かちかち山の歌を保育士が活かす全知識と指導法

かちかち山の歌を保育で使いこなす全知識

「かちかち山の歌」は子どもに害を与えるどころか、きちんと語れば心の発達を促します。

この記事でわかること
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歌の歴史と歌詞の意味

明治34年(1901年)に東くめ作詞・瀧廉太郎作曲で生まれた「かちかち山」の唱歌。全3番の歌詞に込められたオノマトペの意味を丁寧に解説します。

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オノマトペが子どもの発達に与える効果

「かちかち」「ぼーぼー」「ざぶざぶ」といった擬音語が、子どもの言語発達・想像力・表現力にどう作用するかを保育士向けに解説します。

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保育での具体的な活用法

劇遊び・手遊び・発表会での取り入れ方や、昔話の「残酷な内容」を年齢に合わせてどう扱うかまで、現場で使えるヒントを紹介します。

かちかち山の歌の歴史と作詞・作曲者を知ろう

 

保育士として子どもに歌を届ける立場なら、まずその歌がどこから来たのかを知っておくと指導の深みが変わります。

「かちかち山」の唱歌は、明治34年(1901年)7月に出版された『幼稚園唱歌』(共益商社楽器店)の中の1曲です。作詞は東くめ(ひがしくめ、1877〜1969)、作曲は瀧廉太郎(1879〜1903)という、明治期の音楽教育を支えたコンビによって生み出されました。

この曲が作られた背景には、当時の幼児音楽教育の改革がありました。『幼稚園唱歌』はフレーベル幼児教育思想に共鳴した東基吉の提案により制作されたもので、幼児が歌いやすいよう平易な言葉とリズムが工夫されています。つまり最初から「子どもが楽しく歌える歌」として設計された唱歌なのです。

作曲者の瀧廉太郎は、「荒城の月」や「花」でも知られる天才音楽家ですが、結核のために23歳という若さで生涯を閉じています。「かちかち山」を含む『幼稚園唱歌』は彼が21歳のときに発表した作品であり、その短い生涯の中でも特に輝いた時期の作品といえます。意外なほど若い作曲家の手による曲が、120年以上経った今も保育の現場で歌い継がれているわけです。

一方、作詞者の東くめは92歳まで長生きし、日本の保育・音楽教育の発展を長く見守り続けました。「かちかち山」の歌詞は昔話の物語をわずか3番に凝縮しつつ、オノマトペを巧みに配置した構成になっています。

瀧廉太郎や東くめの他の作品についての詳細は、以下の権威ある資料でも確認できます。

瀧廉太郎の童謡唱歌について(なっとく童謡・唱歌)

かちかち山の歌の歌詞と全3番の内容を徹底解説

歌詞を正確に把握していない保育士は意外と多いですが、3番まで知っていると子どもへの説明がぐっと豊かになります。

「かちかち山」の唱歌の歌詞(東くめ作詞)は以下の全3番で構成されています。

番号 歌詞(主要部分) 場面
1番 かちかちなるのは、何の音。かちかち山だよ、この山は。たぬきはしらずに、さきへゆく。兎はうしろで、かちかちかち。 ウサギが火打ち石でタヌキの柴に火をつける場面
2番 ぼーぼういふのは、何の音。ぼーぼー山だよ、この山は。たぬきのせなかで、火がぼーぼー。あついと走れば、なほぼーぼー。 タヌキの背中に火が燃え広がる場面
3番 たぬきのお船は、土ぶねで。うさぎのお船は、木のふねで。一所にこぎでる、川の中。たぬきは溺れて、ざぶざぶざぶ。 泥船に乗ったタヌキが溺れる場面

各番ともに「〇〇なるのは何の音」という問いかけから始まるのが特徴で、子どもが自然と「次は何の音?」と意識を向けるよう設計されています。これは保育の場でも使えるポイントです。問いかけ形式の歌詞は、子どもが受動的に聞くのではなく頭を動かしながら歌えるよう促す効果があります。

また、「かちかちかち」「ぼーぼー」「ざぶざぶざぶ」というオノマトペ(擬音語)が各番の末尾に配置されています。これが単なる音の面白さにとどまらず、場面のイメージを補強し、言語発達にも貢献している点は後のセクションで詳しく解説します。

なお、昔話としての「かちかち山」は室町時代末期にはほぼ現在の形で成立していたとされており、江戸時代には「兎の大手柄」という題でも知られていました。唱歌の歌詞はその物語の核心——「ウサギがタヌキをこらしめる三段階」——を凝縮して表現しています。これが基本です。

かちかち山の歌に含まれるオノマトペと子どもの言語発達

保育士が「かちかち山の歌」を単なる昔話の唱歌として捉えているなら、子どもの言語発達という観点を見落としているかもしれません。

近畿大学九州短期大学の研究(江川靖志・中野亮子、2021年)によれば、保育で使われる子どもの歌の約半数にオノマトペが含まれており、言葉の発達・想像力・表現力の育成・生活習慣の確立など、さまざまな面でオノマトペが効果を発揮していることが明らかにされています。「かちかち山」はその典型例のひとつです。

「かちかち山」に登場するオノマトペを整理すると以下のとおりです。

| オノマトペ | 種類 | イメージ・効果 |

|:—|:—|:—|

| かちかち(かち) | 擬音語 | 火打ち石が鳴る音。硬質で鋭いイメージ |

| ぼーぼー | 擬音語 | 炎が燃え広がる音。迫力と広がりを伝える |

| ざぶざぶ | 擬音語 | 水の中に沈む音。ぬれた重さを感じさせる |

この3つはいずれも「擬音語(実際に鳴っている音を言葉で表したもの)」であり、子どもが聞いただけで場面を頭の中に映像として描きやすいという特徴があります。たとえば「ざぶざぶ」というだけで、水の冷たさや深さ、タヌキが溺れる様子が幼児の想像の中でも具体的に浮かぶわけです。これは使えそうです。

幼稚園教育要領の「表現」領域では「感じたことや考えたことを自分なりに表現することを通して、豊かな感性や表現する力を養い、創造性を豊かにする」ことがねらいとされています。「かちかち山の歌」を歌うことは、このねらいに直結する活動といえます。

さらに実践的なポイントとして、オノマトペ部分を歌うときに体を動かしながら表現させる(「かちかちかち」では手を叩く、「ざぶざぶ」では手を波のように動かすなど)と、言語と身体感覚が結びつきやすくなります。オノマトペを「聞かせる」だけでなく「使わせる」視点が重要です。

オノマトペと子どもの発達に関するさらに詳しい解説は、以下の学術資料が参考になります。

子どもの歌におけるオノマトペの効果と役割について(近畿大学九州短期大学・紀要論文)

昔話「かちかち山」の内容と保育での取り扱い方

「かちかち山は残酷だから保育には向かない」と感じている保育士がいますが、その考えは少しもったいないです。

昔話研究者の視点では、残酷な描写を含む昔話であっても、「親や保育者によって語られ、子どもが安心した状態にいるときに届けられるなら、心に害を及ぼさない」(近畿大学・研究論文より)とされています。問題はコンテンツそのものではなく、「誰が、どんな文脈で、どのように伝えるか」にあります。

実際に現行の絵本や保育教材では、おばあさんが「殺される」のではなく「大けがをする」に変えられるなど、子ども向けにやわらかく改変されたバージョンが主流です。この改変は戦中期にはすでに始まっていたことが、太宰治『お伽草紙』(1945年)の記述でも確認できます。

保育の現場では、年齢に応じて以下のような使い分けが有効です。

| 年齢 | 推奨アプローチ |

|:—|:—|

| 3歳前後 | 「かちかちかち」「ざぶざぶ」などオノマトペだけを楽しむ歌として |

| 4歳前後 | 絵本(改変版)と合わせ、因果応報の話として聞かせる |

| 5歳前後 | 劇遊びへ展開し、正義・悪・仇討ちの概念を自分で演じて体験する |

「かちかち山」が保育教材として長く使われてきた理由のひとつは、「悪いことをすると自分に返ってくる」という因果応報の教えが、幼児の倫理観の芽生えに自然にはたらきかけるからです。現役保育士の間でも「相手の気持ちを考える力、共感力を育てる昔話」として評価する声があります。

なお、2009年には裁判員制度導入に向けて、「かちかち山」を題材にした模擬裁判が小学校2校で行われました。香川県の附属小学校では6年生が「ウサギに懲役9年」、長崎県壱岐市の小学校では「懲役15年」の判決を出したという記録が残っています。これは「正義とは何か」を子どもが自分で考える教材として機能した好例であり、保育段階での「なぜウサギはこうしたの?」という問いかけは十分に意義があります。

昔話の教育的意義についての学術的考察は以下で参照できます。

昔話を子どもに伝えることの教育的意義(西九州大学・学術論文)

かちかち山の歌の保育現場での活用アイデアと劇遊びへの展開

歌詞も背景も理解できたら、次は実際にどう使うかです。具体的な活用イメージを持っておくと、日々の保育計画が立てやすくなります。

まず「歌として取り入れる」段階では、歌詞に合わせた簡単な動き付けが有効です。1番の「かちかちかち」は石を打ち合わせるように両手の人差し指同士を叩く、2番の「ぼーぼー」は両手を上に揺らして炎を表現する、3番の「ざぶざぶ」は両手を上下に動かして波を表現する——こうした身体表現を加えるだけで、子どもの集中力と歌の定着率が上がります。

「劇遊びに展開する」段階では、4〜5歳児クラスに特に適しています。実際に保育園の発表会で「かちかち山」を題材にした劇遊びが行われた記録も複数残っています(七尾みなと保育園・4歳児クラス、2015年など)。セリフは少なくてよく、各場面でオノマトペを子どもが全員で叫ぶ構成にすると、役のない子も参加しやすくなります。

活用ステップをまとめると以下のとおりです。

  • 🎵 STEP1 歌として定着させる:オノマトペを強調しながら歌い、繰り返すことで自然に覚えさせる
  • 📖 STEP2 絵本と組み合わせる:歌で知ったストーリーを絵本で視覚化し、話の全体像をつかませる
  • 🙌 STEP3 動き付きで歌う:各オノマトペに対応した身体表現を加え、表現力を引き出す
  • 🎭 STEP4 劇遊びに展開する:セリフを加えて役割分担をし、因果応報のテーマを体験的に学ぶ
  • 🥁 STEP5 楽器を加える:「かちかち」はカスタネット、「ぼーぼー」はすず、「ざぶざぶ」はタンバリンなど、オノマトペのイメージに合わせた打楽器を使うとアンサンブル活動にも発展できる

楽器を使ってオノマトペを表現する活動は、「音楽表現」と「言語理解」を同時に育てる一石二鳥の活動です。たとえばカスタネットで「かちかち」のリズムを刻むとき、子どもは「この音がタヌキを驚かせた音だ」と物語と音を結びつけて理解します。これは抽象的な言葉の理解を促す効果があり、就学準備にも役立つとされています。

特別な道具は必要ありません。初日は歌だけで十分です。

生活発表会での昔話劇の進め方については、以下の資料が参考になります。

子どもも喜ぶ!保育園での劇遊びの進め方やおすすめの題材は?(保育ラボ)

こぶとり爺さん かちかち山: 日本の昔ばなし I (ワイド版岩波文庫 208 日本の昔ばなし 1)