保護者支援で大切なこと:信頼関係と子育て支援の実践ポイント
保護者の話を最後まで聞くだけで、クレームの8割は防げると言われています。
保護者支援の基本:保育士のねらいと保育所保育指針の考え方
保護者支援とは、保護者が子どもを育てる力を引き出し、家庭での子育てを安定させることを目的とした取り組みです。2018年に改定された保育所保育指針では、従来の「第6章 保護者に対する支援」という章が「第4章 子育て支援」に改められました。この改定が意味するのは、「支援」という一方的な援助ではなく、保育園・家庭・地域が一体となって子育てに取り組むという考え方へのシフトです。
つまり「支援する側・される側」ではない、です。
保育所保育指針では、保護者支援の根本にあるのは「子どもの最善の利益」であると明記されています。保育士が保護者にアドバイスするとき、その目的は常に子どもの健やかな成長に向けられていなければなりません。保護者を管理・指導する立場ではなく、同じゴールに向かって歩む伴走者として関わることが求められています。
| 改定前(2008年) | 改定後(2018年) |
|---|---|
| 第6章「保護者に対する支援」 | 第4章「子育て支援」 |
| 保護者を「支援される側」と位置づけ | 保護者・地域が「自ら実践する力の向上」を重視 |
| 個別支援が中心 | 地域連携・専門機関との連携も明記 |
保育士に求められる保護者支援の具体的な項目は、大きく4つに整理できます。
- 🔹 専門的な知識・技術を活かし、家庭の保育環境を整えること
- 🔹 保育園での子どもの成長を保護者に伝えること
- 🔹 保護者の意志を尊重し、円滑なコミュニケーションを取ること
- 🔹 各家庭の状況に応じた個別的な支援を行うこと
これらの4点が基本です。
重要なのは、「命令ではなく提案」のスタンスを崩さないこと。育児をしているのは保護者であり、保育士はあくまでサポーターに徹することが大原則です。どれほど的確なアドバイスであっても、上から目線で伝えてしまえば保護者の心は離れてしまいます。
参考:保育所保育指針(平成29年厚生労働省告示第117号)における子育て支援の基本的な考え方
保護者支援で大切なこと:傾聴と共感が信頼関係を生む理由
保育士が保護者に対して感じる難しさの中で、「どう話を聞けばよいかわからない」という悩みは非常に多いです。実際、2023年の調査(Simple株式会社、保育士100人対象)によれば、保護者とのトラブルを経験したことがある保育士は7割以上にのぼります。そして、トラブル発生時に最も有効な対応として81.0%の保育士が挙げたのが「保護者の話を最後まで聞く」という行動でした。
話を「聞く」のが一番の対策です。
傾聴とは、ただ黙って聞いているのとは違います。相手の言葉に「そうなんですね」「それは大変でしたね」と応じる「オウム返し」や「うなずき」を意識的に使うことで、保護者は「この人はちゃんと聞いてくれている」と感じます。人間関係の心理学的研究でも、自分の話をきちんと聞いてもらえた人は、相手への信頼感が格段に高まることが示されています。
共感の言葉をかける際には、「大変でしたね」「それは心配ですよね」という気持ちを代弁する言葉が効果的です。ただし、内容に同意することと、気持ちに共感することは別物だということを意識する必要があります。たとえば保護者の判断が適切でないと感じる場面でも、「そのお気持ちはよく分かります」と気持ちには寄り添いつつ、その後に「一つご提案があるのですが…」と続ければ、否定ではなく提案として届けることができます。
傾聴・共感を実践する際の具体的なポイントをまとめると、以下のようになります。
- 👂 話の途中で遮らない(最後まで聞ききる)
- 🙂 うなずきと相づちを意識的に使う(「そうなんですね」「はい」など)
- 🔄 オウム返しで理解を示す(「〇〇でお困りなんですね」)
- 💡 気持ちへの共感と、内容への同意は切り分けて考える
- 🚫 安易な「大丈夫ですよ」は逆効果になることもある
特に注意したいのが、「大丈夫ですよ」という言葉です。保護者が深く悩んでいる場面でこの言葉を使うと、「悩みを軽く見られた」と感じさせることがあります。まず話を十分に聞いてから、具体的なアドバイスや提案へと移る流れが理想的です。
保護者支援で大切なこと:個別対応と家庭環境への理解
すべての保護者に同じ対応をすることは、保護者支援の落とし穴です。これは意外に見落とされがちな視点です。
保育園に通う子どもたちの家庭環境は実に多様です。共働きで毎日余裕がない家庭、一人親で精神的にギリギリの状態で頑張っている家庭、発達面の不安を抱えている家庭など、背景はさまざまです。同じ「報告が遅れた」という事実でも、受け取る保護者によって深刻度は全く異なります。
個別対応が基本です。
家庭環境を理解するために有効なのは、入園時や個人面談の機会を活用して「家庭の中で大切にしているルール」を聞き取ることです。例えば「うちでは食事中はテレビを消しています」といった習慣を事前に把握しておくと、保育園でも同様の環境を意識できます。こうした家庭と保育園の一貫性が、子どもの情緒の安定につながり、結果として保護者のストレスも軽減します。
2023年のSimple株式会社の調査でも、保護者と良好な関係を築くうえで大切なこととして、「各家庭や保護者の事情を理解する」が75.0%と最多回答を集めました。保育士自身が「この保護者はどんな状況に置かれているのか」を意識しながら関わることが、支援の質を大きく左右します。
また、特に配慮が必要な家庭として以下のような状況が挙げられます。
- 🏠 核家族で周囲に育児の相談相手がいない家庭
- 💼 仕事と育児の両立に強いストレスを感じている保護者
- 👶 子どもの発達に不安を持ちながらも専門機関への相談をためらっている家庭
- 🌐 外国にルーツを持ち、言語や文化の壁がある家庭
こうした家庭に対して、保育士一人で全てを解決しようとするのは無理があります。適切なタイミングで地域の子育て支援センターや、市区町村の相談窓口、専門の医療機関といった外部リソースにつなぐことも、保護者支援の重要な役割の一つです。
外部連携は「できない」ではなく「役割分担」です。
一人で抱え込まず、必要な情報を持つ機関に適切につなぐことが、保護者のためにも、保育士自身のバーンアウト防止のためにも欠かせません。
手ぶら登園コラム「保護者支援で円滑な親子関係を築く!保育士にできることとは」(外部連携を含む保護者支援の4つの重要項目が整理されています)
保護者支援で大切なこと:連絡帳と日常のコミュニケーションを活かす
保育士と保護者が顔を合わせる時間は、送迎のわずか数分間に限られることがほとんどです。だからこそ、連絡帳は保護者との重要なコミュニケーション媒体として機能します。
連絡帳の書き方一つで、保護者の受け取り方は大きく変わります。たとえばネガティブな内容(友達とトラブルになった、食が細かったなど)をそのまま文章で書くと、保護者は帰宅後に読んで心配が増幅することがあります。マイナスな内容は、お迎えのタイミングで直接口頭で伝えることが基本です。連絡帳にはできるだけポジティブな場面を記録し、「今日はこんなことで笑顔を見せてくれました」という一言が、保護者の疲れた心を大きく癒します。
プラスの記録が信頼を作ります。
連絡帳の書き方で意識したい具体的なポイントは以下の通りです。
- ✅ 子どもの具体的な言葉や行動を書く(「ありがとうって言えました」など)
- ✅ 成長の変化を小さくても記録する(「今週は自分で靴を脱げるようになりました」など)
- ⚠️ ネガティブな情報はできるだけ口頭で伝える
- ⚠️ 文章での報告はニュアンスが伝わりにくいため、短く明確に書く
近年、保育園でのICT(情報通信技術)活用が急速に広がっています。連絡帳アプリを導入することで、保護者は朝のバタバタした時間でも手軽に欠席連絡や体調変化を送信でき、保育士側も一括で確認・返信が可能になります。静岡県の保育園ICT活用事例集(2022年)でも、「連絡帳のアプリ化で保護者連絡が格段にスムーズになった」という成果が複数の園から報告されています。
ICT導入はコミュニケーションの量と質を同時に高められる手段です。ただし、デジタル化によって「画面越しのやりとりばかりになった」と感じる保護者が出ることも事実です。日常の短い会話や笑顔での挨拶など、アナログなコミュニケーションと組み合わせることで、より深い信頼関係を築けます。
保育ICTシステムの代表的な機能として「コドモン(codmon)」「キッズリー」などのサービスがあり、月額料金で連絡帳・出欠管理・お知らせ配信をまとめて管理できます。まず自園のICT導入状況を確認してみることをおすすめします。
保育ICT推進協会「保護者連絡のICT化 保育がどう変わるのか」(ICT化による具体的な現場への影響が詳しく説明されています)
保護者支援で大切なこと:クレーム対応から信頼を深める独自視点
「クレームは信頼関係を壊す」と思っている保育士は少なくありません。しかし実は、クレームは信頼を作り直す最大のチャンスでもあります。これは、多くの保育士が気づいていない逆転の発想です。
クレームこそ、最大の信頼構築チャンスです。
保護者がクレームを言ってくるということは、「まだこの保育士・この園に伝える価値がある」と思っているということです。クレームすら言わず、ただ静かに不満を持ち続け転園や退園を選ぶ保護者の方が、関係修復の機会はずっと少ないのです。
クレームを受けたときに多くの保育士が陥りやすいのが、「謝れば丸く収まる」という思い込みによる安易な謝罪です。しかしこれは逆効果になることがあります。事実関係を確認せずに謝罪すると、「やはり何か問題があったんだ」という保護者の誤解を強めるリスクがあります。正しい対応のステップは以下の通りです。
- 🎧 ステップ1:最後まで話を聞く(絶対に途中で遮らない)
- 🙏 ステップ2:「お気持ちはよく分かります」と感情への共感を示す
- 🔍 ステップ3:事実関係を確認する(その場で即答しなくてよい)
- 💡 ステップ4:代替案・改善策を提示する(「〜してみてはいかがでしょうか」)
- 📋 ステップ5:対応後に必ず園長・主任に報告・共有する
特に重要なのは、クレームは決して一人で抱え込まないことです。保育士個人の問題として処理しようとすると、ミスが生じやすく、保護者の不満を逆に悪化させるリスクがあります。組織として対応することで、保護者にも「園全体が真剣に向き合ってくれている」という安心感を与えられます。
また、クレーム対応の際に保育士自身のメンタルを守る視点も欠かせません。厚生労働省のデータによれば、保育士の離職率は全体で9.3%、入職3年以内では約24.9%にのぼります。保護者対応のストレスが蓄積されてバーンアウトに至るケースも少なくありません。一人で悩まず、先輩保育士や主任に相談する習慣を日常的に持つことが、長く現場に携わり続けるための重要な条件です。
精神的に安定した保育士が、より質の高い保護者支援ができます。
現在、保育士のバーンアウト予防や職場環境改善を支援するツールとして、保育士専用の悩み相談サービスや、職場内のチームコミュニケーションツール(Slack、Notion等)の活用が広まっています。自分の職場環境を振り返り、「誰かに相談できる仕組みがあるか」を確認しておくことをおすすめします。
PRTimes「保育士は保護者トラブルも多い!実に7割以上は経験あり」(保育士100人対象の具体的な調査データが掲載されています)
厚生労働省「保育士として就業した者が退職した理由」(公式データで、離職原因の分布が確認できます)

保育者のための外国人保護者支援の本

