成長期と保育と発達
成長期の保育で歌遊びが発達に効く理由
保育の歌遊びは、単に「歌がうまくなる」活動ではありません。発声し、聞き分け、テンポに合わせ、体を動かし、友だちの存在を感じながら同じ時間を共有します。こうした同時並行の体験は、成長期の子どもの発達を“総合的”に押し上げます。
特に、乳児～1歳以上3歳未満児では、保育士等の語りかけや歌いかけ、子どもの発声・喃語への応答が「言葉の理解や発語の意欲」を育てる、と保育所保育指針に明記されています。つまり、歌は早い段階から言葉の発達の土台に関わる活動として位置づきます。
参考（歌いかけ・発語への意欲、乳児保育の内容が確認できる）
また、1歳以上3歳未満児・3歳以上児の「表現」では、音楽やリズム、歌、簡単な手遊び、全身を使う遊びを楽しむことが示され、音楽は“表現の領域”の中核として扱われています。歌遊びを「発達支援」として捉えるなら、ねらいは次の3つに集約できます。
・身体の諸感覚の経験を豊かにする（音、動き、息の調整）
・感じたことや考えたことを自分なりに表現する（声・表情・動作）
・生活や遊びの体験を通してイメージや感性が豊かになる（歌詞の世界、季節、情景）
保育現場では、歌遊びの「効果」を“できた・できない”で測りがちです。しかし成長期の発達を見るときは、「歌に参加するまでのプロセス」も重要です。たとえば、輪に入れない子が“少し離れて見ている”のは、参加拒否ではなく「安心の距離を確保して学習している」ことがあります。まず観察→模倣→一部参加→全体参加、という段階を踏む子も珍しくありません。
成長期の保育で発達を見える化する歌の観察ポイント
歌遊びは、同じ曲を繰り返すほど「変化」が見えます。上位記事でも“年齢・発達段階に合わせる”ことが強調されますが、実際の保育では「年齢」より「その子の発達の今」に合わせる視点が重要です。
観察のポイントは、発達領域ごとに整理すると分かりやすくなります（現場でメモしやすいように、チェック項目化します）。
【言葉・認知（理解・記憶・注意）】📘
・歌詞の“意味”で反応する（特定の単語で動作が出る）
・繰り返し部分だけ先に覚える（フレーズ学習が得意）
・最後まで集中できる秒数が伸びている
・“次に何が来るか”を予測して動ける
【運動・感覚（粗大・微細、リズム）】🕺
・手遊びで左右を間違えても修正できる
・テンポの速さに合わせて動きを調整する
・止まる／始めるの切り替えができる（抑制）
・身体の動きが大きくなる／小さくなる（力加減）
【情緒・社会性（安心・関係・協調）】🤝
・保育士の近くでなら参加できる
・友だちの動きに合わせようとする
・順番や役割を理解して待てる
・恥ずかしい時に“笑ってごまかす”など自己調整が見える
歌は「できる子が目立つ」活動にもなり得るので、保育士は“得意・不得意の固定化”を作らない工夫が必要です。そこで有効なのが、同じ歌でも役割を変えること。たとえば、
・動きをリードする子
・歌詞カード（絵）をめくる子
・タンバリン等で拍を担当する子
・輪の外から“応援係”で声を出す子
など、複数の参加ルートを用意します。保育所保育指針が重視する「子どもの主体的な活動」を守るなら、参加の形は一つでなくてよいのです。
成長期の保育で発達段階に合わせた歌選びとねらい
歌の選曲は、行事や季節だけで決めると「難しすぎる／簡単すぎる」が起きます。発達の観点では、曲の良し悪しよりも「その子が、どんな体験を得るか」が重要です。保育記事でも、明るいメロディ、繰り返し、イメージしやすい歌詞、手ぶりを入れるなどがポイントとして挙げられています。
参考（歌・音楽が表現に位置づくこと、歌の選び方・指導のコツがまとまっている）
保育園の子どもにおすすめのうた紹介！選び方から指導のコツまで（保育box）
ここでは、成長期の発達段階に合わせて「ねらい」を言語化します。現場で指導案を作るときにも、そのまま使えるように整理します。
【0～1歳：安心と応答】👶
ねらい：情緒の安定、声を出す心地よさ、保育士とのやりとり
・短い繰り返し（同じ音型、同じ言葉）
・保育士が“歌いかけ→反応を待つ”間をつくる
・体に触れるふれあい（抱っこ・手を握る）で安心を支える
【1～2歳：模倣と身体化】🧸
ねらい：まねる、できたを感じる、リズムと動作の一致
・動きが分かりやすい手遊び
・擬音語・擬態語（リズムに乗りやすい言葉）
・途中参加OK（全部そろえない）
【3～5歳：イメージと協同】🌈
ねらい：歌詞の情景、役割、友だちと合わせる楽しさ
・ストーリーのある歌（風景や登場人物が想像できる）
・みんなで声量やテンポを変える（表現の幅を広げる）
・簡単な楽器や役割を入れて“協同”を作る
また意外と見落とされがちなのが、「同じ歌でもテンポとキーを調整するだけで難易度が変わる」点です。テンポを落とすと、手遊びの切り替えが間に合い、成功体験が増えます。逆に、テンポを上げると、抑制や予測が必要になり、挑戦課題になります。年齢ではなく“今の発達”に合わせて微調整できるのが、歌遊びの強みです。
成長期の保育で発達につなぐ歌の指導案アイデア
歌の時間が「練習」になってしまうと、成長期の子どもは飽きやすくなります。保育記事でも、指導のコツとして“楽しさをキープする”ことが強調され、歌詞に絵を添える、フレーズを小分けにする、手ぶり・足踏みを入れる、録音して聴く、といった工夫が紹介されています。
ここでは、発達支援としての“指導案の型”を3パターン提示します。どれも、同じ歌で実施できます。
【型1：ことばを育てる（言葉・理解）】🗣️
・導入：歌詞に出てくる名詞を絵カードで提示（例：雨、くま、にじ）
・展開：歌の途中で一回止めて「いま何が出てきた？」と指差し確認
・発展：最後に“子どもの言葉”で一文を作る（「くまが〇〇した」）
ポイント：正答よりも“言語化しようとする意欲”を拾う
【型2：からだを育てる（運動・抑制）】🏃
・導入：動きは3つだけに限定（たたく／回す／止まる）
・展開：サビだけ“止まる”を入れる（抑制の練習）
・発展：上手な子にリーダー役を渡し、全員が真似する時間を作る
ポイント：速さは保育士がコントロールし、成功率を調整する
【型3：関係を育てる（社会性・協同）】🤝
・導入：2人組で向かい合う（距離が近いと難しい子は横並び）
・展開：交互に歌う（保育士→子ども、Aグループ→Bグループ）
・発展：最後に“相手のよかったところ”を一言で共有
ポイント：勝ち負けにせず、安心して参加できる空気を保つ
さらに、園での歌は行事に向かうほど“完成度”を求められがちです。そこで、発達支援としてのバランス案を入れておくと、上司チェックでも説明が通りやすくなります。
【現場で使える調整表】📋
| 状況 | よくある困り | 保育士の調整案 | ねらい（発達） |
|---|---|---|---|
| 子どもが歌わない | やる気がないように見える | 口パクOK、手だけOK、観察席OK | 安心・参加の芽 |
| 大声でふざける | 活動が崩れる | “大声タイム”と“ささやきタイム”を曲内で切替 | 抑制・切替 |
| 歌詞が覚えられない | 練習が長引く | 1フレーズだけ覚える日を作る | 記憶・達成感 |
| 一部だけ仕切る | 他児が萎縮 | 役割を回す、リーダーは短時間交代 | 協同性・自己調整 |
成長期の保育で発達を支える独自視点：歌で「園の音環境」を整える
検索上位では、歌のねらい（リズム感、語彙、コミュニケーション、楽しい等）が語られることが多い一方で、「園の音環境（サウンドスケープ）」という視点はまだ一般的ではありません。けれど成長期の子どもにとって、音は刺激にも安心にもなります。つまり、歌は発達支援であると同時に“環境構成”にもなり得ます。
たとえば、同じ「片付けの歌」でも、早口で高いテンションの曲を流すと、気持ちが上がりすぎて逆に切り替えが難しくなることがあります。逆に、一定のテンポで短いフレーズの歌を、保育士が落ち着いた声で歌うと、子どもの動きが揃いやすくなります。これは、個々の発達だけでなく集団の“調律”をしている状態です。
この視点が活きるのは、次のような場面です。
・登園直後で不安が強い子がいる（情緒の安定が必要）
・活動の切り替えが続いてクラスがざわつく（切替が必要）
・午睡前に興奮が残っている（沈静化が必要）
【音環境としての歌：具体策】🔈
・合図の歌は「短い・同じ・低め」を基本にする（切替の負荷を下げる）
・活動の歌は「テンポを少しずつ上げる」（集中→解放の流れを作る）
・不安が強い子には“その子が知っている歌”を優先（予測可能性＝安心）
ここで重要なのは、歌をBGM化しないことです。歌が常に流れている環境は、子どもによっては刺激過多になります。あえて“無音の時間”を挟むことで、歌が合図として機能しやすくなります。成長期の保育では、活動そのものだけでなく、活動を支える環境（音・人・場）を設計することが発達支援になります。
そして、保育所保育指針が示すように、保育所は子どもの状況や発達過程を踏まえ、環境を通して養護と教育を一体的に行う場です。歌を「環境」として使う視点は、この基本に沿っています。
（参考：保育所の役割、発達過程を踏まえ環境を通して養護・教育を一体的に行うことが確認できる）
保育所保育指針（厚生労働省）
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