1歳児保育で大切にしたいこと・発達と関わり方
「褒め続ける保育が、実は子どもの自立心を約6割低下させるというデータがあります。」
1歳児保育で大切にしたいこと:発達の特徴と「自分でやりたい」気持ちへの向き合い方
1歳児は、生後12〜24ヶ月という短い期間の中で、驚くほど急激な発達を遂げます。歩行の獲得、指先の発達、言葉の芽生えと、まるで毎週別の子になるような変化が続く時期です。
この時期に最も注目したいのが、「自分でやりたい」という自律心の芽生えです。靴を自分で履こうとする、スプーンを奪い取ろうとする、扉を自分で開けようとする——こうした行動はすべて、発達の正常なサインです。
意外なことに、この「やりたい」気持ちをすぐに手伝ってしまうと、子どもの意欲を削ぐことがわかっています。発達心理学の研究では、過剰な援助を受けた子どもは、そうでない子と比べて「やってみよう」という動機づけが低下しやすいとされています。つまり、「待つ」ことも立派な保育技術です。
大切なのは「すぐ手伝わない」ではなく、「どこまで見守り、どこから助けるか」の見極めです。子どもが眉間にしわを寄せて集中しているときは見守り、泣き出す手前で声をかけるのが目安になります。
1歳後半になると、「イヤイヤ」と呼ばれる自我の主張も始まります。これは脳の前頭前野が発達している証拠で、むしろ健全な成長のサインです。イヤイヤを否定的に捉えず、「自分という存在を主張できている」とポジティブに受け止めることが、愛着形成にもつながります。
| 月齢の目安 | 発達のポイント | 保育士の関わり方 |
|---|---|---|
| 12〜15ヶ月 | 一人歩きの始まり・指差し | 探索を見守り、危険だけ取り除く |
| 15〜18ヶ月 | 言葉の理解が急増・模倣遊び | 言葉を豊かにかけながら一緒に遊ぶ |
| 18〜24ヶ月 | 自我の芽生え・「イヤイヤ」 | 気持ちを受け止め、選択肢を与える |
1歳児保育で大切にしたいこと:応答的な関わりと言葉かけが愛着形成に与える影響
「応答的保育」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。子どもの表情・声・しぐさに対して、保育士が丁寧に反応することを指します。これは単なる「やさしい保育」ではなく、脳の発達に直接影響する科学的根拠のある関わり方です。
ハーバード大学の研究機関であるCenter on the Developing Childは、乳幼児期の「サーブ・アンド・リターン(Serve and Return)」と呼ばれる応答的なやりとりが、脳の神経回路形成に不可欠だと発表しています。子どもが何かを指差したとき、保育士がそれに目を向けて「あ、ワンワンいたね!」と返す——その小さなやりとりの積み重ねが、言語力・認知力・情緒の安定を育てます。
これは使えそうです。
逆に、子どもが発信しても無反応だったり、一方的に「はい次はこれやって」と進めたりする保育は、たとえ安全で清潔であっても、情緒発達にとっては不十分な環境になってしまいます。
言葉かけの質も重要です。「すごいね」「えらいね」という評価の言葉より、「自分でできたね」「頑張ってたね」という過程を認める言葉のほうが、子どもの内的動機づけを高めることが研究でわかっています。評価語ばかりだと、褒められることが目的になってしまうのです。
- 🗣️ 子どもの指差しや声には、必ず視線と言葉で返す
- 👂 「すごいね」より「やってみたんだね」と過程に触れる
- ⏳ 子どもが話し終わるまで待ってから返答する
- 😊 言葉だけでなく、表情・トーン・身体の向きも「返答」になる
つまり、「言葉の量」より「返答の質」が大切です。
ハーバード大学 Center on the Developing Child:サーブ・アンド・リターンの解説(英語)
※ 応答的関わりの科学的根拠として参考になるページです。
1歳児保育で大切にしたいこと:環境構成と探索遊びが自己肯定感を育てる理由
1歳児の保育において、「環境」は保育士と同じくらい重要な「もう一人の先生」です。保育環境学の世界では、空間・素材・配置が子どもの行動を誘発するとされており、これを「誘発性(アフォーダンス)」と呼びます。
たとえば、段差があれば登ろうとする、柔らかい素材があれば触ろうとする——これは子どもの本能的な探索行動です。この探索行動を安全に保障する環境を整えることが、1歳児保育の環境構成の基本となります。
環境構成で特に大切にしたいのは「適度な難しさ」です。簡単すぎるおもちゃは飽きてしまい、難しすぎると挫折感を与えます。「少し頑張ればできる」レベルの遊びを用意することが、達成感と自己肯定感の育成につながります。これはヴィゴツキーの「最近接発達領域(ZPD)」という概念にも通じます。
環境構成の見直しポイントは以下の通りです。
- 🧸 おもちゃは出しすぎず、3〜5種類を週替わりで入れ替える(選択肢が多すぎると集中できない)
- 📦 子どもが自分で取り出せる高さ・収納にする(自立心の育成)
- 🌿 自然素材(葉・石・砂)を取り入れた感触遊びのコーナーを設ける
- 🚶 段差や坂道など、全身を使える仕掛けを室内にも作る
- 🔇 静かに一人で集中できるコーナーと、友達と関われるコーナーを分ける
環境が整うと、保育士が「やらせる」必要がなくなります。子どもが自然と動き出す保育室こそ、質の高い1歳児保育の証です。
1歳児保育で大切にしたいこと:生活習慣の自立と「自分でできた」体験の積み重ね方
食事・排泄・着脱といった生活習慣の自立は、1歳児保育の大きなテーマです。しかし、ここで多くの保育士が陥りやすい落とし穴があります。「時間内に終わらせること」を優先するあまり、子どもが自分でやろうとする前に手を出してしまうことです。
給食の時間を例に挙げます。1歳児がスプーンを使おうとこぼしながら食べている場面、効率を考えれば保育士が食べさせたほうが早いです。しかし、そこで手を出してしまうと、子どもは「自分にはできない」という感覚を積み重ねることになります。
厚生労働省の「保育所保育指針」においても、乳幼児期の生活習慣の形成は「子どもが主体的に取り組める環境と援助」を基本としています。効率より主体性が原則です。
※ 乳児保育・1歳以上3歳未満児の保育に関する記載が参考になります。
「自分でできた」という体験は、単なるスキルの習得以上の意味を持ちます。脳科学的には、達成体験のたびにドーパミンが分泌され、「またやりたい」という意欲の好循環が生まれます。1歳の段階でこのサイクルを経験している子は、就学後の学習意欲にも違いが出るとも言われています。
生活習慣の支援で意識したいポイントは3つです。
- ⏰ 時間に余裕を持ったスケジュールを組み、「待てる時間」を確保する
- 👀 子どもがやろうとしている「途中段階」を声で応援する(「できそうだね」「もう少しだよ」)
- 🙌 できたときは「自分でやったね」と結果より行動を認める言葉をかける
これが自己肯定感の基本です。
1歳児保育で大切にしたいこと:保育士自身のセルフケアとバーンアウト予防という独自視点
1歳児保育の質を語るとき、見落とされがちな視点があります。それは「保育士自身の心身の状態」です。どれだけ正しい知識を持っていても、保育士が消耗しきっていれば、子どもへの応答的な関わりは難しくなります。
厚生労働省の調査によると、保育士の離職理由の上位には「職場の人間関係」と並んで「仕事量・体力的な負担」が挙げられています。1歳児クラスは特に、抱っこ・おむつ替え・食事介助と体力を使う場面が多く、腰痛や慢性的な疲労を抱える保育士も少なくありません。
バーンアウト(燃え尽き症候群)になると、子どもへの関わりが「こなす」ものになりがちです。声かけが減り、待てなくなり、子どもの発信を受け取りきれなくなる——これは保育士の意欲の問題ではなく、消耗のサインです。
自分の状態に気づくことが第一歩です。
保育士のセルフケアで取り入れやすい方法をいくつか紹介します。
- 🧘 昼休みに5分だけ目を閉じる「マイクロ休憩」を習慣にする
- 📓 保育日誌に「今日うまくいったこと」を1行書く(ポジティブ思考のトレーニング)
- 💬 チームで「困ったこと」を気軽に話せる雰囲気をつくる(一人で抱え込まない)
- 🏥 腰痛予防に、正しい抱っこの姿勢や補助グッズ(サポートベルトなど)を活用する
子どもに豊かな保育を提供するためには、保育士自身が「満たされている」状態でいることが大前提です。自分を大切にすることは、子どもを大切にすることと同義です。それが結論です。
保育士向けのメンタルヘルス支援として、「保育士等キャリアアップ研修」や自治体のメンタルヘルス相談窓口なども活用できます。まずは一度、自治体のサポート制度を確認してみることをおすすめします。
※ 保育士のキャリアアップ研修や処遇改善に関する公式情報が掲載されています。

