スチールギターと保育BGM
スチールギターで保育BGMの音環境を整える
保育BGMを「常に流す」発想から少し離れて、「音環境を整えるために必要な時だけ入れる」へ寄せると、スチールギターはかなり使いやすくなります。
保育の音環境は、窓を閉める・外音を減らすといった物理面だけでなく、保育者自身が余計な音を立てない配慮(足音など)も含めて成立する、と整理されています。
つまりBGMは“足し算”の道具である前に、静けさという“引き算”の土台があって初めて効く、という考え方です。
スチールギターが保育BGMに向く理由は、「音が前に出過ぎにくい」点にあります。
ピアノのように粒立ちが強い音が連続すると、場面によっては子どもの行動を急かしてしまうことがありますが、スチールギターは音のつながり(滑らかな移行)を作りやすく、空間に“膜”のように広がります。
同じ“穏やかBGM”でも、フレーズの角が立ちにくいぶん、会話や生活音と共存しやすいのが強みです。
実務でのポイントは、音量より「タイミング」です。
音源を使う場合でも、無計画に流すのではなく、保育者の意図を反映した選曲にすること、さらに効果音や自然音も含めて“ベストタイミングで聞かせる”視点が有効だと述べられています。
スチールギターは「導入・切り替え・クールダウン」など短時間の差し込みで効果を出しやすいので、BGMに“役割”を持たせる設計ができます。
すぐ使える設計例(箇条書き)
- 朝の受け入れ:ゆっくりした単音中心(コード感が薄い)で、登園の緊張を下げる。
- 活動の前:同じ短いフレーズを毎回流し「今から始まる」を予告する。
- 片付け:テンポは上げず、音域だけ少し上げて“軽さ”を出す。
- 午睡前:揺れを感じるリズム(ワルツ風など)で呼吸のペースを整える。
ここで意外に効くのが「無音のデザイン」です。
静けさがあると、保育者の穏やかな言葉や歌声が子どもにとって安心できる環境になる、と音楽環境の整理の中で触れられています。
スチールギターBGMは、保育者の声を邪魔しない“背後”に置きやすいので、無音・声・BGMのバランスが組みやすいです。
(参考リンク:学校等での音楽利用・複製・公開の考え方と注意点)
スチールギターで保育BGMの選曲とレパートリー
選曲のコツは「曲名より、演奏形態と目的を先に決める」です。
音源を用いる場合でも、雰囲気だけで流すのではなく、保育者の思いを反映した曲でありたい、という指摘があります。
ここを実務に落とすと、「このBGMで子どもに何を起こしたいか」を一言で言える選曲が強い、ということになります。
スチールギターの選曲では、歌メロが強すぎないものが扱いやすいです。
童謡の旋律がはっきり出る演奏は、子どもが歌い出して活動が変わることもあるため、ねらいが「落ち着き」なのに「歌うスイッチ」を入れてしまう場合があります。
逆に、導入で“気持ちを集めたい”なら、あえて馴染みのある旋律を短く流し、活動へつなげる設計もできます。
現場で便利な「レパートリー管理」も大切です。
目的に合わせて的確に曲を選ぶには保育者のレパートリーが物を言う、と述べられており、これは音源BGMにもそのまま当てはまります。
スマホでその場検索は便利ですが、毎回の“偶然の選曲”が続くと、子どもにとっての予測可能性が下がり、落ち着きにくい日が出ます。
おすすめの分類(表)
| 保育BGMの目的 | スチールギターの選曲目安 | 避けたい特徴 |
|---|---|---|
| 導入 | 短いフレーズ/開始合図に使える反復 | 長い展開で注意が散る |
| 集中 | 音域が低め/リズムが一定 | 突然の転調・大きな盛り上がり |
| 片付け | 軽い響き/終止感が分かりやすい | 終わりが見えずダラダラ続く |
| 午睡前 | 揺れのある拍感/ゆっくり | 高音が刺さる音色/早いアタック |
保育の音楽は「子どもの状況に即対応」できるほど強い、という視点も重要です。
弾き歌いでは、楽譜を探して弾くより、子どもに即対応することの方が重要だと述べられています。
音源BGMも同様で、「今日はこのクラスはいつもよりざわつく」など日々の状態に合わせて、同じ曲でも“短くする/途中で切る/音量を下げる”運用が結果を変えます。
スチールギターで保育BGMの作曲と変奏
スチールギターを保育BGMにする最大の差別化は、「作曲(短いフレーズを自作)して合図にする」ことです。
保育の音楽環境づくりでは、子どもの状況を把握し、その段階に最も必要な形にアレンジすることが求められる、と整理されています。
この考え方をBGMに持ち込むと、既成曲を探すより、5〜15秒の“合図フレーズ”を作ってルーティン化する方が、むしろ保育にフィットします。
作曲といっても大げさに考えなくて大丈夫です。
子どもの「ことば」を「うた」と捉え、そこから短い歌(フレーズ)を作る実践が紹介されており、言葉のアクセントやリズムを手がかりに曲にしていくプロセスが述べられています。
この発想で、たとえば「おかたづけだよ」「てをあらおう」など短い言葉を、同じ音域・同じリズムで“毎回同じ旋律”にすると、BGMが指示語より優しく機能します。
スチールギターは変奏との相性が良いです。
同じテーマ(短いメロディー)を、行進曲風・子守唄風・ワルツ風に変えると生活場面に合わせられる、という変奏の授業実践があり、保育者が必要に応じて即興的に変化させる可能性が述べられています。
この「変奏で場面適応」を音源制作に応用すると、同一テーマの“テンポ違い・音域違い・伴奏密度違い”を用意するだけで、クラスの1日をかなり統一的に運用できます。
すぐ作れる「3点セット」(絵文字つき)
- 🎯開始用:明るい終止(終わりが分かる)で2回繰り返す。
- 🧹片付け用:同じ旋律を短く刻み、終わりをはっきり。
- 😴落ち着き用:同じ旋律を伸ばし気味にして揺れを作る。
意外と知られていない落とし穴は「和音が合っていない不快さ」です。
旋律に合わない和音を一緒に鳴らすと不快に感じ、子どもは保育者が思う以上に敏感で、音の選び方で快・不快が両極端になり得る、と述べられています。
スチールギターでBGMを作る場合も、伴奏(和音)を厚くするほどリスクは増えるので、最初は単音や2音、低音のドローンから始めると安全です。
(参考リンク:保育者が作る音楽環境・BGM選曲・音環境の考え方の学術的整理)
https://www.takamatsu-u.ac.jp/wp-content/uploads/2018/11/68_JG016_001-021_shibata.pdf
スチールギターで保育BGMの著作権と複製
保育園でBGMを流すだけなら問題になりにくくても、「編集」「コピー」「動画に入れる」「ネット公開」をすると扱いが変わります。
学校でCDやDVDをコピー・編集したり、動画に音楽を入れたりすることは「複製」にあたり、学校においても手続きが必要になるケースがある、と整理されています。
さらに、市販CDなどを使う場合は著作隣接権者(レコード会社・演奏者など)の了解も必要、という注意点も明記されています。
保育の現場でありがちなケース別に、実務での注意を押さえます。
- 行事の記録動画(スマホ撮影)に市販音源が入ったまま:家庭内で楽しむだけなら別でも、園の公開や配布を想定すると手続きが絡みやすい。
- クラス用にBGMを編集して“園内ライブラリー化”:視聴覚教育用のライブラリーにするための録音・録画は手続きが必要、と注意が書かれています。
- 園のホームページ・SNSへ動画投稿:学校のホームページなどでBGMを使ったり動画を公開する場合には手続きが必要、と整理されています。
ここで、スチールギターを“自作BGM”として運用するメリットが出ます。
自分で演奏・録音したBGMなら、少なくとも「市販CDの著作隣接権」問題を避けやすく、園の運用ルールを作りやすいからです。
もちろん、童謡のメロディーをそのまま使う場合などは別の検討が必要なので、「完全オリジナルの短い合図フレーズ」を作る運用が安全寄りになります。
チェックリスト(箇条書き)
- 園内で流すだけか、複製(編集・収録)するかを分けて考える。
- 動画に入れるなら、公開先(園内限定/配布/Web公開)まで決めてから曲を選ぶ。
- 市販CDを使う場合は、著作権だけでなく著作隣接権にも注意する。
スチールギターで保育BGMの独自視点
検索上位が「おすすめBGM紹介」に寄りがちな一方で、現場の差が出るのは「子どもの発する音をBGMへ取り込む設計」です。
保育では、子どもの掛け声や叩く音など、自由遊びの中に自然にリズムが発生し、そこから抽出した面白いリズムを音楽として捉え意図的な音楽活動に用いると、子どもが自発的に興味を持って活動できる、と述べられています。
つまり、外から完成品BGMを持ち込むだけでなく、クラスの“いま出ている音”を素材にすると、活動への納得感が上がります。
スチールギターはこの「取り込み」に向いています。
理由は、打楽器のように主役を奪うのではなく、子どものリズムの上に“滑らかな持続音”を重ねて、音楽に見立てることができるからです。
例えば、子どもの手拍子がバラバラでも、スチールギターが一定のテンポ感を薄く支えると、クラス全体の“合ってきた感”が生まれます。
実践のアイデア(入れ子にしない箇条書き)
- 👣足音のリズム:廊下移動の足音が揃う瞬間に、同じテンポのフレーズを短く入れて“今そろってる”を強化。
- 👐手拍子:自由な手拍子を2回聞いてから、同じテンポの低音だけを重ねて安定化。
- 🗣️ことば:子どもの口ぐせ(「やったー」「もういっかい」)を“うた”にして毎日使う合図にする。
- 🌧️環境音:雨の日は水音のイメージ(単音をゆっくり上下)で、窓の外の音とつなげる。
ここで大事なのは、BGMが「行動の操作」になりすぎないことです。
音環境の整理では、静けさの中で初めて気づく音の価値が大きく、そのような音に心を動かされた子どもは良い意味で音に敏感になり、想像力を広げる、と述べられています。
スチールギターBGMを“効かせる”より、“子どもの音の発見を邪魔しない”に寄せると、結果的に保育の質に寄与しやすくなります。


