田中清代の絵本を保育士が選ぶべき理由と作品活用法
「くろいの」だけ読んでいると、子どもが内向きになりすぎます。
田中清代の絵本が国際賞を3つ受賞している背景
田中清代は1972年生まれの絵本作家・銅版画家です。多摩美術大学絵画科で油彩と版画を学び、在学中から精力的に作品を発表してきました。1995年には、絵本作家の登竜門として知られるボローニャ国際絵本原画展でユニセフ賞を受賞。翌1996年には同展に入選し、国際的な評価をキャリアの初期から獲得してきた作家です。
注目すべきは、2018年に刊行した絵本『くろいの』(偕成社)が国内外で相次いで受賞した点です。
- 🏆 第68回小学館児童出版文化賞(2019年)
- 🌏 ナミコンクール第4回 パープルアイランド賞(2019年・日本人初受賞)
- 🥇 第25回日本絵本賞大賞(2020年)
パープルアイランド賞を受賞したナミコンクールは、韓国・ナミアイランドが主催する世界的な絵本イラストレーションコンクールです。第4回には98カ国から1,844点もの作品がエントリーし、田中清代は日本人として初めてこの賞に輝きました。
これが重要なのは、田中清代の絵本が「日本国内だけで人気の絵本作家」ではないということです。保育士が子どもたちに手渡す一冊として選ぶとき、「国際的に認められた表現」が含まれているかどうかは、作品の普遍性を示す一つの指標になります。世界の1,844点を超える中で選ばれた絵本が、保育室の棚に並んでいるという事実は、それだけで子どもたちへの紹介価値があると言えるでしょう。
つまり、田中清代の絵本は「受賞歴が多い」ということです。
参考リンク(田中清代の受賞歴・作品紹介。絵本ナビの著者ページで代表作一覧が確認できます)。
参考リンク(『くろいの』がパープルアイランド賞を日本人初受賞したプレスリリース。受賞の詳細と背景が確認できます)。
田中清代の絵本『くろいの』がパープルアイランド賞を受賞!|PR TIMES
田中清代の絵本を支える銅版画技法と保育で活きる「線の力」
田中清代の作品が他の絵本と一線を画す最大の理由のひとつが、「銅版画」という技法で原画を制作している点です。銅版画とは、金属板(銅板)に針や薬品で図版を刻み、そこにインクを埋めて紙に刷り取る伝統的な版画技法です。デジタル彩色や水彩が主流の現代の絵本市場において、銅版画を軸に制作し続けているのは非常に稀な存在です。
『トマトさん』(福音館書店)では、銅版画で線を刷り出したうえに絵の具で手彩色を施しています。一方、2018年の『くろいの』(偕成社)は全64ページをモノクロームの銅版画のみで仕上げました。この制作について田中清代自身は「絵を描くだけで2年8ヶ月かかった」と語っています。
ページ数に換算すると、64ページの銅版画を約32ヶ月かけて制作した計算です。単純計算でおよそ1枚あたり15日以上を費やしていることになります。絵を「印刷するだけ」に見える絵本の一冊に、それほどの時間と技術が込められているという事実は、保育士が子どもに紹介する際の「語り口」にもなります。
銅版画が子どもの視覚に与える影響も見逃せません。針で刻んだ細い線が生み出す濃淡は、人間の目が「立体感」や「奥行き」として本能的に読み取りやすい質感を持っています。これは読み聞かせの場面で、子どもが「絵をじっと見る」時間が自然に生まれやすいという現場的なメリットにもつながります。
これは使えそうです。
読み聞かせ中に子どもが絵をじっと見る場面を増やしたい保育士には、銅版画の原画を活用した絵本を意識的に選ぶことが一つの方法になります。田中清代の絵本はそのまま棚に置くだけでも、子どもが自然に手を伸ばしやすい「画面の引力」があります。
参考リンク(偕成社による田中清代インタビュー。銅版画制作の詳細や制作にかけた時間についての一次情報が確認できます)。
細やかな銅版画で描かれたあたたかな世界『くろいの』田中清代さんインタビュー|偕成社
田中清代の絵本『トマトさん』が保育の夏場に選ばれ続ける理由
『トマトさん』(福音館書店 / 2002年)は、田中清代が「作絵」(文と絵の両方を担当)した代表作のひとつです。対象年齢は3歳ごろから。ある暑い夏の日、真っ赤に熟れたトマトさんが地面にどったと落ちてしまうところから物語が始まります。
ミニトマトたちは「ころころぽっちゃん」と小川へ飛び込んでいくのに、大きなトマトさんは体が重くて転がっていけません。照りつける太陽の下でどんどん熱くなっていくトマトさんが、最後にどうなるか——そのクライマックスに向けて、ページを追うごとに緊張感が高まります。
この絵本が保育現場で夏の定番として選ばれ続けているのには、理由があります。
- 🌞 表情が豊かなトマトさんに子どもが感情移入しやすい
- 💧 水遊びや暑さの体験と物語がリンクして共感を生みやすい
- 🍅 銅版画の迫力ある絵が、集団読み聞かせでも「見える」
名古屋市の公式推薦リスト(名古屋市図書館)でも、「トマトさんの表情が豊かで、小川に飛び込んだ瞬間はとてもうれしそう。水遊びの気持ちよさを知る子どもたちの共感を誘います」と推薦されており、「読み聞かせ所要時間3分程度」という点も保育士が選びやすいポイントです。
3分という時間は、絵本の集中読み聞かせに理想的な長さです。
7月・8月の保育プログラムで、夏の感覚を呼び起こしながら感情表現を促したい場面に向いています。特に3〜4歳クラスでの導入絵本として使いやすい一冊です。
参考リンク(名古屋市図書館による読み聞かせ推薦リスト。対象年齢・読み聞かせ時間・保育場面での活用ポイントが確認できます)。
読み聞かせ絵本のたね(低学年から)おすすめの本のリスト|名古屋市図書館
田中清代の絵本『くろいの』が子どもの「感情語彙」を育てる保育的意義
『くろいの』(偕成社 / 2018年)は、ひとりでいる女の子の前に現れる謎めいた黒い存在「くろいの」との交流を描いた作品です。対象年齢は3歳から。全64ページ、モノクロームの銅版画という仕様は、田中清代が「本当にやりたかった表現」として16年間温め続けた集大成です。
田中清代は「くろいの」の発想について、「自分の意識って影みたいだ」「自分のことはふだんは見えない」という内省を起点にしたと語っています。自画像のような存在として始まったキャラクターが、最終的には「友だち」に近い存在として形になったというわけです。
保育士にとってこの絵本が面白いのは、子どもが「くろいの」に対して多様な感情を持つ点です。「かわいい」「こわい」「たのしい」——同じ絵本を読んで子どもたちが異なる感情を持つことは、読み聞かせ後の「話し合いの場」を作る好機になります。
感情を「言語化する練習」は、幼児期の情緒発達において重要です。
絵本の後に「くろいのってどんな気持ちだったと思う?」「なんでそう感じた?」と問いかけるだけで、子どもたちは自分の感情を言葉で表現する体験を積むことができます。これは保育指針が求める「言葉による伝え合い」の力につながる実践です。
『くろいの』は内向きなテーマを持つ絵本ですが、読後の対話を設計することで感情教育に活かせるという点が、保育士にとっての真の活用価値です。それだけ覚えておけばOKです。
参考リンク(国立国会図書館国際子ども図書館による作家紹介。田中清代の作品背景と保育・教育的視点からの評価が確認できます)。
保育士が田中清代の絵本を年齢別・場面別に使い分けるポイント
田中清代の絵本は現在24作品以上が確認されており、テーマも技法も幅広いです。保育士が「どの場面でどの作品を使うか」を整理しておくと、日々の保育計画に組み込みやすくなります。
以下に、保育現場での使い分けの目安を整理します。
| 作品名 | 対象年齢の目安 | おすすめ場面・テーマ |
|---|---|---|
| 🍅 トマトさん(福音館書店) | 3歳〜 | 夏の読み聞かせ・感情共感・導入絵本 |
| ⬛ くろいの(偕成社) | 3歳〜 | 感情語彙・対話活動・孤独感への寄り添い |
| 🍛 ひみつのカレーライス(アリス館) | 4〜7歳 | 食育・ファンタジー好きの子・想像力の刺激 |
| 🐱 ねえだっこして(金の星社) | 2〜4歳 | 甘えと愛着・赤ちゃん返りへの対応・情緒安定 |
| 🎒 おきにいり(ひさかたチャイルド) | 3〜5歳 | 持ち物への愛着・自己表現・個性の尊重 |
特に保育士に認識してほしいのが、『ねえだっこして』(竹下文子・文 / 田中清代・絵)です。新しく家に赤ちゃんがやってきた猫の視点で描かれたこの作品は、2〜4歳の子どもが経験しやすい「赤ちゃん返り」や「やきもち」の感情にリアルに寄り添います。読み聞かせ後に「こんな気持ちになったことある?」と話しかけるだけで、普段は言いにくい感情を引き出しやすくなります。
また、『ひみつのカレーライス』(井上荒野・文 / 田中清代・絵)は、食べたカレーの種を植えてカレーの木を育てるという荒唐無稽なストーリーが特徴です。5〜7歳のクラスでは、読後に「もし何かの種を食べたら何が育つ?」という自由な発想活動にも展開できます。
絵本一冊が活動の「入口」になります。
田中清代の作品は読み聞かせで完結させるよりも、そのあとの活動設計とセットで使うと保育的な価値が最大化します。読んで終わり、ではなく「読んでから対話する」「読んでから描く」「読んでから作る」という流れを意識して棚に並べるとよいでしょう。
参考リンク(茨城県公式の保育士推薦・夏の絵本紹介。保育現場での活用事例として『トマトさん』の保育士コメントが参照できます)。


