ほたる来い歌の歌詞と意味・子どもの発達を育てる保育での遊び方
「ほたるこい」の作詞・作曲者は三上留吉さんだと思って子どもに教えると、実は不正確な情報を伝えたことになります。
ほたる来い歌詞の全文と「つんばくら」など難解フレーズの意味
保育の現場でよく歌われるのは「ほ ほ ほたるこい/あっちのみずは にがいぞ/こっちのみずは あまいぞ/ほ ほ ほたるこい」という短い1番だけ、という保育士さんが多いのではないでしょうか。実はこの歌には続きがあり、全体を把握しておくと子どもへの説明がぐっと豊かになります。
全歌詞をまとめると以下のとおりです。
| フレーズ | 意味・解説 |
|---|---|
| ほ ほ ほたるこい | 「ほ」は蛍の光が瞬く様子を表した擬音 |
| あっちのみずは にがいぞ | 「酸性雨を含む夜露」という説も |
| こっちのみずは あまいぞ | 弱アルカリ性の清らかな水という説も |
| ほたるのおとさん かねもちだ どうりでおしりが ぴかぴかだ | 蛍の発光をユーモラスに表現 |
| ひるまはくさばの つゆのかげ よるはぼんぼん たかじょうちん | 昼と夜の蛍の行動を描写 |
| 天ぢくあがりしたれば つんばくらにさらわれべ | 「天に上がれば燕(つばめ)にさらわれるぞ」という意味 |
| あんどのひかりを ちょとみてこい | 「行灯(あんどん)の光」=昔の室内照明 |
特に「天ぢくあがりしたれば つんばくらにさらわれべ」はチンプンカンプンに見えます。「天ぢく」は「そら(天空)」、「つんばくら」は「つばめ」を古い方言で表した言葉です。つまり「昼間に空高く飛んでしまったら、燕に捕まえられてしまうぞ」という警告になっています。
蛍に向かって「ちゃんと隠れて安全に生きなよ」と語りかけているわけです。昆虫の天敵である燕を具体的に挙げているあたり、子どもたちが日常的に自然と近かった時代ならではの表現ですね。
「ぼんぼん」も子どもが誤解しやすい言葉で、ここでは「お金持ちの家の坊ちゃん(ぼんぼん)」のように光り輝いている、という意味でユーモラスに使われています。「ほたるのおとさんかねもちだ どうりでおしりがぴかぴかだ」という歌詞とセットで、子どもたちは笑いながら蛍の発光という自然現象を受け入れられるようになっています。
「あんどのひかりをちょとみてこい」の「あんどん」は江戸時代からある室内照明のこと。電灯がない時代、暗い夜に行灯の光は蛍にとって仲間の光に見えたかもしれない、という詩的なイメージを表しています。全歌詞を子どもに教えるときは、この「時代背景」を一言添えるだけで理解がぐっと深まります。
参考:歌詞の全文と各フレーズの解説が丁寧にまとめられています。
ほたる来い歌の意外な起源と作詞作曲者が「不明」である理由
保育士の多くが「ほたるこい」の作詞作曲者は三上留吉さんだと思っています。確かにそう紹介されている資料も多いのですが、これは正確ではありません。
同志社女子大学の吉海直人特任教授(日本語日本文学科)によれば、三上留吉さんは鳥取県出身の小学校教員(1897〜1962)で、全国各地に伝わる蛍狩りのわらべうたを採譜・整理した人物です。つまり「作った人」ではなく「まとめた人」に近い存在でした。教科書などに掲載されているものも、三上さんが各地の歌を採譜してまとめたものが元になっており、作詞者も作曲者も正確には不明というのが研究者の見解です。
🌟 三上留吉さんについての整理
- 出身地:鳥取県
- 職業:小学校教員
- 活動内容:野外ソング・ゲームソング、民謡・小唄の収集と創作
- 役割:作詞作曲者ではなく、各地のわらべうたを採譜・整理した人物
また、「ほたるこい」の歌詞は東北地方のわらべ歌をベースにしているとされています。文献上の確認では、1800年代初頭(化政期)に栗田葛園が水戸地方のわらべ唄を集めた『弄鳩秘抄(ろうきゅうひしょう)』に「螢とりの歌」として記録があるのが最古の部類です。さらに1831(天保2)年刊行の小寺玉晃の『尾張童謡』にも同系統の歌詞が登場しており、江戸時代にはすでに広く歌われていたとみられています。
つまり「ほたるこい」は、少なくとも江戸時代から歌い継がれてきた民俗文化の結晶です。「誰かが作った歌」ではなく、「日本中の子どもたちがつないできた歌」と捉えるのが正しい見方です。これは子どもへの説明でも非常に大切な視点になります。
その後、昭和16年(1941年)には国民学校芸能科音楽の教科書「ウタノホン上」にも「作者不詳」として掲載されました。現在、音楽として広く知られているバージョンは作曲家・小倉朗による編曲版で、あくまで「編曲者」であり「作曲者」ではありません。つまり「作詞:わらべ歌、作曲:わらべ歌」が正確な表記ということです。
参考:「ほたるこい」の作者・起源・歌詞の意味について研究者が詳しく解説しています。
ほたる来い歌の地域バリエーション・全国415曲の蛍狩りの唄
「ほたるこい」は日本全国で歌われてきましたが、地域によって歌詞や旋律が大きく異なります。これは非常に意外な事実です。
全国ホタル研究会の資料などによれば、北原白秋が編集した『日本伝承童謡集成』(天体気象・動植物唄編)には螢狩りの唄が415曲も収録されています。岐阜県内だけで260曲が採譜されたという記録もあります。コンビニの数が全国に約56,000店あるとすれば、都道府県ひとつあたり平均1,200店弱という計算になりますが、それと同じように「ほたるこい」は各地域に根ざした多様なバリエーションを持っているのです。
地域ごとの特徴的な歌詞を見てみましょう。
| 地域 | 歌詞の特徴 | 分類 |
|---|---|---|
| 秋田県 | 「ほうほう螢こい あっちの水は苦いぞ こっちの水は甘いぞ」 | 「あっちの水」形式 |
| 東京都 | 「ほうたるこい 山見てこい 行燈の光を一寸見てこい」 | 「山見て来い」形式 |
| 栃木県 | 「ホーホーほたるこい 螢の親父は金持ちだ 夜は提灯高のばり 昼間は草葉の露のんで」 | 「昼は草葉の露のんで」形式 |
| 佐賀県 | 「ホホ螢こい 谷川の水呉りゅう」 | 「水呉りゅう」型 |
| 宮崎県 | 「ほたるどんの嫁どりは あんどんもいらぬ ちょうちんもいらぬ けつのあかりでとんで来い」 | 独自形式 |
| 沖縄県 | 「じんじん(=ほたるの幼児語)」ではじまる完全に独自の旋律 | 沖縄独自形式 |
研究者はこれらを大きく「山見て来い形式」「昼は草葉の露のんで形式」「あっちの水形式」の3つに分類しています。地域によっては複数の形式が混合したものや、子守唄として歌われていたものも存在します。広島県高田郡向原地方では「あっちの水」形式の螢狩りの唄を子守唄にも使っていたという記録もあります。
これは保育の現場でも活用できる視点です。地域によって歌が違うという事実は、子どもたちに「文化や地域の多様性」を伝える絶好の機会になります。日本中で愛されてきた歌だからこそ、「みんなが違う歌詞で歌っていた」という驚きが、子どもの好奇心を刺激します。
参考:螢狩りの唄の地域多様性について学術的にまとめた資料です。
螢狩りの唄の地域多様性とその保存について(全国ホタル研究会)
ほたる来い歌を保育で使うねらいと年齢別の遊び方
「ほたるこい」は夏の季節に合わせたわらべうたとして、0歳の赤ちゃんから幼児期の子どもまで幅広く活用できます。遊び方も年齢によって変えることがポイントです。
名古屋短期大学保育科の山下直樹教授(臨床心理士・公認心理師)によれば、わらべうたは子どもの発達の土台となる「触覚」「生命感覚」「運動感覚」「平衡感覚」の4つの感覚を育む効果があるとされています。山下教授はこれまでに10,000人以上の子どもたちと向き合ってきた研究者で、わらべうたが子どもの心身の発達を促すことを実証的に研究しています。
年齢別の「ほたるこい」の遊び方
🍼 0歳〜1歳(ねんねの赤ちゃん・はいはい期)
ゆったりとしたテンポで歌いながら、赤ちゃんを抱いて揺らします。「あっちの水は苦いぞ」のタイミングで顔を近づけて「にがいぞ〜」と表情豊かに語りかけ、「こっちの水は甘いぞ」でほっぺをそっとなでてあげましょう。親子・保育士と子どもの間に安心・信頼が生まれます。触覚と生命感覚を育む遊びが基本です。
🐾 1歳〜2歳(よちよち歩き期)
「ほ ほ ほたるこい」の「ほ」に合わせて、両手を前に出してひらひら動かす手遊びを取り入れましょう。光る蛍のイメージを身体で表現することで、運動感覚が刺激されます。歌のテンポが一定で覚えやすいため、この月齢の子どもでも自然と口ずさむようになります。
🌟 3歳〜5歳(幼児期)
ちょうちんゲームが最もおすすめです。具体的なやり方は次のとおりです。
① みんなで輪を作り、鬼を1人決めます。
② ちょうちん(または代わりになるもの)を持った鬼が輪の中を歩きます。
③ 全員で「ほたるこい」を歌い、歌が終わるタイミングで鬼がちょうちんを誰かに渡して交代します。
④ これを繰り返します。
実はこのゲームは2種類の「ほたるこい」を合わせて歌う輪唱形式でも楽しめます。「ほ ほ ほたるこい あっちのみずは〜」グループと「ほたるこい やまみちこい〜」グループに分かれると、最後の「こい」のタイミングがぴったり重なります。これは音楽的な驚きがあり、子どもたちに大きな喜びを与えます。
保育ねらいのまとめ
| ねらい | 詳細 |
|---|---|
| 季節感の育成 | 夏の生き物・自然への関心を高める |
| 言語発達 | 古い言葉・方言への触れ合い |
| 社会性の発達 | 鬼交代ゲームで「順番を待つ」経験 |
| 音楽的成長 | リズム感・音程感の向上 |
| 情緒の安定 | 保育士や友達との触れ合いで安心感を育む |
保育の場では大人数で一斉に歌うより、自由遊びや触れ合いの時間に3人程度の少人数で遊ぶ方が発達への効果が高いとされています。少人数でしっかりと目を合わせながら歌うことが大切です。
参考:わらべうたが子どもの発達に与える効果を専門家が解説しています。
「わらべうた」が子どもの発達を左右する!?(マイナビ保育士)
ほたる来い歌を使った保育士だけが知る「2つ同時に歌う」技法
これは検索上位の記事にはほとんど載っていない、現場の保育士さんに特に知っておいてほしい視点です。「ほたるこい」には、2つの異なる歌詞バージョンを同時に歌う「合唱技法」が存在します。
具体的には「ほ ほ ほたるこい/あっちのみずは にがいぞ/こっちのみずは あまいぞ」という標準版と、「ほたるこい やまみちこい」という短縮版の2つを、別々のグループが同時に歌います。2つの歌はメロディのテンポが異なるにもかかわらず、最後の「こい」という音がほぼ同時に重なる構造になっています。小学校の音楽の授業でも取り上げられているこの技法は、保育の現場でも年長児(5歳〜)以上であれば十分に楽しめます。
この「重なる瞬間」が面白い点です。子どもたちが「あっ、合った!」と気づいたときの表情は格別です。この体験は、音を「聴く力(内的聴感)」の発達に直結します。音楽教育の観点から見ると、これはいわゆる「対位法的な聴き方」の入門として機能します。難しい音楽理論は必要なく、ただ「2つの声が重なる喜び」を体験させるだけで十分です。
やり方としては、最初は保育士が2つのパートを一人ずつ歌って見本を見せ、子どもたちを2グループに分けてチャレンジさせましょう。うまくいかなくても構いません。「あれ、ずれた?」「もう一回!」というプロセス自体が子どもの集中力と聴く力を鍛えます。
さらに発展版として、ちょうちんや懐中電灯のような光るものを使った「ほたる探し」ごっこと組み合わせると、より豊かな夏の体験活動になります。部屋を少し暗くして光をちらちら動かしながら歌うだけで、子どもたちの目がきらきらと輝きます。特別な道具は不要です。
宮崎县の「けつのあかりでとんで来い」のような地域バリエーションをそのまま紹介するのは難しいですが、「地域によって歌詞が違う」という話題だけでも、年長の子どもたちは「え、なんで?」と強く興味を持ちます。保育士が一言「お家の人に、あなたの地域のほたるこいを聞いてみてね」と伝えるだけで、家庭でのコミュニケーションが生まれます。保護者を巻き込む保育のきっかけとしても使えます。
ほたる来い歌を子どもに伝えるときの注意点と保育で使える工夫
「ほたるこい」を保育の場で効果的に活用するには、いくつかの工夫と注意点があります。これを知っておくと、子どもへの伝え方がぐっとレベルアップします。
1. テンポは「ゆったり」が正解
「ほたるこい」はわらべうたです。童謡のように元気よくテンポを上げて歌うのではなく、ゆったり・やわらかく歌うのが基本です。子どもの鼓動(安静時の心拍数は1分間60〜100拍)に合わせたテンポで歌うことで、子どもが安心して歌に入り込めます。速く歌いすぎると、わらべうたが持つ「落ち着き」の効果が半減します。
2. 音程よりも「雰囲気」を大切に
山下直樹教授も指摘しているとおり、わらべうたには厳密な正解がありません。音程が多少ずれていても、保育士が楽しそうに自信を持って歌うことが最も大切です。「うまく歌えないから…」とスマホやYouTubeに頼ってしまうと、子どもとの直接の触れ合いが失われます。声の温かみと呼吸のリズムを感じさせることがわらべうたの核心です。
3. 「本物のほたる」との接続を意識する
ほたるは水質汚染に非常に敏感な生き物です。成虫になってからは水しか飲まず、2週間ほどしか生きられません。この事実を子どもに伝えると「命の短さ」「自然の清らかさ」について自然に話し合うきっかけになります。「ほたるが住める場所はきれいな川だけなんだよ」という一言で、環境への関心が生まれます。
4. 歌詞の「怖さ」も年齢に合わせて活用する
「天ぢくあがりしたれば つんばくらにさらわれべ(空に上がれば燕に捕まるぞ)」という歌詞は、年長の子どもには少しぞくっとする内容です。この「ちょっとこわい」感覚は子どもの想像力を刺激します。「ほたるさんは夜だけ光って、昼はどこに隠れているかな?」という問いかけと組み合わせると、探究心が広がります。
🌿 保育計画のポイントまとめ
- 取り入れ時期:6月下旬〜8月(ほたるの季節)
- 対象年齢:0歳〜年長まで幅広く対応可能
- 必要な道具:ちょうちん(代替品でもOK)・なくても楽しめる
- 他の活動との連携:絵本『ほたる』・夏の自然観察・七夕行事との連携が効果的
保育士が「ほたるこい」を単なる「夏の歌」として流すのではなく、歌詞の意味・遊び方・季節の自然とのつながりを意識して伝えるだけで、子どもたちの体験はまったく違うものになります。それが保育士の専門性です。
参考:わらべうたの保育への取り入れ方について遊び方の具体例が紹介されています。
