音楽科指導案・小学校の書き方と幼保小連携のポイントを徹底解説
保育の現場で積み上げてきた音楽経験が、小学校の音楽科指導案づくりにはほとんど活かせていません。
音楽科指導案・小学校での基本的な構成と必須項目
小学校の音楽科指導案は、保育現場の「保育指導案」とは構成が大きく異なります。まず全体像をおさえておきましょう。
小学校の学習指導案には、大きく分けて「①題材名」「②本題材で扱う事項の内容」「③題材の目標」「④題材の評価規準」「⑤指導と評価の計画(全○時間)」「⑥指導上の立場(題材観・児童観・指導観)」「⑦本時案」の7つのブロックが存在します。保育の指導案と比べて、評価規準が非常に詳細に求められるのが最大の特徴です。
題材名は「よびかけっこで森の音楽をつくろう」「曲の気持ちを感じながら歌おう」のように、子どもの学習活動がイメージできる言葉で設定します。単に教材名(例:「とんび」)を書くのではなく、その題材でどのような力をつけるかをひと言で表す意識が重要です。
本題材で扱う事項の内容には、学習指導要領の該当箇所を記号で明記します。たとえば「〔第3学年及び第4学年〕A表現(1)歌唱ア・イ・ウ、〔共通事項〕(1)」のように書くのが原則です。これが明記されていないと、指導案全体の目的が曖昧になってしまいます。〔共通事項〕の記載は必須と覚えておけばOKです。
| 構成要素 | 書くべき内容のポイント |
|---|---|
| 題材名 | 子どもの活動が見えるタイトルにする |
| 扱う事項の内容 | 学習指導要領の記号(ア・イ・ウ)を明記 |
| 題材の目標 | 3観点(知識・技能/思考・判断・表現/態度)で書く |
| 評価規準 | 学習指導要領の文末を「~している」に変えるだけでOK |
| 本時案 | めあて・学習活動・教師の支援・評価の流れで構成 |
本時案の展開では「めあて」を軸に、学習活動・教師の指導と支援・評価規準の3列で構成するのが一般的です。大切なのは、「指導者の立場で書くもの」と「児童の立場で書くもの」を明確に区別することです。学習活動と振り返りは児童視点、指導・支援のコメントは教師視点で書き分けると、実際の授業運営にも直結しやすくなります。
参考になる公式資料はこちらです。岡山県教育委員会が公開している指導案の形式例(PDF)は、項目ごとの注意書き付きで非常に実践的です。
小学校音楽科 学習指導案の形式(例)|岡山県教育委員会(PDF)
音楽科指導案・小学校の3観点と評価規準の作り方
評価規準の作り方でつまずく方がとても多いです。
令和2年度(2020年)から完全実施された新学習指導要領では、評価の観点が「知識・技能」「思考・判断・表現」「主体的に学習に取り組む態度」の3つに整理されました。旧課程では「音楽への関心・意欲・態度」「音楽表現の創意工夫」「音楽表現の技能」「鑑賞の能力」という4観点でしたが、現在は3観点に再編されています。保育士向けの研修資料ではまだ旧観点が残っているものもあるため、参照する資料の年度の確認が必要です。
評価規準の書き方には実はシンプルなルールがあります。学習指導要領の内容の事項の文末を変えるだけで評価規準として使えるのです。たとえば歌唱活動における「知識」の事項「曲想と音楽の構造との関わり、曲想と歌詞の表す情景や気持ちとの関わりについて気付くこと」は、文末を変えて「曲想と音楽の構造との関わり、曲想と歌詞の表す情景や気持ちとの関わりについて気付いている」とするだけで評価規準として成立します。これは使えそうです。
「思考・判断・表現」の評価規準は、その題材で子どもの思考・判断のよりどころとなる「音楽を形づくっている要素」を適切に選んで文中に入れることがポイントです。音楽を形づくっている要素とは、リズム・旋律・速度・強弱・音色・音の重なり・フレーズなどを指します。たとえば「旋律と呼びかけとこたえを聴き取り、それらの働きが生み出すよさや面白さを感じ取りながら、聴き取ったことと感じ取ったこととの関わりについて考え、曲想を感じ取って表現を工夫し、どのように歌うかについて思いをもっている」という形になります。
「主体的に学習に取り組む態度」の評価規準には、その題材の学習内容に具体的に興味・関心をもたせたい事柄を冒頭に入れます。「呼びかけ合って歌う表現に興味をもち、音楽活動を楽しみながら主体的・協働的に歌唱の学習活動に取り組もうとしている」のように、頭に「何に興味をもってほしいか」を明示するのが原則です。この観点の評価は毎時間行うのではなく、題材の最終時間にまとめて記録するのが基本です。
- ✅ 知識・技能:学習指導要領の文末を「~している」に変えるだけで作成可能。
- ✅ 思考・判断・表現:音楽を形づくっている要素(リズム、旋律など)を文中に明示する。
- ✅ 主体的に学習に取り組む態度:文頭に「何に興味をもってほしいか」を入れ、評価は題材最終時間に行う。
文部科学省の国立教育政策研究所が公開している参考資料は、評価規準の作り方と事例が豊富で、初めて指導案を書く方にも非常に参考になります。
新学習指導要領に対応した学習評価(小学校 音楽科)|文部科学省・文化庁(PDF)
音楽科指導案・小学校の領域別(歌唱・器楽・音楽づくり・鑑賞)の指導のポイント
小学校音楽科の内容は「A表現」と「B鑑賞」の2領域と〔共通事項〕で構成されています。「A表現」はさらに「歌唱」「器楽」「音楽づくり」の3つに分かれています。指導案を書く際は、この構造を正しく把握した上で、どの領域のどの事項に焦点を当てるかを明確にすることが大切です。
歌唱領域では、曲の気持ちや情景を声の出し方やブレスで表現する力を育てます。指導案の「本時案」では、まず範唱を聴かせて曲全体のイメージを持たせ、「どのように歌いたいか」という思いを児童自身が持てるよう促す流れが一般的です。低学年では自然で無理のない声で歌うこと、高学年では呼吸や発音の工夫まで指導内容が広がります。歌唱が基本です。
器楽領域では、リコーダーや鍵盤ハーモニカ、打楽器などを使って演奏する技能と、楽器の音色や響きを生かした表現を組み合わせた指導を行います。指導案では、楽器の音色と演奏の仕方に関する「知識」と「技能」を一体的に評価できるよう、評価規準を統合して設定することが文部科学省の資料でも推奨されています。
音楽づくり領域は、保育士にとって特になじみ深い活動と重なる部分が多く、注目すべき領域です。音遊びや即興的な表現から始まり、まとまりのある音楽をつくる活動へと発展していきます。小学校の指導案では「音楽をつくる技能を評価するのではなく、思いや意図をもっているかどうかを評価する」という重要な視点があります。つまり演奏のうまさではなく、考えのプロセスを見るということです。保育現場での「音遊び」も同様の考え方で行われているため、保育士の経験がここで直接活かせます。
鑑賞領域では、音楽を聴いて感じ取ったことや曲の特徴を言葉で表す活動が中心となります。「きれいだと思う」という主観的な感想で終わらせず、「どの部分がどの音楽的要素によって、どのように感じられたか」という〔共通事項〕との接続を意識した指導が求められます。鑑賞と歌唱は1時間の授業の中で組み合わせることで、集中力の持続にも効果があると実践研究で示されています。
第2章 各教科 第6節 音楽(小学校学習指導要領)|文部科学省
音楽科指導案・小学校における〔共通事項〕の活用法
〔共通事項〕は音楽科指導案の中でも、最も誤解されやすい部分のひとつです。
〔共通事項〕とは、「A表現」と「B鑑賞」のすべての活動において共通して指導する内容として設けられたものです。平成20年の学習指導要領改訂で新設されました。内容はシンプルで、「音楽を形づくっている要素を聴き取り、それらの働きが生み出すよさや面白さ、美しさを感じ取りながら、聴き取ったことと感じ取ったこととの関わりについて考えること」(事項ア)と、「音符・休符・記号や用語について、音楽における働きと関わらせて理解すること」(事項イ)の2つから成ります。
〔共通事項〕が重要なのは、歌唱でも鑑賞でも音楽づくりでも、子どもが音楽の「どこを聴いて何を感じたか」を言語化できる活動につなげるための足場になるからです。指導案の「評価規準(思考・判断・表現)」は、必ずこの〔共通事項〕の事項アと表現領域の事項アを組み合わせて作成します。2つの事項を合体させるイメージです。
実際の指導案作成で〔共通事項〕を活用する手順は次の通りです。まず、今回の題材でよりどころにしたい音楽を形づくっている要素(例:旋律・リズム・強弱など)を1〜2つ絞ります。次に、その要素が歌唱や鑑賞の学習活動の中でどのように使われるかを明確にします。最後に「○○(要素名)を聴き取り……考え……思いをもっている」という形で評価規準に落とし込みます。
- 🎵 リズム:拍の流れや繰り返しのパターンに気づく活動に活用
- 🎵 旋律:音の高低・上がり下がりと歌詞の表す情景を結びつける活動に活用
- 🎵 強弱:曲の盛り上がりや静けさを体全体で感じ取る活動に活用
- 🎵 音色:楽器の種類や声の出し方との関わりを探る活動に活用
保育の現場でも「静かな曲のときはそっと動こうね」「ここで音が高くなったね」といった声かけを普段から行っているはずです。その感覚的な体験が、〔共通事項〕の基礎と実はほぼ重なっています。保育での音楽体験は土台として機能します。
保育士が知っておきたい幼保小連携と音楽科指導案の接点
保育士が小学校の音楽科指導案を学ぶ意義は、単に知識を増やすことだけではありません。
幼保小連携の必要性は、平成10年の小学校学習指導要領・幼稚園教育要領の改訂から明文化されており、令和の新指導要領でも「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿」を踏まえた小学校教育の展開が明示されています。つまり国の方針として、保育と小学校教育をつなぐことは制度的に求められているのです。
岐阜女子大学の水野伸子氏の研究(2006年)によると、保育士49名を対象にしたアンケートでは、3歳児には「速さの雰囲気を身体で感じる力」、4歳児には「友達と音楽イメージを共有する力」、5歳児には「音をそろえてアンサンブルしようとする力」が特徴的に育まれることが確認されています。この発達の道筋が、小学校音楽科の各学年の指導内容と連続しています。たとえば5歳児でのアンサンブル経験は、小学校低学年の「歌唱(合唱や重唱)」や「器楽(合奏)」の活動に直接つながっています。
一方で、研究の中では「保育での学びは考慮せず、小学校では一から積み上げようとする教員の姿勢」が連携の壁になっていることも指摘されています。これは保育士の側から見ても、もどかしさを感じる部分ではないでしょうか。
保育士が小学校の音楽科指導案の構造を知っておくことは、接続期の子ども支援において具体的な会話ができるという実用的なメリットがあります。たとえば就学前支援会議や引き継ぎの場で「この子はリズムの変化に敏感に反応して体全体で感じ取れる」「合わせて歌う経験を重ねてきた」といった情報を、小学校の音楽科の言語(〔共通事項〕・学習指導要領の記述)に近い形で伝えると、担任教師に正確に届きやすくなります。幼保小連携は言葉をそろえることから始まります。
「幼保小の連携」において音楽指導に求められる今日的課題及び実践的試論(岐阜女子大学・水野伸子)PDF

音楽教育研究報告 (33) 生活や社会の中の音楽・音楽文化と豊かに関わる資質・能力の育成 ~「八戸三社大祭」を中心とする郷土の音楽の鑑賞指導と教材開発~
