日本音楽教育学会 第56回大会を保育士が活かす方法と最新知見
会員でなくても当日参加費5,000円だけで最新の音楽教育研究にアクセスできます。
日本音楽教育学会 第56回大会の開催概要と保育士が注目すべき背景
日本音楽教育学会 第56回大会は、2025年11月8日(土)〜9日(日)の2日間、長崎大学を会場として対面で開催されました。大会実行委員長を務めた西田治氏(長崎大学)の報告によると、参加者は約420名にのぼり、韓国音楽教育学会(KMES)からも8名が来場するなど、国内外から注目を集めた大規模学術大会となりました。
発表数は口頭発表98件、ポスター発表24件、共同企画25件という充実ぶりです。これはA4用紙に換算すると、参考文献込みで300ページ超のレポートに相当するほどの情報量です。
大会のテーマは「日本の音楽教育の未来を語り合う」。AIや配信技術の進化で音楽へのアクセスが格段に便利になった現代、「そもそも音楽教育とは何のためにあるのか」という根本的な問いに向き合う場として設定されました。保育士にとって他人事に聞こえるかもしれませんが、この問いは幼児の音楽保育のあり方にも深く関わります。
なお、大会当日は「Pokémon GO ワイルドエリア:長崎」と日程が重なり、主催者情報では同イベントに約42万人が参加したとのこと。長崎市内のホテルは8月以降ほぼ予約不可の状態になりました。宿泊が取れずに参加を断念した研究者もいたとされており、次回大会に参加を検討している方は早めの宿泊予約が必須です。
📌 参考:日本音楽教育学会 第56回長崎大会 公式サイト(大会概要・テーマ確認に)
日本音楽教育学会 第56回大会で発表された保育・幼児教育の研究内容
今大会では、保育士・幼児教育に直結する研究発表が複数のセッションにわたって行われました。プログラムを確認すると、保育現場で働く実践者が「明日の保育にすぐ持ち帰れる」レベルの知見が多く含まれています。
特に注目したいのが、「1歳児の楽器あそびから考える音楽表現カリキュラム」という発表です。村上康子氏・今川恭子氏・丸山慎氏・水﨑誠氏(2025年11月9日)によるこの研究では、1歳という発達段階における楽器との関わりを詳細に観察・分析し、カリキュラムへの反映方法を提案しました。これは基本です。
「1歳児に楽器はまだ早い」と思いがちですが、研究では発達段階に合わせたアプローチを用意することで、音楽表現の基礎が養われることが示されています。カリキュラムの設計に悩んでいる保育士にとって大きなヒントになるでしょう。
他にも以下のような発表が行われました。
- 「保育者に必要な音楽表現力とは何か」(昭和学院短期大学・宇杉美絵子氏):学修経験・勤務経験に応じた視座の変容を分析し、保育者としての音楽力がどのように変化・深化するかを明らかにしました。
- 「保育者は音楽的な保育実践力量をどのように身に付けていくのか」(高田短期大学・山本敦子氏):就職時点でピアノが得意ではなかった保育者へのインタビューから、現場経験による学びのプロセスを描き出しています。
- 「保育者養成課程における日本の郷土芸能の教材化」(小田原短期大学・山本華子氏):エイサーを題材に、地域文化と音楽保育を繋ぐ取り組みを紹介。
「ピアノが苦手なまま現場に出た」という保育士は実は少なくありません。そのような経験をしながらも、どうやって実践力量を高めていくかの具体的なプロセスが研究で明らかにされている点は、現職保育士に大きな安心感と方向性を与えます。
📌 参考:第56回大会プログラム全文(発表一覧・詳細確認に)
https://xn--6oqq31akwh8pa94cx0fi79cv40b.com/wp-content/uploads/2025/06/第56回大会目次.pdf
日本音楽教育学会 第56回大会のシンポジウムと保育士が学ぶべきAI・ICT音楽教育
今大会のシンポジウムは「日本の音楽教育の未来を語り合う」というテーマで、2025年11月8日(土)15:20〜17:10に開催されました。パネリストには、インクルーシブアート教育・作曲・哲学・情報技術と多様な専門家4名が登壇し、異なる視点から音楽教育の未来像を論じ合いました。
開会式では、韓国中央大学のJin Ho Choi博士による招待講演「AI and Digital Transformation in Music Education: Challenges, Evolution, and Future Pathways」も行われました。AIが音楽作品を生成できる時代に、音楽教育が担うべき役割を問う内容で、保育現場とも無縁ではありません。
常任理事会企画では「GIGAスクール第2期に向けて―音楽の学びのアップデート―」と題したプロジェクト研究が行われました。GIGAスクール構想は小中学校が主な対象ですが、今後は保育・幼稚園段階でのデジタル活用も広がる見込みです。
このセッションで国立教育政策研究所の志民一成氏が示したポイントを整理すると次の通りです。
- 音や音楽の可視化・シミュレーションによる比較が学びを深める
- ICT環境整備やデジタル教科書の著作権など、制度面の課題も多い
- リアルとデジタルの二項対立を超え、子どもが実感を持って学べる支援が重要
つまり「タブレットがあればOK」ではないということですね。保育士側も「どんな場面でICTを使うと子どもの音楽体験が豊かになるか」を意識して選択する目が必要です。
保育現場では、例えば録音機能を使って子どもが自分の歌声を聞き返す活動や、音楽アプリで音の高低を視覚化する取り組みなどが、このシンポジウムの知見とリンクします。ICT活用を始める際の参考として、文部科学省のGIGAスクール関連情報を確認するのが一つの手です。
📌 参考:日本音楽教育学会ニュースレター第102号(シンポジウム・プロジェクト研究の詳細報告)
https://xn--6oqq31akwh8pa94cx0fi79cv40b.com/wp-content/uploads/2025/12/NL102_Web.pdf
日本音楽教育学会 第56回大会が示した、保育士の実践力を高める独自の学び方
学術大会というと「研究者だけが行く場所」と思われがちですが、今大会の参加費体系を見ると、非会員でも1日参加3,000円・両日参加5,000円で参加が可能でした。これは使えそうです。
年会費7,000円の正会員になると大会参加費が4,000円になりますが、まずは非会員として参加し、大会の雰囲気や研究内容を確かめてから入会を検討するのも現実的な選択肢です。
では、保育士がこうした学術大会を最大限に活用するには、具体的にどうすれば良いのでしょうか。
ポスター発表を積極的に活用するという方法があります。今大会では24件のポスター発表が行われました。口頭発表と違い、発表者と1対1に近い形で質問・対話できるのがポスター発表の特徴です。「自分の保育現場でこういう問題があるのですが」と話しかけることで、研究者から現場に即したフィードバックをもらえることもあります。
院生フォーラムという企画も注目されました。第56回大会では、修士課程・博士課程・教職大学院の大学院生が「自身の研究テーマがいかに音楽教育の未来につながるか」をグループで語り合う場が設けられました。対話が活発で「もっと聞きたい」と思う場面が多かったと報告されています。保育士が院進を考えるきっかけにもなり得る場です。
また、大会終了後に公開されるニュースレターやプログラムPDFは、一般公開されているものが多く、参加できなくても後から読んで学べます。これだけ覚えておけばOKです。
特に日本音楽教育学会は、公式サイトで過去のニュースレターを無料公開しています。今大会の内容を知りたい場合は、ニュースレター第102号(2025年12月18日発行)が最も詳しい振り返りを掲載しています。
📌 参考:日本音楽教育学会 諸手続・入会案内(参加費・会費の詳細確認に)
日本音楽教育学会 第56回大会の知見を保育現場に落とし込む実践アイデア
大会で得られた研究成果は、論文や報告書の形で学術誌に掲載されてから現場に届くまで、早くても半年〜1年以上かかるのが通常です。学術大会に参加(または資料を閲覧)することで、最新の知見をいち早く保育に活かせるのが最大のメリットと言えます。
今大会の発表内容から、保育現場への具体的な落とし込みを考えてみます。
わらべうたと伝統文化の活用について、今大会では複数の発表が行われました。「日本音階を感受する幼児向け即興プログラムの実践法」(大阪芸術大学・津田奈保子氏)では、マリンバを使って日本の音階を幼児が身体で感じるプログラムが紹介されています。「お高くとまった内容」と感じるかもしれませんが、実際には段ボール箱を叩く程度のシンプルな活動から始められるアプローチです。
「幼年期の発達段階に応じたわらべうたの体系づけ」(松本大学・安藤江里氏)という発表では、身体動作による音楽的発達に着目したわらべうたの体系化が試みられました。保育士が日々取り組んでいる「てのひらを太陽に」「かごめかごめ」などのわらべうたにも、発達段階に応じた配列の根拠があることが示されています。
「リズムの体得過程における多様な身体感覚を伴う活動の価値」(国立音楽大学附属幼稚園・井出ゆりの氏)では、和太鼓を使った幼児の表現活動の事例が報告されました。特別な道具がなくても、たとえば手作りの太鼓状の容器でも代替できます。
これらの知見を参考に、明日からできる実践として以下の3つが考えられます。
| 実践例 | 活動のポイント | 対象年齢のめやす |
|---|---|---|
| わらべうたを発達段階別に並べ直す | 音域の広さ・身体動作の複雑さで分類 | 0〜5歳 |
| 手作り楽器での1歳児音楽カリキュラム | 「叩く→振る→吹く」の段階的体験 | 1〜2歳 |
| 日本音階に親しむ即興遊び | まず「ラ・ド・レ・ミ・ソ」の5音で試す | 3〜5歳 |
「難しい研究を読んでも現場では使えない」と感じる方もいると思います。ただ、研究が示す「なぜこの順序でこの活動を行うのか」という根拠を知ることで、保護者への説明にも自信を持って臨めます。これが条件です。
保育士が音楽活動の意図を言語化できると、保護者からの信頼も高まり、日常保育の質が底上げされていきます。知識と実践の両輪が大切ということですね。
📌 参考:幼児の音楽教育と脳への効果についての解説(保護者向け説明の参考に)
https://shimazu.co.jp/musicshop/shimazudayori/the-importance-of-music/

音楽教育研究ハンドブック

