くつわむし歌「虫のこえ」の歌詞と保育での活用法
「虫のこえ」の歌詞には、実は2つのバージョンがあって、間違えて教えている保育士さんが今もいます。
くつわむし歌「虫のこえ」の歌詞全文と2つのバージョン
「虫のこえ」は1910年(明治43年)に文部省が編集した『尋常小学読本唱歌』に初めて掲載された唱歌です。作詞・作曲ともに「文部省唱歌」とされており、当時の東京音楽学校(現:東京藝術大学)の教授たちで構成されたチームが手がけたとされています。シンプルなのに100年以上歌い継がれているのは、実力集団による作品だからこそです。
保育の現場でよく使われている現在の歌詞は以下のとおりです。
| 番 | 歌詞 |
|---|---|
| 1番 | あれ松虫が 鳴いている チンチロ チンチロ チンチロリン あれ鈴虫も 鳴き出した リンリンリンリン リインリン 秋の夜長を 鳴き通す ああ おもしろい 虫のこえ |
| 2番 | キリキリキリキリ こおろぎや ガチャガチャガチャガチャ くつわ虫 あとから馬おい おいついて チョンチョンチョンチョン スイッチョン 秋の夜長を 鳴き通す ああ おもしろい 虫のこえ |
ここで知っておきたいのが「2つのバージョン」問題です。
2番の冒頭「こおろぎや」は、実はもとの歌詞ではありませんでした。1910年の初掲載時は「きりきりきりきり きりぎりす」でした。それが1932年(昭和7年)に編纂された『新訂尋常小学唱歌』で「こおろぎや」に改訂されたのです。
変更の理由はシンプルです。「きりぎりす」は古語でコオロギを指す言葉であり、歌詞中の「きりきり」という鳴き声の表現とコオロギを正しく一致させるための修正でした。現代のキリギリスの鳴き声は「ギーッチョン」という感じで、「きりきり」とはまったく異なるからです。
つまり「きりぎりす」のままにしておくと、現代の子どもは「キリギリスがきりきり鳴く」と誤解してしまいます。それがこの改訂です。
保育の現場では「こおろぎや」バージョンが正解です。これが基本です。
参考:歌詞の変遷と登場する虫についての詳しい解説
くつわむしの生態と名前の由来を子どもに伝えるコツ
くつわむしは、バッタ目キリギリス科に属する昆虫で、本州(茨城県・新潟県以南)から四国・九州にかけて分布しています。体の色は緑色と茶色の2タイプがあり、草丈1メートルほどの草むらや、クズのつる植物が茂る暗めの場所を好みます。
🔑 くつわむし名前の由来をひと言で言うと:馬の口にはめる金属製の馬具「轡(くつわ)」がガチャガチャ鳴る音にそっくりだから、この名前がついています。
子どもに伝えるときは「昔の馬が使っていた道具がカチャカチャ鳴る音と同じ音で鳴く虫だよ」と伝えると、イメージがわきやすいです。絵本や図鑑で馬具の写真を見せながら話すと、さらに理解が深まります。
鳴くのはオスだけで、8〜9月の夕方から夜にかけてが最も活発です。鳴き声の音量は非常に大きく、近くで聞くと他の秋の虫の声をかき消してしまうほどです。スズムシの「リーンリーン」とは正反対の、圧倒的な存在感があります。
近年、都市部ではクツワムシが急速に減少しています。大阪府のレッドリストでは準絶滅危惧種(NT)に指定されており、都市化・農村環境の変容・夜間の光源増加が主な原因と指摘されています。都市部の保育園では、本物の鳴き声を聞く機会がほとんどない子どもも増えています。
これは保育の現場にとって、実は大きなポイントです。だからこそ「虫のこえ」の歌を通じて、秋の虫の世界を子どもに伝える意義がより高まっているとも言えます。
| 虫の名前 | 鳴き声(擬音) | 科 | 備考 |
|---|---|---|---|
| まつむし | チンチロリン | コオロギ科 | 草地に生息 |
| すずむし | リンリンリン | コオロギ科 | 鈴の音に似た美声 |
| こおろぎ | キリキリキリ | コオロギ科 | 古語では「きりぎりす」 |
| くつわむし 🔑 | ガチャガチャ | キリギリス科 | 5種中最大の音量 |
| うまおい | スイッチョン | キリギリス科 | 「馬を追う」の意 |
歌に登場する5種類はすべて秋の虫です。マツムシ・スズムシ・コオロギはコオロギ科、コオロギ・クツワムシ・ウマオイはキリギリス科という整理になります。つまり5種を2グループで理解しておけばOKです。
参考:クツワムシの生態と分布についての詳細情報
くつわむし歌の保育での指導ポイント(年齢別ねらいと導入)
「虫のこえ」は3歳児・4歳児・5歳児と、幅広い年齢に対応できる唱歌です。年齢に合わせてねらいを変えることが、子どもの自然な成長につながります。
🎯 年齢別のねらい一覧
| 年齢 | ねらい |
|---|---|
| 3歳児 | 擬音(がちゃがちゃ・ちんちろりんなど)のリズムと響きをまねて、虫の音への親しみを育む |
| 4歳児 | 擬音の変化を声と体で表現しながら、観察と表現の感性を深める |
| 5歳児 | オリジナルの虫の鳴き声や動きを創作し、即興的な表現力を促す |
導入のコツも年齢によって変えるのが効果的です。
- 3歳児:「松虫の音、みんなで”ちんちろりん”って一緒に言ってみよう!」とシンプルな声かけからスタートします。いきなり全体の歌詞を覚えさせようとすると、子どもの意欲が続かないことがあります。まずは擬音だけを楽しむところから始めるのが原則です。
- 4歳児:「くつわむしはどんな音かな?大きい声で”ガチャガチャ”って言えるかな?」と問いかけ、体を使った表現に広げます。虫ごとに声の大きさや高さを変えて歌い分けると、子どもたちが自然に耳を澄ませる姿が見られます。
- 5歳児:「自分だけの虫を考えて、どんな音で鳴くか考えてみよう!」と創作活動に発展させます。これは「虫のこえ」の構造(虫の名前+鳴き声の擬音)を理解している5歳児だからこそできる活動です。保育士は答えを出さず、子どもの発想を引き出す側に回りましょう。
秋(9〜10月)に使うのが最もおすすめで、戸外での虫の声が実際に聞こえる環境と合わせると、歌の世界と現実がつながり、学びの質が大きく上がります。
参考:保育での振り付き実演動画と年齢別のねらい
くつわむし歌の演奏・歌い方のポイントと保育士が押さえたい強弱
「虫のこえ」は全部で2番構成、1番20小節という短い曲ながら、歌い方のコツを知っているかどうかで子どもへの伝わり方がまったく変わります。保育士が知っておくべきポイントを整理します。
① 冒頭の「あれ」は感嘆詞
歌い出しの「あれ まつむしが」の「あれ」は、何かを指し示す指示語ではありません。「あぁ!」「おや!」に相当する感嘆の言葉です。虫の声が聞こえてきた驚きと喜びを乗せて歌い始めることが大切です。ワクワク感を持って歌い始めるのがポイントです。
② 鳴き声のパートは「弱め」に歌う
楽譜の多くでは、虫の鳴き声を表す擬音のパート(チンチロリン、ガチャガチャなど)に「p(弱く)」や「mp(やや弱く)」が付いています。これには理由があります。耳を澄ませなければ聞こえない秋の虫の声、という世界観を表現しているからです。「弱々しく」ではなく「耳を澄ませて、ほら聞こえる?」というイメージで歌うと、子どもたちも自然と集中してくれます。
面白いのはくつわむしのパートです。他の4種の虫はそれぞれ2小節かけて鳴き声を表現しているのに、クツワムシの「ガチャガチャガチャガチャ」だけは1小節に凝縮されています。実際の鳴き声の「うるさいほどの存在感」が、楽譜の構造にも反映されているわけです。意外ですね。
③ 虫が増えると声を大きく
1番では最初にマツムシ1匹が聞こえ、続いてスズムシも鳴き出します。2番ではさらにコオロギ・クツワムシ・ウマオイが登場します。虫が増えるにつれて声を少しずつ大きくしていくことで「大合唱」のクライマックスを表現できます。最後の「ああおもしろい 虫のこえ」は「f(強く)」で歌いあげましょう。クレッシェンドでしっかり盛り上げてから入るのが条件です。
④ 擬音ごとの歌い分けが子どもの興味を引く
保育者がそれぞれの擬音を表情豊かに歌い分けることで、子どもたちは自然と「次はどんな虫かな?」と耳を傾けます。「ちんちろりん」は口元で小さく、「ガチャガチャ」は口を大きく開いてエネルギッシュに、「スイッチョン」はテンポよく軽やかに歌うと、5種類の虫のキャラクターが立ちます。これは使えそうです。
くつわむし歌を通じた秋の自然観察と保育への広げ方(独自視点)
「虫のこえ」を単なる歌として終わらせるのは、実はもったいないことです。この歌は「秋の自然観察」と「言葉の感性」を同時に育てられる、保育の場面で非常に使いやすいコンテンツです。
🌿 歌を起点にした活動の広げ方
- 実際の鳴き声を聴いてみる:スマートフォンやタブレットで検索すれば、クツワムシの「ガチャガチャ」という鳴き声をすぐに聞くことができます。歌で予習してから実際の音を聴くと、子どもは「本当にガチャガチャって鳴いてる!」と感動します。歌と現実がつながる瞬間です。
- オリジナルの擬音を作ろう:「他の虫はどんな音で鳴くかな?」と子どもに問いかけ、自分だけの擬音を作ってもらうことができます。「ピリピリ」「ズリズリ」など、子どもならではの言語感覚が引き出されます。5歳児クラスで特におすすめの活動です。
- 虫のカード合わせ・図鑑づくり:歌に出てくる5種類の虫の絵を描いて、名前と鳴き声のカードを合わせるゲームにも発展できます。文字に興味が出てきた4〜5歳児クラスで活用できます。
- 秋の虫の鳴き声クイズ:擬音を聞かせて「これは何の虫でしょう?」とクイズ形式にすると、子どもは大喜びします。特に「ガチャガチャ」はインパクトが強く、クツワムシだけは全員が正解できる問題になります。
都市部の子どもたちは、本物の秋の虫の声を聞いたことがない場合が少なくありません。クツワムシは大阪府の準絶滅危惧種に指定されるほど生息数が減っている虫でもあります。保育士が「この虫は今、だんだん少なくなってきているんだよ」と伝えることで、子どもの自然への関心や命への敬意につながります。
歌を通じて知り、聞いて確かめ、自分で表現する。この3ステップが、子どもの感性を豊かにする保育につながります。「虫のこえ」という1曲が、秋の保育活動全体の入り口になり得るのです。
参考:虫を聴く文化が日本・中国のみに存在するという背景知識
参考:クツワムシの「きりぎりす→こおろぎ」改訂の学術的解説
