いぬのこねこの歌「いぬのおまわりさん」を保育で最大限に活かす方法
この歌を「ただ歌わせるだけ」にしている保育士は、子どもの言語発達の機会を毎回1回ずつ逃しています。
いぬのこねこの歌「いぬのおまわりさん」の歌詞と誕生の背景
「いぬのおまわりさん」は、作詞・佐藤義美(さとうよしみ)、作曲・大中恩(おおなかめぐみ)による童謡で、1960年(昭和35年)に幼児雑誌『チャイルドブック』10月号に初掲載されました。作詞の佐藤義美は1905年生まれで、大分県竹田市出身の童謡・童話作家です。「アイスクリームのうた」など子どもの目線に寄り添った作品を数多く残した詩人として知られています。2025年には生誕120年を記念した企画展が開催されるほど、今日でも高い評価を受けています。
実は、この曲の誕生には面白いエピソードがあります。作曲家の大中恩さんは、当初この詩が「子どものうたには長すぎる」と感じて断ろうとしていたそうです。ところが、仕事部屋の仕切りの向こうにいた奥さんの”気配”を感じた大中さんは「やってみようか」と引き受けることにしました。大中さん自身が後のインタビューで「精魂込めて書いた作品より、頼まれて仕方なく作曲したものが意外と多くの方に歌われている」と語っているほど、この曲は大中さんにとっても予想外の名曲になったのです。
歌詞の内容は2番構成になっています。1番では迷子の子猫ちゃんに犬のおまわりさんがお家と名前を聞くも、子猫は「にゃんにゃん」と泣くばかり。2番ではカラスに聞いても、スズメに聞いてもわからず、犬のおまわりさんが「ワンワン」と困り果てる場面が描かれています。つまり登場するのは、子猫・犬・カラス・スズメの4種類の動物です。「子猫ちゃんの歌」と誤解されることもありますが、正式タイトルは「いぬのおまわりさん」です。
1961年(昭和36年)にNHKの『うたのえほん』で初放送され、その後継番組『おかあさんといっしょ』でも定番曲として流れ続けました。2007年(平成19年)には文化庁と日本PTA全国協議会が選定した「日本の歌百選」にも選ばれています。1977年以降は小学校の音楽教科書にも掲載され、65年以上にわたって世代を超えて歌い継がれてきた名曲です。
皮肉なことに、作詞者の佐藤義美さんが亡くなった1968年以降になって初めて、この曲が広く知られるようになったとも伝えられています。生前にその評価を十分に享受できなかった詩人の作品が、半世紀以上を経た今も子どもたちの口から歌われているというのは、大変感慨深いことです。
参考:いぬのおまわりさんの歌詞情報(Uta-Net)
犬のおまわりさん 歌詞 – 歌ネット(正式な歌詞と曲の基本情報を確認できます)
参考:作曲家・大中恩さんによる誕生秘話の記録
「いぬのおまわりさん」誕生秘話(大中恩さんご本人の対談記録)
いぬのこねこの歌で育む子どもの発達効果とねらい
保育の現場でこの曲を歌うとき、ただ「楽しいから」という理由だけで取り上げるのは、少しもったいないと言えます。「いぬのおまわりさん」には、子どもの発達を支える複数の要素が自然に組み込まれているからです。
まず、言語発達の面から見ると、この歌は語彙と文の構造が繰り返しで構成されています。「おうちをきいても わからない」「なまえをきいても わからない」というように、同じパターンが少しずつ変わりながら繰り返されます。これは子どもの言語記憶を強化するうえで非常に効果的な構造で、保育現場でも発語を促すための療育歌として活用されることがあります。
次に、情操教育の観点でも優れた歌です。泣いている子猫を助けようとする犬のおまわりさんの姿は「共感」と「やさしさ」を自然に伝えます。子どもはこの歌を通じて、「困っている相手を気にかける」という感情の芽生えを体験しているのです。保育士歴10年以上のベテランによると「歌に親しみを感じて歌を楽しんで欲しい」「大人と子どもで楽しい時間を共有したい」というねらいを持って活用するのが効果的だといいます。
リズム感の育成も大切なねらいです。「いぬのおまわりさん」はテンポが速めで一定のリズムが続く曲です。大阪芸術大学の研究によると、手遊び歌には「旋律を記憶する・拍子を感じる・リズムを記憶する」という3つの音楽的な体験ができるという報告があります。つまり、歌いながら手を動かすことでリズム感と身体協応能力が同時に育まれます。
対象年齢は主に2歳児以降が推奨されています。1歳児でも「にゃんにゃんにゃにゃーん」の部分だけなら参加できますが、歌詞全体をある程度歌えるようになるのは2歳頃からです。集団での読み聞かせや歌唱の場合は、ゆっくり目のテンポで全員が参加しやすい雰囲気をつくることが基本です。
| 年齢 | 参加できる目安 | 主なねらい |
|---|---|---|
| 1歳児 | 「にゃんにゃん」部分だけ | 音やリズムへの興味・反応 |
| 2歳児 | 歌全体を少しずつ覚える | 言語発達・歌の楽しさを知る |
| 3〜5歳児 | 振り付けを加えて歌える | リズム感・表現力・共感力 |
参考:保育における手遊び歌の発達効果についての学術資料
大阪芸術大学「保育における手遊びの効果」(PDF・手遊びの言語発達・リズム教育への効果が記載されています)
いぬのこねこの歌の手遊び振り付けと保育での導入のコツ
「いぬのおまわりさん」を手遊び歌として保育に取り入れるとき、振り付けの質がそのまま子どもの集中度に直結します。シンプルで動物の動きをまねしやすい振り付けが、最も現場で定着しています。
基本的な振り付けの流れを紹介します。
- 🐾「まいごのまいごのこねこちゃん」→ 両手を頭の上に乗せて、猫の耳を作る
- 🏠「あなたのおうちはどこですか」→ 両手で屋根の形を作る(三角)
- 😢「おうちをきいてもわからない」→ 首を横に振る・首をかしげる
- 🐱「にゃんにゃんにゃにゃーん」→ 両手を顔の横に持ってきて猫の手のポーズ
- 🐶「ワンワンワワーン」→ 両手を口の前に持ってきて犬のポーズ・困った顔をする
振り付けはあくまでも目安です。2歳児クラスでは動作を大きくゆっくり見せて「まねしてみて」という雰囲気をつくるだけで十分です。3歳以上であれば子どもたちに「犬のおまわりさん役」と「子猫ちゃん役」を分けて歌わせると、ストーリーへの理解が深まりさらに楽しめます。
手遊びの導入に悩む保育士に多いのが「どのタイミングで始めるか」という問題です。活動の切り替え前、給食前、昼寝の前など「子どもが落ち着きにくい場面」で使うと特に効果的です。保育のリズムが乱れがちな場面ほど、聞き慣れた曲のイントロが子どもたちの注意をすっと集めてくれます。これは「手遊び=楽しいものだ」という記憶が子どもに積み重なっているからこそ起きることです。
導入時のポイントも押さえておきましょう。大きな集団で歌うときは、ゆっくりめのテンポでスタートするのが原則です。保育士が歌詞を全部完璧に覚えてから取り入れようとするより、手遊びの動きだけを先に確認しておくほうが、現場ではスムーズに進みます。気負わずに「一緒に楽しむ」姿勢をまず保育士が持つことが条件です。
参考:振り付き動画と保育士による解説
ほいくnote「犬のおまわりさん|近藤夏子による振り付き動画」(実際の振り付けと保育現場での解説が確認できます)
いぬのこねこの歌に込められた歌詞の深い意味
この歌は「かわいい動物が出てくる子ども向けの歌」として認識されることが多いですが、実は大人が読み解いても深みのある構造になっています。保育士として歌詞の意味を理解しておくと、子どもへの語りかけがぐっと豊かになります。
1番の歌詞では、困っている相手に親身になって声をかけても、相手が「泣くことしかできない」場面が描かれています。犬のおまわりさんはお家を聞き、名前を聞き、それでもわからないという状況に「困ってしまって」ワンワンと吠えてしまいます。これは「助けたいのに助けられない」もどかしさの表現です。
心理的に見ると、この歌には共感と無力感という2つの感情が同時に描かれています。相手の痛みに寄り添いたいのに、どうにもできないとき、私たちは本当の意味で他者の存在を感じます。作曲家の大中恩さんは「歌は生きる力を呼び起こす魔法の種のようなもの」と語っていましたが、この歌にはまさにそのやさしさが詰まっています。
また、この歌は「まいごの子猫」という題材を通じて、子どもにとってもリアルな「迷子の不安」を優しく描いています。保育研究者の指摘によると、今日の幼児教育の現場ではこの歌が「幼児の安全教育」の一環として活用されるケースもあります。迷子になったときに「名前を言える・おうちを言える」ようになることの大切さを、歌を通じて子どもに伝えることができるのです。
2番にはカラスとスズメが登場します。犬のおまわりさんが周囲の生き物に片っ端から聞いて回るユーモラスな場面です。ここに「一人では解決できなくても周りに頼ることが大切」というメッセージを読み取ることもできます。意外ですね。子ども向けの歌でありながら、こんなに多様なメッセージが込められているのです。
歌の背景として、発表された1960年代の日本は、地域や街角で「迷子放送」が頻繁に流れていた時代でもありました。子どもが迷子になる光景は当時ありふれたものであり、佐藤義美はそうした日常の一コマを詩にしたとも言われています。歌の言葉が時代を超えて響くのは、人間の普遍的な感情(やさしさ・不安・助け合い)を的確に捉えているからでしょう。
いぬのこねこの歌を使った保育士が実践できる独自アレンジ活動
「いぬのおまわりさん」を保育活動の中でもっと立体的に活用したい場合、歌うだけにとどまらないアレンジが非常に効果的です。長く保育現場に携わってきた現場保育士の知恵から、他のブログや検索上位記事ではあまり紹介されていない独自の活用方法をまとめました。
まず「役割交代歌唱」というアプローチがあります。クラスを「子猫グループ」と「犬のおまわりさんグループ」に分けて、それぞれの役割で歌い合う方法です。3〜4歳児クラスから取り入れることができ、「自分が役割を持って参加している」という感覚が子どもの表現力を大きく引き出します。劇ごっこの導入としても機能するため、発表会の準備期間にも使いやすいアプローチです。
次に「迷子ゲームへの発展」があります。歌を歌いながら、一人の子が目を閉じて、別の子が隠れて「こねこちゃん」になるゲームです。「おうちはどこ?」と聞かれた子が自分の名前やグループ名を答える、というルールを加えると、自己紹介や名前を言う練習にもなります。これは安全教育(迷子になったときの行動)を楽しいゲームとして経験させるうえで非常に実践的な活動です。
さらに「替え歌づくり」という発展活動もあります。「こねこちゃん」を「ぞうさん」や「うさぎちゃん」に替えたり、「カラスとスズメ」を他の動物に変えたりして、子どもたちと一緒に歌詞を作り替えます。5歳児クラスでは特に盛り上がりやすく、言語と創造性を同時に育む活動として保育士の評価も高いです。
絵本との組み合わせも効果的です。ひさかたチャイルドから出版されている絵本「いぬのおまわりさん」(佐藤義美作詞、さいとうしのぶ構成・絵、2016年発行・税込1,100円)を読み聞かせしたあとで手遊び歌を歌うと、子どもの集中度と理解度が上がります。絵本にはお買い物の場面から迷子になるまでのストーリーが絵で丁寧に描かれており、歌の背景を視覚的に補完してくれます。
絵本「いぬのおまわりさん」(ひさかたチャイルド・Amazonページ)
これらの活動を順番に積み重ねていくことで、最初は聞いているだけだった1歳児が、進級間際には歌詞のほとんどを口ずさめるようになる、という変化が現場でもよく報告されています。これは使えそうです。歌は繰り返しと積み重ねによって子どもの中に定着していきます。焦らずに毎日少しずつ取り入れることが、長期的な発達への近道です。
いぬのこねこの歌と絵本・ピアノ弾き歌いを保育士試験にも活かす
「いぬのおまわりさん」は保育現場だけでなく、保育士を目指す方にとっても避けては通れない曲です。保育士試験の音楽実技(ピアノ弾き歌い)の課題曲として、過去にも頻繁に登場してきた経緯があり、保育者養成校でも練習曲の定番として位置づけられています。
ピアノのレベルについては、多くの楽譜が「初級〜中級」相当として販売されています。「バイエル修了程度」で弾けると言われており、ピアノ未経験者でも比較的取り組みやすい曲です。テンポが速めなので一定のテンポを保ちながら弾き歌いするのがポイントで、テンポが崩れると子どもも歌いにくくなります。
楽譜は「ぷりんと楽譜」や「piascore(ピアスコア)」などの楽譜配信サービスで手軽に入手できます。ドレミ付きや指番号付きのものも充実しているため、自分の習熟度に合った楽譜を選ぶことが重要です。
なお、2025年(令和7年)度の保育士実技試験の課題曲は「ハッピー・バースデー・トゥ・ユー」と「証城寺の狸囃子」です。「いぬのおまわりさん」は今年の課題曲ではありませんが、保育現場で常に活用される曲であるため、日常的に弾き歌いに慣れておくことには大きな価値があります。
参考:保育士試験・ピアノ実技の詳細情報
アガルート「【保育士試験】ピアノ(音楽)実技を解説!楽譜の選び方や過去の課題曲」(保育士試験の音楽実技の詳細と課題曲の選び方が解説されています)
ピアノ弾き歌いに慣れていない段階では、まず右手だけの単音演奏で子どもたちと歌ってみることを試してみましょう。完璧な演奏より、保育士が笑顔で楽しそうに歌っているほうが子どもの反応はずっと良くなります。技術の完成度よりも、一緒に楽しむ姿勢が条件です。練習と現場経験の積み重ねで、自然と弾き歌いの質は上がっていきます。
