ベートーヴェン第九合唱を保育士が知るべき理由と歴史
第九を子どもに「年末に流す曲」だと思っていると、保育活動の機会を年11か月も丸ごと逃します。
ベートーヴェン第九合唱の基本知識:正式名称と構成
第九の正式名称は「交響曲第9番 ニ短調 作品125」です。 全4楽章で構成されており、合唱が登場するのは最後の第4楽章のみです。 演奏時間は全体で1時間を超える大作で、それまでの交響曲が30〜40分程度だったことを考えると、まさに規格外のスケールです。artplaza.geidai+2
オーケストラの人数は50〜70人程度ですが、そこに4人のソリストと合唱団が加わり、100人以上が参加する巨大な編成になります。 交響曲に合唱を取り入れたのはベートーヴェンが初めての試みでした。 革命的な構成です。
参考)年末の定番!ベートーヴェンの「第九」ってどんな曲? – Ph…
第4楽章では、バリトンの独唱者が冒頭で「おお友よ、このような旋律ではない!」と歌い、それまでの楽章の主題を否定するところから始まります。 詩はドイツの詩人フリードリヒ・フォン・シラーの「歓喜に寄せて」が使われており、ベートーヴェンは10代の頃から30年以上かけてこの詩と向き合い続けていました。
参考)https://www.kanzaki.com/music/lvb-sym9f.html
保育士の方がこの基本構成を把握しておくだけで、子どもへの説明がグッとわかりやすくなります。たとえば「最後に大勢で歌うんだよ」「歌手の人が100人以上いるんだよ」といった一言が、子どもの好奇心を引き出します。これは使えそうです。
ベートーヴェン第九合唱の日本初演と意外な歴史
第九のアジア初演は、1918年(大正7年)6月1日に徳島県鳴門市の板東俘虜収容所で行われました。 演奏したのは第一次世界大戦中に収容されていたドイツ兵捕虜たちです。 年末ではなく、6月の出来事です。city+1
楽器が揃わない状況での演奏だったため、一部の楽器を別の楽器に替えて対応しました。 女性歌手もいなかったため、女声パートは男声に書き換えて演奏されたという記録が残っています。 制約の中での初演だったということですね。
参考)年末に「第九」が演奏される理由は?日本初演やドイツ兵との絆な…
収容所所長の松平豊寿は、捕虜たちを人道的に扱ったことで知られており、この演奏は「すべての人々は兄弟になる」という第九のテーマをまさに体現したものとして評価されています。 後に映画「バルトの楽園」(松平健主演)としても描かれました。weathernews+1
日本人による初演はさらに6年後の1924年(大正13年)11月で、東京音楽学校(現・東京藝術大学)のオーケストラと合唱団によるものです。 保育士として子どもにクラシックの話をする機会があるなら、「この曲は日本で最初に捕虜のドイツ人が演奏したんだよ」という一言が、平和学習にもつながります。
参考)師走といえば、「歓喜の歌」? ベートーヴェンの『第九』が日本…
第九の日本初演に関する詳細な背景は、徳島県鳴門市の公式サイトで確認できます。板東収容所の所長が捕虜に示した人道的配慮や演奏の詳細な記録が掲載されています。
ベートーヴェン第九合唱が年末の風物詩になった理由
年末に第九が演奏される文化は、日本独特のものです。 世界でこの習慣があるのは日本だけとされており、海外でもめったに演奏されない曲というわけではありませんが、年末との結びつきは日本特有の現象です。precious+1
なぜ年末に定着したかについては複数の説があります。
- 1943年12月、東京・上野奏楽堂で行われた「学徒壮行音楽会」で第九が演奏されたことがきっかけという説
- 戦後、各地のオーケストラが年末に「餅代(もちだい)」を稼ぐため、合唱団員の家族や知人がチケットを買いやすい第九を選んだという説
- 1947年に日本交響楽団が年末の日比谷公会堂で3回連続演奏会を行い、これが定着のきっかけになったという説
どの説も「完全にこれが正解」とは断言できません。 諸説あるのが実情です。
保育の現場では「なんで年末にこの曲が流れるの?」と子どもに聞かれることもあるかもしれません。「みんなで力を合わせて大きな曲を歌うから、1年の終わりにぴったりなんだよ」と伝えるだけで、十分な答えになります。これが基本です。
ベートーヴェン第九合唱の保育活動への活用法
「歓喜の歌」の主題は、3〜4年生向けに器楽合奏用としてアレンジされた楽譜も市販されています。 リコーダー、鍵盤ハーモニカ、木琴、鉄琴といった学校にある楽器で演奏できるため、保育の発表会などにも取り込みやすい素材です。
幼児期の合唱活動には、認知面以外にも重要な効果があります。
- 🎶 社会的絆の強化:同期したリズムで歌うことで、仲間との一体感が生まれる
- 🧠 脳の発達促進:音楽を通じた聴覚・運動の同時刺激が脳の聴覚野を発達させる
- 😊 感情表現の豊かさ:歌詞の感情に合わせて表情・声色を変える経験が情緒発達につながる
- 👥 共感・向社会的行動の発達:合唱により他者の声に耳を傾ける力が育つ
研究によると、15か月間の音楽活動で右の一次聴覚野が大きくなり、メロディとリズムの聞き分け能力が向上した子どもが確認されています。 脳への効果は実証済みです。
保育の現場でいきなり「第九を全曲流す」必要はありません。「歓喜の歌」のメロディ部分だけを手拍子やリズム遊びに取り入れるだけでも、十分な音楽体験になります。まずは「この曲、知ってる?」と子どもに問いかけてみるところから始めると、自然な形で音楽活動に発展します。
子どもへの合唱指導に関する学術的な考察が読める近畿大学の研究論文です。指導の実践例と重要ポイントが整理されています。
ベートーヴェン第九合唱の歌詞の意味と保育士が伝えられるメッセージ
第4楽章の合唱部分で歌われるシラーの詩「歓喜に寄せて」の核心は、「汝の柔らかな翼の元で、人々はみな兄弟となるのだ」という一節です。 これは人類の平等と連帯を歌ったメッセージです。
「すべての人々は兄弟になる(Alle Menschen werden Brüder)」というフレーズは、第九がEUの非公式国歌として採用されている理由でもあります。 国境や言語を超えた人類愛をテーマにした曲なのです。
参考)https://allabout.co.jp/gm/gc/436408/
保育士の視点から見ると、このメッセージは「友だちと仲良くする」「みんなで一緒に歌う喜び」という保育の根本と深く重なります。 難しい言葉を使わずに「この歌はね、世界中のみんなが仲良しになれますように、という歌なんだよ」と伝えるだけで、子どもたちの心に届きます。つまりシンプルな言葉で十分です。
参考)https://lib.kjc.kindai.ac.jp/pdf/2018-03-hiramatsu.pdf
ベートーヴェン自身は、この曲を作ったとき、すでにほぼ全聾の状態でした。 1824年の初演では、演奏が終わって会場が大歓声に包まれても、それを聞くことができなかったとされています。 それでも曲を完成させたという事実は、子どもに「あきらめない大切さ」を伝えるエピソードとしても使えます。
ベートーヴェンが「苦悩を突き抜けて、歓喜に至れ」という言葉を残したとされるように、困難を乗り越えた先に喜びがあるというメッセージは、成長過程の子どもたちに特に響くものがあります。 保育士がこうした背景を理解したうえで音楽を届けると、活動の深みが変わります。
ベートーヴェン第九の歌詞の意味と音楽構造を詳細に解説しているサイトです。各フレーズのドイツ語原文・英訳・日本語逐語訳も確認できます。
ベートーヴェン第九の歌詞と音楽(神崎和夫氏による詳細解説)

ベートーヴェン: 交響曲 第9番 Op.125より「歓喜の歌」(独語)/ベーレンライター社/ピアノ伴奏付合唱ヴォーカルスコア

