混声発声と歌で子どもの声を育てる保育士の実践法

混声発声と歌で子どもの声と保育士の喉を守る方法

地声で元気よく歌えば歌うほど、あなたの喉は壊れていきます。

この記事のポイント
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混声発声(ミックスボイス)とは何か

地声と裏声の中間にある発声法。子どもの歌の約8割はミックスボイスか裏声で歌うべき音域を含んでおり、地声一辺倒では喉を痛めるリスクが高まります。

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保育士の8割が3年以内に音声障害を経験

研究データが示す通り、保育士は職業的な声の酷使が原因で音声障害を発症しやすい職業です。混声発声の習得が喉へのダメージを大幅に減らすことができます。

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子どもの歌い方を変える保育士の声の使い方

保育士がお手本として混声発声を使って歌うことで、子どもたちも自然に喉に優しい発声を学びます。指導法と合わせて実践的なポイントを解説します。

混声発声とは何か?歌における地声・裏声・ミックスボイスの基礎

 

保育士として毎日子どもたちと歌う中で、「地声で思い切り歌っている」という方は少なくありません。しかし実は、その歌い方が喉を傷める最大の原因になっている可能性があります。ここではまず、混声発声(ミックスボイス)の基本的な仕組みを整理します。

声の出し方には大きく3種類あります。普段話すときに使う「地声(チェストボイス)」、高くて柔らかい「裏声ファルセット)」、そしてその中間に位置する「混声発声・ミックスボイス(ミドルボイス)」です。地声は声帯が太く短く振動することで生まれ、力強い響きを持ちますが、高音域を無理に地声のまま出そうとすると声帯に非常に大きな負荷がかかります。裏声は声帯が薄く引き伸ばされた状態で振動する声で、喉への負担は小さいのですが、音量が出にくくなります。

混声発声は、声帯を伸ばしながらも適度な閉じを保ち、地声の力強さと裏声の軽さを両立させる発声法です。つまり喉に負担をかけずに高音を出せる、という特徴があります。

有明教育芸術短期大学の松田扶美子氏が81曲の子ども向け楽曲を分析した研究(2022年)では、最も多かったカテゴリが「ミックスボイスと裏声」(25曲)であり、2番目が「地声・ミックスボイス・裏声の組み合わせ」(21曲)でした。つまり、保育現場で歌われる童謡や子どもの歌のほとんどが、混声発声や裏声を使う音域を含んでいるのです。地声だけで歌えると思っているのは大きな勘違いです。

さらに同研究では、「一点ハより低音は地声、2点ハより高音は裏声、その間の1オクターブはミックスボイスが適している」という目安も示されています。これは保育士が歌を教える際に非常に実用的な指針です。地声が適しているのはかなり低い音域のみ、ということになります。

発声の種類 声帯の状態 主な使用曲例 喉への負担
地声(チェストボイス) 厚く短く振動 おなかのへるうた 高い(高音時)
混声発声(ミックスボイス) 中間的な振動 森のくまさん・まつぼっくり・幸せなら手をたたこう 中程度
裏声(ファルセット) 薄く引き伸ばされて振動 ゆりかごのうた・赤とんぼ翼をください 低い

参考資料:子どもの歌の発声法を分類した学術論文。どの曲にどの発声法が適しているかの分類表を掲載しています。

子どもの歌の歌い方について(日本音楽教育メディア学会)

保育士が歌で喉を傷める理由と混声発声が喉を守る仕組み

保育士は声を酷使する職業の代表です。保育室での騒音レベルは70〜90dBに達することが多く、これは騒々しい街頭や地下鉄の車内に相当します。その環境の中で保育士は一日中、子どもたちに話しかけ、歌い、呼びかけを繰り返します。

研究では驚くべき数字が報告されています。保育士の8割は、勤務開始後3年以内に何らかの音声障害を経験するとのことです。また学校教員も含めた職業的音声酷使者全体では、約50%が声のかすれや咽喉頭違和感を訴えているという報告もあります(フリー・ランゲージ・ハウス財団、平成23年度研究)。これが保育士の現実です。

声帯結節は、声帯同士が過剰にぶつかり合うことで生じる硬いコブ状の組織変化です。歌手・教師・保育士に多く見られる病気であり、一度できると声のかすれが続き、最悪の場合は手術が必要になることもあります。地声を高音域まで無理に引き上げて歌うことは、この声帯結節を引き起こす最大のリスク行為とされています。

混声発声が声帯を守れる理由は、声帯の振動のパターンにあります。地声で高音を出そうとすると、声帯にかかる圧力が急激に増大し、擦れ合いが激しくなります。一方、混声発声では声帯が適度に引き伸ばされ、接触面積が小さくなるため、繰り返しても傷つきにくい状態が保たれます。つまり「喉に優しく歌える」ということです。

では、日々の保育でどのように混声発声を意識すればよいのでしょうか。まずは「眉間がビリビリ振動する感覚」を目安にするのが有効です。口を軽く閉じて高音の「ん」とハミングした際に眉間に振動を感じたら、鼻腔共鳴が使えている証拠です。その感覚を保ちながら歌い始めることで、自然に混声発声に近い発声になります。これなら保育の合間にもすぐ試せます。

参考資料:保育士の音声障害の発症率や職場環境との関係を検討した研究。職業的リスクの高さを示しています。

学校教師の音声障害の現状と声の健康管理(フリー・ランゲージ・ハウス財団)

混声発声を使った歌の練習法:換声点克服と日常ボイトレ

混声発声を習得するうえで最大の壁が「換声点(かんせいてん)」です。換声点とは、地声から裏声に切り替わるときに声が「ひっくり返る」感覚が生まれるポイントのことで、女性では概ねミファ〜ソ(mid2F〜G)付近、男性ではもう少し低い音域に存在します。この切り替えがスムーズにできないと、歌の途中で声が裂けたような音になってしまいます。

換声点を自然に乗り越えるためのトレーニングとして効果的なのが「メッサ・ディ・ヴォーチェ」という練習法です。方法はシンプルで、換声点付近の音を地声で「アー」と発声し、そのまま音程を保ちつつ徐々に裏声へ移行させます。移行は強引に切り替えるのではなく、「溶け込ませる」イメージで行うことがポイントです。

もう一つ保育士におすすめなのが、リップロール練習です。唇をプルプルと振動させながら音階をなめらかに行き来する練習で、声帯の力みを取り喉をリラックスさせる効果があります。1〜2分でできる手軽なウォームアップで、朝の準備時間や子どもたちの午睡の時間に実践できます。これは使えそうです。

また、有明教育芸術短期大学の研究では、楽譜の歌詞に「地声は緑・ミックスボイスは黒・裏声は赤」とマーカーで色分けすることで、視覚的に発声の切り替えを意識できるようになり、学生の歌い方が改善したと報告されています。保育士自身が楽譜を色分けしておくことで、毎回歌うたびに自然と発声の切り替えを意識できるようになります。

  • 🟢 緑(地声):一点ハ(C4)より低い音域の歌詞に塗る
  • ⚫ 黒(ミックスボイス):一点ハ〜二点ハ(C4〜C5)の音域に塗る
  • 🔴 赤(裏声):二点ハ(C5)より高い音域の歌詞に塗る

たったこれだけの準備が、発声の精度を大きく変えます。発声法を視覚でとらえることが条件です。ハミングやリップロールは毎日続けることが大切なので、「朝の会の前に必ず1回」など、保育の流れに組み込んでルーティン化することをお勧めします。

混声発声のお手本が子どもの歌声を変える:指導への応用

保育士が混声発声を習得するメリットは、自分の喉を守るだけにとどまりません。子どもたちへの歌唱指導にも直接的な効果があります。子どもは周囲の大人の声を聞いて発声を学ぶからです。

幼児は一般的に地声と裏声の中間的な「頭声発声(とうせいはっせい)」が自然な状態とされています。しかし保育士が常に地声でがなり気味に歌っていると、子どもたちもそれをお手本にして張り上げる発声を習慣化させてしまうリスクがあります。保育士の声は、子どもの発声習慣を形成する「音の環境」そのものです。

実際の指導でも、「大きな声で歌おう」という声かけは控えるべきとされています。子どもはその言葉を聞くと、喉を絞って声を張り上げてしまうからです。代わりに「遠くのお友達まで声を届けるイメージで」「フワッと軽い声で」といった言葉がけが効果的です。厳しいところですね。

混声発声のお手本を示す際は、大人が裏声や混声に近い声でゆっくりと歌い、子どもたちに「先生みたいにやさしい声で歌ってみてね」と促す方法が有効です。note「子どもたちの歌い方が変わる!歌唱指導」の著者・misa氏も、大人が裏声で「ポッポー!」とお手本を見せるだけで子どもが優しい声を出せるようになることを報告しています。

子どもが自然に混声発声に近い声を引き出せる導入として、以下のような手順が参考になります。

  • 🎈 まずハミングで曲を通して歌い、口の形より「声の柔らかさ」に集中させる
  • 🎈 「ニャーン」「ホーホー」などの動物の鳴き声で音程を出す発声遊びを取り入れる
  • 🎈 保育士が混声発声・裏声でお手本を見せてから子どもに同じように歌わせる
  • 🎈 「喉が痛くなる声は間違いだよ」と言葉で伝え、声を大切にする意識を育てる

参考資料:保育士の発声指導と子どもの歌唱指導の実践例が具体的に紹介されています。

子どもたちの歌い方が変わる!歌唱指導①(note/misa@ブランク有保育士)

保育士が知っておくべき混声発声と喉ケアの独自視点:「声の音環境設計」という考え方

ここでは、他の記事ではあまり取り上げられていない視点を紹介します。それは「保育士自身の声を、保育室の音環境の一部として設計する」という考え方です。

保育室は非常に騒がしい空間です。先述の通り、活動中の保育室の騒音レベルは70〜90dB、子どもの一斉の歌や叫び声の際には90〜120dBに達することもあります。この中で「声を張って大きく歌おう」とするのは、悪循環のスパイラルを生みます。保育士が大きな声を出す→子どもたちの声も大きくなる→さらに大きな声が必要になる、という流れです。この連鎖が「3年で8割が音声障害を経験する」という統計の背景にある構造的問題です。

スウェーデンでは、保育室の等価騒音レベルが63〜68dBに保たれており、保育士が大きな声を出す必要がなく音声障害を経験することも少ないと報告されています(グッピー保育園・木下秀美氏の研究、平成29年)。日本とは環境の基準が根本から違うのです。

ではどうするか。混声発声で「通る声」を作ることがそのまま解決策になります。混声発声・鼻腔共鳴を活用した声は、音量を上げなくても遠くまで届きやすいという特性があります。保育室という音環境の中で自分の声を「響かせる」ことができれば、無理に音量を上げる必要がなくなります。つまり大声で歌わなくても、子どもたちに届く声を作れるということです。

この「声を通す・響かせる」ための日常ケアとして、以下が有効です。

  • 💧 水分補給はこまめに(カフェイン入り飲料は粘膜を乾燥させるためNG)
  • 😷 外出時・睡眠時のマスク着用で喉の乾燥を防ぐ
  • 🌡️ 蒸しタオルを鼻に当てて深呼吸し、鼻腔と声帯を保湿する
  • 🤫 休日は極力声を出さず、声帯を休める
  • 🎤 朝の発声前にエッジボイス(「あ゛あ゛」という細かい振動)で声帯を目覚めさせる

エッジボイスは声帯がしっかり閉じている状態を作るトレーニングで、声枯れや声のかすれを予防する効果があります。毎朝続けることが基本です。保育が始まる前に洗面台の前で1〜2分行うだけで、声帯の準備が整います。

参考資料:保育室の音環境と保育士の音声障害の関係を実証的に報告しており、具体的な改善策も記載されています。

子どもをとりまく音〜ここちよい音を届ける〜(グッピー保育園・木下秀美)

参考資料:保育士の喉ケアに関する実践的なセルフケア方法が具体的に解説されています。

保育士さんが毎日の発声で気をつけること(ちひろボイス&ボーカルスクール)

弓場徹メソッドによる新・発声指導法 第3巻「歌う筋肉強化トレーニング」~混声用(中学校・高等学校)指 [VHS]