学習指導要領と保育内容と歌

学習指導要領と保育内容と歌

この記事で得られること
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「歌=音楽の時間」からの脱却

歌を、生活・遊び・言葉・関係づくりをつなぐ「保育内容」として捉え直せます。

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ねらい・内容・援助が一本線になる

幼稚園教育要領解説の考え方を軸に、ねらい→活動→援助→振り返りの整合性を作れます。

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記録・評価で迷いにくくなる

「できた/できない」ではなく、育ちのプロセスを見る観点と具体的な記録例を持てます。

学習指導要領の保育内容の位置付けと歌

 

保育の現場で「学習指導要領」という言葉が出ると、小学校の教科を連想して身構える方もいます。けれど幼稚園には「幼稚園教育要領」があり、その解説は、幼児期の学びを「環境を通して行う教育」として整理しています。つまり、歌を“教える”よりも、歌が生まれ、遊びに溶け込み、子どもが意味を見いだしていく環境をどう整えるかが中心です。根拠として、幼稚園教育要領解説は、幼児が興味や欲求に基づく直接的・具体的体験を通して育つこと、教師が計画的に環境を構成することを重視しています。

ここで押さえたいのが「ねらい」と「内容」の関係です。ねらいは“育ってほしい方向”であり、内容は“ねらいを達成するために指導する事項”という整理が示されています。歌は、ねらい(例:豊かな感性や表現の芽生え、友達との協同性、言葉のリズムへの感覚)を実現するための一つの内容・方法として扱えます。

参考)第2章 ねらい及び内容:文部科学省

また、幼児期の歌は「正しい音程で歌う」「上手に歌わせる」が主目的になりにくい点が重要です。幼稚園教育要領解説では、音や音楽で十分遊び、表現する楽しさを味わうことが大切で、技能の巧拙よりも体験の質を軸にすることが示されています。

参考)https://www.mext.go.jp/content/1384661_3_3.pdf

保育内容としての歌を整理すると、少なくとも次の3つの線で設計できます。

  • 生活の線:挨拶、片付け、移動、行事などの生活場面に歌を置く(生活リズム・安心感)。
  • 遊びの線:ごっこ、運動、ことば遊びに歌が混ざる(主体性・創造性)。
  • 関係の線:同じ歌を共有し、同時性を楽しむ(協同性・共感)。

    これらは、幼稚園教育要領解説が繰り返し述べる「遊びを通しての総合的な指導」「環境との相互作用」という考え方に沿っています。

学習指導要領の保育内容としての歌のねらい

歌のねらいを立てるとき、最初に決めたいのは「どんな育ちを見たいか」です。幼稚園教育要領解説は、幼稚園教育で育みたい資質・能力を「知識及び技能の基礎」「思考力・判断力・表現力等の基礎」「学びに向かう力・人間性等」の3本柱として示し、活動全体で育むとしています。

この枠組みに歌を当てはめると、例えば以下のように“ねらい”が言語化できます。

  • 知識及び技能の基礎:歌の中の言葉の響き・リズム、強弱やテンポなどの違いに気付く(気付きの蓄積)。
  • 思考力・判断力・表現力等の基礎:歌い方を工夫する、役になりきって歌う、動きを付けて表す(試す・工夫する)。
  • 学びに向かう力・人間性等:友達と声を合わせる心地よさを味わう、歌で気持ちを切り替える(意欲・自己調整・協同性)。

    幼児の活動は総合的に発達していくという説明があり、歌だけで完結させず、遊びや生活の中でねらいが立ち上がる設計が適しています。

保育内容としての歌を“単元化”するより、次のように「場面」でねらいを変えると現場で運用しやすくなります。

  • 朝の会の歌:安心感、見通し、集団への参加(情緒の安定・切り替え)。
  • 戸外前の歌:期待感、ルール理解、動きの同調(身体と音の連動)。
  • 行事の歌:文化・季節への気付き、共同の達成感(社会・文化との接点)。

    幼稚園教育要領解説は、活動の区切りで振り返る経験を積むことが見通しにつながるとも述べており、歌を“区切りの合図”として使うことにも教育的意味が出ます。

ここで意外と見落とされやすい点として、「歌=言葉の教育」でもあることがあります。幼稚園教育要領解説は、言葉の響きやリズムに触れ、使う楽しさを味わえるようにすることを示しています。歌は、会話よりも反復が自然で、言葉が身体に乗るため、言語化が苦手な子の参加ハードルを下げる“入口”にもなります。

学習指導要領の保育内容の歌の活動例

活動例は、歌を「歌唱」だけに閉じず、子どもの主体性が出る“余白”を残すのがコツです。幼稚園教育要領解説は、教師が環境を計画的に構成しつつ、幼児の活動は多様に変化するため再構成し続ける必要があると述べています。

以下は、同じ歌でも保育内容を変えられる具体例です(クラス状況に合わせて差し替え可能)。

  • 🎵「導入(出会い)」:まずは保育者が小さめの声で歌い、子どもが口ずさむ余地を残す。歌詞の意味説明より、歌の雰囲気(明るい/静か/不思議)を共有する。
  • 🎵「遊び化(展開)」:歌に“役”や“場面”を付けてごっこ化する(例:動物、乗り物、天気)。同じフレーズを、速く/遅く/小さく/大きくで試す。
  • 🎵「身体化(発展)」:手拍子、足踏み、簡単なリズム楽器、隊形移動で、音と身体の同調を楽しむ。
  • 🎵「生活化(定着)」:片付けや移動の合図として短いフレーズだけ使う(全部歌わない)。“使える歌”として生活に常駐させる。

    このような“短い反復”と“遊びの変化”は、技能の訓練になりにくく、幼児期の学びの特性に合います。

また、保育所保育指針側の整理(表現領域の内容)では「保育士等と一緒に歌ったり、手遊びをしたり、リズムに合わせて体を動かして遊ぶ」や「音楽に親しみ、歌を歌ったり、簡単なリズム楽器を使ったりする楽しさを味わう」といった方向が紹介されています。園種をまたいで研修する現場では、この“共通語”で活動を説明できると、合意形成が早くなります。

「検索上位に多い王道パターン」になりがちな“季節の歌を行事で練習する”に、ひと工夫の意外性を足すなら、次の方法が効きます。

  • 🧪歌の「材料」を変える:歌詞の一部だけをオノマトペに置き換えて歌う(ことばへの感覚)。
  • 🎭歌の「視点」を変える:登場人物の気持ちになって歌う(感情理解)。
  • 🗺️歌の「場所」を変える:室内→廊下→園庭で歌い、響きの違いに気付く(音への気付き)。

    幼稚園教育要領解説は、自然の中にある音への気付きも重視する方向を示しており、環境を変える工夫は理にかなっています。

学習指導要領の保育内容の歌の援助

援助で最も差が出るのは「子どもが歌わないとき」の見立てです。歌わないことは“拒否”とは限らず、観察・参加準備・音への過敏・集団の圧の強さなど、理由が複数あり得ます。幼稚園教育要領解説は、一人一人の発達の特性に応じた指導、幼児の内面の動きを察知し応答することの重要性を述べています。

援助の具体策を、よくある場面別にまとめます(入れ子にしない箇条書きで整理します)。

  • 👂声が出ない子:口パク・手拍子・楽器・動き参加をOKにして「参加の入口」を増やす(声は最後でよい)。
  • 😖大きい音が苦手な子:保育者の声量を落とす、位置(前列固定をやめる)、楽器の種類を調整する。
  • 🙋一人で歌いたがる子:ソロを“発表”にせず、1フレーズだけ任せて満足感を短く作る(場を独占させない)。
  • 🤝友達と合わせにくい子:ペアで同じ動き、コール&レスポンス(保育者→子)で同期の成功体験を作る。

    これらは、教師が幼児の活動に応じて様々な役割を果たし、環境を再構成し続けるという説明に沿った考え方です。

さらに、歌の援助で大切なのが「目標を音程に置かない」ことです。幼稚園教育要領解説では、正しい発声や音程、楽器の上手さよりも、幼児が音や音楽で十分遊び、表現する楽しさを味わうことを大切にしています。現場では、これを“うまくさせない免罪符”ではなく、“楽しさが育ちに変わる瞬間を増やす指針”として使うのが現実的です。

援助の言葉掛けも、評価とセットで整えます。

  • 「もう一回!」より「今の“ここ”が面白かったね」(面白さの焦点化)
  • 「大きな声で」より「どっちの声がこの歌に合うかな?」(選択と工夫)
  • 「揃えて」より「ここだけ一緒にしてみる?」(成功しやすい単位に分割)

    幼稚園教育要領解説は、幼児が試行錯誤したり考えたりする姿を重視しており、“命令”より“試す提案”が相性が良いです。

学習指導要領の保育内容の歌の評価(独自視点)

検索上位では「活動案」や「ねらい例」が多い一方で、現場が本当に困るのは「歌をどう記録して、どう評価として語るか」です。ここでの独自視点は、“歌を評価しない”のではなく、“歌で見える育ちを評価する”という整理に切り替えることです。幼稚園教育要領解説は、評価を「幼児一人一人のよさや可能性などを把握し、指導の改善に生かす」ものとして位置付けています。

まず、やってはいけない評価の形を明確にします。

  • ❌「歌えた/歌えない」でチェックする(技能偏重になりやすい)
  • ❌「声が大きい=良い」とみなす(気質・特性を無視しやすい)
  • 発表会前だけ評価が増える(行事都合の逆算になりやすい)

    幼稚園教育要領解説が重視するのは、活動の過程を振り返り、理解を深め、指導改善に生かすことです。

では、歌で“見取りやすい育ち”を観点に落とすと、記録が急に書きやすくなります。例として、同じ歌でも次の観点が取れます。

  • 🧠気付き:テンポの違いに気付き、自分から速さを変えた。
  • 🗣️言葉:歌詞の言い回しを遊びに転用し、友達に伝えた。
  • 🤝関係:友達の声を聞いて間を合わせようとした。
  • 🎨表現:役になりきって声色や動きを工夫した。
  • 🧘自己調整:不安定な場面で歌を口ずさみ落ち着いた。

    これらは「幼児が気付いたことを使い、考えたり試したり工夫したり表現したりする」という資質・能力の整理に接続できます。

記録の書き方は、短くても質が出ます。テンプレとしては次の3点セットが便利です(1〜2行で十分)。

  • 事実:いつ/どこで/何の歌で何をしたか。
  • 子どもの意味:その子は何を面白がっていたか、何を難しがっていたか。
  • 次の援助:次回、環境や関わりをどう変えるか。

    幼稚園教育要領解説は、教師が保育を振り返り、翌日の指導の視点を明確にしていくことが専門性につながると述べています。

意外と効く小技として、「歌の評価は“全員の同時性”を指標にしない」方法があります。全員が同時に同じことをするほど、安心する子もいれば、固まる子も出ます。そこで、活動の中に“選べる参加(歌う/動く/楽器/聴く)”を混ぜ、どの参加でも育ちが観察できるようにすると、個別最適に近い見取りができます。

(参考リンク:幼稚園教育要領解説の本文。領域「表現」や評価の考え方の根拠確認に有用)

文部科学省「幼稚園教育要領解説(PDF)」

小学校学習指導要領(平成29年告示)解説 国語編