ボウルビィ愛着理論の4段階と保育士の実践的関わり方
愛着関係が不安定でも、保育士との関わりで3歳以降に修正できた事例が報告されています。
参考)https://www.shinai-u.ac.jp/pdf/02_morisada.pdf
ボウルビィ愛着理論の基本:提唱の背景と4段階の全体像
ボウルビィ(John Bowlby)はイギリスの児童精神科医で、第二次世界大戦後にWHOの依頼を受けて孤児の精神衛生を研究する中で愛着理論を構築しました。 「乳幼児期に特定の養育者との安定した愛着を形成することが、その後の精神的・個人的成長の礎となる」というのが理論の核心です。kouninsinrigaku+1
愛着行動とは、養育者の世話を誘発する乳児の行動であり、泣く・微笑む・しがみつくといった行動がすべてこれにあたります。 無力な状態で生まれる人間にとって、有効な社会的適応システムといえます。
参考)ボウルビー(Bowlby, J.) – 世界一わかりやすい心…
4段階の発達は以下のように整理されます。
| 段階 | 時期 | 主な特徴 |
|---|---|---|
| 第1段階 | 出生〜生後8〜12週 | 人物の識別なし・誰にでも愛着行動 |
| 第2段階 | 生後12週〜6ヶ月 | 特定人物への反応が強まる |
| 第3段階 | 生後6ヶ月〜2・3歳 | 特定対象へ近接維持・安全基地の形成 |
| 第4段階 | 3歳以降 | 愛着の内在化・目標修正的協調性の形成 |
保育士はこの4段階を理解することで、子どもの行動の意味を深く読み取ることができます。
ボウルビィ愛着理論4段階の第1・第2段階:乳児期初期の関わり方
第1段階(出生〜生後8〜12週)では、乳児は人物を識別する能力がほとんどありません。 傍にいる人に対して視覚・聴覚で相手を捉え、泣いたり微笑んだりして愛着行動をとりますが、特定の誰かを選んでいるわけではありません。du-ds-blog+1
つまり「誰でもいい時期」が明確に存在するということですね。
この段階の保育士の関わりで最も大切なのは、「すぐに応答すること」です。 泣いたらすぐに抱く、声をかけるという繰り返しの応答が、次段階への土台を作ります。
参考)保育士が教える!乳児保育の現場で実践される愛着形成のコツ
第2段階(生後12週〜6ヶ月ごろ)になると、関わる人物を意識できるようになります。 親や保育士が声をかけたり微笑みかけたりすると、他の人よりも強く反応し、喜んだり泣き止んだりするようになります。
参考)ボウルビィの4つの愛着の段階について【大切な人との関係づくり…
これは使えそうです。担当保育士が毎日声かけを続けることが、第2段階で特別な存在として認識されることに直結します。
ボウルビィ愛着理論4段階の第3段階:安全基地として機能するための保育実践
第3段階(生後6ヶ月〜2・3歳)は愛着形成において最も重要な時期です。 子どもは特定の養育者に積極的な愛着行動をとり、その人物を「安全基地(Secure Base)」として周囲を探索するようになります。
参考)ボウルビィの愛着理論(アタッチメント理論)とは?愛着行動を簡…
安全基地が原則です。
保育士がこの安全基地として機能するには、担当制保育の導入が有効です。 研究によると、担当制による保育は子どもと保育者の愛着形成・情緒の安定・生活の安定を促進することが示されており、乳児期の望ましい保育形態の一つと推奨されています。
参考)https://n-seiryo.repo.nii.ac.jp/record/2000217/files/nsu_202502.pdf
この段階では「人見知り」と「後追い」が激しくなります。保育士を困らせているように見えますが、それはむしろ愛着が正常に発達しているサインです。 「後追いするほど愛着が育っている」と捉える視点が保育士には重要です。
🏠 安全基地になるための3つのポイント
- 子どもが泣いたときに必ず応答する(無視・放置しない)
- 子どもが離れていくとき、見守る姿勢を保つ(過度に引き止めない)
- 子どもが戻ってきたとき、温かく迎え入れる
ボウルビィ愛着理論4段階の第4段階:3歳以降の内在化と保育士ができる支援
第4段階(3歳以降)では、愛着の対象が子どもの心の内側に「内在化」されます。 特定の保育士がその場にいなくても、子どもが安心や安全を感じられるようになる段階です。yasabito+1
愛着行動が減るのが正常な発達です。
この段階で見られる大きな変化は、「目標修正的協調性の形成」です。 子どもが養育者の考えや行動の動機を理解し始め、自分の愛着行動を相手の状態に合わせて修正できるようになります。 たとえば、「先生は今他の子のお世話をしているから待とう」と判断できるようになるのがこの段階です。hoikuplus+1
また、この段階で形成される「内的ワーキングモデル(Internal Working Model)」は、成人期の対人関係のパターンにまで影響すると研究で示されています。 幼少期に保育士と安定した愛着を経験した子どもは、自分が他者に受け入れられる価値ある存在だという肯定的な自己モデルを発達させやすいのです。
参考)内的ワーキング・モデル
ボウルビィ愛着理論と保育士の「代替愛着」:家庭での愛着不足を補う視点
保育士向けの愛着理論で見落とされがちな重要な視点が「代替愛着(代理養育)」の役割です。 保護者との愛着形成が不安定な子どもに対して、保育士が代替的な安定愛着を形成することが、その子の発達への悪影響を跳ね返す力になるとされています。
愛着の育て直しは可能です。
令和4年度、全国の児童相談所が対応した児童虐待相談件数は214,843件と、10年前の約3倍以上に増加しています。 保育現場には、愛着形成に課題を抱えた子どもが確実に増えており、保育士の役割はますます大きくなっています。
参考)愛着障害の根本解決に向けた親子関係と支援体制の在り方【慶應C…
愛着障害を持つ子どもに現れやすい行動として「怒られる=愛情」と誤認識しているケースがあります。 そのため保育士が怒ることで、むしろその子の不適切な行動を強化してしまう悪循環に陥ることがあります。
参考)https://sys.amsstudio.jp/region/baggage_ace/tokyo/0000012725/doc/00009.pdf
😟 愛着に課題がある子への間違いやすい対応と正しい対応
- ❌ 問題行動を繰り返すたびに感情的に叱る→関心を引くパターンを強化してしまう
- ✅ 落ち着いているときに積極的に関わる→「怒られなくても関心を持ってもらえる」体験を積む
- ❌ 行動だけを否定する→その子の人生そのものを否定されたと感じる
- ✅ 行動と気持ちを分けて伝える→「したこと」への指摘と「あなたが大切」のメッセージを同時に届ける
保育士自身のメンタルヘルスの状態も愛着形成の質に直結します。 心理的なストレスや疲労を保育士が抱えている場合、子どもへの応答の質が低下する傾向が認められており、保育士自身のセルフケアも保育の質を守るために必要な条件です。
参考:愛着に問題があるケースにおける保育士の役割(創作ケース付きの実践論文)
愛着に問題があるケースにおける保育士の役割(椙山女学園大学)
参考:アタッチメント理論から考える保育所保育のあり方(担当制の実践と研究)
アタッチメント(愛着)理論から考える保育所保育のあり方(聖和大学)
ボウルビィ愛着理論4段階を保育日誌・記録に活かす独自視点
保育士が愛着理論の4段階を「観察記録」に組み込むことで、子どもの発達を段階的・客観的に把握できます。これは一般的なブログや研修資料ではほとんど触れられていない実践的な視点です。
記録が育ちの証拠になります。
たとえば、0歳児クラスの日誌に「A児、保育士が部屋を出ると泣いて後追いした(第3段階への移行期の行動)」と記すだけで、記録が単なる出来事の羅列ではなく発達の根拠を持つ文書になります。 これは保護者への説明や、小学校への引き継ぎ資料としても価値が高まります。
💡 段階別・観察記録の書き方のコツ
| 段階 | 観察ポイント | 記録の書き方例 |
|---|---|---|
| 第1段階 | 誰にでも同じように反応するか | 「声がけで微笑む・泣き止む(人物識別なし)」 |
| 第2段階 | 特定の保育士への反応が強まるか | 「A保育士の声かけで他の人より早く泣き止む」 |
| 第3段階 | 後追い・人見知りの有無 | 「担当が離れると泣く・戻ると安心して遊び再開」 |
| 第4段階 | 離れても情緒が安定しているか | 「担当不在でも他の保育士と落ち着いて過ごせた」 |
さらに、内的ワーキングモデルの視点を記録に加えると、子どもの行動の「なぜ」が保育チーム全体で共有しやすくなります。 「この子はなぜ初対面の大人を過度に怖がるのか」「なぜ甘えることができないのか」という疑問に、愛着の発達段階という視点から仮説を立てることができます。
担当制保育を導入していない園でも、「特定の保育士が意識的にその子との関わりを増やす」という工夫だけで、安定した愛着関係の形成を支援することが可能です。 乳幼児の愛着形成の質を上げる最初の一歩は、記録の言語化にあるといえます。
参考)https://swu.repo.nii.ac.jp/record/2000183/files/06%E6%A8%AA%E5%B1%B1%E6%84%9B.pdf


