コダーイメソード歌でわらべうたと音感を育てる保育の実践

コダーイメソードの歌で保育の音感教育を実践する方法

ピアノを使って歌わせると、子どもの音感が育ちにくくなります。

この記事のポイント
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コダーイメソードの歌の核心

ピアノの伴奏に頼らずアカペラで歌うことが、子どもの純正調の音感と「自分の耳」を育てる最大の鍵です。

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ハンドサインとソルフェージュの効果

ドレミを手の形で示すハンドサインと移動ド唱法を組み合わせることで、楽譜が読めない幼児でも音の高低を体で理解できます。

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日本のわらべうたがそのまま教材になる

「あんたがたどこさ」「かごめかごめ」など身近なわらべうたは、コダーイが重視したペンタトニック(5音音階)で構成されており、今日からすぐに保育に活用できます。

コダーイメソードの歌とは何か:基本思想とわらべうたの位置づけ

 

コダーイメソードは、ハンガリーの作曲家音楽教育家であるコダーイ・ゾルターン(1882〜1967年)が提唱した音楽教育システムです。正式には「コダーイ・システム」や「コダーイ・アプローチ」とも呼ばれ、現在は世界60カ国以上の音楽教育現場で採用されています。

「歌うことこそが音楽の基礎である」というのが、コダーイの核心にある考え方です。そして、その歌の出発点として最も重要視されたのが、自国のわらべうたでした。コダーイは音楽を「第二の母国語」と定義し、子どもが母国語を学ぶように、まず自分が生まれた土地の歌から音楽教育を始めるべきだと訴えました。つまり日本であれば、「チューリップ」のような創作童謡よりも、「かごめかごめ」「あんたがたどこさ」といった伝承のわらべうたこそが、最初の教材にふさわしいということになります。

重要な点が一つあります。コダーイは1941年に論文『保育園の音楽』を発表し、「感受性が豊かな子どものうちに質の良い音楽体験をしなかった人間は、生涯にわたって音楽の恩恵を受けることができなくなる」と述べました。つまり保育園・幼稚園の時期こそが、音楽教育の最重要ステージだという主張です。これが保育士にとってコダーイを知ることが大切な理由の一つです。

コダーイメソードは音楽家を育てるための早期英才教育ではありません。リズムが注意力・集中力・決断性を育て、旋律が感覚世界の扉を開き、歌うことが身体の多様な部分の運動になり、母国語能力を育てる——そうした多面的な人間教育のツールとして、歌を位置づけているのです。

教育法 特徴 歌/ピアノの扱い
コダーイメソード わらべうた・ソルフェージュアカペラ中心 歌が主役、楽器は後回し
リトミック ピアノの音に合わせた身体運動 ピアノ伴奏が中心的役割
オルフ・メソッド リズム・打楽器即興演奏 楽器演奏と歌を並列で扱う

つまり「三大音楽教育法の中でも、歌を最上位に置く」のがコダーイの独自性です。

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コダーイメソードの歌がアカペラである理由:ピアノより純正調が大切

保育の現場でわらべうたを歌うとき、ピアノで伴奏をつけていませんか。それが実は逆効果になっているかもしれません。

コダーイメソードでは、歌はすべてアカペラ(無伴奏)で行うことが原則です。この原則の背景には、「平均律(ピアノが採用している音律)」と「純正調」の違いがあります。

ピアノは12オクターブを数学的に均等に割った平均律で調律されています。これは合奏しやすい便利な音律ですが、複数の音を同時に鳴らした際に、わずかに「濁り」が生じます。一方、人間の声が自然に出す音程は純正調に近く、他の人の声と合わせたときに「美しく共鳴」します。純正調が原則です。

コダーイは、ピアノの音に耳を合わせる習慣をつけることで、子どもが自分の耳と声で音程を作る力を失ってしまうことを懸念しました。アカペラで歌い続けることで、子どもは自分の声を聴きながら音程を調整し、周囲の声とも調和させる「内的聴感」を育てます。これは音楽的に大きなメリットです。

保育士にとって実践上の重要なポイントは次の通りです。

  • 🎤 歌の導入時に音程のきっかけを与えるのは「保育士自身の声」で行う
  • 🎤 子どもが音を外しても、すぐにピアノで正解音を示さない——まず子ども自身に気づかせる時間を設ける
  • 🎤 集団での「斉唱」ではなく、個々の声が聴き合える「少人数グループ」での歌唱を取り入れる
  • 🎤 保育士自身が「清潔に(音程正確に)歌う」ことが、子どもへの最良のモデルになる

「ピアノが弾けない保育士でもコダーイメソードは実践できる」というのは、まさにこの点から来ています。いいことですね。むしろアカペラの方がコダーイに忠実であるという意味で、ピアノが得意でない保育士にとってもこのメソードは親しみやすい教育法といえます。

ただし、1点注意があります。コダーイメソードの考えでは「楽器に触れるのは、リズムと階名で楽譜を流暢に読めるようになってから」とされています。楽器を使った活動を行う場合は、この原則を踏まえた順序設計が必要です。

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コダーイメソードの歌で使うハンドサインと移動ド唱法の実践方法

コダーイメソードの歌の実践において、保育士が現場で直接使える具体的な技法が「ハンドサイン」と「移動ド唱法」です。

ハンドサインとは、ドレミファソラシドのそれぞれの音に対応した「手の形」を使って音の高低を視覚的に示す方法です。たとえば「ド」は手のひらを下に向けて水平にし、「レ」はやや斜めに傾け、「ミ」はほぼ水平に……というように、音が上がるにつれて手の位置も上がっていきます。子どもはこの「手の動き」を見ることで、音の高低を体感として理解できます。

なぜこれが効果的なのでしょうか。幼児は抽象的な「ドレミ」という言語記号だけでは音の上下関係を把握しにくいですが、保育士の手が上下に動く様子を追うことで、「音が高い=手が上にある」という直感的なイメージが生まれます。楽譜が読めない3〜4歳児にも十分に通用する方法です。これは使えそうです。

移動ド唱法とは、どの調の曲であっても、その調の主音を「ド」として歌う方法です。たとえばハ長調でもイ長調でも、その調の中心音を「ド」と読んで階名で歌います。これにより、調性を感じながら歌う力(移調感覚)が自然に身につきます。固定ド唱法(常にCをドと読む方法)と比べて、「この曲の雰囲気」「この調の色合い」を感じ取る耳が育ちやすいとされています。

保育現場でのハンドサイン実践のポイントをまとめます。

  • 🤲 最初は「ソ・ミ」の2音だけで歌える短いわらべうたから始める(例:「オチャラカホイ」の出だし)
  • 🤲 保育士がハンドサインを見せながら歌い、子どもが「真似して歌う」歌い返し遊び(模唱)から導入する
  • 🤲 慣れてきたら「サイレント・シンギング」——保育士が合図を出した部分だけ声を出さずに心の中で歌わせる——を加えると集中力が高まる
  • 🤲 ハンドサインを使ったクイズ形式(「先生が出した手の形の音は何?」)で楽しく音感を鍛えられる

移動ド唱法に慣れると、子どもは調が変わっても「ドレミで歌える」感覚を自然に得ます。移動ド唱法が条件です。長年音楽教育を研究している保育者養成校の調査でも、コダーイメソードのわらべうたは「音楽経験の浅い学生にとっても音楽の基礎を学べる有益な教育法」と評価されており、これは保育士自身の音楽力向上にも直結します。

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コダーイメソードの歌に使うわらべうたの選び方:ペンタトニックと5音音階が鍵

コダーイメソードの歌の教材選びで最も重要なキーワードが、「ペンタトニック(5音音階)」です。コダーイは、子どもの声帯と音感の発達段階に合わせた音楽として、半音を含まない5つの音で構成された歌を最初の教材とすることを強く推奨しました。

なぜ5音音階なのでしょうか。成長途上にある子どもの声帯は、7音全音階の全ての音を正確に出すことが難しく、特に半音の音程は不安定になりやすいです。ペンタトニックの5音(ド・レ・ミ・ソ・ラなど)は音の跳躍が素直で、「清潔に歌うことがやさしい」とコダーイは表現しています。コダーイの言う「清潔」とは、純正律で音程が美しく整っている状態を指します。

注目すべき点は、日本のわらべうたの多くがこのペンタトニックで構成されているという事実です。お茶の水女子大学の文献資料によれば、「日本の伝統音楽の民謡音階も半音がないペンタトニックであるため、イギリス・フランス・ドイツよりも、コダーイシステムを取り入れるのに日本で一番意義がある」とまで述べられています。意外ですね。

日本のわらべうたでペンタトニックに当てはまる代表的な歌を挙げると。

  • 🎵 「チューリップ」(ドレミミ・ドレミ……で構成された5音音階の代表例)
  • 🎵 「かごめかごめ」(ミファソラ中心の音域が狭い伝承うた)
  • 🎵 「あんたがたどこさ」(拍打ちと組み合わせたリズム感習得にも最適)
  • 🎵 「いちじくにんじん」(鞠つきの動きと歌が連動する体感型わらべうた)
  • 🎵 「だるまさん」「大きな栗の木の下で」(動作つきで0歳児から5歳児まで対応)

コダーイメソードの考えでは、この5音の習得が「音楽の語彙」の基盤になります。5音をしっかり歌える力がついた後は、上下から半音を加えていくことで7音全音階へとスムーズに移行できるとされています。つまり「ペンタトニックからスタートする」ことは近道です。

保育現場での選曲の実践的なコツとして:年齢別に「使える音の数」の目安を持つと良いでしょう。0〜1歳であれば2〜3音(ソ・ミ・ラなど)の音域が狭いわらべうた、2〜3歳には4〜5音のペンタトニック全体、4〜5歳には6〜7音を使う民謡的なわらべうたへと段階的に広げていくと、コダーイの発達段階論に沿った保育になります。

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コダーイメソードの歌を保育に取り入れる:年齢別の歌遊び実践と保育士が押さえるべき独自視点

コダーイメソードの歌の実践は、年齢段階に応じて段階的に進めることが大切です。ハンガリーの保育園では入園年齢が3歳からですが、日本では0歳児クラスから取り入れられている園も多くあります。

0〜1歳:聴かせることが出発点

この時期の子どもにとって、歌の実践は「聴かせること」から始まります。コダーイは「赤ちゃんが生まれる前から、母親がお腹の子どものために子守歌を準備することが音楽教育のスタートだ」と述べました。保育士の温かい肉声での子守歌・わらべうたを毎日繰り返すことが、最初のコダーイ実践です。この段階で重要なのは、CDやスマートスピーカーではなく、「生の人間の声」で歌うことです。

2〜3歳:模倣と歌い返しが中心

2〜3歳になると、保育士の歌を真似して歌い返す「模唱(もしょう)」の遊びが有効になります。保育士が短いフレーズを歌い、子どもが同じメロディを返す。これがコダーイメソードの「歌い返し遊び」の基本形です。歌い返し遊びが原則です。

この年齢では「ハミングで歌った曲が何かを当てる・歌当て遊び」も効果的です。歌詞の手がかりなしにメロディーだけで曲を認識する力は、聴感・内的聴感の基礎を育てます。

4〜5歳:集団での歌遊び・音楽的遊びへ

4〜5歳になったら、集団でわらべうたを遊ぶ時間を毎日1回設けることが理想とされています。鬼ごっこ(「あぶくたった」「かごめかごめ」)や集団遊び(「なべなべそこぬけ」)など、動きのあるわらべうたで拍感・リズム感を体で覚えます。

週1〜2回は、歌遊びの後に「音楽的遊び」を加えることも推奨されています。具体的には、リズム打ち、拍打ち遊び、サイレント・シンギング(声を出さずに心の中で歌うパート)などです。

ここで、保育士が押さえておくと差がつく独自の視点を一つ加えます。コダーイメソードの歌の実践でよく見落とされがちなのが、「保育士自身の歌声の質」という視点です。コダーイは「子どもへの最良の音楽教材は保育士の生きた歌声である」と繰り返し主張しました。子どもは保育士の音程・表情・歌い方をそのままモデルとして吸収します。

つまり、保育士が「だいたいの音程で、慌てて歌う」習慣を持っていると、子どもはその不安定な音程を「正解の音程」として学習してしまうリスクがあります。保育士自身が月に1〜2回でも自分の歌声を録音して聴き返したり、コダーイ芸術教育研究所などが開催する講座・研修を受けることが、長期的に見て保育の質向上に直結します。

コダーイ関連の保育研修・参考書については、「コダーイ芸術教育研究所」が関連書籍を多数刊行しており、書店やAmazonで確認できます。保育士が自分のペースで学ぶ際の入門書として、『コダーイ・システムとは何か』(フォライ カタリン著/全音楽譜出版社)は体系的な知識を得るのに適した一冊です。

  • 📚 0〜2歳向け:「わらべうたであそぼう―乳児のあそび・うた・ごろあわせ」(コダーイ芸術教育研究所)
  • 📚 3〜4歳向け:「いっしょにあそぼうわらべうた 3・4歳児クラス編」(コダーイ芸術教育研究所)
  • 📚 保育士の自己研鑽向け:「コダーイ・システムとは何か」(全音楽譜出版社)

コダーイメソードの歌の実践は、高価な教材も特別な楽器も必要ありません。保育士自身の「声」と「わらべうたの知識」があれば、明日の保育からすぐに始められます。コダーイが提唱した音楽教育の本質は、「今日ここにいる大人が、子どもに直接歌って聴かせること」——その一点にあります。

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