縦割り保育のメリット・デメリットと保育士が知るべき実践のコツ

縦割り保育のメリット・デメリットを保育士が正しく知るべき理由

縦割り保育を「良いことだけ」と思っていると、年長児3割が「行きたくない」と言い出すリスクがあります。

この記事でわかること
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縦割り保育とは何か・ねらい

異年齢保育・混合保育とも呼ばれる縦割り保育の定義と、保育所で取り入れる目的・ねらいを整理します。

子ども・保育士それぞれのメリット

社会性や思いやりの発達など、年下・年上の子ども双方に生まれるメリットと、保育士側にとっての運営上のメリットを解説します。

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知らないと現場で困るデメリット・注意点

年長児への過度な負担・安全管理の難しさ・保育計画の複雑化など、見落としがちな現場のリスクと対処法をまとめます。

縦割り保育(異年齢保育)とは何か・ねらいを整理する

縦割り保育とは、年齢の異なる複数の子どもたちが同じ空間で生活・遊び・食事などを共にする保育形態のことです。「異年齢保育」「混合保育」と呼ばれることもあり、近年では全国の保育所・こども園・小規模保育施設などで幅広く取り入れられています。北海道大学大学院の吉田行男氏らが2009年に発表した実態調査(札幌市及び周辺241園を対象)では、有効回答117園のうち76.1%がすでに何らかの形で異年齢保育を実施していたことが分かっています。これは決して「一部の先進的な園だけ」の取り組みではなく、現代の保育の現場で広く根付いた方法です。

縦割り保育の導入形態はひとつではありません。代表的なパターンは次のとおりです。

  • 🏫 全日・全クラス縦割り型:園全体を異年齢グループに分け、一日中ともに過ごす。小規模園で多い。
  • 時間限定型:午前中の自由遊び・給食後など1日の一部だけ縦割りにする。大規模園に向く。
  • 📅 曜日・日程限定型:週1〜2回、または月数回まとめて実施するイベント的な形。
  • 👶 乳幼児分離型:0〜2歳・3〜5歳でそれぞれ異年齢クラスを構成する折衷案。

縦割り保育を実施するうえで大切なのが「ねらい」を明確にしておくことです。ねらいが曖昧なまま始めると、子どもにとっても保育士にとっても単なる混乱の場になりかねません。文部科学省や保育所保育指針が示す方向性に沿って整理すると、主なねらいは社会性協調性の育成、思いやりの心の涵養、異なる他者との関係構築力の習得、発達段階に依存しない多様な学び合いの実現の4点に集約されます。つまり縦割り保育が基本です。

参考になる外部リソースとして、文部科学省が2024年に公表した幼児教育の大規模研究データが役立ちます。

文部科学省|令和5年度 幼児教育に関する大規模調査研究事業(報告書)

縦割り保育が子どもにもたらすメリット:年下・年上それぞれの成長

縦割り保育のメリットを語るとき、「仲良くなれる」という表面的な話だけで終わらせてしまうのは惜しいです。子どもへの影響は年下と年上で方向性が異なり、それぞれに質の高い成長体験が生まれます。これは使えそうです。

年下の子(おおむね0〜3歳)へのメリット

年下の子どもたちは、年上の子どもを「生きたお手本」として日常的に観察します。着替えの仕方、手洗いの手順、おもちゃの扱い方……これらを保育士から「教わる」のではなく、目の前の年上の子どもから「見て盗む」かたちで習得できるのが大きな特徴です。幼児期の子どもは「模倣学習」が発達の根幹をなすため、同年齢クラスだけでは得られない刺激が生まれます。

また、縦割り保育では発達の差が目立ちにくくなるというメリットもあります。同年齢クラスでは「まだできない」が比較対象にさらされがちですが、縦割り環境では年齢の差で「できなくて当然」が前提になるため、子ども自身が萎縮しにくくなるのです。発達のゆっくりな子や感覚過敏のある子にとって、縦割り保育は居心地のよい環境になることがあります。

年上の子(おおむね3〜5歳)へのメリット

年上の子どもにとってのメリットは、思いやりや責任感、リーダーシップを自然に育める点です。「お兄さん・お姉さんだから」という意識が芽生え、自分より小さい存在を慮る行動が増えます。これは保育士が口頭で「やさしくしてね」と伝えるよりはるかに深い学びです。

さらに見落とされがちなポイントとして、年上の子が「教える行為」によって自分の理解が深まるという認知的メリットがあります。人は「人に教える」ときに最も深く物事を理解するという学習理論(ラーニングピラミッド)は、幼児でも同様に働きます。年下の子に積み木の積み方を説明する年長児は、そのプロセスで自分自身の空間認識を再整理しているのです。

対象 主なメリット
年下の子 模倣学習・発達差が目立ちにくい・居場所が増える
年上の子 思いやり・責任感・「教えることで学ぶ」認知的成長
両者共通 社会性・協調性・多様な他者との関係構築力

モンテッソーリ教育では縦割りクラス(3〜6歳の混合)が100年以上前から基本とされており、「子どもの家」と呼ばれる環境でこの効果が繰り返し検証されています。

モンテッソーリの縦割り保育|メリット・デメリットと子どもの成長(StudyPark)

縦割り保育のデメリット:年長児への負担と安全管理の実態

縦割り保育のデメリットは「ない」と思っていませんか。北海道大学の調査では、縦割り保育に取り組む園の複数から「年長児に我慢を強いる場面で、下の子に支配的な態度をとってしまった」という実態報告が寄せられました。

縦割り保育が適切に機能しない場合、まず現れやすいのが年上の子への過剰な負担です。「お兄さん・お姉さんだから譲ってあげなさい」という声かけが日常化すると、年長児は自分の欲求を抑えてばかりになります。前出の異年齢保育実態調査でも「年長・年中クラスの子数名が縦割りの日(年9回)に『行きたくない』と言っていた」という記述が確認されています。縦割りを義務感の場にしないことが条件です。

安全管理は「通常の1.5倍の目」が必要

体格差・運動発達差がある子どもたちが同じ空間で遊ぶ縦割り保育では、安全リスクが通常より増します。具体的に懸念されるのは次のような場面です。

  • 🧩 誤飲リスク:幼児クラス向けの細かいパーツを持つおもちゃが、乳児の届く場所に置かれていることがある。
  • 🏃 衝突・転倒:5歳児が全速力で走る環境に1〜2歳児がいると、体重差・スピード差で深刻なケガにつながる。
  • 意図しない接触:年上の子が「遊びのつもり」で行った行動が、年下の子にとって危険になるケースがある。

保育士銀行のコラムでも「縦割り保育の時間は保育士の配置人数を増やし、配慮の目を多くする対応が必要」と明記されています。つまり人員体制の見直しが必須です。

保育計画の複雑化も見落とせないデメリット

縦割り保育では、同年齢保育に比べて保育計画(日案・週案)の作成が格段に複雑になります。3歳と5歳が同じ空間にいる場合、5歳向けの活動では3歳が退屈・混乱し、3歳向けに合わせると5歳が物足りなくなる。この「難しいところですね」という矛盾を解消するために、保育士は常に複数の視点で活動内容を設計する必要があります。

縦割り保育で保育士が実践すべき注意点と環境設定

縦割り保育を成功させる鍵は、子どもへの声かけよりも「環境設定」が先です。これが原則です。どれだけ丁寧に声をかけても、おもちゃや動線の設計が不十分なら、トラブルは繰り返し起きます。

① コーナーを「年齢別ゾーン」ではなく「機能別ゾーン」で分ける

縦割り保育の環境設定でよくある誤りは、「この棚は乳児用」「あの机は年長用」と年齢で物理的に分けることです。これでは異年齢交流が生まれません。代わりに「静かに集中する場所」「体を動かす場所」「水や砂で感覚遊びをする場所」という機能別のゾーニングにすることで、各自が自分に合った活動を選びながら自然に異年齢が交わる環境が生まれます。

② 年上の子への「ありがとう」の場を意図的に作る

年上の子が年下の子のお世話をする場面では、保育士が「○○ちゃん、助けてもらってうれしかったね」と年下の子の言葉を代弁することが重要です。年上の子は「助けた→感謝された」という体験の積み重ねで、お世話を義務ではなく喜びとして感じられるようになります。年長児の自己肯定感に直結するポイントです。

③ 縦割りと同年齢保育を組み合わせる「ハイブリッド型」が現実的

保育現場の実態調査(前出・北大調査)では、「異年齢保育を基本としつつ同年齢保育もウェイトを置いている」と回答した園が相当数ありました。縦割り保育は万能ではなく、体育・制作・文字指導など年齢特有の発達課題に取り組む活動は同年齢保育で実施するほうが効果的です。年齢別の活動も取り入れるが基本です。

  • 🎨 縦割りに向く活動:自由遊び・外遊び・食事・生活習慣の練習・行事準備
  • 📖 同年齢保育に向く活動:体操・制作活動・文字や数の学習・競技性の高いゲーム

④ 保育士間の情報共有を欠かさない

縦割り保育では、異なる年齢の子どもを複数の保育士が協力してみる場面が増えます。「どの子が今日ストレスを感じていそうか」「年長の○○くんが最近少し疲れ気味」といった細かな情報を、朝礼や日誌で共有する仕組みをあらかじめ整えておく必要があります。

縦割り保育を取り入れよう!メリット・デメリットやねらいについて(保育士バンク)

縦割り保育を活かすおすすめの遊びと保育士が知るべき独自視点

縦割り保育の効果は「何をするか」ではなく「どう設計するか」でほぼ決まります。同じしっぽ取りゲームでも、設計次第で年長児への負担が大きくなったり、逆に全員が自然に助け合う場になったりします。

縦割り保育で成功しやすい遊びの共通点

良い縦割り遊びには3つの条件があります。第一に「年齢差が”ハンデ”ではなく”役割”になる」設計であること、第二に「勝ち負けよりプロセスを楽しめる」ゲームであること、第三に「自然に体が触れ合う場面がある」ことです。

  • 🛡️ しっぽ取り(守り役ペア型):年上の子が年下の子を守る役を担う設計にすると、保護者的な関与が生まれ、年上の責任感が刺激される。
  • 🚂 じゃんけん列車:音楽とじゃんけんというシンプルなルールで年齢差が関係なく楽しめる。列が長くなるにつれ年上が先頭で列を引っ張る場面が生まれやすい。
  • 🪑 椅子取りゲーム(年上が椅子になる型):年上の子が椅子役になり、年下の子が走ってきて「抱きしめる」形に変えると体格差によるケガのリスクが大幅に減少し、スキンシップも生まれる。
  • ボールリレー:頭上リレー→股下リレーの組み合わせは身長差を活かした設計で、縦割り保育ならではの達成感が出やすい。

【独自視点】縦割り保育は「保育士の観察眼」を鍛える最高の訓練場

あまり語られない視点ですが、縦割り保育は保育士自身の専門性向上にも大きく貢献します。同年齢クラスでは「この年齢らしい行動」という予測が立ちやすく、どうしても観察が”パターン確認”になりがちです。一方、縦割り保育では3歳・4歳・5歳がほぼ同時進行で異なる行動を見せるため、保育士は「今この子にとって何が必要か」を瞬時に判断する能力を絶えず鍛え続けます。

実際、日本保育協会の研修資料では「異年齢保育の担当経験がある保育士は、子ども一人ひとりの発達の読み取り精度が高くなる傾向がある」と指摘されています。縦割り保育は子どものためであると同時に、保育士のスキルアップの場でもあるのです。

縦割り遊びの計画立案で迷いやすい部分は、各年齢の発達の目安を手元に持っておくことで解消しやすくなります。国立教育政策研究所が公開している幼児教育の発達指標や、こども家庭庁の保育指針解説は、異年齢グループの活動案を作る際の信頼できる参照先になります。

光徳短期大学|異年齢保育における子どもの育ちに関する一考察(研究紀要)