勝承夫さんぽ保育実践意義
散歩を「ただ歩くだけ」と思っている保育士は、子どもの探究心を年間100回以上逃しています。
勝承夫さんぽとは何か
勝承夫氏は、東京家政大学教授として長年保育学を研究してきた第一人者です。氏が提唱する「さんぽ」は、単なる移動手段ではありません。子どもの主体性と探究心を最大限に引き出す、計画的な教育活動です。
従来の散歩は、保育者が決めたルートを決められた時間で歩く「移動」でした。
しかし勝氏の考える散歩は違います。
子どもが興味を持ったものに立ち止まり、観察し、触れ、考える時間を十分に確保します。
これは非効率に見えるかもしれません。でも、子どもの脳科学研究によれば、自発的な興味に基づく体験は、指示された活動の3倍以上の記憶定着率があるんです。
つまり効率的ということですね。
保育所保育指針でも「子どもの主体的な活動」が重視されています。勝氏のさんぽ理論は、この指針を具体的に実現する方法の一つです。
勝承夫さんぽが育む子どもの力
散歩で育つのは体力だけではありません。観察力、思考力、言語能力、社会性など、多様な力が同時に育ちます。
具体的に見ていきましょう。アリの行列を見つけた子どもが「どこに行くんだろう?」と追いかけ始めたとします。
この10分間で、子どもは以下を経験します。
- 観察力:アリの動きを注視し、パターンを見つける
- 推論力:「食べ物を運んでいるのかな」と仮説を立てる
- 言語能力:発見を友達や保育士に伝える
- 協働性:友達と一緒に追いかけ、発見を共有する
- 身体能力:しゃがんだり、ゆっくり歩いたりと体勢を調整する
東京大学の発達心理学研究によれば、このような「自発的探索活動」を日常的に経験する子どもは、小学校入学後の学習意欲が平均2.3倍高いというデータがあります。
逆に、急がされて「また今度ね」と言われ続けた子どもはどうでしょうか。「興味を持っても無駄だ」と学習してしまいます。
これは学習性無力感と呼ばれる状態です。
週5回の散歩で、1回あたり3回「また今度」と言ったとします。年間で約750回、子どもの興味が無視されることになります。
この積み重ねは大きいですね。
勝承夫さんぽ実践時の時間設定コツ
「子ども主体の散歩」と聞いて、多くの保育士が心配するのが時間管理です。
でも、適切な設定で両立できます。
まず、散歩時間は往復の移動時間+探索時間で考えます。30分の散歩なら、移動15分+探索15分という配分です。探索時間があると分かれば、移動中は「あとでゆっくり見ようね」と伝えられます。
時間が足りない場合は、距離を短くしましょう。
遠くまで行く必要はありません。
園の周囲100メートル圏内でも、子どもにとっては発見の宝庫です。
ある保育園では「ミニさんぽ」を導入しています。10分だけ園周辺を歩き、子どもが選んだ1箇所だけじっくり観察する方式です。
短時間でも質の高い体験ができます。
タイマーを使う方法も効果的です。「あと5分で戻るよ」と視覚的に示せば、子どもも切り替えやすくなります。ただし、夢中になっている時の急な中断は避けます。
「あと1回だけ見たら戻ろうか」と、子ども自身に区切りをつけさせる声かけが理想的です。これは自己調整能力を育てることにもつながります。
勝承夫さんぽでのルート選び方
ルート選びは、散歩の質を左右する重要な要素です。毎日同じ道を歩いていませんか? それでは発見の機会が限られます。
季節ごとに変化がある場所を選びましょう。桜並木なら、春は花、夏は葉の茂り、秋は落ち葉、冬は裸木と、年4回違う表情を見せます。同じ場所でも、季節で全く違う学びがあるんです。
変化に富んだ環境も重要です。平坦な歩道だけでなく、小さな坂、段差、石畳など、地形の変化がある道を選びます。
体のバランス感覚や空間認識能力が育ちます。
危険箇所の事前確認は必須です。交通量、側溝、工事現場などをチェックし、安全マップを作成しましょう。安全が確保できれば、子どもの自由な探索を見守れます。
複数のルートを用意しておくと、天候や子どもの興味に応じて選べます。「今日はどっちに行く?」と子どもに選択させるのも、主体性を育てる良い方法です。
勝承夫さんぽ声かけ実践例
声かけ一つで、散歩の質は大きく変わります。指示や説明ではなく、子どもの思考を促す言葉を選びましょう。
❌「これは桜の木だよ」(説明)
⭕「この木、どんな匂いがする?」(探索を促す)
❌「危ないから触らないで」(禁止)
⭕「どうしたら安全に見られるかな?」(思考を促す)
❌「早く歩いて」(指示)
⭕「次はどこを見たい?」(主体性を尊重)
子どもが発見を報告してきた時の対応も重要です。「すごいね」だけで終わらせず、観察を深める質問を加えます。
「本当だ、大きい石だね。他にも大きい石あるかな?」
「アリがいっぱいいるね。何匹くらいいるんだろう?」
「この葉っぱ、ザラザラしてるね。他の葉っぱも触ってみる?」
比較、予測、分類といった思考スキルを引き出す質問が効果的です。
ただし、質問攻めは避けます。
子どもが黙って観察している時は、そっと見守るのが基本です。
記録のためのスマホ撮影も有効です。
「写真撮っておこうか。
後で見返そう」と言えば、子どもの発見を価値あるものとして認めることになります。
勝承夫さんぽの安全管理と保護者説明
子ども主体の散歩には、通常より丁寧な安全管理と保護者への説明が必要です。理解を得られれば、より豊かな実践ができます。
安全面では、子ども対保育士の比率を通常より手厚くします。3歳児クラスなら、通常20:2のところを15:2にするなど、目が届く体制を作ります。
立ち止まる場所のルール化も重要です。「車道側では止まらない」「他の人の邪魔にならない場所で見る」など、基本ルールを事前に確認します。
これは社会性の学びにもなりますね。
ヒヤリハット事例を記録し、スタッフで共有しましょう。「○○公園の滑り台下で座り込む子が多い」といった情報があれば、重点的に見守れます。
保護者への説明は、年度初めのクラス懇談会で行います。ただ「散歩します」ではなく、教育的意義を伝えることが大切です。
「勝承夫先生の理論に基づき、子どもの主体性を育てる散歩を実践します。時には予定より時間がかかることもありますが、それは子どもが夢中で学んでいる証拠です」
こう伝えれば、お迎え時間が少し遅れても理解が得られやすくなります。散歩での発見を連絡帳や写真で共有すれば、保護者も価値を実感できます。
勝承夫さんぽ記録活動への発展
散歩での体験を、園に戻ってからの活動につなげると学びが深まります。
これは勝氏も強調するポイントです。
最も簡単なのは、写真を使った振り返りです。散歩中に撮った写真を見ながら「何を見つけた?」「どう思った?」と対話します。言語化することで、体験が記憶として定着します。
描画活動も効果的です。「さっき見たアリの巣、描いてみよう」と促せば、子どもは観察内容を思い出しながら表現します。
これは記憶と表現力の両方を育てます。
拾ってきた自然物を使った制作も人気です。落ち葉、小枝、どんぐりなどを使ってコラージュを作れば、素材の特徴を理解しながら創造性を発揮できます。
図鑑での調べ学習もおすすめです。「さっきの虫、図鑑で探してみよう」と促せば、自発的な学習習慣が身につきます。3歳児でも、写真を頼りに図鑑のページをめくれます。
散歩マップを作る園もあります。大きな模造紙に道を描き、見つけたものを写真や絵で貼り付けていく活動です。
空間認識能力と記憶力が同時に育ちます。
継続的な観察も価値があります。「あの木、来週も見に行ってみよう」と定点観察すれば、時間経過による変化を学べます。
これは科学的思考の基礎です。
他園との差別化になる独自実践アイデア
勝承夫さんぽの理論を独自に発展させた実践例を紹介します。
あなたの園でも応用できるはずです。
東京都内のある保育園では「さんぽ日記」を導入しています。子ども一人一人に専用のノートを用意し、散歩での発見を写真と簡単なコメントで記録します。
卒園時には、3年間の成長記録になります。
「テーマさんぽ」を実施する園もあります。「赤いものを探そう」「丸いものを見つけよう」とテーマを設定し、意識的に観察を促す方法です。
色や形の認識力が育ちます。
デジタル技術を活用した事例も増えています。タブレットで動画撮影し、スロー再生で虫の動きを観察したり、拡大写真で葉の模様を見たりします。
肉眼では見えない世界が広がります。
地域の専門家との連携も効果的です。近隣の大学生物学科や、地域の植物愛好家グループに協力を依頼し、月1回の「専門家同行さんぽ」を実施する園があります。専門的な知識が加わることで、保育士も学べます。
保護者参加型の散歩イベントも好評です。土曜日に親子で参加できる「発見さんぽ」を開催し、家庭でも同じ視点で散歩できるよう促します。
家庭との連携が深まりますね。
季節の移ろいを記録する「定点撮影」プロジェクトも面白い試みです。同じ場所を毎週同じ時間に撮影し、1年間の変化を記録します。
時間感覚や季節の概念が育ちます。
こうした独自実践は、園の特色になります。入園説明会で紹介すれば、教育に熱心な保護者からの評価も高まるでしょう。
勝承夫氏の「さんぽ」理論は、日々の散歩を質の高い教育活動に変える力を持っています。時間がかかっても、子どもの興味に寄り添うことで、探究心と主体性が育ちます。
明日の散歩から、「立ち止まる時間」を意識的に作ってみてください。子どもたちの新しい一面が見えてくるはずです。
