非言語コミュニケーションと保育実践と歌遊びと表情

非言語コミュニケーションと保育実践

非言語コミュニケーションと保育実践
👀

視線と表情を先に整える

言葉より先に届く合図(視線・表情・距離)をそろえると、歌遊びの参加率と安心感が上がりやすい。

🖐️

身振りで理解の足場を作る

歌の歌詞を「見える化」する身振りは、聞き取りが難しい子の理解を助け、みんなの同期もしやすくする。

🎵

歌遊びは共同注意の練習場

同じ対象・同じタイミングを共有する経験が、集団の落ち着きや関係づくりの土台になる。

非言語コミュニケーションの保育実践で表情と視線

 

保育の現場で「非言語コミュニケーション」と言うと、ジェスチャーだけが注目されがちですが、まず効くのは表情と視線です。子どもは言語が未熟な時期ほど、大人の表情・視線・身体の動きなどの非言語的サインから状況を理解し、安心や不安を判断します。

たとえば朝の受け入れで泣いている子に対して、言葉で説明を重ねるより、目線を合わせて口角を上げ、呼吸の速さを少し落とし、ゆっくりうなずくほうが伝達が早い場面があります。こうした非言語的な手がかりを読み取って適切に対応することが、子どもの安心感と信頼関係の形成につながる、という整理は多くの実践解説でも繰り返し示されています。

歌の場面でも同じで、「歌い始めるよ」と声をかける前に、視線で“合図”を送れると集団がまとまりやすくなります。具体的には、①歌う位置に立つ→②子ども全体を一度見渡す→③参加してほしい子と一瞬アイコンタクト→④笑顔でうなずく、の順番にします(声かけは最後)。視線の順序が整うだけで、「今から何かが始まる」という予測が立ち、ざわつきが下がることがあります。

意外と見落とされるのが、視線の「速さ」と「滞在時間」です。大人が忙しいと視線が細切れになり、子どもは“見てもらえていない”と感じやすいので、歌に誘っても身体が動きにくくなります。視線は長く固定する必要はありませんが、「短くても一回は確実に合う」ことが重要です。

非言語コミュニケーションの保育実践で身振りとジェスチャー

歌遊びに身振りを入れる狙いは、「盛り上げ」だけではありません。視覚情報が増えることで理解が補強され、動きを真似ることで参加の入口が広がる、という二つの効果が大きいです。

実際、支援のアイデアとして「歌にジェスチャーをつけて視覚と聴覚の両方から理解を促す」という提案は、非言語コミュニケーションの支援文脈でも明確に語られています。

保育の歌でありがちな失敗は、「保育者だけが大きく動き、子どもが見ているだけで終わる」ことです。ここでのコツは、身振りを“見せる”ではなく“渡す”発想に変えることです。

以下は、歌遊びでの「身振りの渡し方」チェックリストです。

  • 🎯動きは3種類まで(増やすほど真似が難しくなる)

  • 👀動きは胸の高さ(視線が集まりやすい)

  • ⏱️テンポは遅めから入り、子どもの同期が出たら通常テンポへ

  • 🧩うまくできない子には「部分参加」を許す(手拍子だけ、視線参加だけ、など)

また、年齢が低いほど「意味のある身振り」より「リズムに乗れる単純動作(膝打ち・手拍子)」が入り口になります。手拍子や交互のリズムを使う手遊びの工夫は、手遊び研究や実践紹介の中でも繰り返し扱われています。

参考)https://www.osaka-geidai.ac.jp/files/2021geikyou5_2.pdf

さらに、ジェスチャーは「指示の代替」にもなります。歌の途中で声で止めるより、手のひらを見せて静止サイン、胸に手を当てて“聞く”、耳に手を当てて“音を探す”など、場を壊さずに行動を整えられます。言葉を増やすほど情報量が過多になりやすい子ほど、非言語のサインが効きます。

非言語コミュニケーションの保育実践で共同注意

歌遊びが強いのは、集団で「同じものを、同じタイミングで」共有しやすい点です。これは発達心理で言う共同注意(他者と関心を共有する対象へ注意を向ける能力)に直結します。

共同注意の具体的行為には、交互に見る(交互注視)、見せる、手渡す、指さしなどが含まれると整理されており、未発語の時期から非言語的な関わりを通じて少しずつ基盤が作られると説明されています。

歌の導入を「共同注意のスイッチ」として設計すると、日常の困りごと(切り替え・集団のまとまり・順番待ち)に効いてきます。たとえば、以下のように“共同注意が起きやすい形”をわざと作ります。

  • 🎵導入で「見せる」:歌カードや手袋人形を提示し、保育者→対象→子どもの順に視線を誘導する

  • 👉「指さし」を入れる:歌詞の中で対象を指さす(窓・時計・自分の胸など)

  • 🔁「交互」を入れる:保育者が歌う→子どもが手拍子、など役割交代をつける(交互性は共同注意を安定させやすい)​

ここで大事なのは、共同注意は「注目させる技」ではなく「共有が成立したか」を見る視点だということです。子どもが対象を見たかだけでなく、保育者のほうを一瞬でも見返したか(交互注視の芽生え)が観察ポイントになります。

参考)https://www.edu.shimane-u.ac.jp/_files/00088336/2015-9.pdf

歌遊びは、この交互注視を自然に引き出しやすいので、言葉の発達以前のコミュニケーション評価にも使えます。

非言語コミュニケーションの保育実践でわらべうた

わらべうたは、歌詞が短く繰り返しが多く、身体の動きやスキンシップと結びつけやすい点で、非言語コミュニケーションの練習素材として優秀です。

乳児クラスでのねらいとして、リズムを感じながら保育者とのスキンシップを楽しむ、音色に合わせて手足を動かす楽しさを知る、繰り返しで記憶力や表現力を養う、などが挙げられており、愛着関係にもつながると説明されています。

わらべうたを「非言語の設計教材」として使うなら、次の3点だけは固定すると安定します。

  • 🤝触れ方のルール:触れる前に視線で予告し、嫌がる反応があれば即やめる(触覚も非言語メッセージ)

  • 🎚️強度の調整:同じ歌でも“強い刺激版/弱い刺激版”を用意する(くすぐり系は特に)

  • ⏳間(ま)を残す:子どもの反応が返ってくる前に次へ進まない

意外なポイントとして、わらべうたは「言葉が分からない子にも公平」になりやすいことが挙げられます。日本語の意味理解が追いつかない子でも、繰り返しのリズム・身体同期・表情のやりとりで参加が成立し、孤立しにくいからです。

参考)乳児が楽しめるわらべうた遊び!ねらいや人気のうた一覧

多文化・多言語環境のクラスほど、まず“音と動き”の共通土台を作り、その後に言葉を重ねる順序が有効になります。

非言語コミュニケーションの保育実践でミラーニューロン

検索上位で定番の「視線・ジェスチャー・共同注意」から一歩ずらし、独自視点として“模倣”の設計に踏み込みます。赤ちゃん期から他者の行動や感情を理解する基盤としてミラーニューロンが語られることがあり、共同注意や他者理解を支えるという説明も見られます。

また、実践的な育児・教育情報でも、表情まね(顔まね)が共感や模倣の働きを促す例として紹介されています。

保育の歌に落とすと、結論はシンプルで「子どもが真似したくなる“見せ方”を作る」ことです。ミラーニューロンを厳密に現場で測ることはできませんが、模倣が起きやすい提示条件は工夫できます(ここが実践)。

参考)人の気持ちを理解し思いやる! 共感力のある子はこう育てる

具体策は次の通りです。

  • 🙂表情を“先出し”する:歌詞より先に表情を提示し、子どもが表情をコピーできる時間を作る(特に驚き顔・困り顔など)​
  • 🪞「子ども→大人」の模倣に切り替える:子どもの小さな動きを保育者が大げさに真似する(主導権が子どもに移り、参加が安定しやすい)

  • 🎼動作を分割する:一連の振り付けを一気に教えず、「1動作だけ」を繰り返し、できたら次へ(模倣の成功体験を積み上げる)

さらに意外と効くのが、“わざと少し遅れる”提示です。保育者が子どもの動きより0.5拍遅れて同じ動きを返すと、「見てもらえた」「通じた」という感覚が出やすく、場の関係が温かくなります。歌のテンポが速いほど、この「遅れ」の設計が効きます。

参考:保育所保育の公的な考え方・解説(保育のねらいと内容の読み解きに有用)

こども家庭庁「保育所保育指針解説」(PDF)

参考:共同注意の基礎定義と発達の道筋(歌遊びを「共同注意の練習」として設計する根拠に有用)

島根大学資料「乳児の共同注意関連行動の発達」(PDF)

非言語行動の心理学: 対人関係とコミュニケーション理解のために