バッハの曲一覧と保育士のための活用ガイド
バッハの曲をBGMに流すと、子どもの集中力が下がる場合があります。
バッハの代表曲一覧:保育士が知っておきたい名曲10選
バッハ(ヨハン・ゼバスティアン・バッハ、1685〜1750)は、生涯で1000曲以上を作曲したと言われています。その膨大な作品群の中から、保育現場に取り入れやすい代表曲を知っておくことは、日々の保育の質を高める大きな武器になります。
まず押さえておきたいのが以下の10曲です。
- 🎵 G線上のアリア(管弦楽組曲第3番より):ゆったりした旋律で、昼寝やリラックスタイムに最適
- 🎵 主よ、人の望みの喜びよ(カンタータBWV147より):温かみのある曲調で、朝の会のBGMに向いている
- 🎵 メヌエット ト長調(アンナ・マクダレーナのクラヴィーア小曲集より):明るく軽快で子どもにも親しみやすい
- 🎵 トッカータとフーガ ニ短調(BWV565):劇的なオルガン曲で、絵本の読み聞かせの導入に使われることもある
- 🎵 インヴェンション第1番 ハ長調(BWV772):シンプルな二声の対話が心地よく、製作活動のBGMに向く
- 🎵 平均律クラヴィーア曲集第1巻 前奏曲ハ長調(BWV846):穏やかな波のような反復が集中力を高める
- 🎵 ブランデンブルク協奏曲第3番(BWV1048):明るく生き生きとしたリズムが活動的な場面に合う
- 🎵 無伴奏チェロ組曲第1番 プレリュード(BWV1007):チェロの深みある音色が落ち着きをもたらす
- 🎵 ゴルトベルク変奏曲(BWV988):眠れない人のために作られたとも言われる曲で、お昼寝BGMの定番
- 🎵 小フーガ ト短調(BWV578):聴き応えのあるオルガン曲で、行事の場を締める演奏にも使われる
これが基本の10曲です。
実は「G線上のアリア」は原曲の調が異なり、バイオリンのG弦(一番低い弦)だけで演奏できるよう編曲されたバージョンが有名になったもの。オリジナルの「管弦楽組曲第3番」のアリアとは別物として広まっています。意外と知られていない事実です。
また「メヌエット ト長調」は長年バッハの作曲とされていましたが、現在はクリスティアン・ペツォールトの作品であることが判明しています。保育士として知っておくと、保護者や子どもへの説明でひと味違う話ができます。
バッハ曲一覧のジャンル別分類:保育で使いやすいカテゴリを整理
バッハの作品はあまりにも多いため、ジャンルで整理しておくと選曲がスムーズになります。主なジャンルは以下の通りです。
- 🎹 鍵盤音楽:インヴェンション、平均律クラヴィーア、フランス組曲、イギリス組曲、ゴルトベルク変奏曲など。ピアノの先生を目指す学生が必ず通る作品群
- 🎻 管弦楽・協奏曲:ブランデンブルク協奏曲(全6曲)、管弦楽組曲(全4曲)、ヴァイオリン協奏曲。保育のBGMとしてもっとも使いやすいジャンル
- ⛪ 宗教声楽曲:マタイ受難曲、ヨハネ受難曲、ミサ曲ロ短調、カンタータ(約200曲)。「主よ、人の望みの喜びよ」はカンタータBWV147に収録
- 🎸 無伴奏器楽曲:無伴奏チェロ組曲(全6曲)、無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータ(全6曲)。一つの楽器だけで構成された深みある音楽
- 🎺 オルガン曲:トッカータとフーガ ニ短調、小フーガ ト短調、オルゲルビュッヒライン(小さなオルガン曲集)など
ジャンルで整理するのが原則です。
保育の場面ごとに「鍵盤音楽は静かな活動に」「管弦楽は活動的な場面に」「無伴奏チェロはお昼寝に」といった使い分けができると、選曲で迷う時間が格段に減ります。これは使えそうです。
BWV(バッハ作品目録)番号は、バッハの作品を体系的に整理したもので、1000番台まで存在します。番号が小さいほど古い分類ではなく、ジャンル別に振られているため、鍵盤曲はBWV772〜994、管弦楽曲はBWV1041〜1071という具合に並んでいます。BWV番号を覚えると、同じ曲を探すときに混乱しにくくなります。
バッハ曲一覧の中から保育シーン別に選ぶポイント
音楽は「流せばよい」というものではありません。場面に合わない音楽を流すと、子どもが落ち着かなくなったり、逆に過度に興奮してしまったりすることがあります。
朝の会・登園時間には、明るく穏やかなテンポの曲が向いています。「主よ、人の望みの喜びよ」「メヌエット ト長調」「ブランデンブルク協奏曲第3番」のような曲は、子どもの気持ちを前向きに切り替えるのに役立ちます。
製作・集中活動の時間には、単調すぎず、かといって変化が激しすぎない曲が理想です。「インヴェンション第1番」や「平均律クラヴィーア前奏曲ハ長調」は、穏やかな繰り返しが集中を妨げません。つまり「波のように安定した曲」が条件です。
お昼寝の時間には、テンポが遅くダイナミクス(音量の変化)が少ない曲を選ぶことが重要です。
- ✅ ゴルトベルク変奏曲(テンポ:ゆっくり、音量変化:少ない)
- ✅ 無伴奏チェロ組曲第1番 プレリュード(深みのある音色で安眠を誘う)
- ✅ G線上のアリア(定番中の定番、眠りを妨げない旋律)
- ❌ トッカータとフーガ ニ短調(冒頭の強奏が子どもを驚かせる恐れあり)
- ❌ ブランデンブルク協奏曲第2番(高音トランペットが突出して眠りを妨げる)
「流すだけ」ではなく「選んで流す」が大切です。
音量にも注意が必要です。保育室内のBGMは、会話の邪魔にならない40〜50デシベル程度(静かな図書館と同じくらい)が目安とされています。これはオフィスの会話レベル(60デシベル)よりも明らかに小さい音です。スマートフォンの無料の騒音計アプリで測定してみると、適切な音量かどうかをすぐ確認できます。
バッハ音楽が子どもの発達に与える効果:保育士が知っておくべき研究と実例
「モーツァルト効果」という言葉はよく聞きますが、バッハの音楽も子どもの発達に影響を与えるという研究が国内外に存在します。これは意外ですね。
スタンフォード大学の研究(2007年)では、バッハの音楽を聴くことで脳の「注意切り替え」に関わる領域が活性化することが報告されています。注意切り替えとは、「遊びから製作へ」「外遊びからお昼寝へ」といった場面転換がスムーズにできる力のことです。保育の現場でいえば、活動の切り替えがうまくいかない子どもへのアプローチとして、バッハの音楽を取り入れることは一定の理由があります。
また、バッハの作品に多く見られる「フーガ(対位法的な音楽構造)」は、複数の声部が絡み合いながら進む特徴があります。こうした音楽的な複雑さは、脳の複数の部位を同時に刺激する可能性があるとする研究者もいます。
子どもが「音楽に乗って体を動かす」場面では、バッハよりもリズムが明確なブランデンブルク協奏曲や管弦楽組曲が向いています。一方で「静かに絵を描く」「粘土で作業する」といった場面では、複雑すぎないゴルトベルク変奏曲や無伴奏チェロ曲が適しています。場面と曲の相性が重要です。
国内の事例としては、一部の保育園がお昼寝の時間にゴルトベルク変奏曲を約30分流し続けることで、寝つきのばらつきが改善されたと報告しています。もちろん個人差はありますが、「音楽を選んで使う」という意識を持つだけで保育の質が変わる可能性があります。
参考:バッハのゴルトベルク変奏曲と睡眠に関する研究や解説が掲載されているリソースとして、NHK「クラシック音楽館」の関連記事が参考になります。
保育士がバッハ曲一覧を活用するための独自視点:「音楽の複雑さ」と子どもの耳の発達
保育士向けのバッハ記事では、ほとんど語られない視点があります。それは「子どもの耳はいつ頃からバッハの対位法を”感じ取れる”ようになるのか」という発達的な問いです。
乳幼児(0〜2歳)の段階では、メロディーの輪郭よりも「音の高低」「テンポのゆっくり・速い」「音色の明るさ・暗さ」に反応します。バッハの複雑な対位法(複数の旋律が同時進行する構造)を意識的に追うのは、早くても5〜6歳以降と言われています。
つまり0〜3歳クラスの保育では、バッハのフーガや複雑な合奏曲を「音楽教育として聴かせる」必要はほぼありません。大切なのは「心地よい音として流す」ことです。
- 🍼 0〜1歳:G線上のアリア、ゴルトベルク変奏曲など、一本の旋律が聞き取りやすい曲
- 🚶 2〜3歳:メヌエット ト長調、ブランデンブルク協奏曲第3番など、テンポが安定した曲
- 🎨 4〜6歳:インヴェンションや平均律など、少し複雑な音楽にも慣れ始める時期
年齢別に選曲を変えるのが理想です。
発達に合った音楽を届けるという視点は、クラシックを「なんとなく流す」保育から「意図して使う」保育への転換点になります。保育士の専門性が問われる場面でもあります。
日本保育士養成協議会のガイドラインでも、音楽的環境の整備は「子どもの情緒安定」に寄与するとされており、BGMの選択は保育士の重要なスキルの一つとして位置づけられています。
参考:保育所保育指針(厚生労働省)における「環境」の考え方に関連する情報は以下から参照できます。
バッハの音楽は、選び方と使い方を知ることで、保育の現場における「見えない環境」として大きな力を発揮します。曲名と特徴を一覧で押さえておき、場面・年齢・目的に合わせて選ぶという習慣を持つことが、長期的に保育の質を高める確実な一歩になります。


