室内楽の名曲を保育士が知っておくべき理由と活用法
室内楽は「難しそう」と思っているあなたほど、子どもの情操が育つのを見逃しています。
室内楽の名曲とは何か?オーケストラとの違いを整理する
「室内楽」という言葉を初めて聞いたとき、多くの人はぼんやりとしたイメージしか持てないかもしれません。簡単に言えば、室内楽とは2人から9人程度の少人数編成で演奏されるクラシック音楽のことです。語源はイタリア語の「Musica da Camera(ムジカ・ダ・カメラ)」、つまり「部屋の音楽」。もともとは16〜18世紀にかけて、王侯貴族の邸宅の一室で演奏されていた音楽のことを指していました。
つまり室内楽が基本です。
オーケストラとの最大の違いは「人数」と「聴こえ方」にあります。フルオーケストラは100人前後の演奏者が一斉に音を出しますが、弦楽四重奏(ヴァイオリン2本・ヴィオラ1本・チェロ1本)であればわずか4人です。その分、楽器1本1本の音色がダイレクトに耳に届き、曲の構造がわかりやすい点が特徴です。
| 編成名 | 人数・構成 | 代表的な名曲 |
|---|---|---|
| 弦楽四重奏 | 4人(Vn×2、Va、Vc) | ドヴォルザーク「アメリカ」 |
| ピアノ三重奏 | 3人(Pf、Vn、Vc) | ベートーヴェン「大公」 |
| ピアノ五重奏 | 5人(Pf+弦楽四重奏) | シューベルト「鱒」 |
| クラリネット五重奏 | 5人(Cl+弦楽四重奏) | モーツァルト クラリネット五重奏曲 |
保育士にとって大事なのは「音の密度の違い」です。オーケストラの迫力ある演奏は、子どもたちを興奮させることには長けていますが、午睡や落ち着きを求める場面では逆効果になることもあります。室内楽は音量が自然と抑えられ、各楽器の音が会話するようにやり取りされるため、子どもが耳を澄ませて聴く習慣をつけるのに向いています。これは使えそうです。
参考:室内楽の特徴や歴史的背景をわかりやすく解説しているサイトです。
【室内楽ってそもそもなに?】脱クラシック初心者 | edyclassic
室内楽の名曲が子どもの感性を育てる理由と科学的根拠
「クラシックを聴くとIQが上がる」という話を耳にしたことがある保育士も多いでしょう。実際に1993年の研究では、モーツァルトを聴いた大学生の空間認識スコアが平均8〜9ポイント上昇したという結果が報告されています。この現象は「モーツァルト効果」と呼ばれました。
ただし、正確に言えばIQが恒久的に上がるわけではありません。
効果が持続したのはわずか15分ほどであり、「好きな音楽を聴いて気分が良くなった後、一時的に脳の処理が向上した」という解釈が現在では主流です(BBC、2022年)。つまり、音楽を聴かせるだけで子どもが「賢くなる」と過信するのは禁物です。
では、室内楽を保育の現場で活用することに意味はないのでしょうか?そんなことはありません。音楽が子どもにもたらす効果は、IQ向上よりも情緒面・感覚面での発達として現れます。南カリフォルニア大学が2012年にスタートした研究では、音楽教育を受けた子どもは脳の「聴覚野」と「前頭前野」(決断や感情制御に関わる部位)の発達が促されることが確認されています。
クラシック音楽全般に言えることですが、とくに室内楽には以下のような特性があります。
- 🎻 各楽器の音色がはっきり分かれているため、子どもが「今はバイオリン、今はチェロ」と音の違いを自然に感じ取れる
- 🔊 音量が穏やかで、α波(心が落ち着いた集中状態のときに出る脳波)を誘導しやすい
- 🎵 テンポや強弱の変化が豊かで、感情の浮き沈みを音楽を通じて体験できる
α波が優位になるとストレスホルモン(コルチゾール)の分泌が抑えられ、子どもが穏やかな状態を保ちやすくなります。午睡への誘導や、活動と活動の切り替えシーンに室内楽の名曲を使う理由がここにあります。
また、日本の就学前施設における音楽鑑賞の実践研究では、「日常的な音楽鑑賞は幼児の感受する力を育て、表現する力の要素を育む」という結果が報告されています。感受性と表現力の両方が育まれるというのがポイントです。
参考:音楽教育が子どもの脳に与える効果をわかりやすく解説しています。
音楽教育が子どもの脳に与える驚くべき効果|motechoro
保育士が選ぶべき室内楽の名曲リスト5選と聴きどころ
室内楽の名曲は数多くありますが、保育の現場で実際に使いやすい曲はある程度絞られます。ここでは、子どもに聴かせやすく、かつ音楽的な魅力が高い5曲を紹介します。
① モーツァルト「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」K.525
ドイツ語で「小さな夜の音楽」を意味するこの曲は、1787年に作曲されたセレナーデ(小楽団向けの軽音楽)です。弦楽合奏(もしくは弦楽四重奏)で演奏され、全4楽章から成ります。第1楽章の冒頭メロディは「あ、この曲!」と誰でも思わず口ずさめるほど有名です。
テンポは軽快で明るく、難しい和音は少ないため、子どもが「音楽を聴いている」という意識なく、自然に体でリズムをとってしまいます。自由遊びのBGMや、朝の会のスタート前に流すと、保育室の雰囲気が穏やかに整います。
② シューベルト「ピアノ五重奏曲 イ長調『鱒』」D.667
1819年、22歳のシューベルトが作曲したピアノ五重奏の名曲です。ピアノ・ヴァイオリン・ヴィオラ・チェロ・コントラバスという珍しい5人編成で、第4楽章では歌曲「鱒」の旋律が変奏曲として登場します。
🐟「鱒」というタイトルがそのまま子どもへの導入になります。「川を泳ぐ魚が水の中でくるくる回っているよ」といった声かけとともに流すと、想像力を働かせながら聴ける曲です。第4楽章だけ切り取って聴かせるのが最もわかりやすく、初めて室内楽に触れる子どもにも親しみやすい入口になります。
③ ドヴォルザーク「弦楽四重奏曲第12番 ヘ長調『アメリカ』」Op.96
チェコの作曲家ドヴォルザークが1893年、ニューヨーク滞在中にわずか2週間で書き上げた傑作です。アメリカの民謡やネイティブアメリカンの音楽のエッセンスが溶け込んでいて、全体的に親しみやすく、哀愁と温かさが混ざり合った独特の雰囲気があります。
弦楽四重奏の定番中の定番です。
第2楽章は特に有名で、どこかなつかしく静かなメロディが続きます。午睡の導入として流すのに最も適した楽章のひとつで、ゆったりとしたテンポが子どもの眠りを引き込む雰囲気を作り出します。
④ ベートーヴェン「ピアノ三重奏曲第7番『大公』」Op.97
ベートーヴェンが弟子でもあったルドルフ大公に献呈したことから「大公トリオ」と呼ばれるこの曲は、ピアノ三重奏(ピアノ・ヴァイオリン・チェロ)の最高傑作のひとつとされています。演奏時間は約40分と室内楽曲としては大作ですが、第3楽章の緩やかな変奏曲は個別で取り出して使えます。
大らかで気品のある音楽です。
室内楽の中でもピアノの音色が中心に据えられているため、ピアノに親しんでいる保育士自身も曲の構造が理解しやすく、子どもへの説明がしやすい点がメリットです。
⑤ モーツァルト「クラリネット五重奏曲 イ長調」K.581
クラリネットと弦楽四重奏の組み合わせで演奏されるこの曲は、クラリネットの柔らかく人の声に近い音色が印象的です。冒頭から穏やかで清々しいメロディが展開し、ドイツの音楽史家ヘルマン・アーベルトは「雲のない春の朝」と評しました。
クラリネットの音色は子どもが「これ何の音?」と興味を持ちやすい点も特徴です。木管楽器の音を意識して聴かせる音楽鑑賞の時間を設けるなら、この曲が最適です。
参考:室内楽名曲10選と各曲の聴きどころをわかりやすく解説しています。
室内楽の名曲10選【楽器本来の響きに酔いしれる幸福な時間】| otomamire
室内楽の名曲を保育の場面別に使い分けるコツ
室内楽の名曲を「なんとなくかけっぱなし」にしているだけでは、その効果は半減します。場面に合った曲と聴かせ方を選ぶことで、子どもへの影響が大きく変わります。ここでは保育の主要な3場面に絞って整理します。
🌙 午睡・お昼寝の場面
午睡のBGMとして室内楽を使うとき、最も重要なのは「テンポ」と「音量」です。目安として、心拍数を下回る60BPM以下のテンポの楽章を選ぶと、自律神経が副交感神経優位に切り替わりやすく、子どもの入眠を助けます。
おすすめの楽章はドヴォルザーク「アメリカ」第2楽章(♩≒66)と、ブラームス「弦楽六重奏曲第1番」第2楽章です。同じ曲を毎日同じシーンで流し続けると、その曲が「眠る合図」として条件づけられます。これを「入眠儀式化」と呼び、同じ刺激を繰り返すことで睡眠の導入が短縮される効果が期待できます。
音量は日常の会話音(約60dB)より低い40〜50dB前後が適切です。スマートフォンの音量計アプリを一度確認してから設定すると手軽です。
🎨 自由遊び・製作活動の場面
子どもたちが集中して製作に取り組む時間に、「静かすぎる」「にぎやかすぎる」という中間の音楽を流すと集中力が持続しやすくなります。モーツァルト「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」の第2楽章(ロマンス)や、シューベルト「鱒」の第1〜第3楽章はこの場面に最適です。
重要なのは「歌詞がない曲」を選ぶことです。歌詞がある曲が流れていると、子どもは無意識に言葉を追ってしまい、作業への集中が妨げられることがあります。室内楽の名曲はすべてインストゥルメンタルのため、この条件を自然にクリアしています。
👂 音楽鑑賞の場面(独自視点:楽器クイズとして活用)
通常の音楽鑑賞では「静かに聴く」が優先されますが、室内楽の少人数編成という特性を活かした「楽器クイズ型の鑑賞」が実はとても効果的です。
やり方は単純です。まず子どもたちに「今から4つの楽器の音が聴こえてくるよ。何の楽器か当ててみよう」と予告してから、弦楽四重奏(たとえばドヴォルザーク「アメリカ」)を流します。弦楽四重奏は音色の違う4種類の弦楽器が使われているため、1分ほど聴かせた後に「一番高い音を出してたのは何だった?」「一番太い音は?」と問いかけます。
これが案外盛り上がります。
一方で大編成のオーケストラでは楽器が多すぎて、同じクイズをしても答えが難しすぎます。室内楽の名曲は演奏者が少ないからこそ、子どもが「音を聴き分ける」練習に最適なのです。4〜5歳児クラス以上であれば、この活動を通じて音感と集中力の両方を同時に育てることができます。
室内楽の名曲を探すのに使えるサービスと保育士のための選曲ガイド
「室内楽の名曲を聴かせたいけれど、どこから入手すれば良いかわからない」という保育士も多いはずです。今は無料・低コストで手軽に使えるサービスが充実しているため、わざわざCDを購入しなくても始められます。
まず、YouTube上には質の高い室内楽の演奏動画が無数にあります。「アイネクライネナハトムジーク 弦楽四重奏」「鱒 シューベルト 全曲」などのキーワードで検索すると、プロのアンサンブルによる演奏がすぐに見つかります。これは無料です。
ただし、YouTube は映像があるため保育中にかけっぱなしにするには少し不便です。そこで音声のみを使うなら、Spotify や Apple Music などの音楽ストリーミングサービスが便利です。月額約1,000円前後のプレミアムプランに加入すると、オフライン再生・広告なしで再生できます。NAXOS(ナクソス)は専門的なクラシック音楽の配信サービスで、月額約1,650円で膨大な室内楽名曲のライブラリを利用できます。
選曲に迷う保育士へのアドバイスをひとつ。まず「モーツァルト→シューベルト→ドヴォルザーク」の順に試してみてください。モーツァルトは明るく軽快で万人受けします。シューベルトは旋律が美しく覚えやすい。ドヴォルザークは民謡的なわかりやすいリズムがあります。この3人の作曲家を押さえれば、保育の現場で必要な室内楽の名曲はほぼカバーできます。
3人の作曲家が基本です。
また、保育の現場で室内楽を使う際のもう一つの工夫として、季節感のある選曲があります。たとえば春はモーツァルトの明るい曲(アイネクライネ)、夏は活発なリズムの曲(ドヴォルザーク「アメリカ」第1楽章)、秋冬はブラームスやシューベルトの深みのある楽章を選ぶと、子どもが音楽と季節の変化を自然に結びつけて感じられるようになります。
保育士が音楽の「解説者」になる必要はありません。「この曲は春みたいだね」という一言添えるだけで、子どもの音楽への意識が大きく変わります。
参考:クラシック音楽の配信サービス「NAXOS」の概要はこちら。
NAXOS Music Library | クラシック音楽ストリーミングサービス
参考:保育施設での音楽BGM活用と脳への効果について解説しています。


