保育実践研究テーマの選び方と現場での実践・活かし方
「研究テーマは自分の興味だけで決めれば良い」と思っている保育士ほど、1年後に使えない研究になり時間を丸ごと無駄にします。
保育実践研究テーマとは何か?その意義と基本的な考え方
保育実践研究とは、日々の保育現場で感じた「なぜ?」「どうすればいい?」という疑問を出発点に、課題を整理し、実践を通して検証していく取り組みのことです。全国保育士会が発行する「保育を高める実践研究の手引き」では、実践研究を「保育者自身の課題意識と、その課題解決に向けて行われるもの」と定義しています。
研究というと、大学や研究機関がやるものというイメージを持つ方も多いかもしれません。意外ですね。しかし実際には、現場の保育士が日常の観察記録やエピソードをもとに行う「実践研究(アクション・リサーチ)」こそが、保育の質を底上げする最も現実的な手段として評価されています。
保育実践研究に取り組む意義は、大きく3つあります。まず、自分自身が関心を持つ領域に深く精通できること。次に、日々の保育に「根拠」を持って臨めるようになること。そして、自分一人の取り組みが保育士全体の知見として蓄積されていくことです。
つまり研究は「自分のため」と「子どもたちのため」の両方です。
保育現場では、忙しさのあまり「なんとなくこうしている」という暗黙知が積み重なりがちです。それを言語化・可視化することで、客観的な評価と改善が可能になります。これが保育の専門性を「職人の感覚」から「理論に裏打ちされた実践力」へと昇華させる第一歩になります。
実践研究は難しく考えすぎる必要はありません。「なぜこの子はこの遊びに夢中になるのか」「声かけのタイミングを変えたら子どもの反応はどう変わるか」——そういった素朴な問いが、立派なテーマの原石になります。
参考リンク(全国保育士会による実践研究の手引き。テーマの立て方から論文のまとめ方まで網羅)。
保育実践研究テーマの選び方:3つの重要ポイント
テーマ選びには「正解」はありませんが、選ぶ際に外してはいけないポイントが3つあります。この3点を押さえるかどうかで、研究が「現場で使えるもの」になるか「書きっぱなしで終わるもの」になるかが大きく変わります。
① 自分の「興味・関心」を具体的にする
まず大切なのは、漠然とした興味を言語化することです。「遊びが気になる」ではなく「なぜ3歳児はごっこ遊びに熱中するのか」、「環境が大事だと思う」ではなく「コーナー設定を変えたら子どもの集中時間は変わるか」という具合に、問いを具体的に落とし込みます。
複数の興味を掛け合わせる方法も効果的です。「食育」と「子どもの自己肯定感」を組み合わせれば、「食事の自己選択が自己肯定感に与える影響」という独自テーマが生まれます。これが原則です。
② オリジナリティ(新規性)があるか確認する
すでに誰かが研究しているテーマは、あえて重複させる必要がありません。ただし、完全な新テーマでなくても問題ありません。「同じテーマでも、対象年齢が違う」「場所(地域)が違う」「アプローチ方法が異なる」だけで十分な新規性が生まれます。
論文の有無を調べるには「J-STAGE(国立研究開発法人 科学技術振興機構)」が便利です。「保育 ごっこ遊び」などのキーワードで検索すると、日本語の保育学論文を無料で確認できます。
参考リンク(保育学の論文を無料検索できる。テーマのオリジナリティ確認に必須)。
③ 実際の現場に活かせるかイメージする
研究の結果が分かったとして、「過去の自分はそれを知りたかったか?」と問いかけてみてください。「知っていれば現場での接し方が変わった」「保護者に自信を持って伝えられた」という答えが浮かぶなら、現場に活かせるテーマです。
同僚の保育士に「こういうことが分かったら役に立つと思う?」と一言聞いてみるのも有効な方法です。これは使えそうです。
保育実践研究で選ばれやすい人気テーマの具体例と傾向
日本保育協会が毎年募集・表彰している「保育実践研究」(2024年時点で第18回)の入賞・応募作をもとにすると、現場で実際に選ばれているテーマの傾向がよく分かります。
第18回(令和6年)の研究テーマには、保育ドキュメンテーション、絵本を活用した保護者連携、療育、食育、ICT活用、運動遊び、自然遊び、リズム遊び、マルトリートメント回避、保護者支援などが並んでいます。多様なテーマで応募されているということですね。
以下に、現場での人気が高いテーマのカテゴリと具体例を整理しました。
| カテゴリ | 具体的なテーマ例 |
|---|---|
| 🎮 遊びと学び | ・運動遊びが集中力に与える影響 ・自然遊びで育つ子どもの主体性 ・リズム遊びと情緒発達の関連 |
| 🌿 環境構成 | ・コーナー設定が遊びの深まりに与える影響 ・子どもが主体的に遊べる空間づくり ・乳児クラスの物的環境の見直し |
| 🤝 人との関わり | ・異年齢保育における子ども同士の関係形成 ・保護者支援と信頼関係の構築 ・特別な配慮を要する子どもへの関わり方 |
| 🍽️ 食育・健康 | ・食育を通じた生きる力の育み ・子どもの睡眠環境と生活リズムの見直し ・アレルギー対応と保護者連携 |
| 📱 ICT・記録 | ・保育ドキュメンテーションの効果的な活用 ・ICT導入による保護者との連携強化 ・タブレット記録が振り返り質に与える影響 |
特に近年注目されているのは「子どもの主体性」を軸にしたテーマです。保育所保育指針(2017年改訂)以降、「子どもが自ら遊び、学ぶ」という方向性が一層強調されており、それに応じた実践研究が増えています。
また、ICTを活用した保育ドキュメンテーションや保護者連携もトレンドのテーマです。コロナ禍を経て保護者と園の関わり方が変化したことが背景にあります。
参考リンク(日本保育協会による実践研究報告集。入賞テーマと内容の一覧が参考になる)。
保育実践研究テーマの進め方:PDCAサイクルを現場に落とし込む
テーマが決まったら、次は「どう進めるか」です。保育実践研究の進め方として広く推奨されているのが、PDCAサイクルの活用です。製造業でよく使われる手法ですが、保育現場にもそのまま応用できます。
PDCAとは「Plan(計画)→ Do(実行)→ Check(確認・評価)→ Action(改善)」のサイクルのことです。
| ステップ | 保育実践研究への当てはめ方 |
|---|---|
| 📌 Plan(計画) | 研究テーマの設定・仮説の構築・保育計画・指導案の作成 |
| ▶️ Do(実行) | 実践・観察記録・エピソード記録・写真記録の蓄積 |
| 🔎 Check(評価) | 保育記録の振り返り・職員間のカンファレンス・自己評価 |
| 🔄 Action(改善) | 全体的な計画の見直し・次の研究テーマへの示唆・保護者へのフィードバック |
Planの段階で特に大切なのは「仮説」を立てることです。「コーナーを増やせば遊びが深まるのではないか」「声かけのタイミングを子ども主導にすれば、自己決定の場面が増えるのではないか」といった、検証可能な仮説を立ててから実践に入ることが、研究と単なる「やってみた報告」を分ける重要な分岐点です。これが条件です。
Checkの段階では、観察記録やエピソード記録が欠かせません。量的研究(数字で測る方法)と質的研究(記述・インタビューで分析する方法)の2種類があり、テーマによって使い分けます。たとえば「コーナーに滞在する時間が平均何分増えたか」を測るのは量的研究、「どのような表情や言葉が出たか」を記述するのは質的研究です。
研究を一人で抱え込む必要はありません。グループ研究として複数の保育士で取り組むことで、観察の視点が多角化し、より豊かな気づきが得られます。
参考リンク(厚生労働省による保育改善の実践事例。PDCAを保育に活用する際の参考になる)。
保育実践研究テーマへの取り組みがキャリアアップと処遇改善につながる仕組み
保育実践研究に取り組むことは、専門性の向上だけでなく、収入にも直結する可能性があります。これは意外と知られていない事実です。
2017年からスタートした「保育士等キャリアアップ研修制度」では、専門分野ごとの研修(8分野)を受講し、特定の役職に就くことで「処遇改善等加算Ⅱ」として給与が上乗せされる仕組みがあります。具体的には以下の通りです。
- 💼 職務分野別リーダー:キャリアアップ研修を1分野以上修了 → 月額+5,000円
- 💼 専門リーダー:4分野以上修了+副主任等の役割 → 月額+40,000円
- 💼 副主任保育士:3分野以上修了+マネジメント研修 → 月額+40,000円
キャリアアップ研修の8分野の中に「保育実践研修」が含まれています。ただし、処遇改善加算Ⅱの対象になるのは「保育実践を除く7分野」が条件です。これは一つ覚えておくべき重要な注意点です。
そこで勘違いしやすいポイントがあります。「保育実践研修を受ければ手当が出る」と思っている保育士が多いのですが、実際には保育実践研修だけでは処遇改善加算の対象外です。乳児保育・幼児教育・障害児保育・食育アレルギー・保健衛生安全対策・保護者支援子育て支援・マネジメントの7分野のいずれかを受講する必要があります。
現場でコツコツと実践研究に取り組むことは、こうした研修での学びの深みを増し、より高い専門性の証として評価されます。実践研究の成果を研修内で発表したり、報告書にまとめたりすることで、職場内での信頼も高まります。
月額4万円の差は、1年で48万円です。10年続ければ約480万円の差になります。痛いですね。研究を「単なる義務」ではなく「自分のキャリアへの投資」と捉え直すことが、長期的な処遇改善のカギになります。
参考リンク(キャリアアップ研修の8分野と処遇改善等加算の仕組みを詳しく解説)。
【独自視点】保育実践研究テーマを「子どもの言葉の記録」から発掘する方法
ここでは検索上位では見かけない独自の視点をお伝えします。それは、研究テーマの発掘源として「子どもの言葉(発語)の記録」を活用するという方法です。
多くの保育士は、テーマを「何を教えたいか・改善したいか」という保育者側の視点で考えがちです。しかし保育実践研究の本質は、子どもの側から出発することにあります。子どもが発した予想外の一言、繰り返す行動、突然の変化——これらの記録が、最もオリジナリティの高い研究テーマの源になります。
具体的には、以下のような記録方法が有効です。
- 📝 エピソード記録帳:1日1〜2件、子どもの発言や行動で「気になった場面」を3〜5行で記録する
- 📸 写真+一言メモ:遊びの様子の写真を撮り、その場でスマートフォンにメモを残す
- 🗣️ 発語の記録リスト:月齢・年齢ごとに出てきた言葉を月単位でリスト化する
たとえば、2歳児クラスで「これ、なんで?」と聞く場面が週に5〜6回続いたとします。これを記録し続けると「2歳児の問いかけ行動が増える環境条件は何か」というテーマが自然に浮かび上がってきます。これは使えそうです。
この方法の優れた点は、先行研究を意識しすぎずに「自分の現場でしか起きていない現象」に気づけることです。J-STAGEで検索しても見当たらない現象は、そのままオリジナリティのある研究テーマになります。
また、エピソード記録を1年間積み上げると「気になった場面」のパターンが見えてきます。特定の時間帯、特定の環境、特定の関係性の中で繰り返される子どもの行動パターンを見つけたとき、それが研究の核心になります。
さらに、こうした記録習慣は研究のためだけでなく、保護者への日々の保育説明(保育ドキュメンテーション)にもそのまま活用できます。一石二鳥が基本です。記録ツールとしては「コドモン」や「キンダーキェア」などの保育ICTシステムを使うと、写真と文章を一括管理でき、時間の節約にもつながります。
