夕方のうたピアノで保育士が押さえる弾き方と活用のすべて
技術的には「初級C」なのに、9割の保育士が音楽的表現で詰まって子どもの帰り時間が乱れています。
夕方のうたピアノの難易度と楽譜の基本情報
「夕方のうた」は、『夏の思い出』や『めだかの学校』でも知られる日本の作曲家・中田喜直(1923〜2000年)が作曲したピアノ小品です。収録楽譜集は音楽之友社から出版された「こどものピアノ曲」(定価1,320円)で、出版から約50年が経ったロングセラーとして楽譜店には必ずといっていいほど置かれています。
難易度は初級Cに分類されており、いわゆる「バイエル100番前後」の力があれば弾き始められる水準です。ブルグミュラーに入ったばかりの方でも、どの曲もほぼ無理なく取り組めるとされています。技術面だけを見れば「簡単な曲」と言えます。
しかし実際には、音楽的な表現の難しさがあります。これが重要です。
楽譜上に書かれたダイナミクス記号はp・pp・mFの3種類のみ。冒頭には英語で「Quietly(静かに)」という指示が添えられています。強弱の幅がとても狭く、その限られた中でどう聴かせるか、どこで音色を変えるかがこの曲最大の課題です。
調性はイ長調(♯3つ)の4/4拍子。小節数は16小節ほどのコンパクトな作品で、演奏時間は1分30秒前後と短めです。全体の構成は「A-B-A’」の三部形式になっており、Bセクション(9〜12小節)だけが平行短調の嬰へ短調(F♯m)に転調します。この転調部分が色彩を変える重要なポイントです。
左手は2拍ごとに下行する伴奏音型が特徴的で、和声の変化が夕焼けが徐々に変わるような情景を描き出します。左手の動きにはイ長調の音階が埋め込まれており、BからCセクションへとスムーズにつながっていきます。楽譜の構造を理解すれば暗譜もしやすくなります。
日本ピアノ教育連盟によるこどものピアノ曲「夕方のうた」の詳細な楽曲解説(演奏上のポイントも収録)
夕方のうたピアノに隠された「ヨナ抜き音階」の秘密
「夕方のうた」を初めて弾いた人が口をそろえて言うのが、「どこか懐かしい感じがする」という感想です。この懐かしさには、明確な音楽的根拠があります。
それがヨナ抜き音階です。
一般的な西洋音楽の音階はドレミファソラシの7音で構成されますが、ヨナ抜き音階は4番目(ファ)と7番目(シ)を抜いた5音だけで構成されます。つまりドレミソラ、という並びです。演歌や唱歌にも頻繁に使われてきた、日本人の心に染み込んだ音の配列です。
中田喜直はピアノ科出身の作曲家でありながら、この日本古来の音感を意識的に作品に組み込んでいました。「夕方のうた」の右手メロディーをよく調べると、まさにこのヨナ抜きの音使いになっている箇所が随所に登場します。これが原因です。
関東学園大学の研究によれば、「幼児期に歌う曲に限ってみると、現在の生活に浸透している西洋音楽の流れよりも、ヨナ抜き音階といった世俗的・大衆的な音感が深く根付いている」と指摘されています。保育現場でヨナ抜き音階の曲が子どもたちに自然になじむのはこのためです。
保育士にとってのメリットは大きいですね。
「夕方のうた」を弾く際に、このヨナ抜き音階の”流れ”を意識しながら右手メロディーを歌うように弾くと、表現力が格段に上がります。単に音符を追うのではなく、「この旋律はどの音に向かっているのか」を意識することで、子どもたちに伝わる演奏になります。
また、ヨナ抜き音階のメロディーは耳で記憶しやすいという特徴もあります。つまり暗譜が比較的スムーズです。保育の現場では楽譜から目を離して子どもたちを見ながら弾く場面も多いため、この性質は実践的な強みになります。
関東学園大学「子どもの歌と音階の関わり」論文:幼児期の音楽とヨナ抜き音階の関連性についての学術的考察
夕方のうたピアノの弾き方:左手・強弱・転調を攻略する練習法
「技術的には簡単なのに、なぜかしっくり来ない」という悩みを持つ保育士は多いです。その原因のほとんどは、3つのポイントに集約されます。
① 左手の方向性を意識する
1小節目から左手は徐々に下行していきます。ただ音を追うのではなく、「どこへ向かっているのか」という方向性を感じながら弾くことが重要です。7小節目に向けてテンションを緩めないよう注意してください。ただしpやppから始まり、最大でもmFを超えないよう気をつけます。強くなりすぎるのが一番よくありません。
② 同じフレーズを「同じ音量で弾かない」
3小節目のように「1〜2拍と3〜4拍が全く同じ音型」になる箇所では、2つを意図的に変化させる必要があります。例えば、後半のユニットを前半よりやや大きく弾いてクレシェンドを作り、4小節目の解決音(Aの音)へ自然につながるようにします。この小さな工夫が、演奏全体の流れを生み出します。これが基本です。
③ B部分の転調は「音質ごと変える」意識で
9〜12小節の嬰へ短調に転調するBセクションは、イ長調とは異なる音色で弾くことが求められます。ここでは左手の伴奏音型も変化し、16分音符が混じる右手の動きにも注意が必要です。ペダルを踏みすぎると音が濁るため、16分音符の入る拍でペダルを一度離す習慣をつけましょう。
13小節目のrit.(だんだんゆっくり)は要注意です。ritが書いてあるからといって遅くしすぎると、右手の16分音符が8分音符に聞こえるほど崩れてしまいます。rit.はあくまでも「自然な余韻」程度が目安です。
練習の手順としては、①まず片手ずつゆっくり弾き、②左手の和声の流れを鼻歌で確認し、③両手合わせた後に録音して聴き直す、という3ステップが効果的です。スマートフォンで録音するだけでも、弱点がはっきり見えてきます。これは使えそうです。
ピアノサプリ「夕方のうた」弾き方解説:構成分析・各セクションの弾き方ポイントをわかりやすく解説

