や軍歌などは除き、「夏の思い出」「花の街」「さくら貝の歌」などが代表例として挙げられます。大人が子どもに聞かせても差し支えなく、ラジオやテレビで「懐かしの名曲」として紹介されることが多い曲たちです。

わらべうたとの違いも押さえておきたいところです。わらべうたは西洋音楽の7音階ではなく、「ヨナ抜き音階」(ド・レ・ミ・ソ・ラのみ使う5音階)で構成されており、子どもたちが遊びの中で口伝えに歌い継いできた歌です。「かごめかごめ」「あんたがたどこさ」などがその典型です。

種類 誕生時期 目的・特徴 代表曲
文部省唱歌 明治〜昭和初期 学校教育用、自然・四季テーマ多い ふるさと、春の小川、もみじ
童謡 大正〜現代 子ども向け、感情豊か 赤とんぼ、シャボン玉、七つの子
抒情歌 昭和〜現代 哀愁・郷愁、大人も歌える 夏の思い出、花の街、さくら貝の歌
わらべうた 江戸時代以前〜 遊び歌、ヨナ抜き音階 かごめかごめ、あんたがたどこさ

文化庁と日本PTA全国協議会が2006年(平成18年)に選定した「日本の歌百選」には、唱歌・童謡・抒情歌などが幅広く収録されており、「ふるさと」「赤とんぼ」「朧月夜」「夏の思い出」「荒城の月」など100曲が選ばれています。保育で扱う際の曲選びの参考になります。

参考リンク:「日本の歌百選」の全選定曲一覧と各曲の解説

日本の歌百選 曲目一覧まとめ(世界の民謡・童謡)

懐かしの唱歌・抒情歌を春夏秋冬の保育に取り入れるコツ

季節感は保育において欠かせない感覚のひとつです。唱歌・抒情歌には四季折々の自然を歌ったものが多く、日々の保育の中に自然と取り入れやすい素材があります。これは使えそうです。

🌸 春の唱歌・抒情歌

「春の小川」「春が来た」「朧月夜」「早春賦」「花(春のうらら)」などが春を代表する名曲です。「春の小川」はさらさら流れる小川のせせらぎを感じさせる4拍子の曲で、2〜3歳児でも鼻歌で歌えるほどシンプルなメロディーが特徴です。「早春賦(そうしゅんふ)」は1913年(大正2年)発表の名曲で、長野県安曇野市(旧・穂高町付近)の早春の情景を描いたものです。歌詞は文語体で子どもには少し難しいですが、5〜6歳児に「春がまだ来ていないね、という気持ちを歌った曲だよ」と伝えると情景をイメージしやすくなります。

🌻 夏の唱歌・抒情歌

「海(うみは広いな大きいな)」「茶摘み」「夏は来ぬ」「夏の思い出」が夏の定番です。「夏の思い出」は1949年(昭和24年)にNHKラジオで発表された曲で、作詞・江間章子、作曲・中田喜直のコンビによる名作です。「水芭蕉の花が咲いている」という歌詞は尾瀬の情景を描いており、水辺の涼しさを感じさせます。プールや水遊びの前後にBGMとして流すと、子どもたちが水に親しみを感じやすくなります。

🍂 秋の唱歌・抒情歌

「もみじ」「赤とんぼ」「虫のこえ」「里の秋」「ちいさい秋みつけた」が秋らしさを伝える名曲です。「赤とんぼ」は三木露風作詞・山田耕筰作曲の童謡で、著作権はすでに消滅(パブリックドメイン)しています。「夕焼小焼の赤とんぼ」という出だしは子どもにも馴染みやすく、散歩で赤とんぼを見かけた日に歌いかけると、子どもの心に自然への感受性が育ちます。「ちいさい秋みつけた」は1955年(昭和30年)発表で、作詞・サトウハチロー、作曲・中田喜直によるもの。ただしサトウハチローは1973年没のため、歌詞の著作権は2044年まで存続します(死後70年)。

🌨️ 冬の唱歌・抒情歌

「雪(雪やこんこ)」「たきび」「冬景色」「冬の星座」「スキー(山は白銀)」などが冬の代表曲です。「たきび」は1941年(昭和16年)発表で、作詞・巽聖歌(たつみせいか)、作曲・渡辺茂。落ち葉焚きの煙と子どもたちの温かさを描いた名作です。ただし、作詞者の巽聖歌は1973年没のため歌詞の著作権は2044年まで残ります。冬の散歩のあとに子どもと一緒に歌うと、体が温まるような気持ちになれます。

唱歌・抒情歌を保育に取り入れる際の基本として、子どもに「難しい言葉の意味をひとこと説明する」ことが非常に大切です。「朧月夜」に出てくる「菜の花畠」や「入り日」などの言葉は、絵本の挿絵のような描写で補うと3〜4歳児でもイメージできます。「夏は来ぬ」の「卯の花」「ホトトギス」も同様に、図鑑や写真を見せながら歌うと理解が深まります。情景を一緒に想像することが原則です。

懐かしの唱歌・抒情歌の代表曲「ふるさと」「荒城の月」を保育で深掘り

数ある唱歌の中でも、「ふるさと」と「荒城の月」はとりわけ特別な位置を占める2曲です。どちらも「日本の歌百選」に選ばれており、保育士が深く理解しておくと子どもへの伝え方が豊かになります。

「ふるさと(兎追いしかの山)」は1914年(大正3年)、尋常小学校唱歌第六学年用として発表されました。作詞・高野辰之、作曲・岡野貞一のコンビによる名作で、山里の自然と幼い日の記憶、そして「志を果たしていつの日にか帰らん」という望郷の念を3番の歌詞で締めくくります。高野辰之は長野県出身で、故郷・中野市永江の風景をモデルにしたといわれています。作詞者・高野辰之は1947年没、作曲者・岡野貞一は1941年没のため、両者の著作権は消滅(パブリックドメイン)しています。

作曲者の著作権が消えた、ということですね。

つまり「ふるさと」は曲も歌詞も完全にパブリックドメインであり、保育の場で歌詞カードを配布したり、発表会で演奏・歌唱したりすることに著作権上の問題はありません。東日本大震災(2011年)後には被災地で涙ながらに合唱される場面が各地で見られ、この曲が持つ「帰る場所への思い」の普遍性が改めて世に知られました。4〜5歳児が3番の歌詞を全部覚えると、大人からも喜ばれる演目になります。

「荒城の月」は1901年(明治34年)に発表されたもので、作詞・土井晩翠(どいばんすい)、作曲・滝廉太郎(たきれんたろう)による作品です。仙台の青葉城や大分の岡城址がモデルといわれており、かつての栄華と現在の廃墟の対比を描いた詩情あふれる唱歌です。

滝廉太郎は1903年、わずか23歳で没。土井晩翠は1952年没のため歌詞の著作権は2023年に消滅しました。つまり2024年以降は曲も歌詞も完全に自由に使用できます。幼児向けには少し難しい内容ですが、年長クラスへの情操教育として「お城と月のお話だよ」と伝えながら聴かせるだけでも、子どもの感性に豊かな印象を残します。

「ふるさと」と「荒城の月」、この2曲が基本です。

また「夏の思い出」は作詞・江間章子(1913年生まれ・2005年没)、作曲・中田喜直(1923年生まれ・2000年没)です。作詞者の著作権は死後70年が原則なので2075年まで、作曲者の著作権は2070年まで存続します。歌詞カードの無断配布は避け、JASRACへの確認が必要な曲として押さえておきましょう。

参考リンク:唱歌・童謡のジャンル解説と定義の詳細

童謡・唱歌とは?抒情歌・わらべうたとの違いを解説(ひまわり日本のうた)

懐かしの唱歌・抒情歌の著作権——保育園でやりがちなNG行動と正しい判断

「唱歌は昔の曲だから著作権はない」という思い込みは非常に危険です。この思い込みが、保育の現場でうっかりリスクを生む原因になります。

著作権の保護期間は、著作者の死後70年(日本の現行法)です。これは2018年の法改正で従来の50年から延長されました。曲(メロディー)と歌詞はそれぞれ別々の権利として保護されており、「曲がパブリックドメインでも歌詞は著作権あり」というケースが非常に多くあります。

よくあるNG行動①:「著作権フリーとネットに書いてあったから」と根拠なく歌詞カードを印刷して配る

たとえば「かもめの水兵さん」は作曲者の河村光陽が1946年没のため曲の著作権は2017年に消滅しています。しかし作詞者の武内俊子は1944年没のため歌詞の著作権も2015年に消滅しており、こちらは曲・歌詞ともにパブリックドメインです。一方「肩たたき」は作曲者・中山晋平が1952年没(著作権2023年消滅)ですが、作詞者・西條八十(さいじょうやそ)は1970年没のため歌詞の著作権は2041年まで存続します。

よくあるNG行動②:園のウェブサイトや動画配信に、著作権確認なしで楽曲を使う

JASRAC(日本音楽著作権協会)が公表している基準によると、「営利を目的としない園内の無料イベントでの音楽利用」は著作権の手続きが不要とされています。しかし、園のウェブサイトや動画(YouTube等)への楽曲使用は別扱いです。これには別途手続きが必要です。

正しい確認方法:JASRACのオンライン検索システム「J-WID(作品データベース検索サービス)」で曲名を検索すると、著作権の有無を確認できます。権利が消滅している場合は作詞・作曲欄に「P.D.」(パブリックドメイン)と表記されています。

歌詞カードの配布だけでなく、ピアノ伴奏楽譜を園内でコピーして複数の保育士が使い回す行為も著作権上の問題になり得ます。市販の楽譜集を正規購入して使うか、パブリックドメインの楽曲の楽譜を活用するのが安全です。

楽譜の扱いにも注意が条件です。

参考リンク:著作権切れ(パブリックドメイン)の童謡・唱歌一覧と音源・楽譜の活用について

【音楽】著作権フリー・著作権切れの日本の童謡一覧|パブリックドメイン(rinchar.site)

懐かしの唱歌・抒情歌が子どもの育ちに与える意外な効果

多くの保育士は「唱歌・抒情歌は高齢者向け」「子どもには難しすぎる」という印象を持ちがちです。しかし保育研究の観点から見ると、実は逆の効果があることがわかっています。意外ですね。

まず言語発達への効果があります。童謡に限らず、唱歌の歌詞には「菜の花畠」「卯の花」「うぐいす」「」といった豊かな日本語表現が盛り込まれています。日常会話で使わない言葉でも、メロディーに乗ることで記憶に残りやすく、語彙の幅が自然に広がることが研究で示されています。日常的に音楽を聴いたり歌ったりする子どもは、そうでない子どもより語彙数が多いという調査結果もあります。

次に情操教育・感受性の育ちへの効果です。「赤とんぼ」や「ふるさと」のような郷愁のある曲を聴くと、たとえ経験のない子どもでも、「なんとなく寂しくて、でも温かい気持ち」になると言われます。これは音楽が感情を豊かにする「情操教育」の典型的な効果です。幼少期から多様な感情表現を音楽で体験しておくことは、将来の共感力・コミュニケーション能力の育ちにつながるとされています。

さらに世代間交流のツールとしての役割があります。「ふるさと」や「荒城の月」「赤とんぼ」は、祖父母世代にとっても深く馴染みのある曲です。子どもがこれらを歌えると、おじいちゃん・おばあちゃんとの会話がいっきに盛り上がります。

🎼 歌う前に一言添えるだけで理解が深まるひと工夫

  • 「春の小川」→「昔の子どもが遊んだ小川に、すみれれんげの花が咲いていたんだよ」
  • 「ふるさと」→「山の中で兎を追いかけて遊んだ昔のことを思い出している歌だよ」
  • 「赤とんぼ」→「夕焼けの空にとんぼが飛んでいる、その懐かしい景色を歌っているんだよ」
  • 「夏の思い出」→「尾瀬という湿原に咲く水芭蕉という白い花のことを歌っているんだよ」
  • 「もみじ」→「秋の山が赤や黄色に染まる様子を歌った曲だよ」

一言添えるだけで十分です。

保育士自身がその曲に込められた情景や歴史的背景を理解して歌うと、歌声に「気持ち」が乗り、子どもへの伝わり方が全く変わってきます。専門書や音楽サイトで各曲の背景を5分調べるだけで、保育の質は確実に変わります。

参考リンク:唱歌・抒情歌が子どもの発達に与える効果について

なぜ学校や園では童謡や唱歌を歌うのか?童謡・唱歌から得られる力(oriori)

保育士が押さえておきたい懐かしの唱歌・抒情歌のピアノ伴奏ポイント

唱歌・抒情歌のピアノ伴奏において「伴奏が難しそう」「楽譜が読めるか不安」という声をよく聞きます。しかし、これらの曲の多くはシンプルなコード進行でできており、基本さえ押さえれば初心者でも子どもたちの前で弾けます。

まず「右手メロディー+左手コード(和音)」の基本スタイルを身につけることが最優先です。唱歌の多くはハ長調(Cメジャー)またはト長調(Gメジャー)で書かれており、主要3和音(ドミソ・ソシレ・ファラド)を左手で押さえるだけでも十分な伴奏になります。

これが基本です。

🎹 難易度別おすすめ唱歌・抒情歌(ピアノ初心者向け)

  • ⭐ やさしい(ピアノ初心者):「春が来た」「チューリップ」「海」「雪(雪やこんこ)」
  • ⭐⭐ 標準:「ふるさと」「春の小川」「もみじ」「赤とんぼ」「朧月夜」
  • ⭐⭐⭐ やや難しい:「荒城の月」「夏の思い出」「早春賦」「浜辺の歌

ポイントは「テンポを落としても丁寧に」です。唱歌・抒情歌はゆったりした曲が多く、速く弾こうとしてもたつくより、子どもが歌いやすいテンポで安定して弾く方が圧倒的に効果的です。

「季節行事で使う保育のピアノ伴奏 現場で愛される140曲」(リットーミュージック刊、2018年)などの楽譜集には、保育現場向けに難易度を調整したアレンジが収録されており、コードも一緒に記載されているものが多いです。こうした市販の保育向け楽譜集を活用するのが、著作権上も安心な一番の近道です。

また、JASRAC公式のルールによると「営利を目的としない園内の無料行事(お誕生日会・発表会など)での演奏・歌唱」は著作権手続き不要と明示されています。これなら問題ありません。ただし「発表会の様子をDVDにして保護者に販売する」「園のYouTubeチャンネルに発表会動画を公開する」場合は、それぞれ別途JASRACへの申請が必要です。

ピアノが苦手な保育士には、NHK「みんなのうた」やYouTube上の保育士向けメドレー動画(「ゆめある」チャンネルなど)を教材資料として活用する方法もあります。教室内での上映・鑑賞は著作権上問題のない範囲に収まる場合がほとんどですが、事前に各動画の概要欄で利用条件を確認することを忘れずにしましょう。

参考リンク:学校・教育機関での音楽利用に関するJASRACの公式解説

学校など教育機関での音楽利用について(JASRAC公式)

100歳になっても歌いたい童謡~おじいちゃん・おばあちゃんが選んだ100のうた(シニア層100人への「心はずむ歌」のアンケートから生まれたアルバム)